- 著者
-
市川 正巳
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 地理学評論 (ISSN:00167444)
- 巻号頁・発行日
- vol.33, no.3, pp.112-121, 1960-03-01 (Released:2008-12-24)
- 参考文献数
- 16
狩野川台風に伴う豪雨によつて,狩野川上流地域に多くの山地崩壊が発生した.その分布密度の高い地域は,総雨量550~700mmの地域,とくに9月26日20-23時の降雨量分布にきわめてよく一致し,同種の岩石で占められる地域においても,雨量の多い地域にとくに崩壊が密集している.このことから,今次の狩野川上流域の山地崩壊は全く雨量型崩壊といえる.従来の研究では,崩壊した物質が, 1度の出水では100mの短距離運搬されるに過ぎないことが知られている.しかし,大見川上流筏場の軽石質砂礫層の大崩壊では,崩壊物質の98%が1度の洪水で数10km下流に流出したことが,原土と下流の洪水堆積物との比較によつて知ることができた. 洪水によつてどこに河岸の侵蝕と河床の堆積が発生するかは,そこの地形的特徴によつて決定することができる.すなわち,侵蝕堆積の地点における川幅と谷幅との比と,河床勾配との関係は第6図のようで,川幅/谷幅の比が大であつても,河床勾配が小であれば,その地点の河床に堆積が生じ,両者の比が小であつても河床勾配が大きい地点には侵蝕が発生する.このことから,ある地点の河床勾配に対応した川幅/谷幅の比を求めることができるので,洪水対策に重要な示さを与えることができるであろう.