著者
下郡 剛
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究
巻号頁・発行日
vol.46, pp.263-275, 2012-09-28

院=上皇・法王の意志を奉者一名が奉って作成される院宣について、古文書学は、現存文書を元に様式論を生み出し、院宣は院司が院の意向を奉じて発給する文書とされてきた。しかし、日記の中には、意志伝達が果たされた時点で、文書としての機能を喪失してしまう、一回性の高い連絡に使用された文書が多く記載されている。それでは、現存文書に基づき成立した院宣様式論は、本共同研究の対象たる日記からとらえなおすと、いかなる姿を見いだせるのか、を本稿で検討した。
著者
廣田 有里 清野 隆 大内 田鶴子
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
vol.30, 2020-03-15

地縁型コミュニティの重要性が高まっている現在,希薄になったつながりを取り戻す試みが注目されている。そこで本研究では近隣住民ネットワークを構築する方法に注目し,オレゴン州ポートランド市のシティリペアプロジェクトの取り組みについて報告する。シティリペアプロジェクトは,創造的活動を通して人々が集まる場所を作り,つながりを取り戻す活動を行っている。シティリペアプロジェクトは,デザインされた空間自体は簡易的なものであったが,その建設や作成過程にコミュニティが主体的に携わる点に特徴がある。さらに,建設と政策の過程自体が,コミュニティ形成を強く促す効果があることが明らかになった。
著者
池田 浩貴
出版者
成城大学
雑誌
常民文化 = Jomin bunka (ISSN:03888908)
巻号頁・発行日
no.38, pp.206-181, 2015-03

Now it is becoming the accepted view that the Kamakura shogunate has gradually introduced Onmyodo from Kyoto since Minamoto no Yoritomo ruled as the first shogun, and utilized its divination and ritual methods for the shogunate government based on conventional research. When unusual natural phenomena such as natural disasters, celestial motion, strange behavior of animals, appearances of strange lights or cryptid birds and so on occurred, the Kamakura shogunate followed established procedures to prevent further disasters by holding Onmyodo ceremonies or making offerings to Tsurugaoka Hachimangu depending on the results of divination by Onmyoji about the meaning of the phenomena. Most previous research in this field has focused on Onmyoji or measures taken by shogunate government. In this paper, however, I investigated the abnormal natural phenomena called "kwai-i (strangeness)", which lead the shogunate government to take political procedures, based on Azuma Kagami as a main text. Especially I focused on two strange behaviors of animals, "Kicho-gunhi" (flight of yellow butterflies in groups) and "Sagi-kwai" (specter of herons). Kicho-gunhi occurred mainly at Tsurugaoka Hachimangu and were recorded before or after three wars including the Battle of Oshu (between the Kamakura shogunate and Oshu Fujiwara), Battle of Wada (rebellion of Wada Yoshimori) and Battle of Hoji (rebellion of Miura Yasumura). The articles of Azuma Kagami about Kicho-gunhi seem to include some falsifications. It is doubtful whether all of the Kicho-gunhi cases actually occurred, but even so it is certain that the phenomenon reminded people of occurrence of battles and was regarded as foreboding of battles in the Kamakura period. Sagi-kwai occurred at Shogun Gosho (shogun palace). It was regarded as bad omen and foreboding of Battle of Wada and the famine in the Kanki era. Unlike other kinds of kwai-i, the shogunate government shot herons as a countermeasure against Sagi-kwai without depending on the divination by a Onmyoji.
著者
原田 信男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.41-54, 1995-01-20

律令国家体制の下で出された肉食禁断令は平安時代まで繰り返し発令され,狩猟・漁撈にマイナスのイメージを与える「殺生観」が形成されるようになる。鎌倉時代に入ると,肉食に対する禁忌も定着してくる。しかし,現実には狩猟・漁撈は広範囲に行われており,肉食も一般的に行われていた。そこで,狩猟・漁撈者や肉食に対する精神的な救済が問題となってくる。仏教や神道の世界でも,民衆に基盤を求めようとすれば,殺生や肉食を許容しなければならなくなった。ところが,室町時代になると,狩猟・漁撈活動が衰退し肉食が衰退していくという現象が見られる。室町時代には,殺生や肉食に対する禁忌意識が,次第に社会に浸透していったように思われる。一方,農耕のための動物供犠は中世・近世・近代まで続けられていた。肉食のための殺生は禁じられるが,農耕のための殺生は大義名分があるということになる。日本の社会には,狩猟・漁撈には厳しく,農耕には寛容な殺生観が無意識のうちに根付いていたのである。
著者
岸本 千佳司 Chikashi Kishimoto
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2015-13, pp.1-65, 2015-07

本研究の課題は、台湾ファウンドリ企業(主に TSMC、一部 UMC を念頭に置く) の技術能力、具体的には、1柔軟・高効率の生産システムの構築、および2プロセス(関 連)技術の開発について、筆者自身の面談記録や『公司年報』のような原資料を活用し、 その詳細に踏み込むことである。既存研究では、1990 年代以降、台湾ファウンドリ(特に TSMC)が先発企業との技術 ギャップを急速に埋めていったのは、半導体製造装置の大モジュール化・標準化が進ん だことを背景に、こうした歩留まりが高く加工時間が短い最先端装置を積極的に導入し たことによるところが多く、しかも、その資金的負担は台湾の投資優遇制度によりかな りの程度軽減されたということが指摘されている。本研究は、それを重要な要因と認めつつも、その後の台湾ファウンドリ(特に TSMC) の持続的発展については、技術能力構築の独自の取組みがあったことを明らかにする。 即ち、プラットフォーム戦略による多品種少量生産への対応、工場の自動化・ICT 管理 の活用、その前提の装置・ツール等の標準化推進、日常的な改善、経験・ノウハウの全 社的共有の仕組み、研究開発と量産部門の連携による迅速なプロセス量産立ち上げなど である。また、プロセス関連技術でも、先端ロジックの 1~3 年ごとの世代交代実現、 システム LSI 向けのロジック以外の特殊プロセス拡充、近年の後工程・実装分野への進 出と先端トランジスタ研究の実施などがある。しかもこれらの取組みが、専業ファウン ドリというビジネスモデルの要請に沿って、技術的潮流の変化を踏まえつつ高度化する 顧客ニーズを満たすために、全体最適化を考慮して進められてきたことを明らかにする。なお、技術能力の分析に際しては、藤本隆宏教授の「能力構築競争」の枠組みを参考 にしそれを簡略化した形で、「表層の優位性」(生産性・品質・コスト管理や技術開発力、 オペレーション能力のレベルの高さを反映すると思われる表面に表れた事象)と「優位 性の土台」(表層の優位性の背後でそれを支える活動や仕組み、それに影響する事業戦 略やビジネスモデル)の 2 層から整理した。
著者
山之内 浩司
出版者
徳島赤十字病院
雑誌
徳島赤十字病院医学雑誌 = Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal (ISSN:13469878)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.118-123, 2004-03-01

近年,若年者の間でボディーピアスが流行しており,口腔内においても舌ピアスの装着者が増加しつつある.これに伴い,舌ピアス装着に続発した重症感染症や金属アレルギーなど種々のトラブルが報告されており,今後,このようなケースに遭遇する機会が増加することが予想される.今回われわれは舌体深部にピアスが迷入したまれな1例を経験したのでその概要を報告する.患者は19歳男性で,舌の違和感と摂食障害を主訴に,近医からの紹介により当科を受診した.初診時,舌背正中部にわずかな腫脹を認め,触診で球状の硬固物を触知した.下顎咬合法X 線写真にて舌正中部に直径約3㎜,円形のX線不透過像を認めた.臨床診断は舌内異物で,局所麻酔下に異物の摘出術を行い,摘出物については元素分析を行った.術後2年11ヶ月経過した現在,舌の運動障害,味覚障害もなく経過良好である.
著者
木谷 裕紀 小野 廣隆
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2018論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, pp.199-203, 2018-11-09

全国的に認知度, 人気が高いトランプカードゲームの一つであるババ抜きは不完全情報ゲームであり, 心理的な駆け引きを除けば戦略性よりも偶然性が支配するゲームである. 本研究では手札公開で行う完全情報の「ババ抜き」ゲームを定義し, その最適戦略について考察する. プレイヤーが3 人の場合における必勝戦略の有無に関する必要十分条件を与える. さらに, プレイヤー4 人以上のときすべてのプレイヤーが最善をつくすと「千日手」が発生して引き分けとなる局面が存在することを示す.