著者
鳫 咲子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.32, pp.19-30, 2021-07

2020年3月、新型コロナウイルスの感染症対策のため、学校の臨時休業が急きょ要請され、学校給食もなくなった。格差は、災害をはじめとする非常時に、より深刻に現れる。コロナによる臨時休校下において、学校給食には子どもの食格差を小さくする機能があったことが顕在化した。コロナ禍・災害などの状況下では、給食を提供できない・給食費を払えないという状況も生じ、影響の長期化に伴い子どもの生活の格差も拡大する。 コロナ不況以前から、公立小中学生の15.2%が就学援助により学校給食費の支援を受けている。就学援助制度は生活保護制度と比べても一般に知られておらず、支援が必要な家庭が制度を使えていない場合がある。就学援助のように対象者を選別する支援は、予算の制約を受けやすく、制度の周知も難しく、支援を受ける人に恥ずかしい気持ちを抱かせるスティグマ(負のレッテル)の問題がある。「周囲の目が気になる」というスティグマの存在は、就学援助制度が申請による給付であるという制度の限界である。 近年、全家庭を対象とする子育て支援としての給食費補助制度を設ける自治体が増えている。給食費は年間4万円を超え、子どもの学校に関する出費のうち相当な割合を占めている。給食費の無償化も広く検討されるべきである。学校給食の無償化は、選別主義による就学援助による支援を、普遍的な現物給付に転換する効果がある。
著者
小川 功
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部紀要 = Atomi Tourism and Community Studies (ISSN:21899673)
巻号頁・発行日
no.4, pp.31-42, 2019-03

企業等が自己の貨物運搬等のために敷設する自家用の専用軌道は正規の鉄道たる“真正鉄道”とはほど遠く、低規格の粗末なトロッコ同然の“虚偽鉄道”にすぎない。しかし山梨県・早川軌道では早川電力のダム建設のための電力資本のビジネスデザインが、従前の河川舟運の代替交通手段を要求する沿岸各村のコミュニティデザインと激突、幾度にも及ぶ交渉の結果、両者の構想の融和点を見出して止揚・融合して自家用発電所軌道が住民の生活物資や住民移動手段としての“擬制鉄道”に変身した。当沿線に天下の秘湯・西山温泉があり、背後に秀麗な赤石山脈の高山を控える景勝地の故に、松永安左エ門をはじめ、数多くの登山家・湯治客に利用された観光鉄道ですらあった。
著者
冨田 りさ 酒井 佳永
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学心理学部紀要 (ISSN:24348295)
巻号頁・発行日
no.4, pp.169-180, 2022-03

本研究では,人がストレスフルな体験に遭遇したときに精神的健康を維持し続ける力であるレジリエンス(resilience)のうち,後天的に向上させやすいとされる獲得的レジリエンスに着目し,未来,現在,過去の自分に対する評価である時間的展望体験とソーシャル・サポートとの関連を検討することを目的として,女子大学生95名(Mean:20.7,SD:1.02)を対象に,二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010)の下位尺度である獲得的レジリエンス尺度,時間的展望体験尺度(白井,1994),大学生用ソーシャ・ルサポート尺度(片受・大實,2014)で構成される質問紙調査を実施した。 分析方法としては獲得的レジリエンス尺度を従属変数,時間的展望体験尺度と大学生用ソーシャル・サポート尺度を独立変数とする階層的重回帰分析を行い,その結果をふまえて獲得的レジリエンス尺度に時間的展望体験尺度と大学生用ソーシャル・サポート尺度が相互に関連しながら影響を及ぼすモデルを作成し,共分散構造分析を用いて探索的に検討を行った。 その結果,階層的重回帰分析では,獲得的レジリエンス尺度の問題解決志向には未来指向性と情緒・所属的サポートが関連し,自己理解には未来指向性と情報・道具的サポートが関連し,他者心理の理解には過去受容と評価的サポートが関連していることが示された。共分散構造分析では,評価的サポートが時間的展望体験尺度の3要因とそれぞれ関連していることが示され,時間的展望体験尺度を介して獲得的レジリエンスに寄与することが示唆された。
著者
神山 伸弘 石川 伊織 板橋 勇仁 栗原 裕次 柴田 隆行 田中 智彦 東長 靖 橋本 敬司 早瀬 明 久間 泰賢 権左 武志
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ヘーゲルの世界史哲学講義(1822/23)については、本邦では、その世界像を結ぶための文化接触資料が必ずしも明確でなく、そのオリエント論に対する評価も低い。この事情を批判しながら、本邦ではじめてその資料源泉を探求しつつ本講義を翻訳し訳註を付するなかで、ヘーゲルのオリエント世界像は、ヨーロッパに映った近代オリエント世界像として反歴史的な空間的併存を示すとともに、ヨーロッパ的普遍史を脱却する歴史的理解も示しており、これらを通じて-ロマン派批判も込められたかたちでの-オリエントとヨーロッパの相互承認関係を展望していることが明らかになった。
著者
鈴木 隆芳
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF LITERATURE (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
no.44, pp.9-28, 2010-03

「言葉とは何か」と問われて、返答に窮して黙りこくってしまう人はそういない。この種の問題については、だれもが自分流の切り口を持っているものだ。だがそんな時、突然、「あなたが今話しているのは、それは言葉そのもののことではありませんね。」と言われたらどうだろう。はっとして振り返ると、自分の言っていたことがなにも言葉に限った話しではないことに気づく。言葉と同じ用途、性質、役割をもったものなど他にいくらでもあるものだと思い至る。\n 言語学が得意としてきたのは実はこうした譬え話である。「言葉のように見えて、ほんとうは言葉でないもの」は「言葉そのもの」よりもよっぽど扱うに易しいからである。\n ここでは、こうした「言葉のように見えるもの」が、言語学にもたらした功罪を考える。なぜなら、それは言語学にとって毒にも薬にもなってきたからである。
著者
塩月 亮子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部紀要 = Atomi Tourism and Community Studies (ISSN:21899673)
巻号頁・発行日
no.3, pp.99-111, 2018-03

本稿では、地域を活性化するうえで地元企業はどのような地域貢献をおこなうことが望ましいかを考察するため、地元の名家が手掛けることの多い造り酒屋に焦点をあて、その歴史と現在の活動を追った。事例には、八ッ場ダム建設の影響で地域の分断や人口減少等が起き、町の再生が急務とされる群馬県長野原町にある浅間酒造株式会社を取りあげ、歴代の社長が長野原町長になるなど政治家として地元のために活躍してきたこと、多角経営をおこない地元に必要な産業を興し、地元の雇用を促進してきたこと、さらに、現在も土産物販売をおこなう浅間酒造観光センターで地元農家の製品を販売することや「酒造納涼祭(夏祭り)」を当センターで地元向けに開催すること、自社田として休耕地を借り、そこを酒田にして保全することなどを通して、地元に貢献している様子を明らかにした。このような浅間酒造の地域貢献を地域貢献活勤の6分野に照らし合わせてみると、浅間酒造は主に①経済の振興に関する活勤②文化・環境に関する活勤③敦育に関する活勤、④雇用に関する活勤の4分野に腐心してきたことがわかった。また、⑤治安・安全・防災に関する活勤や⑥保健・医療・福祉に関する活動も、長野原町長など政治家として、あるいは孤児を養育した櫻井傳三郎や、戦時中に米を地元の人々に分け与えた櫻井かねのように個人として、櫻井家が担ってきたものであったこともわかった。最後に、浅間酒造観光センターは観光客の集まる拠点でもあるので、観光客を活用し、当該地域の伝統文化の保全や再生、創造に寄与するよう、地元の人々が工夫していくことも大切だと指摘した。そして、浅間酒造が今後地元から最も望まれる地域貢献は、地域で貴重な老舗製造業であるという強みを生かし、地域の人々と協力しながら地元にふさわしい、地元の人が誇りとするような地域ブランドを創造・確立していくことであろうと結論づけた。\n
著者
河村 英和
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部紀要 = Atomi Tourism and Community Studies (ISSN:21899673)
巻号頁・発行日
no.6, pp.23-41, 2021-03

20世紀初頭から第二次大戦まで、イタリアの絵葉書はメディア的責務を負っていた。とくに大詩人ダンテとダヌンツィオについては彼らの存在そのものが愛国心を鼓舞する宣伝装置として、絵葉書に利用されることが少なくない。種類も多いうえデザイン性も高く、なかには明らかに政治的に利用された過激なものまであった。第一次大戦期は、オーストリアの国境付近の山岳地帯や「未回収の」土地の風景を写した絵葉書に、カルドゥッチらの愛国的な詩を添えたシリーズも登場した。ファシズム期は、美しいイタリアの風景写真絵葉書に、有名無名の詩人たちの詩の引用を添えたものが流行し、あえて場所を特定しない「アノニマスな」風景にすることによってロマンチックな詩情を演出させる場合もあれば、詩人ゆかりの「特定の」地を売りにするものもあり、後者は観光絵葉書としても機能した。本論では、とくに著名な詩人ダンテ、カルドゥッチ、ダヌンツィオをテーマにした1910-50年代に発行された絵葉書を中心に、愛国プロパガンダ性やナショナル・ロマンティシズム的側面、時代ととも変化するその題材の傾向などを検証する。
著者
土屋 博映
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.41-51, 2009-09-15

『方丈記』は随筆文学として知られているが、その評価は以外に低い。その理由は、分量の少なさ、次に内容が主観的で描写された世界が狭いと把握されているからと言えそうだ。しかし、分量の少なさが作品の価値を決めるものではなく、また主観的であるとしても、それは、かえって激動の時代、中世の知識人の苦悩を如実に示すものとして、そこに価値を見出すことができるはずである。 そこで、本稿では、『方丈記』全体の構成について明らかにすることを第一の目標とし、その結果、長明の主張を導きだすことを、さらなる目標とし、さらに、できれば『方丈記』の再評価を最終目標としたいと考えた。『方丈記』(全六章・三七段)の構成は「1、序文(世は無常)→2、不思議(世の無常の具体例)→3、人生の苦悩(一般論)→4、自己の苦悩(個別論)→5、出家1(大原)→6、出家2(日野山・方丈の家)→7、方丈の住処(内部・周辺・近辺・遠地・独夜)→8、独居の気楽さ(都との比較)→9、自己の生き方の反省→10、後記」と、10項目に分けられる。構成上のポイントは、2の「不思議」から、3、4の「人生・自己の苦悩」へと展開する部分である。展開はやや強引だが、見方を変えれば、「不思議」から、直接、「方丈の住処の安寧さ」を述べるよりも、彼の、人生における鬱々たる心の暗闇が、3の「人生の苦悩(一般論)」と4の「自己の苦悩(個別論)」により、より深化されているともいえる。5の「出家1」は世の中の「不思議(天変地異)」だけで成しえたものではないということの強い内面の噴出と見られよう。6の「出家2」により、やっと安住の家「方丈の住処」を手に入れたことを述べ、7で「方丈の住処」の内部、外部、周辺から近辺さらに遠地までをとことん賛美する。 鴨長明が『方丈記』で主張したかった点は、7の「三二」(「おほかた」で始まる段)と[三三](「それ」で始まる段)で、今の、「方丈」の清貧の住処をよしとし、独居の生活をよしとする、これが一つの主張。そして、([三三])(「おほかた」で始まる段)で、今の純粋な心をのべ、「三四」(「それ」で始まる段)で、精神の満足こそ最善であると強調する、これが最終的な主張であると推定した。
著者
柏崎 洋美
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.15-33, 2009-03

昭和34年に制定された国民年金法は,学生については適用対象から除外していた.このため,学生は任意加入という特別の手続をとって保険料を支払わない限り,同法に規定される障害基礎年金を受給されないこととなっていた.昭和60年改正後の国民年金法も,学生を同様の取扱いとしていたが,平成元年改正後の国民年金法は,20歳以上の学生を強制加入とし,かかる問題の解決がなされた.ところが,20歳以上の学生であって任意加入していない者に対しては,障害基礎年金の支給を認めていなかったのである.そこで,元学生らが障害基礎年金の支給を求めたのが,学生無年金障害者訴訟である.本稿では,障害基礎年金の支給等が認容された学生障害者無年金訴訟の判例の事実および判旨を考察し,判例における判断要素を検討する.これらの事件については,控訴審および上告審において障害基礎年金の支払等が取り消されているが,検討に値する判例である.検討した(1)東京地裁事件・(2)新潟地裁事件・(3)広島地裁事件での最大の争点は,昭和60年改正後の国民年金法が,国民年金に任意加入していない20歳以上の学生に障害基礎年金を支給しないとしたのは立法裁量の範囲内であるか否かである.上記判例においては,昭和60年法制定時における立法事実を詳細に検討して,かかる状況を憲法14条に違反する不合理な差別が存在し,立法不作為の状態であり違憲であると判示された.その後,国民年金法の改正や,「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」の立法がなされた.ECでは,2000/78/EC命令(指令ともいう)により,加盟国は雇用の場面において年齢差別法の導入が求められていた.他方,わが国では,雇用対策法において一定の場合における年齢差別が禁止されることとなった.将来的には,年齢差別の禁止の概念は,社会保障の場面においても導入される可能性があると考えられる.