著者
大薮 加奈
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

昨年度は主にパンジャブ系移民が主導権を持って広げていったバングラ音楽と文学の関係について研究したが、今年度はその他のインド系移民作家の作中に現れる音楽について研究した。一昨年度の歌詞中心、昨年度のリズム中心の精読から一歩すすめ、今年度は主題としての音楽を取り上げた。その過程で、Asian Dub FoundationやFun>Da>Mentalなど、イギリスで活躍するインド系ラップバンドを中心に、「怒れる移民2,3世」の政治的メッセージと、文学テキストの政治的メッセージの表現方法について比較した。ダンス・ミュージックの形をとるアジア系バンドの音楽は、その挑発的メッセージとはうらはらに白人ユースを取り込む明るく乗りやすいサウンドになっている。それは、ミドルクラスが読者である文学テキストの持つ言葉の魅力に近い。ただ、コミュニティーに根ざした音楽バンドのメッセージに比べて、若者が主題のクレイシの文学テキストでさえ意識的には中流階級(ミドルクラス)でありながら差別の対象となっている自分の外見や存在と距離を置こうとする作家のスタンスが見え隠れしており、メッセージは直接的でないことがわかった。今年度は昨年度に引き続き、移民の子供たちのコミュニティー音楽活動について、エジンバラ市を中心に調査した。コミュニティー音楽活動は、Asian Dub Foundation等のバンドを輩出しており、英国の移民文化にとって特に大切であるといえる。そこでは、自分たちの文化に根ざした音楽を伝えようという動きと、それを現在のイギリスにいる自分たちの音表現に変えていこうとする綱引きが常に存在していることが確認された。
著者
樋渡 保秋 高須 昌子
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.ガラス転移点近傍のダイナミックスの異常性 液体の密度の揺らぎの緩和時間はガラス転移点に近づくにつれて非常に長くなる。このような緩和時間の異常性(dynamical slowing down)にともなって、転移点近傍で動的な物性に異常が現れる。我々は簡単な二元合金モデルを用いて長時間分子動力学シミュレ-ションを行う事から過冷液体のslow dynamicsや動的構造およびガラス転移のミクロな機構について考察した。主な結果は、(1)高過冷液体では密度緩和(自己相関関数)がいわゆる引き延ばされた指数関数となる。(2)原子の自己拡散は主としてジャンプ運動による。これらは主に、単原子のジャンプ運動によるものではなく数個ないしは数十個の近傍の原子が連なって協力的に起こる。(3)ノンガウシアンパラメ-タの極大値が通常の液体のそれに比して異常に大きく大きくなる。このことからも原子拡散が単純なブラン運動から予測されるものと大きく異なることが分かる。(4)ノンガウシアンパラメ-タの極大値とその時の時間の値の積とからガラス転移点を見積もる事が出来る。この方法の最大の長所は転移点が中間時間領域の情報から求められることにある。従って、従来の拡散係数などの温度依存性から求める方法では避けられない困難な問題(拡散係数を求めるには長時間の情報を必要とする)が回避できる。(5)(1)で述べた指数の値は温度(密度)の値によって単調に変化する。従って、これはモ-ド結合理論の結果と異なる。2.ガラス転移点近傍のslow dynamicsの理論 トラッピング拡散モデルを用いて過冷液体中の原子拡散の理論的考察を行った。3.過冷液体の2体分布関数の理論 2体分布関数の積分方程式の近似精度をあげることから、液体はもとより過冷液体、ガラス状態の熱力学的諸性質が従来の近似理供よりもはるかに高い精度での計算が可能となった。これを用いて近距離相互作用(斥力)の型と二成分系の相分離傾向の関係について興味ある結果を得た。
著者
亀田 幸枝 島田 啓子 田淵 紀子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究は、妊娠・出産・育児に向けた妊婦の主体的行動を支援するために妊婦のエンパワメントを把握し、出産前教育の評価指標となる尺度を開発することである。臨床での尺度の有用性を確認し、修正した尺度の信頼性・妥当性を検討した。調査の結果、エンパワメント尺度を用いてクラスに参加した妊婦のエンパワメントの変化が把握できること、また、エンパワメントの高さは妊婦の主体的行動に影響することが示された。よって、エンパワメントに介入する意義、出産前教育の評価指標としての有用性が示された。また、尺度の修正版を作成し、妥当性と信頼性を確認した。今後、更に尺度を洗練させ、効果的な出産前教育を検討することが課題である。
著者
木越 治
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、八文字屋本の時代物浮世草子の注釈的研究を通して、各作品の「他界」を記述しようとするものである。研究期間中に注釈的な検討を終えた作品は、『風流宇治頼政』(享保5年刊)『都鳥妻恋笛』(享保19年刊、以上二作は江島其磧の作品)『勧進能舞台桜』(延亭3年刊)『龍都俵系図』(元文5年刊)『花襷厳柳嶋』(元文4年刊、以上三作品は多田南嶺の作品と考証されている)の計5作品である。ここでは「世界」の概念規定や各作品のおける具体的な「世界」のありようについて述べる余裕はないが、作品によってその様相はさまざまであり、簡単に概括することはできないようである。たとえば、『都鳥妻恋笛』の場合、従来から近松門左衛門作の浄瑠璃『双生隅田川』(享保5年初演)に基づくとされてきたわけだが、くわしく検討してみると、両者の関係は実はそれほど深いものではなく、それよりも、謡曲「隅田川」やその系譜につらなる古浄瑠璃・説経等がはるかに密接な関係を持っていることがわかってきたのである。さらに、それに加えて、元禄歌舞伎における「隅田川」ものがいくつか関与したとみられる部分もあるし、さらに、『伽婢子』『金玉ねぢぶくさ』等の怪異小説が利用された箇所もみられるのである。この一例だけからも、時代物浮世草子作品の「世界」を記述するためには、当該作品の注釈的な研究を踏まえつつ、それぞれの「世界」の系譜を考えていく必要があることを改めて痛感したのである。以上のことをふまえ、本報告には、『勧進能舞台桜』の全注釈を収めることとし、さらに、『都鳥妻恋笛』の新出異版を発見しそれによって得られた知見に基づく発表を行なったので、それもあわせて収めることにしたのである。
著者
東田 陽博 星 直人 橋井 美奈子 横山 茂
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

細胞内のCaをセカンドメッセンジャーとするCaシグナリングは、数多くの受容体の下流に存在する重要な信号伝達機構の一つである。最近、リアノジン感受性の細胞内Caプールを開く細胞内リガンドはサイクリックADPリボース(cADPR)であると考えられるようになってきた。この数年、我々はcADPRがIP3のようなセカンドメッセンジャーであるとするこの仮説を検証してきた。そしてNADからcADPRを産生する膜酵素が受容体によりコントロールされていることをムスカリン受容体を大量発現するNG108-15細胞(J.B.C.,1997)とβアドレナリン受容体を持つ心臓心室筋(J.B.C.,1999)を用いて始めて証明することができた。アメフラシのADPリボシルシクラーゼと相同性を持つことで知られるCD38をノックアウトしたマウスで測定したところ、ADPリボシールシウラーゼが全く測定できなかった。この結果は我々の予測と異なり、CD38以外に酵素活性を持つ、タンパク質が存在しないことを示している。そこで研究として、次の仮定を確かめるために研究を転開した。すなわちパーキンソン病脳におけるcADPリボースの役割を明確にするため、ラット脳線状体でのADPリボシルシクラーゼ活性を測定した。ドーパミン添加によりシクラーゼ活性が上昇することをはじめて見出し、現在この活性上昇のメカニズムを追求している。また、脳可塑性に重要な役割を果たす代謝型グルタミン酸受容体のADPリボシルシクラーゼヘのカップリングを研究し、興味あるサブタイプごとに異なる特異的な反応を見出した。
著者
岩見 雅史
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

インスリンは、線虫や昆虫での研究により、個体の生き残り戦略の要となる分子であることが示されつつある。これは、従来の「血糖調節・代謝調節」に係わるホルモンとしての機能を大きく展開させるものである。昆虫におけるインスリン分子(ボンビキシン)の全貌を明らかにし、Cペプチドの新規機能を明らかにするため、本年度は、新規ボンビキシン遺伝子の発現解析およびアミド化CペプチドのMAPキナーゼに対する作用を検討した。(1)発現解析の結果、Vファミリー遺伝子は脳、Wファミリー遺伝子は脳及び卵巣、Xファミリー遺伝子は脂肪体、Yファミリー遺伝子は脳及び卵巣、Zファミリー遺伝子は脳、脂肪体及び卵巣で発現が見られた。(2)アミド化Cペプチドとして、(1)N-GAQFASYGSAWLMPYSEGRamide-C、(2)N-DAQFASYGSAWLMPYSAamide-Cを用いた。また、非アミド化Cペプチドとして、(3)N-GAQFASYGSAWLMPYSEGRG-Cを用いた。体液ボンビキシン濃度の低い5齢2日と高い5齢10日幼虫からマルピーギ管と脂肪体を摘出し、前培養後、Cペプチド存在、非存在下で培養を行った。MAPキナーゼとしてErk及びp38のリン酸化亢進の有無を、抗リン酸化抗体を用いたウエスタンプロット解析により検討した。マルピーギ管、脂肪体いずれにおいてもアミド化、非アミド化を問わず、Cペプチド投与によるリン酸化Erk及びp38の増加は見られなかった。各実験区においてデータのばらつきが多いため、条件等の再検討が必要である。また、今後、他の組織、PI3キナーゼ等の他のシグナルカスケードで検討も必要である。
著者
岩見 雅史 本 賢一 桜井 勝 桜井 勝
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

カイコガの変態時における脳の変態制御の中枢としての機能を探るために,発生過程での使用される遺伝子の網羅的解析を試みた。サブトラクションライブラリーから,エクジソン応答遺伝子を10遺伝子単離し,前胸腺刺激ホルモン産生細胞でのみ発現することを示した。マイクロアレイを用いた網羅的解析では,前終齢特異的発現を示す3遺伝子(ADAMTS様タンパク質,チトクロームP450,Kruppel様タンパク質をコード),終齢脳特異的発現を示す遺伝子(クチクラ様タンパク質をコード)を同定した。
著者
鈴木 信雄 田畑 純 和田 重人 近藤 隆 近藤 隆 和田 重人
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまで超音波の骨に対する作用を解析した研究は、骨芽細胞の株細胞を用いたin vitro の研究が主流であり、骨芽細胞と破骨細胞の相互作用を解析する良いモデルがない。また歯の形成に対する作用においても、in vivo の系が主流であり、in vitro の良いモデル系が求められている。その機構を解析する硬組織モデルとして魚類のウロコとマウスの歯胚を用いて、低出力超音波パルスの影響を解析した。その結果、ウロコを用いて低出力超音波パルスの最適な条件を見出した。その条件では、歯胚の特に象牙質の形成に効果があり、ウロコを用いたGeneChip 解析により超音波に対する破骨細胞のシグナル伝達経路を初めて明らかにすることができた。さらに新規化合物の骨に対する作用も解析して、骨疾患の治療に有望な化合物を見出した。
著者
宮地 弘一郎 松島 昭廣
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,NIRSによる脳機能マッピングを活用した,重度脳障害児(重障児)の刺激応答性の即時評価システムを開発することであった.NIRSと心拍モニタリングを用いたアプローチは,重障児の生活刺激に対する応答性の評価に有用であることが示された.さらに,NIRS,脳波,心拍の多面的アプローチによって,定位反応系活動の発達を詳細に評価できる可能性が示され,今後の重障児の発達支援においての活用が期待された.
著者
山田 実 桑村 有司 飯山 宏一 桑村 有司 飯山 宏一
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、真空中に電子銃と光あるいはミリ波が伝播できる誘電体導波路を配置し、導波路表面から真空中に染み出した光やミリ波の一部を、電子銃から出射した電子ビームで励振し、光あるいはミリ波の発生や増幅を行う装置の開発を目指しているものである。光については、波長1.5μm付近で提案している原理での発光を観測し、発光のメカニズムを詳細に解析できた。ミリ波については、放射の兆候は見られたが明確な結果を得るには至らなかった。
著者
中村 正人
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題は、儒教思想に由来する清律の刑罰減免制度を考察対象に取り上げ、主として清代の刑案(判例)史料を用いた実証的研究を通じて、当時の法実務家官僚達が、儒教的な「衿恤の意」を実現しようとする法の理念と、社会の治安維持という現実の要請との間で、如何にして折り合いをつけていたかを解明し、その対応の時代的変遷のパターンを他の王朝のそれと比較検討することによって、清朝法制度の特質の一端を明らかにすることを目的としている。本研究では、主として「誤殺」と「自首」を対象に選び、条例や判例によって制度の変遷過程について考察を行った。その結果、「誤殺」については、特に親族関係の存在を認識できずに犯行に及んだ「犯時不知」の場合において、親族関係の錯誤に関して広く刑の軽減を認めていた清朝初期の状況が、乾隆朝を境として次第に刑の軽減範囲が狭められ、嘉慶24年以降には極めて限定的な場面においてのみしか減刑が認められなくなって行ったことが明らかとなった。また「自首」に関しても、主として強盗犯の自首において、それ以前は強盗犯の自首についても広:く減免が行われていたものが、次第に自首が認められなくなる、あるいは認められたとしても刑の軽減の度合いが低下する等、やはり同様に乾隆朝辺りを境として犯人にとって不利益な方向での変更が行われていたことが明らかとなった。これはかつて「留養」制度に関して筆者が明らかにしたのと同様のパターンであり、この乾隆朝を境とした厳罰化というのが清朝の法制度上の特質として浮かび上がってきた。
著者
武居 渡
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

近年、ろう学校幼児部の中で、遊びを通して手話によるコミュニケーションを深める実践は多くなされているが、小学以降の教科学習を可能にするためには、一定以上の手話力が求められる。そのためには、教師と子どもとの手話による会話だけでなく、いつでも同じ表現を見ることができ、また繰り返し使うことのできる手話ビデオ教材が有効であると考えられた。本研究では、幼稚部の活動の中で用いることのできる手話ビデオ教材を作成し、手話の力を小学以降の教科学習につなげていくモデルを提案した。平成17年度に行ったろう学校教員へのインタビュー調査により、行事や幼児が日常体験している身近な出来事を題材にした手話エピソードが教育現場で使いやすいということが明らかになったため、平成18年度は、演劇活動も行っており、日本手話が第一言語であるろう者2名の協力を得て、ろう児の身近な話題について約20のエピソードを手話で表現してもらい、それをビデオ収録した。その上で、収録したビデオを、ろう学校教員(ろう教員2名,聴者教員2名,難聴学級教員1名)に見てもらい、子どもの教育的観点からエピソードの修正を行い、より教材として適切なストーリーになるよう改良を行った。その上で再度、子ども向けに改良されたエピソードを手話が第一言語であるろう者に手話で語ってもらい、スタジオで撮影を行った。編集作業を行った後、最終的に作成された教材として、幼稚部の子どもたちにとって身近な12の話題から構成された手話ビデオが出来上がった。本来であれば、そのビデオをろう学校の幼稚部に配布し、実際の教育実践の中で使ってもらった上で評価を行う必要があるが、時間的に問に合わず、いくつかのろう学校に配布するだけで終わってしまった。今後、ビデオを使ったモデル授業の提案や現場の先生との研究授業の積み重ねなどをしていくことが必要であろう。
著者
熊田 俊吾
出版者
金沢大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,乾燥地植林前後での炭素動態を解析・予測・評価可能な技術を開発することにある。本年度は,対象地である西オーストラリアにて炭素動態に関する調査を行うとともに,(1)林間閉鎖度と土壌炭素量の関係について解析を加え,土壌炭素量を推算するための土壌炭素動態モデルを構築した。また,(2)塩湖での温暖化ガス発生量および有機物分解速度についてまとめた。さらに,(3)対象地の塩湖を終点とする乾燥地森林生態系の炭素収支を推算するとともに,炭素動態解析のためのフレームワークを構築した。以下の点が明らかとなった。(1)林間閉鎖度と土壌炭素量の関係について調査結果と解析を加え,林間閉鎖度をパラメータとした土壌炭素量を推算するための土壌炭素動態モデルを構築した。モデルによる土壌炭素量の推算値は,林間閉鎖度と土壌炭素量の実測値の関係をよく再現した。この構築したモデルと林間閉鎖度分布を用いて研究対象地全体の土壌炭素量の推算が可能となった。(2)塩湖土壌呼吸の測定結果について解析を加え,塩湖から放出される二酸化炭素フラックスとメタンフラックスについてまとめた。解析の結果,塩湖からの温暖化ガス発生量としては,二酸化炭素がメタンよりも2~3オーダー大きいことがわかった。また,高塩分,高pH条件下にもかかわらず,塩湖での有機物分解速度は極端に遅いものではないことがわかった。(3)対象地の塩湖を終点とした乾燥地森林生態系における炭素動態解析のためのフレームワークを構築し,炭素収支を推算した。その結果,林地から年間流出する総リター量のうち約1/3が塩湖に流入すると推算され,さらに塩湖からの炭素放出量は対象地全体の総炭素放出量の約1/5を占めると推算された。提案した解析手法は,世界中に広く分布する塩湖を有する乾燥地森林生態系に対して有用であり,植林実施時の炭素固定量評価モデルへの応用に期待できる。
著者
中山 謙二 平野 晃宏
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1)オーバーコンプリート形ブラインド信号源分離(OC-BSS)平成17年度に提案した,フィードバック形BSSにおいて,フィードバックにより信号源を相殺するための好しい学習法を提案した。混合過程に関する情報を使う方法と信号のヒストグラムを使う2つの方法を提案した。さらに,ヒストグラムを使う方法に関して,信号歪みを低減する方法を提案した。信号歪みを雑音と見なして,スペクトルサプレッション法により雑音スペクトルを抑制する方法である。音声の信号源を3個,センサーを2個としたときのシミュレーションを行い,従来法に比べて,信号対干渉比が約10dB改善された。2)非線形混合過程に対するブラインド信号源分離信号源のグループ分離と線形化を縦続接続する方式を以前に提案したが,その学習法に関して改良を行った。特に,線形化に関して,「初期値の設定法」及び「パラメータの学習法」に関して新しい方法を提案し,信号源の分離特性を大幅に改善した。また,信号源とセンサーの位置関係と必要なセンサー数の関係についても解析し,実用化における指針を与えた。3)ブラインド信号源分離における信号歪みの低減フィードフォワード形(FF-)BSSに対して,信号歪みを抑制する新しい学習法を提案した。従来の学習法に信号歪みを抑制する制約条件を課す方法である。2チャネルと3チャネルについてシミュレーションを行い,分離特性と信号歪みを評価した。その結果,従来の信号歪み抑制形学習法に比べて大幅な特性改善を実現した。さらに,フィードバック形(FB-)BSSとFF-BSSが各々有効に使用できる条件を明らかにした。
著者
佐藤 文彦
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

本研究は1920年代の両大戦間期にドイツで流行し、同時代の日本でも受容されたプロレタリア革命童話を、作家や挿絵画家、出版者の活動を鑑み、後期表現主義の潮流と相まった国際的な芸術文化運動として位置付けた。その上で、国民童話を素材にして書かれた日独のプロレタリア革命童話を、狭義の左翼文学ではなく、国民文学史の書き換えを試みた20世紀都市モダニズム文学の一種として理解し、プロレタリア革命童話は今日、パロディ文学として読み直せることを指摘した。
著者
鯨 幸夫
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、水田の環境を保全しながら水稲の超多収を実現させる戦略について検討した。得られた結果の概要は以下の通りである。1)1992年に998kg/10aの超多収を示した長野県伊那市の農家水田で生育するコシヒカリを調査し解析した。伊那コシヒカリの超多収性は、総根重、土壌表層根重の多さ、根の生理活性の高さに支えられた高い光合成速度と蒸散速度が背景にある。また、低水温の農業用水と土壌中の気相割合の多さも関係している。2)有機資材の連用により土壌中の腐植含有量は増加し、超多収を示した伊那コシヒカリと類似した根系形態を示すようになった。また、根の生理活性も高いことから、土壌への有機物連用は地力維持と環境保全への近道であると考えられた。3)コスト削減と外部環境に及ぼす影響を軽減するには、不耕起直播栽培や土中打込み点播方式も効果的である。また、LP肥料を用いたF1水稲品種の乾田不耕起直播栽培も北陸では有効であると考えられた。4)慣行的に施用されてきたN,R,K施肥の意味について、三要素継続試験から検討すると、三要素区、無P区、無K区での収量、根重、根の活力に有意な差が認められないことから、慣行的な施肥法を再考する必要性があることが明確となった。5)水稲の無農薬有機栽培の可能性について、コシヒカリBLを用いて検討した。再生紙マルチを用いて水稲を有機栽培すると575kg/10aの収量を示した。根系生育および根の生理活性は、超多収を示した伊那市のコシヒカリに近似していたことから、有機資材を用いて多収を実現することの可能性が示唆された。なお、畦畔にはアジュカ、イワダレソウを埴栽した。また、植物資材を利用した除草効果を検討したところ、米糠の利用が現実的であると判断された。6)2002年の伊那市の超多収コシヒカリの収量は800kg/10a以上を示した。