- 著者
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西村 陽子
北本 朝展
- 雑誌
- じんもんこん2014論文集
- 巻号頁・発行日
- vol.2014, no.3, pp.43-50, 2014-12-06
本論文はシルクロード東部地域を代表する都市遺跡・高昌故城を取り上げ,従来は不正確とみなされていた地図を位相的な特徴に基づき解釈する方法を提案し,現在では所在が不明となっている探険隊調査遺構を同定できることを示す.約100 年前,日欧のシルクロード探検はこの遺跡を発掘調査し,仏教・マニ教キリスト教の遺物など多彩な出土物を獲得した.中でも特にドイツのグリュンウェーデルの調査報告は,時期の早さと細かな平面図を残していることから最も重要な報告とされている.しかしこの地図は歪みが大きく,我々は報告書と現地の遺構と照らし合わせてもどの遺構を記録したのかほとんど把握することができないという問題に遭遇してきた.本論文ではこの問題を解決するために,地図の性質に着目し地図の持つ位相的な特徴に基づいて読み解く方法を提案し,これを「地図史料批判」と呼ぶ.まず我々はグリュンウェーデルとスタインの地図を現況と比較するためにKMLファイルを作成した.さらに歪みの大きい地図の詳細な比較を支援するツールとして古地図と現代地図をピン刺し(pinning)した地点を基準に重ね合わせることができる「マッピニング(Mappinning)」を開発した.次に,地図の位相的な解釈を行う方法を提案し,平面図や古写真と現代写真,地図を使うことで古代都市遺跡の遺構同定が進むことを示す.そして最後にこれらのデータを遺跡データベースとして蓄積する構想を述べ,こうしたデータベースが歴史学・考古学に持つ意義を述べる.