著者
大塚 昇三
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.167-182, 2015-06-11

フーリエには情念が世界をかたちづくるという根本思想がある。もし人間が情念にしたがって自由に行動すれば情念の引力と斥力が働いて,歩兵隊の陣形のように中心集団と,その両側に中心集団と競い合う二つの極集団を形成する。この中心と両極の構造をフーリエは系列とよぶ。情念が,情念みずからの存在や働きを,人間の集団形成の行動を通して系列構造という目にみえるかたちであらわす,ともいえる。そして神がこの系列構造を原型にして世界のいっさいをかたちづくる。情念が自由ならいっさいが系列構造を分有して統一がうまれ,世界は調和する。情念が抑圧されると系列構造に歪みが生じ,統一が乱れて世界は不和になる。これがフーリエの根本思想である。本稿では,「文明のカースト」を中心に,このカーストの階層構造と系列構造との対応関係を確認する。この確認作業をもって,フーリエが系列といういわば事物の認識パターンにそって外界からの情報を分類・編集し,かれ独自の鍵になる観念を成形しているという筆者のフーリエ解釈の傍証としたい。
著者
高野 昭雄
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文學報 = The Zinbun Gakuhō : Journal of Humanities (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.141-159, 2014-06-30

本稿は,京都市左京区松ケ崎地区の近代における朝鮮人労働者の足跡について論じた。松ケ崎は,平安遷都にさかのぼる松ケ崎百人衆の伝承をもち,また鎌倉時代末期には全村挙げて日蓮宗に改宗するなど結束の強さを誇ってきた。その伝統は,現在でも,五山送り火の一つである「妙法」の送り火に受け継がれている。こういった歴史をもつ松ケ崎は,周辺地域に比べ,工業地としての開発が遅れていた。そのため松ケ崎の朝鮮人労働者は,隣接地区に比べ,人口も少なく,目立った存在ではなかった。それでも,第一次世界大戦時の大戦景気の中で,松ケ崎にも東洋ラミー織布会社の工場が作られ,朝鮮人労働者が就業した。大戦景気時に労働力が不足し,繊維産業に朝鮮人が従事する現象は,京都では西陣地区でも見られた光景である。その後,1920年代になると,京都市では人口が急激に増加する中で,社会基盤整備事業が活発に行われ,土工や砂利採取夫として就業する朝鮮人も急増する。松ケ崎でも,人口増加を支えるための浄水場が建設され,その配水池の工事を中心に,朝鮮人労働者が多数従事した。また浄水場の工事や高野川での砂利採取,京都高等工芸学校の建築工事には,朝鮮人労働者と被差別部落住民とが,ともに就業していた。土木建築業や砂利採取業に,朝鮮人労働者と被差別部落住民とが従事する形態も,京都市他地域と共通する現象であった。一般的に京都の在日朝鮮人について語られる際,戦後の状況もあって,東九条を中心とした京都市南部あるいは西部に言及されることが多かった。しかし,西陣や上賀茂,修学院といった北部にも朝鮮人が多く居住し,それぞれ特色ある就業形態をとっていた。また松ケ崎のような朝鮮人労働者が少ない地域においても,京都市の典型事例とも言うべき朝鮮人労働者の就業状況があった。
著者
辻 竜平
出版者
信州大学人文学部
雑誌
信州大学人文科学論集
巻号頁・発行日
vol.2, pp.67-79, 2015-03-15

口承文芸の一つの形態に昔話がある。本稿では,新潟県旧栃尾市で水沢謙一によって収集された「三枚のお札」のヴァリアントを事例に取り上げ,その地理的な分布と物語の内容の特徴が,通婚圏によって規定されているのではないかと考えた。農村集落では近隣集落から語り手の女性が結婚して移動したことから,近隣の農村集落間でヴァリアントの類似性が高く,かつ,比較的特徴的なものであると予想した。一方,町部では女性がより広域に移動したことから,町部における口承文芸のヴァリアントは,折衷的であまり特徴のないものになってしまうと予想した。コレスポンデンス分析の結果,予想はおおむね支持された。
著者
中空 萌
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文學報 = The Zinbun Gakuhō : Journal of Humanities (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.159-187, 2015-09-30

本論文では,現代インドにおいてアーユルヴェーダが生物医療,代替医療,知的所有権制度 といった異なる知識制度との関連の中でその性質を定義され続けている過程を,接触領域における「翻訳」に焦点を当てながら描く。 インドにおけるアーユルヴェーダと他の知識システムの混交をめぐるこれまでの研究は,「アーユルヴェーダの根底的なパラダイムは他のシステムと接触しても不変のままである」あるいは「生物医療の導入がアーユルヴェーダの身体・人格観を根本的に変容させた」という二極的な立場に収斂していた。これらの議論は両者とも,アーユルヴェーダとその他の知識を首尾一貫した知識=治療パラダイムとして捉えている。それに対し本論文では科学人類学的アプローチに従い,知識を固定的な知識「体系」ではなく,常に生成し続けている不安定な実践と捉えた上で,異なる知識間の接触領域においていかに翻訳可能性が部分的かつ偶発的に見いだされるのか,複雑な交渉と比較の過程を照射する。 具体的には,(1)独立後にアーユルヴェーダの制度化を推進しようとしたmisra 派の知識人たちによる,生物医療概念とアーユルヴェーダの諸概念の翻訳,(2) 1980年代以降のグローバルな代替医療の潮流の中で欧米人患者を受け入れる,アーユルヴェーダ医師の実践,(3) 2000年以降,グローバルな製薬開発をめぐる動きの中でアーユルヴェーダを知的財産化しようとする「国家」研究機関の科学者たちのプロジェクトを取り上げ,それぞれ具体的な翻訳の文脈の中で,「アーユルヴェーダとは何か」がいかに立ち表れているかを素描する。それにより,アーユルヴェーダと他の知識システムとの具体的接触場面で展開している事象とは,「アーユルヴェーダ の本質の残存/喪失」といった一面的プロセス,すなわち知識間の差異の消失ではなく,翻訳可能性と不可能性の間の曖昧な領域において,新たな知識や思想,アイデンティティを生み出すものであると主張する。
著者
Hamada Yuta Kawana Kiyoharu
出版者
Elsevier B.V.
雑誌
Physics Letters, Section B: Nuclear, Elementary Particle and High-Energy Physics (ISSN:03702693)
巻号頁・発行日
vol.763, pp.388-392, 2016-12-10
被引用文献数
14

We propose a novel leptogenesis scenario at the reheating era. Our setup is minimal in the sense that, in addition to the standard model Lagrangian, we only consider an inflaton and higher dimensional operators. The lepton number asymmetry is produced not by the decay of a heavy particle, but by the scattering between the standard model particles. After the decay of an inflaton, the model is described within the standard model with higher dimensional operators. The Sakharov's three conditions are satisfied by the following way. The violation of the lepton number is realized by the dimension-5 operator. The complex phase comes from the dimension-6 four lepton operator. The universe is out of equilibrium before the reheating is completed. It is found that the successful baryogenesis is realized for the wide range of parameters, the inflaton mass and reheating temperature, depending on the cutoff scale. Since we only rely on the effective Lagrangian, our scenario can be applicable to all mechanisms to generate neutrino Majorana masses.
著者
伊藤 達夫 松尾 邦夫 大野 良樹
出版者
筑波大学研究協力部
雑誌
技術報告
巻号頁・発行日
no.3, pp.73-78, 1983-03-01
著者
Senda Joe Watanabe Hirohisa Endo Kuniyuki Yasui Keizo Hawsegawa Yasuhiro Yoneyama Noritaka Tsuboi Takashi Hara Kazuhiro Ito Mizuki Atsuta Naoki Epifanio Bagarinao Jr. Katsuno Masahisa Naganawa Shinji Sobue Gen
出版者
Nagoya University Graduate School of Medicine, School of Medicine
雑誌
Nagoya Journal of Medical Science (ISSN:00277622)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.455-463, 2016-11

Voxel-based analysis (VBA) of diffusion tensor images (DTI) and voxel-based morphometry (VBM) in patients with multiple sclerosis (MS) can sensitively detect occult tissue damage that underlies pathological changes in the brain. In the present study, both at the start of fingolimod and post-four months clinical remission, we assessed four patients with MS who were evaluated with VBA of DTI, VBM, and fluid-attenuated inversion recovery (FLAIR). DTI images for all four patients showed widespread areas of increased mean diffusivity (MD) and decreased fractional anisotropy (FA) that were beyond the highintensity signal areas across images. After four months of continuous fingolimod therapy, DTI abnormalities progressed; in particular, MD was significantly increased, while brain volume and high-intensity signals were unchanged. These findings suggest that VBA of DTI (e.g., MD) may help assess MS demyelination as neuroinflammatory conditions, even though clinical manifestations of MS appear to be in complete remission during fingolimod.
著者
西村 元佑
出版者
東洋史研究会
雑誌
東洋史研究 (ISSN:03869059)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.423-445, 1953-09-30
著者
重近 啓樹
出版者
東洋史研究會
雑誌
東洋史研究 (ISSN:03869059)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.431-465, 1990-12-31
著者
金 炫
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.1-69, 1999

本研究は5章から構成されている。第I章では,本研究の背景,目的,対象地について述べ,さらに研究の進め方の立脚点を明確にして,温泉地研究の中での本研究の位置づけを行った。本研究の目的は,(1)韓国の温泉地開発の現状を把握するとともに,法制度を中心とした韓日両国の相違点の分析を通して韓国における温泉地開発の特徴を明らかにし,韓国での温泉地開発の今後の課題を考察する。(2)韓日の温泉地における街路空間と街路景観の実態を明らかにし,現状の温泉地景観の特徴を把握する。(3)韓日両国の温泉地の景観評価構造と両国の差異を明らかにし,韓国における今後の温泉リゾート地の景観のあり方に関して考察することの3点である。研究の対象地としては,韓国において,宿泊施設やレクリエーション施設などの集積があり,それが資源となって明確な温泉街が形成されている水安堡温泉,白岩温泉,釜谷温泉を選定した。一方日本においては,伝統的な温泉地景観を有する代表格であり,独自に景観条例を制定し,伝統的な町並みの保存に努めている城崎温泉を対象地とした。
著者
Tadokoro Ryosuke Murai Hidetaka Sakai Ken-Ichiro Okui Takahiro Yokota Yasuhiro Takahashi Yoshiko
出版者
Springer Nature
雑誌
Scientific reports (ISSN:20452322)
巻号頁・発行日
vol.6, 2016-12-02
被引用文献数
28

メラニン色素が表皮細胞に運ばれる仕組みの解明 : 体表に色がつくメカニズム. 京都大学プレスリリース. 2016-12-05.
著者
好並 隆司
出版者
東洋史研究會
雑誌
東洋史研究 (ISSN:03869059)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.211-242, 1976-09-30