著者
大羽 沢子
出版者
鳥取大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

【目的】我々は、dyscalculiaリスク児をスクリーニングするためのコホート研究を実施しており、これまでに新しく開発した数的基礎力検査が、2年生学年末でのdyscalculiaリスク児を効果的に予測することを報告してきた。今回は、数的基礎力テストによって算数困難が予測される児童を早期発見し、数的基礎力の3つの領域を指導する(RTI ; Response to Intervention)介入を行い、その効果を検討することを目的とした。【方法】1年生2学期に数的基礎力検査後、カットオフ値以下の児童について学校ですでに設定されている計算習熟の為の時間(1回15分程度)を使用した介入指導を行い、3学期に再度数的基礎力検査を行う。また、1年生2月に実施される算数学力テストと数的基礎力検査との関連を検討した。【結果】介入指導として、数系列と量に関するトレーニングアプリを開発し、導入した。インフルエンザの流行と学校行事との関連で、アプリによる練習回数を目標まで達することができなかったものの、アプリによるトレーニングの内容、使い勝手や、参加意欲などについては、好意的は評価や改善点についての意見を得ることができた。また、数的基礎力検査についての事前事後評価に有意な差はなかった。【考察】本研究では、数的基礎力検査によりdyscalculiaリスク児をスクリーニングし、トレーニングアプリを使用した介入指導を実施することができた。しかしながら、介入時期が年末、年始にかかってしまったことや、インフルエンザの流行により、当該児童の練習回数が十分とれなかったため、介入の成果を十分に検証することができなかった。これまでの研究によると、1年生の学力テストが下位20%である場合で、数的基礎力検査が30点未満であると、2年生で下位20%となる可能性が91%と高いことが示されている。このため、介入時期については、1年生学力テスト終了後の1月中旬以降3月までが適切であり、数的基礎力検査から介入・効果測定に至るまでの実施時期について詳細な検討が必要であることが示唆された。また、トレーニングアプリについても、数的事実の課題を入れるなどの改良が必要であることも分かった。
著者
田中 裕之
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

小麦粉中に約10%含まれる種子貯蔵タンパク質、特にグルテニンの構造と発現量は、生地強度に大きく影響する。本研究では、野生植物の染色体をもつ小麦から、パン用に求められる強い生地に関係する新たなグルテニンを探索した。その結果、リン酸化の影響を受けない複数の新規グルテニンを見いだした。さらに、1種類のタンパク質がもつ生地強度への効果を評価するため、人工的にタンパク質を作製する系を確立した
著者
橋詰 隼人 山本 福壽
出版者
鳥取大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究においては次の四つの課題について研究した。1.日本列島のスギ林の着花状況について:鹿児島県から秋田県まで各地のスギ林の着花状況を調査した。スギ林の着花は地方によって著しく差があった。一般に関東・東海・関西及び四国地方の実生スギ造林地帯は雄花の着生が多く,九州・北山・智頭などさし木スギ造林地帯は雄花の着生が少ない傾向がみられた。また品種系統,樹齢,年度などによってスギ林の着花に著しい差がみられた。オモテスギの実生林は30年生位から、ウラスギのさし木林は50〜60年生から着花が盛んになった。2.スギ林・ヒノキ林における花粉生産量について:森林の花粉生産量は品種,林齢,生育場所,年度などによって著しく差があった。スギ林では、実生林はさし木林よりも生産量が多く、また老齢林や神社等の老木は豊作年に多量の花粉を生産した。豊作年における花粉生産量は、スギの中・壮齢林で250〜660Kg/ha,老齢林で1.050Kg/ha,ヒノキ壮齢林で93〜620Kg/haと推定された。3.スギ・ヒノキ花粉の飛散動態について:花粉の飛散時期は年度及び生育場所によって著しく差があった。関西地方ではスギ花粉は2月上・中旬に,ヒノキ花粉は3月中旬〜4月上旬に飛散を開始し、飛散期間はスギで60〜80日、ヒノキで40〜70日に及んだ。花粉の飛散数は、年度、場所、森林の状態によって著しく差があった。スギ花粉は豊作年には1シ-ズンに林地で最高17,000個/cm^2落下した。都市部でも1,000〜6,000個/cm^2の花粉が落下した。ヒノキ花粉は壮齢林の近くで豊作年に1,000個/cm^2程度落下した。しかし、凶作年には花粉の飛散数は著しく減少した。3。薬剤によるスギ雄花の着花抑制:マレイン酸ヒドラジッド,NAA,Bーナインなど成長調整剤によってスギの雄花を枯殺することができた。これらの処理は、花芽分化直前から花芽分化初期が有効である。
著者
大内 伊助
出版者
鳥取大学
雑誌
鳥取大学教養部紀要 (ISSN:02874121)
巻号頁・発行日
no.28, pp.p125-134, 1994-11
著者
石山 雄貴
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究の特徴は、「受益者負担論」を打破し「社会教育の無償性」を実現する社会教育財政の骨格を提示することである。全ての住民に社会教育の自由を保障するためには、社会教育に関わる費用が無償であることが不可欠である。一方で、全国の公民館において、使用料の有料化が進められている現状がある。本研究では、そうした有料化の実態分析を行うとともに、教育法学や地方財政論、図書館情報学における「無償性」の議論を手がかりとする包括的視点から「社会教育の無償性」を検討する。それらの作業を通して、「社会教育の無償性」の実現には、どういった社会教育財政が求められるのかを明らかにする。
著者
中桐 昭 早乙女 梢 足立 陽子 杉本 直人 畑 秀和
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

淡水域および汽水域の低酸素環境に適応した真菌類の取得を目指し、2段階低酸素分離法や低酸素釣菌法で菌を分離し、培養性状を調べた結果、分離株の多くは高酸素菌(好気性菌)であったが、少数ながら、低酸素菌や中酸素菌(微好気菌)も分離できた。さらに、嫌気~微好気~好気の各条件で生育が変わらない広範囲菌が分離され、これらは低酸素環境に適応して生息できる菌類と考えられた。水生菌類では、淡水域からはSigmoidea sp.、汽水域からはLulwoana spp.などが高または高~中酸素菌として見いだされた。これらは未記載種と考えられ、新たな低酸素分離法により、未知の菌が取得できた可能性がある。
著者
松本 晃幸
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

栽培きのこの一種、ウスヒラタケ(Pleurotus pulmonarius)で見出された子実体が発生後、正常に傘と柄の分化を行うことができない(子実体の奇形化)自然突然変異の原因遺伝子を連鎖地図、ゲノム配列情報、発現解析等により探索し、候補を1遺伝子に絞り込んだ。この成果は栽培現場で偶発的に発生する子実体奇形化の説明につながる可能性がある。今後相補あるいは破壊実験などにより検証し、当該遺伝子の変異検出用DNAマーカーを開発する予定である。
著者
岡本 幹三
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

診断技術の進歩と予後の改善によって多重がんの発生が増加しているが、多重がん患者の生存予後については余りわかっていない。今年度は、1979年から2003年までの25年間に亘る鳥取県がん登録資料を活用して単発がん患者と多重がん患者の生命予後について比較した。多重がん患者1,146名、単発がん患者15,022名について、罹患年齢、死亡年齢および第1がん罹患から死亡までの生存期間を求め、生存予後の比較はCox回帰による生存分析を用いておこなった。なお、多重がんの判定基準はIARC/IACRの規則に従い判定し、死亡票からの多重がんは除外した。その結果、多重がん患者は、第1がんの罹患年齢および死亡年齢とも単発がん患者に比して1歳弱高齢であった。第1がん罹患から死亡までの生存期間は、多重がん患者は4.3年で単発がん患者の2.8年に対して1歳弱長かった。Cox回帰による実測生存率曲線の比較では、10年生存までは、多重がん患者が単発がん患者より高い生存率を示し、その後第2がんの影響で逆転した。部位別には、特に直腸、胆嚢・胆管、膵臓、肺、前立腺で同様の傾向が観察されたが、食道、胃、結腸、肝臓、喉頭、乳房、子宮では顕著な違いは見られなかった。逆に皮膚、腎など、膀胱、甲状腺では単発がん患者が高い実測生存率を示した。以上の結果から、多重がん患者が単発がん患者より長生きすることが示唆された。おそらく、これは、第1がん罹患後の治療方法やライフスタイル(喫煙・飲酒)などによる影響が関与しているものと思われる。今後は、これらの点について検討していきたい。
著者
小野 朋子
出版者
鳥取大学
巻号頁・発行日
2014

元資料の権利情報 : 注があるものを除き、この著作物は日本国著作権法により保護されています。
著者
伊福 伸介
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

申請者はカニ殻からキチン質のナノファイバーを製造することに成功している。本研究ではキチンナノファイバーの微細な形状(10ナノ)と優れた力学的強度、多彩な生体機能を活かし、ハイドロキシアパタイトと複合した骨再生のための足場材料を開発した。本材料は成形外科や歯科治療において優れた成形性・操作性を有する。また、炎症を誘発することなく骨や歯の欠損部において足場として安定に存在し再生する。治癒後は体内で消化される。そのような全くの新規の骨や歯の再生材料は、高齢化の進む現代社会において、人々の健康を増進していくだろう。
著者
石井 晃 川畑 泰子
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

オピニオンダイナミクスの代表的な理論はHegselmann-Krause(2002)によるBounded Confidence Modelであるが,この数理モデルは人々が意見交換によって少しずつ歩み寄って合意の妥協点を見つける事が前提になっている。しかし,現実の社会の意見交換では歩み寄らない場合も少なくない.そこで石井は2018年に意見交換によって反発する場合とマスメディアなどの影響も含めた新しい理論を構築した。これをN人へ拡張してシミュレーションし、様々なWeb上のテキストデータを用いた測定からの裏付けをして、これを社会システム工学・ウェブ情報学に活かす。
著者
川野 敬介
出版者
鳥取大学
巻号頁・発行日
2013

博士論文
著者
道上 正規 清水 正喜 矢島 啓 檜谷 治 白木 渡 宮本 邦明
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

わが国では、現在では2000を越えるダムが存在しており、地盤条件あるいは降雨条件の厳しいわが国では、地震あるいは豪雨によって貯水池周辺で大きな崩壊が生じる確率は無視できず、崩壊土が貯水池に流入する可能性は低くない。多量の崩壊土が貯水池内に流入すると、イタリアのバイオントダムのように巨大な波が発生し、大災害を引き起こしかねない。このような災害は、大崩壊の発生確率とともに、貯水池数に依存しており、わが国でのその発生確率は年々高くなっていると考えられ、貯水池の流域管理が重要な課題である。そこで、本研究は、このような貯水池内での大崩壊にともなう段波形成について検討することを目的としたものであり、具体的には1)災害事例(特に眉山災害)に関する研究2)土砂崩壊の予測法に関する研究3)崩壊土砂の運動特性に関する数値解析的研究4)崩壊土塊の水域流入に伴う段波の形成と伝播遡上特性に関する数値解析的研究を実施するとともに、最終的に上記の研究を総合し、200年前島原で発生した眉山の大崩壊に伴う災害の数値シミュレーションを試み、大崩壊に伴う段波災害をある程度予測することが可能であることを実証した。
著者
黒川 泰亨
出版者
鳥取大学
雑誌
鳥取大学農学部研究報告 (ISSN:03720349)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.5-12, 2002-11

林木の成長に関する幾つかの経験的知識にもとづいて林分密度の変化や生育期間の経過に伴って林木の成長現象を記述するシステムを成長モデルというが、本稿では、異齢林を対象としたJ.ボンジョルノによる林分成長モデルを使用して、異齢林に関する収穫予定の最適計画策定に関して若干の基礎的考察を加えた。手法的には林分成長モデルと線形計画法による最適化問題との融合であり、異齢林に関する最適収穫の決定問題である。なお次のような問題を残しているが、これらのことは次の研究課題としたい。1)最適計画の策定における目的を収穫量の最大化としたが、割引純利益の最大化を目的とした計画に関する検討、2)回帰年を5年として固定したが、これを変更する場合の検討〔3〕、3)林分成長モデルにおける直径階を6~7程度に増やすことの検討、4)線形計画における感度分析およびジャドウプライスの検討等である。
著者
石井 晃
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

実験ですでにHeck反応、鈴木・宮浦カップリング反応などを起こすと報告されている硫化GaAs(001)基板にPdを吸着させた触媒について第一原理計算によってその構造と電子状態を明らかにした。その結果は実験と一致するものが多く、硫黄は基板とPd基板をより強く吸着させる役割と、Pd原子の原子価をゼロに近づける役割を果たしていることがわかった。同様の計算を、最近北海道大学薬学研究科のグループによって発見された硫化金基板上のPd触媒についても行い、Pdの原子価がやはりゼロ価に近いことと、硫黄がやはりPdと金基板との結合を強くする役割を担うことを確認した。同様の結果が、本研究と同時に行われた硫化GaN(0001)基板上のPdについても実験と我々の計算で報告されているので、この種の硫化基板上のPd触媒はある程度普遍的な性質を持っていることが示唆される。これが今後のさらなる研究で明らかにされていくことが望まれる。
著者
三木 裕和 川地 亜弥子 寺川 志奈子 山根 俊喜 赤木 和重 國本 真吾 越野 和之
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

研究の目的は、自閉症、発達障害の教育実践における教育目標・教育評価の構造を明らかにすることであった。学校教員と大学研究者の合同研究会を、のべ18日間に渡って行い、数多くの授業実践を検討した。その結果、社会性の障害に対して、社会適応行動の獲得が重視される傾向にあるが、文化、科学の伝達、習得をめざした教材、授業が可能であることが明らかになった。また、人と共感すること、創造的に考えることを教育目標とした授業も多く見られた。強度行動障害についは、自閉症の障害特性に応じた環境が推奨されているが、学校教育全般における、共感的情動体験の蓄積がより有効であると推察された。
著者
坂本 成司
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

【背景と目的】集中治療患者では安静による筋力低下が大きい。なかでも特に下肢の筋力や運動を維持することは下肢の血流を保つのにも重要で、下肢静脈血栓症の予防にもつながる。しかしながら、集中治療患者では鎮静剤により自発的に筋肉を動かすことができない。これに対してEMS(電気的筋肉刺激)を用いることにより、自発運動の低下した患者でも筋肉を動かし、下肢の血流を保つことができるか調べる。【方法】健常成人男性9名を対象に右大腿静脈血流速度を超音波ドップラー法で測定し、安静時の最大血流速度に対して(1)自発的に下腿筋肉を収縮させた時、(2)下肢静脈血栓予防のための間欠的空気圧迫装置使用時、(3)EMS(電気的筋肉刺激)を下腿筋肉に使用時、それぞれの最大血流速度増加を比較した。【結果】右大腿静脈の最大血流速度は安静時に比べ、(1)下腿の等尺収縮時は2.7倍、足の底屈時は2.9倍、(2)間欠的空気圧迫時は2.3倍の有意な増加があった。(3)EMS(電気的筋肉刺激)では1.3倍となったが、有意な増加とは言えなかった。【考察】下腿に対するEMS(電気的筋肉刺激)による右大腿静脈の最大血流速度増加は当初想定していたほどの効果は見られなかった。自発的な下腿筋肉の収縮や間欠的空気圧迫装置による血流増加は瞬間的に起こるのに対して、実験に用いたEMS(電気的筋肉刺激)は時間が長く持続的な刺激であるため、瞬間的な血流増加が起きなかったものと考えられる。被験者の感覚としても自発的な収縮とEMS(電気的筋肉刺激)による刺激では筋肉の収縮パターンが違うとのことであった。また、今回の刺激ではEMS(電気的筋肉刺激)による筋肉の動きが小さい割に、被検者の痛みや不快が大きかった。今後はEMS(電気的筋肉刺激)パターンを工夫することにより、自発的な筋肉収縮と近い刺激を調べる必要がある。