著者
黒田 篤史
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.202, pp.225-242, 2017-03

柳田國男の記念碑的著作『遠野物語』の一一二話に考古学的な記述があることは、これまであまり注目されてこなかった。本稿はこの『遠野物語』一一二話の成立過程とその背景を明らかにすることで、柳田國男の考古学的関心について考察するものである。『遠野物語』の成立に最も深く関与しているのは、話者である佐々木喜善の語りである。本稿では、一一二話に何が記されているのかを紐解いた後、佐々木の語りの原形を探るため、彼が少年時代に採集した考古遺物のリストである『古考古物號記』を読み解いた。そこには、佐々木が主に地元で採集した遺物の地点やその形状などが記されていて、一一二話の内容と大まかに一致する。また佐々木が後年著した「地震の揺らないと謂う所」にも考古学的記述があり、佐々木が柳田に一一二話の元になる話を語った意図を見出すことができた。このように佐々木の語りの原形を明らかにしていくことで、佐々木の語りの意図は必ずしも『遠野物語』一一二話に反映されていなかったことが見えて来た。このズレを生んだのは、柳田の意図が介在したためである。柳田の意図はどこにあるのか、佐々木に聞き書きを行っていた頃に柳田によって著された「天狗の話」や「山民の生活」に、その答えを見出すことができた。柳田は鎌倉時代頃まで少なくとも東北地方には先住民にあたる「蝦夷」と「日本人」は隣接する地域に併存していたという先住民観を持っていた。そうした考え方が『遠野物語』一一二話に色濃く顕れていることが、これらの文献を比較することで明らかとなった。本稿の検討から、柳田の考古学的関心は、日本人と先住民の関係を探るために寄せられていたことがより明白となった。
著者
寺下 隆夫 河野 又四
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学農学部紀要 (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.37-44, 1976-03-15

[Author abstract]A simple method for separation and determination of synthetic water-soluble colors was investigated by means of agar column chromatography. (1) Qualitative examination: An agar powder was swollen with a Mcllvaine's buffer solution (pH 5.0), and poured into a chromatographic glass tube (400×7mm.) up to a height of about 250mm.. After the column was thoroughly washed with the Mcllvaine's buffer solution, a solution of 0.2 mg. of a color in water was applied to the top of hte column bed. The color was then developed with a Mcllvaine's buffer solution (pH 5.0), and the R-value of the color was determined which was expressed as the ratio of two distances, namely, the traveled distance of the color band and that of eluant surface. It proved possible to qualitatively analyze synthetic water-soluble colors by means of determining their R-values only if their protein and sodium chloride contents were not more than 0.1%. (2) Quantitative examination: A mixture of 12 colors, containing 0.2 or 0.5mg. of each color, was applied to the top of the column bed, and the colors were developed with McIlvaine's buffer solutions (pH 4.4 and pH 5.0). The column was cut to fractions including each color, when the fastest one reached the bottom of the column,,and the recovery percentages were determined by measuring the absorbances of the extracted colors from each fraction. As the results, the recovery percentages of not less than 90% were obtained for all colors except for Blue No. 2 and Red No. 106. (3) Assay of officially permitted synthetic food colors in the presence or absence of sucrose, citric acid and sodium chloride was studied, and these substances proved inert on the assay results.[著者抄録]寒天カラムクロマトグラフィーにより、水溶性タール色素の分離分析を試みた。1.定性試験は0.7×40cmのガラス管カラムへ、マクイルパインクエン酸緩衝液に膨潤させた寒天を充塡し、同緩衝液で洗浄後、カラム頂部に色素を吸着させ、同緩衝液で各色素を展開する。展開液が約10cm移動したときのR値を測定して定性を行なった結果、色素液中、タンパク質、食塩濃度が0.1%以内であれば、本法での定性が可能であった。2.定量試験は、カラムベッド70cmのカラムに、タール色素1種を試料として吸着させた後、定性試験の場合と同様に操作し、色素を抽出後、吸光度測定より、回収率を求めた結果、青色2号、赤色106号を除いては、90%以上の回収率を示した。3.共存物質の影響を見るために、各色素液にショ糖とクエン酸の混合溶液および5%食塩水を添加したもののクロマトグラフィーを行ない、吸光度より回収率の検討を行なったが、なんらの影響も認められなかった。
著者
宮越 順二 塚田 俊彦
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究では、人体に曝される可能性の最も高い極低周波変動磁場(ELFMFと略す)の細胞に与える影響として、遺伝子発現の誘導に関して研究を発展させ、その作用機構を明らかにすることを目的とした。三相交流トランスを一部改造し、周波数50Hz、最大出力500mTの実験用ELFMF曝露装置を使用した。磁石の磁場空間には細胞培養可能なアクリル製CO_2培養器を内蔵した。培養器内環境は5%CO_2と95%空気で、さらに、温度を37±0.5℃に保つためサーモコントローラーからの温水を還流している。これらの条件で、最大400mTの磁場曝露が一定温度のもとで可能なことを確認した。遺伝子発現については、まず、ベータガラクトシダーゼ遺伝子の発現プラスミド(pVIPGAL1)をラット褐色細胞腫由来のPC12細胞に導入して、ネオマイシン(G418)で選択した後、ベータガラクトシダーゼの発現系を持つ形質転換細胞(PCVG細胞)を得た。PCVG細胞を非刺激またはforskolin(2μM)で刺激し、4時間磁場曝露またはインキュベータにて培養した。PCVG細胞は非刺激状態ではほとんどベータガラクトシダーゼの活性を示さない。forskolinで4時間刺激した場合、ベータカラクトシダーゼの活性は著しく上昇した。この刺激をELFMF(200mTおよび400mT)曝露下で行うとベータガラクトシダーゼ活性は磁場密度依存的にさらに上昇した。forskolinにTPA(25ng/ml)を加えて磁場曝露の影響を検討した。forskolinにTPAを加えた場合、ベータガラクトシダーゼ活性は非曝磁下でforskolin単独に比べ約2.5倍の上昇が見られた。この刺激を400mT ELFMF曝露下で行った場合、ベータガラクトシダーゼ活性はさらに上昇した。以上の結果、高磁場密度の極低周波変動磁場はサイクリックAMPやプロテインカイネースC(PKC)を介した細胞のシグナル伝達系に影響を及ぼし、ベータガラクトシダーゼの遺伝子発現を誘導している可能性が示唆された。
著者
黄 潔
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

本報告は「憑く」という民俗現象に関する文化人類学的研究である。これまで積蓄してきた、日本民俗学の憑物信仰論や、中国華南少数民族の「蠱毒」に関する文化人類学研究の論点を、西南中国トン族の事例から考察する。調査地の語り及び呪術の実践のなかに表出する、鬼をめぐるトン族のもつ民間宗教や結婚禁忌との関係から、西南中国トン族の憑きもの信仰を論ずる。
著者
藤堂祐範, 江藤澂英 編
出版者
中外出版
巻号頁・発行日
vol.第6輯, 1924