- 著者
-
小椋 純一
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.203, pp.113-160, 2016-12-15
2011年3月に発生した福島第一原発事故は,東日本大震災を引き金にして起きたものであったが,その原発事故により広大な国土が放射能に汚染され,国土の一部は長く人が住むこともできない大地となり,また今後長期にわたり多くの人々への健康被害が懸念されるなど,大災害となった。その大災害に至った1つの大きな要因として,メディアによる原発の必要性や安全性などを訴える広告などの情報が,原発の問題を指摘する情報よりもはるかに多大であったこともあるが,その一方で,本来伝えられるべきであったと思われる原発関係の情報が十分伝えられてこなかったということがあると思われる。そうした情報の中で,本稿では,福島での原発事故が起きるまでは最悪の原発事故であった旧ソビエトのチェルノブイリ原発事故後による食品汚染についての情報について検討した。1986年に起きたその原発事故により,タイやフィリピンなどでは大きな放射能汚染食品騒ぎがあったが,少なくとも関西地方ではほとんど伝えられなかった。それらのニュースの内容をタイなどの地元紙の記事などから確認し,それらが実際にあまり報道されるべき価値のないものであったのかどうか検討した。また,それらのニュースが日本国内で実際にどの程度報道されたのかについて,国内の強力な新聞記事等のデータベースである「日経テレコン」により確認した。一方,福島第一原発事故から5年以上を経て,放射能汚染食品や放射線による健康被害など,また原発関連の報道が十分になされない部分が出てきている。その近年の状況についても,データベース利用などにより確認し考えてみた。メディアの編集者が放射能汚染食品や人々の健康被害に関する情報を制限する背景として,社会的不安などが生じることへの配慮もあると思われるが,正しい情報が伝えられないことにより,福島での原発事故の忘却が早められ,しっかりと原発について考えようとする流れが弱められている。