- 著者
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熊田 俊吾
- 出版者
- 金沢大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2007
本研究の目的は,乾燥地植林前後での炭素動態を解析・予測・評価可能な技術を開発することにある。本年度は,対象地である西オーストラリアにて炭素動態に関する調査を行うとともに,(1)林間閉鎖度と土壌炭素量の関係について解析を加え,土壌炭素量を推算するための土壌炭素動態モデルを構築した。また,(2)塩湖での温暖化ガス発生量および有機物分解速度についてまとめた。さらに,(3)対象地の塩湖を終点とする乾燥地森林生態系の炭素収支を推算するとともに,炭素動態解析のためのフレームワークを構築した。以下の点が明らかとなった。(1)林間閉鎖度と土壌炭素量の関係について調査結果と解析を加え,林間閉鎖度をパラメータとした土壌炭素量を推算するための土壌炭素動態モデルを構築した。モデルによる土壌炭素量の推算値は,林間閉鎖度と土壌炭素量の実測値の関係をよく再現した。この構築したモデルと林間閉鎖度分布を用いて研究対象地全体の土壌炭素量の推算が可能となった。(2)塩湖土壌呼吸の測定結果について解析を加え,塩湖から放出される二酸化炭素フラックスとメタンフラックスについてまとめた。解析の結果,塩湖からの温暖化ガス発生量としては,二酸化炭素がメタンよりも2~3オーダー大きいことがわかった。また,高塩分,高pH条件下にもかかわらず,塩湖での有機物分解速度は極端に遅いものではないことがわかった。(3)対象地の塩湖を終点とした乾燥地森林生態系における炭素動態解析のためのフレームワークを構築し,炭素収支を推算した。その結果,林地から年間流出する総リター量のうち約1/3が塩湖に流入すると推算され,さらに塩湖からの炭素放出量は対象地全体の総炭素放出量の約1/5を占めると推算された。提案した解析手法は,世界中に広く分布する塩湖を有する乾燥地森林生態系に対して有用であり,植林実施時の炭素固定量評価モデルへの応用に期待できる。