著者
奥田 将生 橋爪 克己 沼田 美子代 上用 みどり 後藤 奈美 三上 重明
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.9, pp.699-711, 2009 (Released:2016-02-10)
参考文献数
24
被引用文献数
5 9

酒米研究会が収集した気象データの明らかな試料を用いて,気象データから米の溶解性に関する酒造適性を予測できるかどうかを検討する目的で,気象データとデンプン特性及び蒸米消化性の関係について解析した.出穂後1ヶ月の平均気温はアミロペクチン短鎖/長鎖比及びアミロース含量とは高い相関関係を示した。また,出穂後1ヶ月の平均気温は,DSCやRVAの測定値とも高い相関性を示した。酒米統一分析条件での蒸米消化性(デンプンの消化性)は出穂後1ヶ月の平均気温が23℃付近で消化性が高くなるような関係を示した。もろみに近いデンプンの老化を反映させた条件では,出穂後1ヶ月の平均気温と蒸米の酵素消化性(デンプンの消化性)は直線的な負の高い相関性を示した。それぞれの条件で出穂後1ヶ月の平均気温でデンプンの消化性を予測する式を構築し,この式より2008年度の試料について予測できるか検定したところ,予測値と実測値は出穂後1ヶ月の平均気温でどちらの条件でもデンプンの消化性を比較的精度良く予測できた。また,タンパク質含量は気温と強い相関がみられなかったものの,タンパク質の消化性はデンプンの消化性と同様な傾向を示し気温と有意な相関性を示すことがわかった。以上の結果から,出穂後の1ヶ月間平均気温によってかなり高い精度で米の溶解性に関する酒造適性を予測できる可能性が示された。
著者
豊田 健太郎 池崎 秀和 平林 和之 三村 昭彦 那須 賢二 戸塚 昭
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.49-58, 2016 (Released:2018-05-28)
参考文献数
13
被引用文献数
4

清酒の味を味覚センサー(味認識装置)で評価した結果,以下の知見を得た。1.BT0センサーは疎水性部分を持つペプチドに応答し,清酒の後味(膨らみ感,味の幅)の評価に活用できる可能性が示された。純米酒では,BT0センサーの出力が高く出る傾向が認められ,清酒の後味(膨らみ感)に着目した官能検査との間で相関が認められた。2.CT0センサーは有機酸塩に応答し,清酒の「濃醇感」の評価に活用できる可能性が示された。3.BT0とCT0の2本のセンサーを用いて,清酒の「後味」及び「濃醇感」という2つの項目によって清酒の味を識別することができた。4.清酒の味わいの違いを表示する方法を提示した。
著者
河野 勇人
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.10, pp.750-759, 2012 (Released:2017-12-15)
参考文献数
20
被引用文献数
1

超高齢化社会を迎えつつある現在の日本においては,生活習慣病の予防が重要な社会的問題となっている。その予防には個々人が若い時代から自ら日常的に健康的な生活を維持していくことが重要である。栄養(食事),運動,休養は健康づくりの三本柱であるが,毎日欠かすことができない食事の役割は大きい。近年,若い女性のダイエット志向や高齢社会におけるアンチエイジング志向から,健康維持に対する関心が高まり,いわゆる健康食品やサプリメントなどの商品が増加している。しかし,それらの中には効果が実証されていない食品や健康被害を招きかねないものも含まれている。このような食環境において,科学的エビデンスに基づいた食材や加工食品の開発と提供は極めて重要な課題である。本稿は,その好例の紹介であり機能性食品の開発を進める上で大変参考になる事例である。
著者
神戸 大朋
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.1, pp.37-40, 2009 (Released:2016-01-18)
参考文献数
16

醸造において,水の問題は非常に重要視される。例えば,宮水の特徴は,カリウムとリン酸にあるといわれ,酵母の発酵性とカリウムやリン酸の関係については多く研究や解析がなされている。これらの研究に加え,亜鉛もまたアルコール発酵に重要であるということが,周辺の分子メカニズムとともに証明されてきている。亜鉛は生物にとって必須の元素であり,酵素活性や遺伝子発現制御因子の活性など多くのタンパク質の活性に関与しているが,アルコール発酵系の酵素にも亜鉛を要求するものがある。亜鉛と本酵素は単に酵素活性という点だけでなく,遺伝子発現も含めてドラスティックに相互に関係していることが明らかとなってきた。今回,亜鉛とアルコール発酵系の巧妙な関係について解説をしていただいた。
著者
小林 弘憲
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.6, pp.381-387, 2016 (Released:2018-07-13)
参考文献数
33

ワインの香りは,その品質を決定する重要な要素である。ワインの香りは,ブドウに由来する香り,酵母による発酵香,MLFによる香り,熟成で生じる香りが渾然一体となったものであるが,なかでもブドウの品種に特徴的な香りがよく表れていることが重視される。一方,未熟な香りなど,ブドウに起因する好ましくない香りも知られている。本稿では,甲州,マスカット・ベーリーA,シラーと各品種に特徴的な香りの研究に取り組んでいる著者に,ブドウに由来するポジティブな香,ネガティブな香について,わかりやすく解説していただいた。
著者
湯川 雅之 伊藤 大輔 峰時 俊貴 渡辺 敏郎 広常 正人
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.12, pp.963-968, 2009 (Released:2016-02-16)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

酒粕の有効活用のため,吟醸酒粕や普通酒粕より資化できる糖質の残存量が少ない液化酒粕を用い,その生理活性を高めたSLIPの製造方法を検討した。液化酒粕をプロテアーゼ剤と共に清酒酵母で再発酵させた結果,米由来の酸性グルテリン,グロブリン,塩基性グルテリンが減少し,TDFとRPの合計量が液化酒粕の1.7倍に高まったSLIPの製造に成功した。試験管レベルで油の吸着実験によりSLIPを評価した結果,メタボリックシンドローム対応素材として市販されている,キノコキトサンの脂質吸着量の約1.5倍となることが確認された。SLIPを摂取することにより,過剰な脂質の吸収を抑制することでコレステロール低下作用や肥満抑制作用が期待できる。
著者
木原 誠
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.7, pp.462-467, 2011 (Released:2017-02-15)
参考文献数
9

ビールの品質に大きく関わるビール大麦,その育種の実例について,紹介していただき,さらに,ビールの品質上好ましい形質であるLOX(リポキシゲナーゼ)欠失ビール大麦を,DNA塩基配列の差異を利用することで,より効率的に育種することができた大変興味深いお話を解説していただいた。
著者
岸本 宗和 塩原 貫司 萩原 健一 今井 裕景 柳田 藤寿
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.12, pp.931-939, 2012 (Released:2017-12-18)
参考文献数
27

1.セミヨン種ワイン発酵醪および醸造設備から乳酸菌を分離し,そのリンゴ酸分解能を検討した。前期醪から分離された22菌株中の18菌株に,後期醪から分離された24菌株すべてに,醸造設備から分離された10菌株中の1菌株,合計 43菌株にリンゴ酸の分解能が認められた。2.16S rDNAのPCR-RFLP解析および塩基配列解析の結果から,前期醪から分離されたリンゴ酸分解能を有する乳酸菌は,Lb. plantarumに,後期醪から分離された乳酸菌はO. oeniに,ワイナリー醸造設備から分離された乳酸菌はP. pentosaceusに分類される可能性が極めて高いことが示された。3.リンゴ酸分解率に及ぼすpHの影響について検討したところ,前期醪から分離された09Se-A1-4株はpH 2.9の条件下においても90%以上の高いMLF能を有していた。4.セミヨン種ブドウを原料とする小規模試験醸造において,09Se-A1-4株は速やかにMLFを生起し,さらには,クエン酸の消費が少ない特徴を有する菌株であることが認められた。
著者
大内 弘造
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.4, pp.184-187, 2010 (Released:2012-02-24)
参考文献数
18
被引用文献数
1 4
著者
平石 隆義
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.9, pp.594-599, 2016 (Released:2018-08-03)
参考文献数
3

酒類に用いられる容器は,新素材の登場や飲酒形態の変化など時代の要請とともに変わってくる。清酒では,一升瓶が減少し少量ガラス瓶容器が増えてきている。ワイン国であるフランスでも,核家族化等により1回の食事等では750ml瓶は消費しきれず,開封後も鮮度が保たれるバッグインボックス入りワインが普及してきている。これをさらに進めたPouch Up容器を清酒に取り入れたメーカーがある。この容器の利点や酒質への影響,さらにはリサイクル制度への対応などと今後の展望を解説いただいた。
著者
水沼 正樹 平田 大
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.12, pp.794-800, 2011 (Released:2017-03-28)
参考文献数
35
被引用文献数
1

本誌読者に馴染みの深い出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeは,真核モデル生物のひとつとして,種々の研究に用いられている。本稿では,出芽酵母を用いて得られた老化や寿命に関する研究成果を幅広く紹介していただいた。
著者
渡部 貴志 藤井 力 家藤 治幸 北本 宏子
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.2, pp.82-88, 2014 (Released:2018-02-16)
参考文献数
23
被引用文献数
1

焼酎蒸留粕の有効かつ効率的な処理技術の確立は,過去20年以上にわたり業界の最重要課題である。筆者らは,酵母を用いた排水処理法という日本発信の技術をベースにして,飼料用酵母Candida utilisによる焼酎蒸留粕排水の窒素除去と資源化の検討を進めている。生物処理は課題が多いが,各種酵母を用いて窒素除去能強化方法の有効性について評価し最適化処理を探っていく手法は,興味深い知見と示唆を与えるものであり,今後の進展に期待したい。
著者
高尾 佳史 高橋 俊成 藤田 晃子 松丸 克己 溝口 晴彦
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.1, pp.48-55, 2015 (Released:2018-04-12)
参考文献数
18
被引用文献数
2

1)官能評価結果から,対照酒に比べて樽酒を摂取した場合,食品の旨味を強く,長く感じさせる効果があることが示された。2)清酒と料理を組み合わせたときの旨味後味を,味認識装置を用いて評価する方法を設定した。そばつゆやシーフードを食品サンプルとした場合には,対照酒に比べて樽酒では,旨味後味値が強くなっていた。3)食品の旨味後味に及ぼす樽酒の効果は,杉樽から抽出される物質に起因しており,比較的極性が高く,揮発しにくい成分と考えられた。杉樽から溶出するポリフェノールや多糖類の可能性が考えられるが,樽酒ではポリフェノール濃度が高いものの,多糖類の濃度には差が見られず,ポリフェノールやその配糖体の可能性が考えられる。

1 0 0 0 OA 賴山陽と酒

著者
池田 明子
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.32-36, 2013 (Released:2017-12-21)

筆者は著書「吟醸酒を創った男」で,この業界に知られる作家。北陸の古都・金沢に生まれ育ち,広島へ嫁いだのち,賴山陽に傾倒し著作も多い。「山紫水明」は山陽発明の語,山陽の晩酌は「酒に自分好みに水をブレンド」していた由。本解説を楽しく味わっていただきたい。
著者
佐々木 定
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.100, no.2, pp.84-91, 2005

日本経済に明るい見通しを期待する発表が出始めているが, 酒類業界においては酒類の総消費数量が減少傾向を示しており, 消費の伸びが期待できない材料が多く見受けられる。<BR>そこで, 総務省の家計調査を基に消費者の嗜好の変化や消費行動などについて分析を試みたところ, 若者の酒離れ, 低価格商品へのシフトといった傾向が顕著となっている。<BR>将来に向かって酒類市場が縮小していくと思われる中で, 流通を含めた酒類業界全体で業界構造を見直し, 低価格商品への依存から脱却して, 収益を重視した取り組みを考える時期が来ていると提唱している。
著者
栗林 喬 金桶 光起 渡邊 健一
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.9, pp.624-631, 2012 (Released:2017-12-15)
参考文献数
18
被引用文献数
1

セルレニン耐性を指標としたカプロン酸エチル高生産酵母の育種方法は,日本醸造協会をはじめ,各県公設研究機関,酒造メーカーなどで幅広く利用されている。しかし本法による酵母を用いた吟醸酒は,カプロン酸によるオフフレーバーが問題となる場合もある。著者らは,カプロン酸エチル高生産酵母を用いた吟醸酒において総脂肪酸の大部分をカプロン酸が占めるという知見に基づき,酵素法によるカプロン酸の定量法を設定するとともに,本法がカプロン酸エチル濃度の推定にも有効であることを示した。製造現場でも利用できる簡易な方法なので,吟醸酒の品質管理の参考にしていただきたい。