著者
三好 彰 草刈 潤 武山 実
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.973-975, 1986-11-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
4

A case in which vestibular dysfunction as well as hearing loss was caused by acoustic trauma was reported. The patient was a 22 year old woman that developed hearing loss and dysequilibrium at a rock concert after 20 minutes exposure. She was a college student and in order to prepare the term examination, she did not sleep or take any food for 24 hours prior to the onset of these symptoms. This extreme fatigue condition seemed to be closely related to the appearance of the vestibular symptoms in addition to the hearing loss. The generation mechanism of the acoustic trauma was discussed in the light of the available literature and the importance of good physical condition was stressed.
著者
齋藤 雄一 江島 正義 田中 俊一郎 中川 尚志
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.118-126, 2017-07-20 (Released:2018-08-01)
参考文献数
16

鼻腔(右鼻中隔)原発の Glomangiopericytoma の症例を経験した。症例は 80 歳、男性で、鼻閉感を主訴に前医より紹介受診となった。右鼻腔下鼻甲介前端よりやや後方から、後鼻孔を占拠する表面平滑で、血管豊富な腫瘍を認めた。画像検査および病理組織診の結果、鼻腔原発の Glomangiopericytoma と診断した。生検時易出血性であったものの、腫瘍は鼻腔に限局しており、周囲への浸潤も無かったため、経鼻的内視鏡下腫瘍切除術を施行した。術後合併症および、術後局所再発は認めていない。Glomangiopericytoma は近年まで Hemangiopericytoma と認識されていたものである。良性腫瘍であるが、報告により差はあるものの術後局所再発率が高く、外科的治療に際しては完全切除が求められる。本症例のように鼻腔に限局している場合、経鼻内視鏡下手術は有効であると思われた。
著者
藤本 俊明 隈上 秀伯
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.131-133, 1971 (Released:2013-05-10)
参考文献数
7

The authors reported a case of facial paralysis associated with hypertension. The patient was 12 years old female who presented with a right facial nerve paralysis and complained disturbance of vision. Her blood pressure was 216/138 mmHg. A pediatrist diagnosed her as hypertension associated with nephritis. Ophthalmologic diagnosis was neuroretinopathia angiospastica. The findings were spasm of the retinal artery, papilloedema and bleeding in the retina. She was admitted to our clinic for investigation of facial nerve paralysis. According to our investigation the facial nerve of this patient was affected at the level of the infrachordal part of the facial canal. We assumed that the pressure induced by bleeding in the facial canal pressed the nerve and the paralysis occurred. The bleeding was suspected as a similar phenomenon to bleeding in the retina.
著者
山崎 武次郎
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.307-310, 1958-10-10 (Released:2013-05-10)
参考文献数
9

The author reports a rare case of left recurrent nerve paralysis in an infant aged 1 year and 10 months and male. He refers to cardiac diseases as its chief causes. The main cause is the compression of the nerve by the aorta and left pulmonary artery. Concerning other etiologic cardiac diseases he further states that in the stenosis of the mitral valves or their insufficiency, the dilatation of the 2nd cardiac arch is remarkable in X-ray findings.
著者
佐橋 紀男 渡辺 幹男 三好 彰 程 雷 殷 敏
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6Supplement2, pp.630-634, 1999-11-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
10

中国 (天目山) と日本 (屋久島・伊豆大島) で採集したスギの針葉を、酵素多型による解析から以下の結果を得た。14種類の酵素を使用して18遺伝子座を確認したが、LAPだけが天目山集団で対立遺伝子aのみを持ち、屋久島集団と伊豆大島集団は対立遺伝子a, b, cを持っていた。このことから、もともとは同じ起源を持つ集団が日本海によって隔離されたことが、ごく僅かな遺伝的変異を生じさせたに過ぎない。従って酵素多型による解析からは中国のスギと日本のスギは品種程度の分化しかなく、別種に分類する必要性は示唆されなかった。一方、外部形態的な特徴も中国のスギは日本のスギと大変良く似ている。しかし、中国産のスギは長く下垂した針葉を持つ反面、日本産はあまり下垂しない短めな針葉が一般的であるが、これだけでは、酵素多型による解析結果を否定する要因にはならない。
著者
澤津橋 基広
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.190-195, 2019-11-20 (Released:2020-11-20)
参考文献数
33

近年、北部九州において、スギ・ヒノキ花粉の飛散時期に、PM2.5 および黄砂の飛来が重なる日が観測されている。PM2.5 および黄砂は、気道の症状を悪化させることが報告されており、黄砂飛来により、喘息患者の入院リスクが上昇することや、PM2.5 の上昇により、小児の喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎の症状が悪化することが報告されている。このスギ・ヒノキ花粉と PM2.5 と黄砂によるトリプルパンチをどう乗り切るのか? まず、確実に言えることは、スギ・ヒノキ花粉および PM2.5 と黄砂の接触を防ぐことである。そのためには、患者自身が花粉飛散や PM2.5 の濃度の情報を収集し、原因物質からの接触回避することが重要である。その上で、医療機関における薬物治療等を行うことが、このトリプルパンチを乗り切る要点になる。この論文では、PM2.5 および黄砂飛来時の花粉症に対する治療について薬物療法を中心に述べる。
著者
田中 久夫
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.203-207, 2012 (Released:2013-09-01)
参考文献数
9

メニエール病および臨床症状からメニエール病を疑う例に対するめまい発作予防の有用性を明らかにする目的で、ベタヒスチンメシル酸塩 (メリスロン®) 群とベタヒスチン+イソソルビドゼリー (メニレットゼリー® ) 併用群の後ろ向き比較試験を行った。イソソルビドゼリー併用群はベタヒスチン群に比べ、めまい発作時に服用するトラベルミン配合錠の錠数、外来での点滴回数および発作による入院の回数が有意に少なく、めまい発作の軽減効果が優れていた。海外に比べて承認投与量が少ない本邦のベタヒスチンメシル酸塩に、イソソルビドゼリーを患者の症状や服薬コンプライアンスを鑑みながら適宜減量して長期併用投与することは、安全性にも問題がなく、実地臨床におけるめまい発作予防を目的とした治療として有用であることが示された。
著者
片山 直美 足土 由里佳 一野 晃代 長坂 恵樹子 加藤 江理 伊藤 えり 太田 陽子 梶川 典子 蟹谷 未香 下林 真知子 恒川 小百合 早川 ちひろ 楪葉 真由 藤本 保志
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.Suppl.2, pp.S125-S132, 2010 (Released:2011-12-01)
参考文献数
6

日本人の食の満足に及ぼす影響が大きい主食である「飯」に注目し、おいしく簡単に炊き上げるための工夫として、一般家庭で用いる炊飯器によって炊飯した飯の 3 種類の水(純水、ミネラル水、水道水)による違いを検討した。さらに選択した水を用いて、嚥下食・介護食に用いることが可能な離水しにくい粥を作製するために 5 種類の増粘剤(トロミパーフェクト、ソフティア、つるりんこ、とろみ名人、スルーキング)を用いて違いを検討した。方法として被験者である健康成人女性 92 名により各飯の「味」、「香り」、「見た目」、「総合」における官能試験を 5 点満点で評価し、物性を硬さ・粘り計(サタケ製)にて「弾力性」、「硬さ」、「粘り」、「バランス」について評価した。結果、無洗米の炊飯の際に用いる水は純水が最も高い評価であり、熱湯で炊飯することで、加水する時間なしで十分に評価の高い飯が炊き上がることが分かった。また離水しにくい粥も同様に熱湯を用いて加水する時間なしで炊き上げ可能であった。増粘剤を用いることで時間が経っても離水せず、軟らかい粥ができるため、嚥下食・介護食に適していることが分かった。
著者
室野 重之 吉崎 智一
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.S39-S43, 2010

上咽頭癌組織中に EB ウイルス DNA や EB ウイルスに由来する蛋白、RNA が検出され、EB ウイルスと上咽頭癌の密接な関連が示唆されるとともに、上咽頭癌組織中の EB ウイルスは単クローン性であることが示され、上咽頭癌は EB ウイルスにより発癌することが確定的となった。この密接な関連は上咽頭癌の診断に応用され、EB ウイルス抗体価および EBERs に対する in situ hybridization が普及している。血清中の EB ウイルス DNA の定量は、一般レベルまでには普及していないが、治療後の病勢も反映することから利用価値は高いと思われる。一方、EB ウイルスに着目した上咽頭癌治療は、臨床への応用は散見される程度であるが、EB ウイルスの感染状態の複製サイクルへの誘導や抗ウイルス薬の利用などが期待される。
著者
小泉 優 岩崎 宏 山田 梢 末田 尚之 菅村 真由美 上野 哲子 宮城 司道 中川 尚志
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.175-182, 2013-07-20 (Released:2014-08-01)
参考文献数
19

症例は 50 歳、男性。慢性咳嗽とリンパ節腫脹が出現したため、内服加療を受けていた。 改善を認めなかったため、1 カ月後に紹介となった。血清 sIL-2R が 864 U/mℓ と高値であったため、悪性リンパ腫を疑って、リンパ節生検を施行した。病理診断はリンパ節炎であった。以後、外来で抗生剤投与を行ったが、改善を認めなかった。血液検査を追加、施行したところ IgG4 が 1,100 mg/dℓ と亢進していた。IgG4 関連疾患を疑い、再度全身麻酔下に顎下腺摘出術とリンパ節摘出術を施行した。免疫染色を行い IgG4 陽性形質細胞の組織への浸潤を認め、確定診断に至った。プレドニン30mg/day より開始し、2 週間で10 %の漸減療法を行った。顎下腺、リンパ節は縮小し、呼吸器症状も落ち着いた。IgG4 も 300 台まで低下を認めたが、完全寛解には至っておらず、プレドニン 20mg/day で維持している。
著者
冨山 道夫
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.73-80, 2017-05-20 (Released:2018-05-21)
参考文献数
18

2011 年に提唱した急性上咽頭炎のスコアリングと、細菌感染症の重症度を示す指標である白血球数、c-reactive protein(CRP)との相関について後方視的に検討した。対象は 2015 − 2016 年に当院を受診した急性上咽頭炎症例 265 名である。上咽頭炎スコアと白血球数、CRP は正の相関を示した。上咽頭炎スコアが 0−3 点を軽症、4−8 点を中等症、 9−10 点を重症と判定し、重症度別に白血球数、CRP を算出した。軽症群、中等症群、重症群の 3 群間で白血球数、CRP は有意差を認めた。上咽頭炎スコアによる重症度分類は、急性上咽頭炎の重症度を適確に表していることが判明した。急性上咽頭炎の治療選択にあたり、上咽頭炎スコアは有用な指標となると考えられた。
著者
原 由起代 稲葉 順子 東野 哲也 鳥原 康治 森満 保
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.543-547, 1994-07-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
6

後天性外耳道閉鎖症は, 炎症性, 外傷性, 術後性の3つに分類できる. 炎症性外耳道閉鎖症とは感染後に外耳道に線維性閉鎖を来たすものである.今回われわれは, 外傷や手術の既往のない後天性外耳道閉鎖症3例5耳を経験した. 3耳に中耳炎, 2耳に慢性外耳道炎の既往があつた. 今回の症例では真珠腫の合併例は認めなかつたが, 文献的には真珠腫合併の報告例があり, この場合早期に手術的治療が必要であると考えられた.病理組織学的には, 4耳中3耳に線維脂肪組織, 1耳に慢性炎症細胞の浸潤を認め, 両者は異なつた病態であることが示唆された.
著者
木西 實 高雄 真人 李 佳奈
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.151-154, 2004-03-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
3

声門後部または披裂部粘膜の発赤に注目し、胃食道逆流症によると考えられる慢性咳症例20例に対し、ランソプラゾール30mg/day×8 weeksを投与した。咳嗽が消失したのは9例、咳嗽が軽快したのが7例で、4例は不変であった。胸やけを自覚していた15例では8例で咳噺が消失し、6例で咳嗽が軽快し、有効率は93%であった。一方、胸やけを自覚しなかった5例では咳嗽が消失および軽快したのはそれぞれ1例で、有効率は40%にすぎなかった。胸やけを自覚し、声門後部または披裂部粘膜の発赤を認めた慢性咳噺症例に対し、プロトンポンプインヒビターであるランソプラゾール30mg/day×8 weeksの治療は有用であった。
著者
稲木 匠子 丘村 煕 森 敏裕
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.82-85, 1990-01-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1

私製の固形造影剤を用いbolusの違いによる嚥下動態の検討を試みた. 固形造影剤は潜在的および軽微な嚥下異常の検出に有効であると考えられた. 症例を提示しその有用性を報告した.
著者
井野 千代徳 稲村 達哉 岸本 麻子 岸本 由里 久保 伸夫 山下 敏夫
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.840-843, 1997-11-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
11

食事に関連し耳下腺腫脹, 顔面紅潮, 喘鳴などを主訴とする症例を報告した. 患者は35歳女性で医師. CTでは異常所見なく, 耳下腺造影でも大きな異常は認めなかつたが造影後に著しい耳下腺腫脹と顔面紅潮, 呼吸困難が出現した. 初診時の耳下腺唾液は混濁などなく清明であり, その塗沫にて多数の好酸球をみとめた. アレルギー性耳下腺炎と診断したが, その原因としてヨードを疑つた. 報告されている類似疾患のなかでもヨードが疑われた例があり, ヨードと唾液腺との関係についても考察を加えた.
著者
井野 千代徳 芦谷 道子 南 豊彦 浜野 巨志 中川 のぶ子 多田 直樹 小野 あゆみ 山下 敏夫
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.194-200, 2003-05-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
7
被引用文献数
1

昨今うつ病の増加が指摘されている。特に軽症うつ病の増加が注目されている。軽症うつ病とは身体症状が強いことに特徴があるが、その身体症状の中に耳鼻科医にとってなじみ深いものが多い。そこで、耳鼻咽喉科とうつ病との関係を調べた。対象とした疾患は耳鼻科医が一般外来でしばしば遭遇する疾患の中でその発症に心因性要素が関与するとされる疾患ないし症状のうち突発性難聴、低音障害型感音難聴、めまい、耳鳴、Bell麻痺、顎関節症、口内異常感症を対象とした。方法はSDSを用いた。結果、306人中56人がうつ病の範囲に入った。検査期間の4カ月に少なくても56人のうつ病患者が耳鼻科を受診したことになる。疾患別では口内異常感症が最もSDS値が高く、50例中23人46%がうつ病と判定された。他疾患がすべて18%未満であることより驚異的に高い数値と思われた。これからさらにうつ病の増加が指摘されている。耳鼻科医も積極的に対応すべきと考えている。
著者
浜田 慎二 福島 孝徳 神尾 友和
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5Supplement5, pp.1123-1125, 1991-10-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
3

1, 三叉神経痛 (TN) に対するmicrovascular decompresssion施行例1533例において聴神経腫瘍23例が発見された.2, 聴力障害および平衡機能障害が先行してみられていたにもかかわらず, TNを発症するまで診断がつけられていた例はなかつた.3, TN発症後もTNの症状が典型的であることが多いため, 聴神経症状がマスクされ, 鑑別診断を困難にしていた.4, TNを発症させる程度の大きさの聴神経腫瘍は, ほとんどがCTで発見可能であつた.
著者
藤井 正人 神崎 仁 大築 淳一 小川 浩司 磯貝 豊 大塚 護 猪狩 武詔 鈴木 理文 吉田 昭男 坂本 裕 川浦 光弘 加納 滋 井上 貴博 行木 英生
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.225-231, 1994-03-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
8

セフポドキシムプロキセチル (CPDX-PRバナン錠®) は三共株式会社が開発した経口用セフェム系抗生物質で広範囲な抗菌スペクトルムを有するのが特色である. 今回, われわれは耳鼻咽喉科領域の感染症に対する有効性と安全性を検討した. 166症例に対して CPDX-PRを症状に応じて一日200mgないし400mg分2投与を4日以上最大14日間投与した。著効が51例, 30.7%にみられ, 有効例は68例, 41.0%にみられた. 疾患別では急性扁桃炎と急性副鼻腔炎が高い著効率を示した. 慢性中耳炎の急性増悪, 急性咽頭炎では高投与量で良好な効果を示した. 自覚的症状の改善度では, 咽頭痛の改善が良好な結果であつた. 投与前後の細菌検査を行つた20例30株では菌消失率では77%と良好な結果であつた. 副作用は1例に発疹が見られたのみであつた. 以上よりCPDX-PR は耳鼻咽喉科感染症に対して高い有効率と安全性を示すと考えられた.
著者
菊池 良和 梅﨑 俊郎 澤津橋 基広 山口 優実 安達 一雄 佐藤 伸宏 中川 尚志
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.41-46, 2017-03-20 (Released:2018-04-23)
参考文献数
34

吃音症は成長していくにつれ、表面上の吃音は軽減したようにみえる。しかし、吃音を隠す努力を行うことで、思春期・青年期に社交不安障害(SAD)を合併することがある。 そのため、吃音症における社交不安障害の合併とその性質を把握することが必要である。 本研究では、2011 年から 2016 年まで九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科に吃音を主訴に来院した 100 名(平均 24 歳、男女比 3.7:1)に、社交不安障害の重症度尺度である LSAS-J を記入したものを解析した。年代で比較すると、10 代、20 代に比べて、30 代は有意に LSAS-J の値が低下していた。性別差を検討すると、10 代のみ女性が男性よりも有意に LSAS-J の値が高かった。また、成人吃音者では、50%が SAD に相当した。以上より、吃音を主訴で来院する場合は、表面上の吃音だけではなく、SAD の合併の有無を考えて診療する必要があることが示唆された。
著者
ロールアツヘル フーベルト
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.209-217, 1966-12-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
22

Mikrovibration (体表面微細振動) の研究が日本ほど盛んに行なわれている国は他になく, その日本の科学雑誌に寄稿するのは喜びにたえない. さて, こゝでは生理学的および技術的問題点を取り上げてみたい.Mikrovibration (以下MVと略す) は温血動物のみにみられる全身的の不断の微細振動であると定義することができよう. これは肉眼的な振動と比較され, Miner Tremor (稲永, 1959) とかphysiologischer Tremor (Stuart, et al. 1963) と呼称された. だが Tremorというのは一定条件 (寒さ, 興奮) で起こる生体の反応や脳疾患 (パーキンソン氏病) で起こるものであり, MVは生涯間断なく続くものである. しかもこれは生体の反応でなく, 永続的な筋活動である. 従つてTremorというよりMVと命名する方が妥当である. それで私は「MVとは温血動物のみにみられ, 全身に存在する永続的な振動で, 健康成人は7~14cpsの周波数をもつものである」と定義する.生物学的問題: MVの生物学的機能はまだ不明である. しかし体温保持と筋緊張が問題となる. 運動神経を切断された四肢ではMVが消失する (菅野, 1957) ことから, これは筋線維の収縮によつて生ずるといえる. またMVは温血動物のみに存在することから, 永続的筋収縮によつて体温を保持するに必要な熱量が生産されていることと関係があると思われる. 身体の弛緩状態および睡眠中は筋肉の活動電流は認められない (Buchthal, 1958). だがその場合でも存在する収縮性筋トーヌスはいかなる機構でなされているかという問題が生ずる. 冷血動物の筋トーヌスはいわゆる遅速線維-温血動物にはみられない-の収縮によつて生ずるようである (Reichel, 1960). また組織と体液のリズミカルな振動が生体の化学的作用に無関係とは思われない. これらの点に大きな意義を有すると考えられるMVの力学的力は, 鉛板による測定実験で, 意外に大きいことが判明した.MVのもう一つの生物学的作用は迷路の受容器の刺激にある. 三半規管の内リンパ液がMVによつて一定の振動をなしていて, そこに存在する受容器は常に刺激されていると考えられる. その刺激が中枢へ伝えられることによつて, 人間は安静時でも方向知覚を保持するのであろう. この仮説の証明のために, 平衡障害患者と正常人で比較実験が行なわれ, 前者では周波数は高く, 振幅は小さいことが実証された (永淵, 1966). この仮説から次のことが考えられる. すなわちMVを欠く冷血動物は温血動物に比較して, 迷路から体位についての情報が少なく, そのため平衡維持が困難であろう. このように考えると, MVは系統発生学にも意義をもつてくる. 温血であることもMVによつて初めて生ずることから, 哺乳動物や鳥類に重要な二つの器官-体温と平衡調節-は系統発生史上ほぼ同時期に現れたといえる.MVの発生に二つの仮説-心搏説と筋原説-がある. 心搏説 (Brumlik, 1962, Buskirk & Fink, 1962) によると, MVは心搏動による身体の共振であると述べている. だがMVは死後数分間認められる (Rohracher, 1954, 菅野, 1957, 吉井, 1965). 実際には心搏の影響をMVから完全に分離することは出来ない. MVの機構は筋原説でうまく説明出来る. 各運動神経線維は多くの筋線維を支配しており, 個々の筋線維が, それぞれ収縮を行なうと周囲に振動を及ぼし, それが綜合されて一つの持続的な微細運動を形成する. 菅野 (1957) と吉井 (1963) は動物実験で頸部脊髄を切断してもMVは存続することを証明した. 脊髄反射が筋線維の収縮に大きな役割を果していることは明らかである. 菅野は脊髄後根を切断すると, その領域の MVは一時増大したあと消失することを証明した. このことから菅野と福永 (1960) はMVの発生に脊髄反射が関与していると述べている. MVの発生機序には脊髄反射以外に中枢支配も考えねばならない. 温度が低下すると, MVの周波数は増加し, それによつて筋肉内の熱量が産生される. この調節は非常に正確に行なわれており, その中枢は視床下部にある. この中枢と筋収縮との間には, 脊髄の運動細胞, ガンマ運動神経, 筋紡錘が関与している.低温ではMVの周波数は高い成分が優位となり, 振幅は減少する (Rohracher, 1954, 1958). だがこの逆の事実が発見された. すなわち人体のMVは冬でその周波数が高く夏で低いという実験結果である. また温帯地方の住民は寒帯地方の住民よりMV周波数は高い (日本人とオーストリア人の比較実験). この説明はまだなされていない.技術的問題: 技術的に最も困難なことはMVの正確な測定である. Marko (1959) は光学的にMVを可視出来るように試みた. 他には電気力学的にこれを把握しようと工夫されている. MVが正絃波振動であれば正確に測定出来るが, 実際は複雑なので正確な測定は困難である. MV測定の理想は, ピツクアツプが小さくて軽いこと, そして振幅と周波数を積分せずに正確に記録出来ることである. 現在はまだこれがないので, 加速度型ピツクアツプと積分装置で測定しなければならない. MVはこの他, 筋活動の本体, 臨床医学的応用, 更に筋活動に必要なエネルギーと体温との関係等の問題をもつている.