著者
白石 佳和 SHIRAISHI Yoshikazu
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:24360627)
巻号頁・発行日
no.42, pp.49-65, 2021-09-30

季語は日本の自然を詠むための詩語であり,和歌以来の伝統的な詩的感覚・文化的記憶の産物である。そのため,自然・言語・文化が異なる国際ハイク(注:国際化した俳句を「ハイク」とカタカナで表記)では季語があまり重視されてこなかった。しかし,季語がなければハイクはただの短詩になる可能性がある。本論文では,国際ハイクにおける季語の問題を検討する。その考察材料として,ブラジルハイカイ(ブラジルではポルトガル語の俳句を「ハイカイ」と呼ぶ)における増田恆河の活動を取り上げる。ブラジルハイカイで有季ハイカイを提唱した増田恆河の論考とポルトガル語歳時記を分析し,それを国際ハイクのオーセンティシティの一例として考察する。増田恆河は,季語を詠むハイカイこそが本格的ハイカイであると主張し,有季ハイカイを推奨した。日本と同じ季語もブラジル特有の季語も,ブラジルの自然を詠むならすべてブラジル季語である,という論を展開し,理論に沿って兼題の句会の開催や有季ハイカイ句集の刊行を行なった。また,『NATUREZA』というポルトガル語歳時記の作成では,理論通りブラジルの感覚の季語を選定し,「詩情」や「感覚」などのポイントに基づいて解説を行なっている。ただ,日本的な解説やブラジル的でない解説も交じることから,季語解説の苦労が読み取れる。このような彼の理論と実践がブラジルハイカイのオーセンティシティを形成している。ブラジルハイカイの例からもわかるように,北米・南米には日系俳句という日本語の国際ハイクの存在がある。国際ハイクをすべて一様に扱うのではなく,日本俳句,日本語ハイク,国際ハイクをスペクトラムとして捉える視点も必要である。また,季語のオーセンティシティを語る要素の一つとして,俳句の起源である連句が指摘できる。
著者
宮本 俊光
出版者
東北数学教育学会
雑誌
東北数学教育学会年報 = Journal of Tohoku Society of Mathematics Education (ISSN:0910268X)
巻号頁・発行日
no.42, pp.74-83, 2011-03-31

教科書を分析するには様々な問題が横たわっているため,客観的に分析する事は極めて困難である。そこで,我が国初の算数科国定教科書である第一期国定教科書について,その教材の内容を構成する原理について離散量に関わる全数に制限して議論を展開する。その際,数え主義として有名な藤原利喜太郎とタンクとクニルリングの数え主義について述べ,さらに第一期国定教科書の内容を構成する原理である数計算について整理する。そして,その批判形成について触れながら,現在の数教育の特徴を見る鏡として,数え主義に立ちかえり第一期国定教科書のそれについて整理する。
著者
魏 宇哲
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.133, pp.23-40, 2018-12-25

先行研究によれば,性的解放は歌垣に付随する現象であるとされている。しかし,歌垣 は日本でも中国でも「世俗の縁が切れる場」(網野善彦)であり,「解放」という拘束を前提と する表現が適切と言えるかは疑問である。本研究は,日本と中国の文献及び中国における現地 調査の資料に依拠しつつ,歌垣と祭祀行事の関係の多様性を明らかにし,歌垣は性的解放の場で あったという従来の通説的解釈を再検討する。
著者
岩田 みちる 草薙 静江 橋本 竜作 柳生 一自 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.49-55, 2015-03-25

読みにおける障害は2010年に診断基準が規定されたが、個別に適した教育的支援方法に関する情報は不足しているのが現状である。本稿では、児童の諸検査の結果や心理的な負荷に合わせて実施した読み書きに対する比較的包括的な支援方法を試みた。その際、学習の経過や、その際に現れた特徴、支援に対する反応を検討し、個人に合わせて支援を改良した経過を紹介する。
著者
岩田 みちる 下條 暁司 橋本 竜作 柳生 一自 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-4, 2015-03-25

Rey複雑図形検査は近年、学習障害の認知能力を評価する課題として注目されているが、実際の書字との関連性は検討が少ない。そこで本稿では文章の書き写し速度、Rey複雑図形の成績、読み時間との関連性を発達性ディスレクシア児と非ディスレクシア児の間で比較した。その結果、両群ともにRey複雑図形検査の直後再生課題と書き写し課題の文字数に相関の有意傾向が認められた。また、ディスレクシア群でのみ読み時間と書き写し課題に負の相関を認めた。最後に臨床的な示唆と本稿の限界について述べる。
著者
岩田 みちる 柳生 一自 横山 里美 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.57-62, 2015-03-25

発達障害や学習障害のある場合、不登校や対人関係・社会的行動面のトラブルなど二次障害を併発しやすいことが指摘されている。特に読み書きに困難がある場合は周囲から理解されづらく、学校だけでなく家庭でも怠惰やケアレスミスとして叱責の対象になりやすい。本稿では反抗挑戦性障害と注意欠陥・多動性障害を疑われて受診した読み困難児に対する家庭、学校、専門機関と医療の連携による包括的支援を行った事例を紹介する。また、学習障害の見つかりにくさについて医療の観点から記述する。
著者
Tezuka Kaoru Fitzhugh Ben
出版者
北海道大学総合博物館
雑誌
北海道大学総合博物館研究報告 (ISSN:1348169X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.85-95, 2004-03

This article presents the results of our 2000 IKIP fieldwork and focuses on applying Japanese archaeological knowledge to the consideration of Kuril prehistory. The characteristics of the distribution of both Epi-Jomon and Okhotsk cultures based on ceramics excavated on Matua Island, Kama River site on Urup Island, and the Peschanaya Bay Site on Chirpoi Island in terms of culture history are described (Table 1). It was noteworthy for us to find terminal Jomon and Epi-Jomon cord-marked ceramics in the stratigraphy that extend the geographic distribution of this culture farther northeast in the Kuril Islands than had previously been known. The expansion of Epi-Jomon pottery into the middle part of the Kuril islands can be linked archaeologically with the rapid spread of the expansion of contemporary human settlement northward into Sakhalin and eastward into the Kuril Islands. Specifically, this article discusses the significance of this expansion during the Epi-Jomon period. This article also deals with the Kuril Ainu's sea mammal ritual that has previously been little researched. New evidence of the intentional arrangement of fur seal skulls according to their creed system in the animal ritual of the Ainu is antithetical to currently and widely accepted models of "the Bear Festival Complex" which assume that the bear festival occupies the core of Ainu culture (Watanabe 1972).
著者
村上 光 長尾 耕治郎 梅田 眞郷
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.27-36, 2023-03-20

温度は,生物にとって最も身近な環境因子の一つであり,生命活動に強く影響する.そのため,動物は自らの体温を調節する様々な手段を獲得することにより,環境に適応してきた.しかしながら,生命の最小単位である個々の細胞における温度制御の実態は長らく不明であった.我々は近年開発された細胞内温度計測技術を駆使し,ショウジョウバエ培養細胞内の温度がミトコンドリア熱産生により維持されていること,この現象に生体膜の流動性の制御に必須であるdelta9脂肪酸不飽和化酵素DESAT1が寄与することを見出した.今回の発見から,我々は「生体膜を介する細胞自律的な細胞内温度制御」という生命における温度制御の新規メカニズムを提唱した.