- 著者
-
山本 奈生
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- no.32, pp.120-133, 2007-10-20
G・ケリングらの「割れ窓理論」は,これまで国内外の警察政策に対し一定の影響力を発揮してきたが,そこに見られるコミュニタリアン的色彩の強さから,賛否を巡る多くの議論の的ともなってきた.しかし,そうした議論とは裏腹に,政策決定の現場やマスメディアにおいては,ほとんどの場合,「治安の悪化」に対する特効薬として肯定的に評価されてきたと言ってよい.本稿では,「割れ窓理論」に基づく取締り政策の事例として,京都市における「祇園・木屋町特別警察隊」の試みを取り上げ,質的な分析を加えることによって,ここでの取り組みが指示する「無秩序」がどのような立場から定められているのかを問題とする.この調査が照準するところは,(1)京都市の取り組みで,「安全・安心」を希求する主体はどの位概に在るのか,そして何が「無秩序」として分割線の外部に引き出されているのか.(2)バーテンダーなど街で働く人々は,この警察政策をどのように捉えているか,の二点であり,これらの考察を通して,「割れ窓理論」が持つ理論的な問題点を描写する.