著者
Lee Tae-Young Park Young-Youn
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.299-323, 1996-06-25

本論分は, シベリア高気圧からの吹きだしに伴って朝鮮半島上でしばしば発生するメソスケールトラフの実態を事例解析し, さらに3次元数値モデルを用いてその形成メカニズムを調べた結果を報告する. 1986年2月14日〜15日における事例解析によれば, 14日の朝からトラフの形成が始まり, 午後になると, はっきりしたトラフが形成された. この日の半島上の地上気温は通常より高かった. 翌日の早朝には, トラフは減衰する傾向を示したが, 日中には再び発達し, 中国大陸上の高気圧が東に抜けるまで持続した. 数値シミュレーションは, メソスケールトラフの時間発展の様子や空間的な広がりなど, 解析結果に見られた主な特徴をかなりよく再現した. 条件をいろいろ変えて行った数値実験の結果から, 1986年2月14日〜15日に観測されたメソスケールトラフは朝鮮半島の山岳による力学的効果と半島の陸地とそのまわりの海洋との熱的効果の重なったものであることがわかった. 熱的効果とは, 寒候季に半島上が比較的暖かい日の昼間は, 陸上の顕熱フラックスが半島周辺部の海面上顕熱フラックスよりかなり大きくなることを意味する. 半島北部で発達するトラフは, 主に北部山岳の力学効果と熱的効果によって形成される. 一方, 半島南部で発達するトラフは, 主に海抜高度の高い地域の熱的効果及び半島上と周辺部の海面上の熱的コントラストによって形成される.
著者
三上 正男 藤谷 徳之助 張 希明
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.899-908, 1995-10-25
被引用文献数
4

乾燥地における砂漠化の機構を調べるため、1991年より中国新疆ウイグル自治区内のタクラマカン砂漠において、気象要素の長期観測を行った。この目的のため、タクラマカン砂漠南縁の礫沙漠(ゴビ)上に自動気象ステーションを設置した。約1年間にわたる観測データを解析し、オアシス郊外の草地の観測データと比較した。全ての月で月平均地表面温度は気温よりも高く、月平均顕熱輸送は一年を通じ上向きである。夏季において日中の比湿の増加が顕著に見られる。これは、風上側に位置する相対的に湿潤なオアシスからの水蒸気移流によるものと考えられる。主風向は2つあり、4月から6月にかけて見られる西よりの強風(平均風速7m/s以上)と夜間の南南東風である。この夜間の南南東風は、一年を通じて顕著に見られる時計回りの風向の日変化に伴うものである。ゴビから11キロ離れたオアシス内の草地とゴビの風向は,同じ日変化を示す。ゴビから西に100キロ離れたオアシス和田の地上から160mまでの風はゴビと同様の変化を示している。この風向の日変化は、崑崙山脈と砂漠地帯間の局地循環によるものである事が強く示唆される。
著者
大久保 篤 市川 寿 田中 強 河野 智一 藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.227-234, 2005-04-30

諏訪湖の沿岸では, 冬季夜間の著しい低温時に周期数十分, 変動幅数℃の大きな気温変動が観測されることがある.この現象を解明するため, 気象庁のルーチン観測資料を解析するとともに, 2003年1〜2月に諏訪湖周辺で野外強化観測を行った.気温変動は, 諏訪湖が全面結氷し積雪があり, 晴れて風が弱まった夜に発生していた.また, 気温変動はほぼ諏訪盆地内全域で発生しているが, 変動幅は湖岸に近い地点ほど大きく, 気温が急降下するタイミングは湖畔の方が早かった.気温変動に対応して風向も変動し, 湖からの風のときに前後の時間帯に比べて低温となる傾向があった.さらに, 気温変動の発生する時は, 地上から高度50m付近にかけて冷気層が存在し, 地上気温の変化と対応してその厚みが変動していた.これらは, 「諏訪湖上に現れる冷気層の崩壊・流出と再形成のサイクルが気温変動に関与している」可能性を示唆している.
著者
丸山 健人
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.423-432, 1994-06-25
被引用文献数
11

シンガポール(1.4N, 104.0E)における1日2回、1983-1993年の時系列高層気象データを解析し、約2日の周期帯のじょう乱を調べた。東西風成分と1日の気温変化との間の共分散は100-10hPa層でマイナスが卓越していることが見出された。このことは西風運動量輸送が上向きであることを示す。輸送量は50-10hPa層でQBOサイクルと強く関係していることが示され、最大の輸送は西風下降領域のなかで起こる。この約2日の周期帯のじょう乱による輸送量の大きさは7.4-32日の周期帯のケルビン波によるものと同程度である。このじょう乱は東西風成分と温度の変動を伴い、対応する南北風成分を伴わないという点でケルビン波のようにふるまう。
著者
小倉 義光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.393-396, 1995-06-30
被引用文献数
6
著者
田中 博
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.647-649, 1995-09-30
被引用文献数
4
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.245-253, 2000-04-30
被引用文献数
2

日本の気象観測における日最低・最高気温の日界(1日の区切り時刻)は現在は00時である.しかし1939年までは多くの地点で日界を22時としており, 1953〜63年は日最低気温の日界を09時としていた.こうした日界の違いによって日最低・最高気温の階級別日数に生ずる偏差を, 19年間のアメダス資料を使って評価した.その結果, 09時および22時日界による冬日日数は, 00時日界によるものに比べて全国平均でそれぞれ4.9日/年(5.8%)と2.3日/年(2.8%)少なく, 熱帯夜日数はそれぞれ0.8日/年(15%)と0.3日/年(5.1%)多いことが示された.一方, 真冬日・夏日・真夏日日数については, 22時日界によるものと00時日界によるものとの差は比較的小さかった.次に, 日界の違いによる日最低・最高気温の偏差で階級別日数の偏差を表現する簡便な式を導き, その有効性を検証した.最後に, 階級別日数の経年変化率の評価における日界変更の影響を検討し, 過去100年間の冬日日数の経年変化率には数日/(年・100年)の評価誤差が生じ得ることを指摘した.
著者
中西 幹郎 原 由紀男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.91-103, 2003-02-28
被引用文献数
9

夏の午後に短時間強雨をもたらす熱雷・界雷性の降水系の降雨が,東京都市部(23区を想定)で強くなることがあることに注目し,23区でその周辺よりも降雨が強まった日(強化日)とそうでなかった日(非強化日)を比較して,23区での降水系の降雨強化に結びつく局地風の特徴を調べた.強化日,非強化日ともに,23区で降雨が始まる2時間前,鹿島灘からの東寄りの風と相模湾からの南寄りの風の少なくとも一方が吹いていた.このような海風系の局地風により,強化日には23区に強い収束が継続し,降雨開始時刻になると急速に増強した.このとき,強化日6件中4件で,降水系に伴う局地風すなわち冷気プールからの発散風が確認できた.非強化日には強い収束があっても継続せず,発散風があっても収束の増強は確認できなかった.降雨開始前の海風系の局地風による強い収束の継続と降雨開始頃の主に発散風による収束の増強が,23区での降水系の降雨強化に結びつくことが示された.
著者
吉崎 正憲 上清 直隆 瀬古 弘 高山 大 楠 研一 つくば域降雨観測実験グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.19-33, 1998-01-31
被引用文献数
5

1995年8月10日に関東平野で発生した雷雨について, 総観(1000km)・関東(100km)・雷雨(10km)の3つのスケールから, アメダス, 気象台や地方自治体の自記紙, 高層観測, ドップラーレーダーなどのデータを用いて調べた. 総観スケールの寒冷前線が関東地方を通る時に発生したので, 解析対象の雷雨は界雷型であった. しかし, この雷雨の発生や発達には, 総観スケールだけではなく関東スケールの風系も関与した. 関東平野の地上付近には3つの風系(非常に高温の南寄りの風I, 高温の北西寄りの風II, 低温の北東寄りの風III), およびその間には温度や風の不連続なシアラインが見られた. 雷雨は3つのシアラインが交差する付近で発生して, 風系IIIの中で発達・成熟した. それぞれの風系の気塊は温度・湿度・相当温位がほぼ一様でミニ気団的な特性を持っていた. 雷雨の最盛期には, 激しい降水による強い下降流とそれによる地上付近の顕著な外出流の雷雨スケールの流れが見られ, またそうした流れによってアーク状の雲が発生した. 風系IIIの寒気と北東風の生成について定量的な考察を行った. 寒気は風系IIIにあった別の雷雨の降水の蒸発の冷却効果などによって作られたものであり, 北東風は雷雨から吹き出すガストであったと結論された.
著者
石岡 圭一 余田 成男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.201-212, 1995-04-25
被引用文献数
1

強制と散逸のある、球面上の高分解能2次元非発散モデルにおいて、極渦の順圧不安定に関する非線形数値実験を行った。また、いくつかの流れ場について、高分解能の輸送モデルを用いて、トレーサーの水平輸送および混合過程を調べた。帯状ジェット強制のパラメータに依存して、定常な東進ロスビー波(周期解)、東進波が周期変化するバシレーション(準周期解)、および非周期変動(カオス解)が得られた。sech型ジェット(主にジェットの極側が不安定)では定常波解からバシレーションを経由して非周期変動に至る段階的な遷移が見られたが、tanh型ジェット(ジェットの赤道側が不安定)では現実的パラメター範囲では非周期変動は得られなかった。また、輸送モデルを用いた実験の結果、波動解が定常であるか非定常であるかに関わらず、極渦の周縁は非常に頑丈で、極渦の内外の流体同士の混合はほとんど起らないことが示された。ただし、sech型ジェットで得られた非周期変動においては、時折、極渦の内外の流体がフィラメント的な形状をとって交換される。
著者
西澤 慶一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.1-12, 2000-02-25

低分解能気候モデルの粗い格子内部での非対流性の部分凝結を、"液体水"相対湿度の裾野の広い確率密度関数を用いてパラメーター化した。我々の診断スキームでは、モデル格子内の雲と雲以外の部分の温度が等しいと仮定されているので、雲に対して強い浮力がはたらかない。この診断スキームを採用した場合、格子平均された相対湿度が70%より低くても、非対流性の層状雲が形成され始める。中緯度β平面チャネルにおける傾圧波の成長に関する数値実験から、我々のスキームは、"all-or-nothing"スキームやLe Treut-Li(1991)スキームと比較して、より早い時期からより多量の降水をもたらすことが示された。さらに、このスキームは、閉塞期の温帯低気圧の温暖・寒冷前線に沿った領域のみならず、暖域内部においても非対流性の降水を引き起こすことが明らかになった。
著者
田中 博 野原 大輔 横井 みずほ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.611-630, 2000-10-25
被引用文献数
5

本研究では、韓国のIce Valleyと福島県の中山風穴の現地観測結果を基に、0次元モデル、流路に沿った1次元モデル、鉛直断面としての2次元モデルを開発して、風穴循環の一連の数値シミュレーションを行なった。これらの風穴は、周辺の稀少な高山植物の生育により国の特別天然記念物に指定されているが、近年氷の減少傾向が見られ、その原因究明が急務となっている。現地観測および数値実験の結果として、以下のことが明らかになった。(1)風穴循環の主な駆動力は、外気と崖錘内部の気温差による水平圧傾度力である。(2)崖錘内部の空気の滞留時間は約2日であり、平均的な風穴循環は、約1mm/sと推定される。(3)春から夏にかけてのカタバ風としての冷風穴循環は、秋から冬にかけてのアナバ風としての温風穴循環と入れ替わる。(4)崖錘表面に植生が殆どないIce Valleyの場合、夏季の安定したカタバ流とは対照的に冬季には不安定による対流混合が発生し、このような風穴循環の夏冬非対称性が、崖錘内部の平均温度を下げる熱フィルターの役割を果たす。外気が暑ければ暑いほど、崖錘内部のカタバ風が強くなることは注目に値する。Ice Valleyや中山風穴における夏期氷結の謎は、部分的ではあるが、この風穴循環のメカニズムによって説明することができる。
著者
上杉 忠孝 田中 恵信
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.23-36, 2008-01-31
被引用文献数
2

2000年7月4日,東京都心を中心に東京大手町で時間雨量82.5mm,新木場で104.0mmという短時間強雨(1時間雨量が警報基準を超えているため短時間強雨とした)があった.この強雨のプロセスを羽田,成田両空港のドップラー気象レーダーのデータと,アメダス,東京都の大気汚染常時監視測定局等のデータを使用して解析した.短時間強雨発生のプロセスは次のように考えられる.まず鹿島灘・九十九里浜方面からと相模湾・東京湾方面からの2つの海風とが収束して降水エコーが発生・発達した.この降水エコーが東京都・神奈川県境付近で発生した降水エコーとマージを2回起こし,新木場付近で強雨をもたらした.さらに大手町付近における18時30分の強雨は,中部山岳で発生し,南東進したメソβスケールの降水系が衰弱しエコー強度が30dBZ以下になって生じた外出流が,新木場付近に強雨を起こした降水セルからの外出流と収束して,降水セルを強化したことによって起きたことがわかった.