著者
田中 實男
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.37-44, 1996-03-31

ここ四半世紀に亘るわが国の農畜産物の生産調整は, 消費を上回る生産の増大による絶対的過剰と, わが国の貿易黒字を背景にして海外からの農畜産物の輸入調整の出来ぬままに国内の生産を抑制する相対的過剰とを原因として開始された.このこと自体が, 農畜産物価格を低迷させる結果となり, 農業経営にとって非常に厳しい状況となった.ここ10年ほどの間に, この厳しい環境条件のなかにおいて農業経営の継続が不可能となり, 農家整理の事例が散見されるようになった.本稿においては, 農業経営が破綻を来たして, 破産整理に至った原因について, 30年間に亘る農業経営診断作業過程から得られた知見を整理して検討した.その結果, まず第1点として, 農家の破産整理にまで至った事例にすべて共通する基本的条件は, 農業生産技術水準の低位性であった.これまでに農業生産についても, 所得拡大を目指して経営規模拡大の努力がなされてきた.しかし, この規模の拡大が所得の増大に結びつくには, 省力化しつつ規模拡大前と同一生産技術水準の維持が前提条件である.さらには, 規模の拡大は, 多分に経営外からの原材料用役の購入の増大すなわち経費率の上昇を伴うのが一般的である.結果として, 経営規模の拡大とともに生産技術水準の低下と収益の減少を来すのが多かった.所期の目的たる所得の拡大を実現するには, 農業経営者としての高い管理能力の発揮が問われたのである.第2点として, 経営能力と密接に関係するが, 生活水準を維持するには農業経営規模が零細である点が指摘される.この点は, 施設型資本集約型農業経営においては, 可成りの規模拡大によって目的が達成されているが, 土地利用型農業経営は, 農地問題との関係でもって非常に零細である.しかし, この必要とされる農業経営規模とは, 農家の生活水準におおきく関係するわけで, 第3点として, とくに戦後生れの農業経営者の生活観の不健全さを指摘した.何よりも人並みの生活水準が前提であって, 自分で稼ぎ出す所得の多寡とは無関係という人生観は理解の外であるが, 現実に存在しているのである.第4点としては, 農村にこのような破産型人生観が通用するような金融環境が存在することが問題である.それは, とくに農協を中心として成立しているが, 現在に至ってその存在を整理しなければならない状況に追い込まれた.農家の高額負債問題は現実に破綻して, 具体的に破産整理の実行となったわけである.農家の高額負債問題の整理としては, 著者は早くから提案したところであるが, 農業経営の再建の可能性の有無を尺度にして, その可能性のない農業経営は早急に経営活動を停止させて整理すべきである.このことは, 債権者としての農協などと債務者としての農家の双方にとって, 可能な限り損害の少ない処理法となるからである.そして, 再建の可能性のある農業経営は, 経営から生活までを管理する濃密な指導態勢のもとに置かれるべきである.それは, これぐらいの指導を必要とするぐらいの破産型の人生観を持った農業経営者が多くいるからである.1992年(平成4)11月末に, 6,500万円の負債でもって農協との合意のうえで農村から退散した畜産経営者が, その後はビル清掃員ついで長距離トラック運転手と転身したが, 現在の彼の「畜産経営をやっていた時に比べてこんなに楽をしていいものかと思う」ということばのなかに, 経営者としての能力の欠落とそれまでの生活の無計画さを見出すのである.
著者
大野 友也 オオノ トモヤ ONO Tomoya
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学法学論集 (ISSN:03890813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.17-38, 2009-03-27

飯田泰雄教授退職記念号
著者
今田 清二 コンダ セイジ KONDA Seiji
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学水産学部紀要 (ISSN:0453087X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.254-260, 1953-11

国際連合の国際港委員会は1951年「大陸棚及び関係事項についての条項案」を採択し,国際連合加盟各国の意見を求め,他の事項と共に公海制度の国際法々典化の歩を進めている。然るに公海漁業に関する範囲において,前記条項案の理論には二つの重大な問題がある.本文はその間題を指摘し且つこれに関する私見を明らかにすることを目的とする。
著者
西田 孝太郎 小林 昭 永浜 伴紀
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.151-168, 1955-11-30

I-1.日本産ソテツCycas revoluta THUNB.の種子より, 著者がさきに予想した有毒配糖体を純粋に単離した.このものはC_8H_<16>O_7N_2なる無色針状結晶の一新配糖体であることを証明して, cycasinと命名した.cycasinの単離にはその結晶化を妨げる共存不純物, 殊に糖類を, イオン交換樹脂及び活性炭chromatographyによつて分別除去する方法を採つた.I-2.cycasinの単離に際し, cycasinとの分離困難なsucroseを除くため, 抽出液に酵母invertaseを作用せしめ, 活性炭chromatographyを効果的に且つ容易に行い, その収量を原法に比して倍加せしめることができた.II.cycasinの構造を決定するため濠洲産ソテツのmacrozaminについての報告と比較検討した結果, 酸, アルカリ乃至は還元剤によるcycasinのaglyconeの分解生産物及び, cycasinの紫外部及び赤外部吸収スペクトルにおける吸収極大が, macrozaminのそれらと一致することを明らかにした.しかるにcycasinの糖成分として証明しうるのはglucose 1分子のみで, xyloseは存在しない.すなわちcycasinの構造はglucosyloxyazoxymethaneでなければならないと結論される.III.ソテツ種子から調製したemulsinによるcycasinの分解を, 酵素反応の条件を種々異にする場合について検討した.最終分解産物としてcycasin 1 mol.につき, N_2 gas, formaldehyde, methanol及びglucoseがそれぞれ約1 mol.ずつ得られ, 酸による加水分解の結果と一致した.N_2 gasの測定にはWARBURG manometerを用いた.cycasinのaglyconeは酵素によつてglucoseから切離される場合にも不安定で, 上記低分子化合物に分解するものと結論される.
著者
西元 久明 ニシモト ヒサアキ NISHIMOTO Hisaaki
出版者
鹿児島大学
雑誌
地域政策科学研究 (ISSN:13490699)
巻号頁・発行日
no.8, pp.129-148, 2011-03

In the folk songs of the northern Amami Islands, the Shamisen is the only musical instrument used to describe musical intervals. It is therefore thought that the tuning of the Shamisen in relation to musical intervals had a strong influence on the musical and melody structure of their folk songs as well as their range of voice. This idea is generally believed despite the fact that the use of the Shamisen did not spread throughout the islands for some time. This paper investigates the relationship between the tuning and melody structures of the Shamisen and the Hachigatsu-odori songs which do not use the Shamisen.
著者
中村 雅之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

免疫沈降法や免疫細胞化学法などの研究の結果、コレインは細胞骨格系タンパク質やオートファジー関連タンパク質と相互作用することが示唆された。ミトコンドリア膜電位を消失させマイトファジーを誘発する脱共役剤で細胞を処理すると、コレインと細胞骨格系タンパク質との相互作用が増強した。また、コレイン強発現細胞ではコントロール細胞と比べてオートファジーを誘発する飢餓刺激やマイトファジーを誘発する脱共役剤刺激後の細胞生存率が有意に高かった。これらの結果から、コレインはオートファジーやマイトファジーに関わる細胞死抑制機構に関与しており、それらの機構の破綻が有棘赤血球舞踏病の分子病態である可能性が示唆された。
著者
今永 正明
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.61-67, 1990-03-26

最近長伐期林業への道が提唱され, 鹿児島県では地元スギ品種であるメアサスギの見直しが行われている。メアサスギは材質がすぐれ, 成長は晩成型で, 壮齢期以降の成長が永く持続する。そこで長伐期生産品種としての価値が極めて高い。したがってこうしたメアサスギ林の調査研究は現下の重要な課題であり, 今回現地調査によって,その林分構造を明らかにすることを試みた。蒲生町を中心に特色ある高齢林分9林分(林齢55年〜85年)を選び, 主としてその胸高直径の分布を基に林分構造の解析を行った。各林分の胸高直径, 樹高, 単木材積の平均値, 標準偏差, 変動係数を明らかにするとともに直径についてはその分布のヒストグラムを描き林分構造を調べた。それによると各林分には, 二段林型を示すもの, 本数が著しく減少しているもの, 超高齢木の混入するものなどがみられ, 高齢林の特色ある構造が明らかとなった。ところで直径分布については「同齢単純林における直径分布は, 幼齢あるいは若齢の間は一般に正規分布にしたがうが, 年齢が進むにつれ, 除伐や間伐の影響をうけて, しだいに左傾していき, シャリエA型分布からピアソンI型分布へと進む傾向がみられる。直径の分布範囲は比較的小さく, 変動係数は10〜30%である」といわれる。そこで正規分布に近い林分について分布の正規性の検定を行ったが, 高齢林分にあってもその直径分布の正規性を否定出来ぬものが見出された。これは除間伐等森林育成作業との関連で今後検討を要する課題を与えるものといえよう。5林分についてメアサスギ収穫表と比較しその立木度をみると, 0.8〜1.2の間にあるから, これら林分はほぼ正常に近い林分であるといえる。これら林分の直径の変動係数は10〜30%におさまることから, この点は従来の知見を裏づけるものといえる。
著者
永松 哲郎 重廣 律男 堀田 好洋 池田 勉
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學水産學部紀要 (ISSN:0453087X)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1-12, 2004-02-27

The third generation「Nansei-Maru」is a fishery training vessel of the Faculty of Fisheries, Kagoshima University. This ship was built in November, 2002 to carry out the training for navigation and operation of fishing vessel, training of fishery, observation of ocean environment and investigation of marine creatures. The present paper describes about development of the hull form based on the tank tests. The resistance measurement tests, self-propulsion tests and wake measurements at propeller plane were conducted by use of a ship model of 3.5m long in a towing tank. These tests show the designed hull form is entirely satisfactory for her propulsive performance. Next, rolling measurements were made for three kinds of bilge keels both in calm sea and in waves in order to grasp their rolling characteristics. A ship model of 2.0m long was used in the measurements. From the results, the biggest one shows to be the most effective for anti-rolling and then it was selected as the bilge keels of「Nansei-Maru」. Flow visualization tests around ship bow and stern were also carried out by using the 2.0m ship model in a circulating water channel. It is found that there is no problem for entrainment of air bubbles into the sonar dome and severe turbulence at stern. Finally, sea trial tests by the full scale ship were conducted and it is confirmed that ship speed, turning performance and so on are satisfied for their requirements.
著者
采女 博文 ウネメ ヒロフミ UNEME Hirofumi
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学法学論集 (ISSN:03890813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.87-105, 1995-12-06

本稿は,Johann Braun, Vom Beruf unserer Zeit zur Überarbeitung des Schuldrechts, Juristen Zeitung 1993, SS. 1-8を訳出したものである。数年来民法典の中心的部分の根本的な改革が準備されている。しかしこの領域の立法についての我々の時代の「使命」という根本的な問題が計画の推進者によって真剣に問われてはいない。それゆえ本稿はもっぱら問題を追究し,結論として懐疑的な評価に至っている。
著者
渋井 進
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

大学評価における大量のデータ・指標の効率的な利用を目的とし、評価者を支援するシステム構築へ向けた検討を行った。過去の評価書のテキストデータを分析する事により、教育評価において、いくつかの重要な指標が明らかとなった。また、直感とデータを一致させる事で認知的な負荷を軽減する事を目的として、データ表示法としての顔グラフに着目し、文献調査や心理実験により、その定義法についての検討を行った。
著者
松山 淳子 畑 邦彦 曽根 晃一 MATSUYAMA Junko HATA Kunihiko SONE Koichi
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林研究報告 (ISSN:13449362)
巻号頁・発行日
no.34, pp.75-80, 2006-12

We examined the fecal contents of the raccoon dog,Nyctereutes procyonoides Gray,collected in three evergreen broad-leaved forests of Takakuma University Forest of Kagoshima University,Tarumizu,and an evergreen broa-leaved forest at Shiroyama,Kagoshima,from May to December 2001. Feces contained seeds,sarcocarp,plant fragments,insects and other arthropods,shells of molluscs,animal bones,and others. In summer,insects occupied the majority of the fecal contents,while,in autumn and early winter,seeds and sarcocarp became dominant. Species composition of the insects and trees extracted from the feces varied among the forests and seasons. The feces collected at Shiroyama,surrounded by the urban district of Kagoshima,contained seeds of prune and Japanese apricot and fragments of vinyl,aluminum sheet,and cloth. These results suggest that raccoon dogs have a flexible food habits and can change their food items in response to food composition in their habitats. We discussed how to conserve raccoon dog populations urban forests where the interference between raccoon dogs and human activity has been increasing.2001年5月から12月にかけて,鹿児島大学農学部附属高隈演習林(鹿児島県垂水市)の3林分と鹿児島市城山において,ホンドタヌキの新しい糞を採取し,その内容物を調査した。タヌキの糞には,植物の種子,果肉,組織,昆虫類,その他の節足動物,軟体動物,ほ乳類や鳥類の骨などが含まれていた。このうち,夏は昆虫を中心とした動物が多く含まれ,秋から初冬にかけて植物の種子や果肉の割合が増加した。糞に含まれる昆虫や種子の種類は林分間で異なり,市街地と接している城山では,人間の生活に関連していると考えられるプラムやウメの種子の他に,ビニールやアルミホイル,布なども回収された。これらの結果から,タヌキはその生息環境に応じて,その食性を変化させる能力を持っていると考えられた。人間との接触機会が増加しているタヌキの個体群の保全について考察した。
著者
内山 正樹 日高 正康 東川 勢二
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学水産学部紀要 (ISSN:0453087X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.p41-50, 1994-12

In January, 1985, the mooring buoy for Kagoshima-Maru was newly installed in Yamagawa Harbor, Kagoshima Prefecture. The typhoons that approached or landed at Kagoshima Prefecture in the past were investigated, and Makurazaki Typhoon which is regarded as the typhoon of largest class in the postwar period was supposed, and as for the buoy, it was considered fundamentally that in the wind of maximum velocity 35m/s (on average for 10min), the ship can be moored safely by using only the chain (40mm) of the ship. Since then up to today, the mooring for harborage has been carried out at the time of 27 typhoons. Among them, the typhoon No. 13 on September 3, 1993 was the largest typhoon that the ship encountered at Yamagawa Harbor, and the maximum instantaneous wind velocity of 47.0m/s and the barometric pressure of 936.2 hPa were recorded, but the ship was able to be moored and shelter safely. It is considered that the structure and strength of the buoy were as planned and designed, and it was able to be proved.昭和60年1月鹿児島県山川港にかごしま丸係船浮標を新設した。浮標(ブイ)は過去に鹿児島県に接近上陸した台風を調べ,戦後最大級の台風とされる枕崎台風を想定し,最大風速35m/s(10分間平均)の風の中で,ブイに本船チェーン(40mm)だけで安全に係留出来ることを基本に考えた。以来今日まで,27個の台風時に係留避泊した。この中で平成5年9月3日の台風13号は本船が山川港で受けた最も大きな台風であり,最大瞬間風速47.0m/s,最低気圧936.2hPa.を記録したが安全に係留,避泊することが出来,ブイの構造,強度が計画設計通りであったことが証明出来たと考えられる。
著者
小片 守 林 敬人
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

小児・高齢者に対する身体的虐待に基づく多発外傷によって好中球が各臓器内に浸潤することを,好中球マーカーmyeloperoxidase,接着因子P-selectin,遊走因子interleukin-8等を指標とした免疫組織化学によって証明し,身体的虐待の法医学的証明法として有用であることを明らかにした。さらに,好中球が産生する組織障害因子がすでに発現しており,被虐待者は多臓器不全の前段階ともいうべき状態にある可能性が示唆された。