著者
中村 圭三 三谷 雅肆
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.855-864, 2011-10-31
被引用文献数
1

直達日射量の観測を要することなく,より観測地点が多く,入手も容易な水平面全天日射量データから,大気透過率や混濁係数などの評価を試みた.そのなかで,東京,およびその周辺6地点における過去20年間の正午を含む1時間水平面全天日射量データから,大気成分による吸収を無視したKondratyevの式を適用して,関東地方における大気の混濁係数の推移を求めた.1990年代前半には,ピナトゥボ山噴火による高い混濁係数が認められたが,その影響がほぼ消滅した同年代中期以降も混濁係数は漸次低下を続け,全体として,ここで取り上げた1989年以降,各地の混濁係数は漸減する傾向にあった.日射の季節的,地域的特性も確認され,適用する地域を100km程度に限定すれば,ここで採用された全天日射量から大気混濁度,および大気混濁係数を評価する方法が有効であると確認された.
著者
Manabe Syukuro Stouffer Ronald J.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.385-403, 2007-07-25
被引用文献数
1 16 14

Based upon the results obtained from coupled ocean-atmosphere models of various complexities, this review explores the role of ocean in global warming. It shows that ocean can play a major role in delaying global warming and shaping its geographical distribution. It is very encouraging that many features of simulated change of the climate system have begun to agree with observation. However, it has been difficult to confirm the apparent agreement because the density and frequency of the observation are insufficient in many oceanic region of the world, in particular, in the Circumpolar Ocean of the Southern Hemisphere. It is therefore essential to intensify our effort to monitor not only at the surface but also in the subsurface layers of oceans.
著者
真鍋 淑郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.933-937, 1994-03-31

大気中の二酸化炭素増大に伴う気候変化の研究は大気・海洋結合モデルを使ってすでにいくつか行われており, おもに数10年先の予測がなされてきた.(Bryan et al., 1982;Schlesinger et al., 1985;Bryan et al., 1985;Bryan et al., 1988;Washington et al., 1989;Stouffer et al., 1989;Manabe et al., 1990;Manabe et al., 1991;Hansen et al., 1988;Cubasch et al., 1992).しかし, より遠い将来の予測はあまり注目されてこなかった.炭素ガスが増加すると, 地球の平均温度の永年的上昇を通じて海洋大気の結合システムの大規模現象が影響を受け, 気候が大きく変わるので, その効果は非常に重大である.たとえば, 海洋の熱塩循環が大きく変わる可能性がある.氷期の終わりころ, 温度上昇と氷床融解にともなって海洋循環が突然変わったらしいというBroeckerの議論(Broecker, 1987)も, その可能性を示唆する.ここでは, 海洋大気結合気候モデルを用いて, 炭酸ガス量の2倍ないし4倍増加による全球気候の数100年間の変動を計算した.結論的には, 500年後の全球平均気温上昇は, 炭酸ガス2倍増の場合は3.5度, 4倍増の場合は7度に達する.また, 海水の熱膨張による海面水準の上昇はそれぞれ1mと1.8mに及ぶことがわかった(氷床の融解が加わると, 海面上昇はこれよりさらに大きい).さらに, 炭酸ガス4倍増の時は, 海洋の温度構造や力学構造が著しく変わる.すなわち, 海洋の熱塩循環はぱったり止み, 温度躍層がぐっと下がる.というまったく新しい安定な状態に落ち着いてしまう.このような変化は海洋深層との物質の交換を阻害するので, 大気海洋結合系の炭素循環や生物地球化学過程に大きな影響を及ぼす可能性がある.
著者
常松 展充 甲斐 憲次
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.527-537, 2003-07-31
被引用文献数
5

夏の晴れた日の名古屋周辺域における収束雲の有無に着目し,それと局地的な風系および大気汚染との関係に焦点を当て,濃尾平野を中心とする地域の夏季晴天日について,統計解析,現地観測,数値シミュレーションを行った.まず,夏季晴天日として抽出した82日の,15時における統計解析の結果,伊勢湾からの南西風(海風)と,その前方の弱風域,および関ヶ原・養老山地方面からの西風が,名古屋市北部〜北東部で収束しており,同地域でSPM (Suspended Particulate Matter)の濃度が周辺地域に比べて高いことが分かった.また,気象衛星ひまわりが捉えた可視光線のアルベドを統計解析した結果,名古屋市北東部に,周辺の平野部と比べてアルベドの特に高い領域(雲の存在しやすい領域)が認められた.つぎに,夏季の晴天日に行ったSPM濃度の現地観測の結果により,名古屋市北部〜北東部においてSPM濃度が周辺地域よりも高い,という統計解析の結果を確認することができた.これらのことから,夏季晴天日の名古屋市北東部においては,風の収束に伴い,人為起源のSPMを凝結核とする収束雲が形成されやすいものと考えられる.また,この現象は南関東に発生する環八雲に類似した点があるといえよう.さらに,数値シミュレーションの結果により,伊勢湾からの海風およびその前方の弱風域との間で収束する関ヶ原・養老山地方面からの西風は,琵琶湖の影響を受けていることが示唆された.
著者
尾瀬 智昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.845-866, 1996-12-25
被引用文献数
2

チベット、東ヨーロッパ、シベリアの初春の積雪偏差が、その後の大気に及ほす影響を比較するため、モデルによるアンサンブル実験をおこなった。チベットの正の積雪偏差は、春から初夏にかけて有意な冷却源をもたらす。東ヨーロッパやシベリアの積雪偏差から、直接には有意な冷却源は作り出されない。チベットの冷却源は、北半球の春から夏にかけての季節遷移を遅らせる方向の影響を大気に及ぼす。これは、6月の弱いアジアモンスーンとして特徴づけられ、南アジアの弱い下層モンスーンジェット、東南アジアの弱い大規模な上層発散場、北太平洋と北大西洋の負高度場偏差、熱帯太平洋の弱い東西循環が再現された。チベットの積雪偏差実験の場合に目立つ影響が現われたのは、東ヨーロッパやシベリアと比較して、チベットが次のような条件を持っているためである。(1)チベットでは、おそらくその高度のため、気候的に融雪速度が遅く、これは初春の積雪正偏差を気候的な融雪季節の終わりまで維持する。(2)チベットの初春から高い太陽高度と比較的少ない雪量による強い太陽入射は、積雪正偏差のアルベド効果を高める。(3)チベットの乾いた裸地の地表面熱収支では、顕熱の役割が潜熱よりも大きい。従って、積雪正偏差(被覆)の存在は顕熱の効果を遮断する役目を主に果たす。(4)チベットの乾いた裸地では、融雪水は土壌に蓄えられる可能性が高い。このため、積雪正偏差の多くは土壌水分偏差として引き継がれる。(5)気候的にチベット高原の熱源は、アジアモンスーンに影響しうる。モデル実験のチベットから得られた(1)から(5)の条件は、現実においても積雪正偏差が大気に対して影響を及ぼしうる地域の条件として意味を持つと考えられる。東ヨーロッパ実験の5月およびシベリア実験の8月にも、大気中に広範囲な応答が見られた。この場合、ユーラシア大陸北部に地表面状態の有意な偏差が伴う。これからの地表面状態偏差は、初期の積雪偏差の融雪に続いて形成される一連の地表面状態偏差と、直接には関係せず、初期の積雪偏差がもつ水および熱が大気に供給された後に、形成されたように見える。
著者
田口 晶彦 奥山 和彦 小倉 義光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.649-659, 2002-08-31
参考文献数
17
被引用文献数
11

第1部に引き続き,1995〜97年の梅雨明け以降の7月と8月の期間,SAFIRが測定した関東地方の雲放電数並びに落雷数と,館野の09時の高層データに代表される大気環境との関係を調べた.特に1日あたりの雲放電数が1000以上の大発雷日を無発雷日と比較すると,下層から中層にかけて,温度・露点温度・相対湿度・風の高度分布に顕著な差が認められた.いろいろな安定度指数についてスキル・スコアを計算し,発雷の有無を判別する能力を調べた結果によると,Showalter Stability IndexとK-Indexはほぼ同じ程度によく,Total Totals Indexが少し劣り,CAPEが最も成績が悪かった.安定度指数に中層の風向や相対湿度の影響を加味した発雷予測の方式を提案した.最後に,館野の高層ゾンデ観測に見られる混合比の日変化についても述べた.
著者
保坂 征宏 青木 輝夫 庭野 匡思 田中 泰宙
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
大会講演予講集
巻号頁・発行日
vol.97, 2010-04-30

温暖化予測や極端現象研究等への適用を目的として、地球システムモデルの一部としても用いられる気象研究所の大気モデルの陸面モデルHALを開発している。今回HALの積雪サブモデルに積雪変態・アルベドプロセスモデルSMAPを導入し、積雪粒径を予測し、粒形やエーロゾル濃度をもとに積雪表面アルベドを計算する改良を行った。