著者
小山石 隼 森 礼佳 山本 洋平 三浦 文武 嶋田 淳 北川 陽介 大谷 勝記 伊藤 悦朗 高橋 徹
雑誌
第55回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2019-04-26

【はじめに】褐色細胞腫(pheochromocytoma:PCC)はカテコールアミン産生能を有する腫瘍で,主な症状の高血圧や頻脈は心疾患の症状と類似している.PCCを合併した成人先天性心疾患患者の2例を経験したので報告する.【背景】近年,チアノーゼ性先天性心疾患とPCCの合併の報告が散見され,慢性的な低酸素とPCCの関連が示唆されている.【症例】症例1は両大血管右室起始の女性,乳児期よりEisenmenger症候群の病態を呈し酸素飽和度70%台で推移していた.20歳台に糖尿病と診断され,高血圧,発作性の頻脈を呈するようになっていた。30歳時に腹痛の精査で左副腎腫瘍を認められ,左副腎のPCCと診断した.腫瘍摘出術は周術期のリスクから適応外とされ内科的治療を継続した.32歳時に心不全進行し死亡した.症例2は両大血管右室起始,肺動脈閉鎖の男性で,4歳時にleft original BT shunt(BTS),15歳時にright modified BTS(35歳時に閉塞確認)が行われた.36歳時に左肺梗塞発症し再度のright modified BTSが行われ,酸素飽和度80%台で推移していた.46歳時に喀血の精査で偶然に左副腎腫瘍が認められ,左副腎のPCCと診断した.【考察】慢性的な低酸素や先天性心疾患とPCCの発症には低酸素誘導因子の活性化の関与等が推測されている.症例1,2とも乳児期からチアノーゼが持続しており,長期の低酸素がPCC発症の誘因になった可能性がある.【結語】PCCはチアノーゼを呈する成人先天性心疾患患者における全身合併症の一つとして認識することが重要である.
著者
高橋 一浩
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
第53回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2017-04-28

背景:不全型川崎病は、川崎病の過剰診断や川崎病と同等の治療をされることが多い。不全型川崎病早期に、アスピリンと漢方である越婢加朮湯の併用療法を行うことにより、免疫グロブリン大量療法を施行せずに、川崎病の進展が予防でき、冠動脈病変を認めなかった乳児症例を経験した。症例1:10ケ月男児。発熱37.7℃、機嫌不良で発症、1両側球結膜充血、2口唇発赤を認め、翌日、3手足の硬性浮腫、指趾先端の紅斑4体幹の不定形発疹を認めた。BCG接種部位の限局性発赤を認め、CRP 0.7、D-dimer(DD)の軽度上昇を認めた。不全型川崎病の疑いで入院。冠動脈異常はなく。アスピリンと越婢加朮湯を開始。第3病日に解熱、下肢末端の発赤は軽減。CRP,DDも正常化した。好酸球は増加。症例2:1歳女児。38.5度の発熱、BCG接種部位の限局性発赤を認め2日目に紹介、1手足の硬性浮腫、指趾先端の紅斑を認めた。3日目CRP2.75、DD上昇を認めた。気道症状は認めなかったが、胸部写真上、軽度浸潤陰影を認めた。全身状態は比較的良好であったが不全型川崎病の疑いがあり入院。心エコーでは冠動脈拡大はなく。アスピリンと越婢加朮湯を開始した。翌日(第4病日)には解熱し、四肢末端の発赤は軽減。CRP,DDも正常化した。好酸球は増加していた。考察:越婢加朮湯の漢方的適応病態は、急激に発症する全身性浮腫、尿量低下で、浮腫は皮膚に光沢がある。発熱などの表証を伴うことが多い。保険適応病名としては、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎などとされ、抗炎症作用、浮腫軽減作用を持つ。結語:不全型川崎病に対する早期の越婢加朮湯療法は、病勢を早期に抑える可能性があるかもしれない。
著者
加藤 大輔 上南 静佳 大槻 輝 天ヶ瀬 紀久子
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【背景・目的】5-フルオロウラシル (5-FU) は小腸絨毛の短縮や腺窩の破壊による腸炎を発生させ下痢や体重減少を引き起こすという報告があり、がん化学療法における問題となっている。ジンセノシドRd (GRd)はニンジンに含まれるサポニンであり、大腸炎に対して抗炎症作用が報告されているが、5-FU誘起性小腸炎に対する作用は明らかではない。そこで本研究では、5-FU誘起性腸炎に対するGRdの有用性について検討した。【方法】雄性C57BL/6Nマウスに5-FU (50 mg/kg)およびGRd (60 or 100 mg/kg)を7日間投与した。投与期間中は体重および下痢の程度を経日的に測定した。腸炎の程度は、薬物投与終了後、病理組織学的検討、ミエロペルオキシダーゼ (MPO)活性の測定および炎症関連分子の発現量の測定により評価した。【結果・考察】5-FUの7日間連続投与により、経日的な体重減少および下痢の増悪が認められ、小腸絨毛の短縮、腺窩数および腺窩中の細胞数の減少が観察された。小腸粘膜のMPO活性は5-FU投与群において増大し、TNF-αのmRNA発現量は増加した。GRd併用投与群では、5-FU投与群と同様に体重減少および下痢の増悪、小腸絨毛の短縮が認められたが、腺窩数および腺窩中の細胞数の減少が有意に改善された。またMPO活性の増大を有意に抑制し、TNF-αのmRNA発現量の増加を抑制する傾向が見られた。これらの結果から、5-FU誘起性腸炎はGRdの併用投与により抑制されることが示された。GRdによる抗炎症作用はNF-κBの発現抑制に起因するという報告があることから、今回認められた腸炎の抑制はNF-κBの関与が考えられる。
著者
池田 伸
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

本発表の目的は,精神医学におけるAI活用の現状を俯瞰することである。医学論文サイトであるPubMedでの検索によれば,精神科領域におけるAI関連の論文数は年々大きく増加しており,この分野でもAIの活用が徐々に浸透しつつあることが窺われる。研究対象は多彩であるが,「抑うつ」「統合失調症」「アルツハイマー病」など,精神科の主要な障害が順当に多数を占めている。一方,用いられているAI技術はほとんどが機械学習で,サポートベクターマシン,ランダムフォレスト,ロジスティック回帰などが頻用されており,ディープラーニングを活用した研究はいまだ少数にとどまっている。AI技術は,精神科の診療の質を向上させるだけでなく,これまで客観性の面で不十分であるとの批判を免れなかった精神医学の理論的基盤そのものを新たなパラダイムへと導く可能性を有している。精神科におけるAI活用を推進するためには,臨床医とエンジニアとの協働,および個人情報保護にも配慮した社会環境の整備が必須である。
著者
佐藤 俊一
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1. 背景と目的 伊豆諸島は、海洋性火山島であることから、本来、すべて玄武岩質火山島列となるはずと思われがちであるが、意外にも、新島、式根島、神津島は流紋岩質火山島列を成している。そして、その東側に、大島、利島、三宅島、御蔵島、八丈島などの玄武岩質火山島列が横たわるという一見奇妙な2列の配列構成になっている。何故、結晶分化作用の最終段階に出来る流紋岩岩質マグマから形成された火山島列が玄武岩質火山島と洋上に並行して存在するのか、その起源や典型的な玄武岩質火山島である西ノ島新島の誕生・成長・拡大など、身近な東京都の地域に属する伊豆諸島を題材に、マグマの「結晶分化作用」や島弧形成について理解を深め考察できる好材料と考え、自身の地学の授業で取り上げ話題にしてきた実践事例を紹介する。その一端を報告する。2. 方法・内容 流紋岩質マグマの発生メカニズムについては、教科書には、モデルとして①本州への太平洋プレートの沈み込みに伴う成因解説図と②大陸地殻内(本州)の伸張場(亀裂など)に伴うマグマ貫入や部分的溶融による成因解説図の2通りの考えを併記した模式図がよく掲載されている。伊豆諸島の岩質の違いの成因についても、同様の考えを適用すれば、フィリピン海プレート下への太平洋プレートの沈み込みが明らかにされていることを踏まえ、<案1>フィリピン海プレート下へ太平洋プレートが潜り込み沈降することにより発生するとするとする考え。あるいは、<案2>伊豆半島や伊豆諸島を載せるフィリピン海プレートの本州側プレート下への衝突・潜り込み沈降に伴い発生する伸張力場(亀裂など)による“部分溶融”により生じたとする考え、の主に2通りの考えが想起されそうである。<案1>は、上昇経路が長くなるにつれマグマが発生してからの経過時間が長くなるなどして、それだけ結晶分化作用が先へ進行する結果、マグマだまりのマグマの性質が玄武岩質→安山岩質→デイサイト・流紋岩質に変化していくというもの。<案2>は、大陸地殻の内部(深部)で何らかの原因(圧力現象または温度上昇)により、部分溶融が起こり、その位置に留まりつつも時間の経過とともにSiO2 %に富む花崗岩質(流紋岩質)マグマが形成されやがて地表(海面上)に現れるというもの。以上2つの説のいずれかの立場にせよ、現在も学術的に完全に解明はされていないようである。しかし、いずれの立場でも、プレートや地殻の部分的溶融により生じたマグマが結晶分化作用により最終的に流紋岩質マグマに辿り着くというシナリオの大筋の根幹部分はほぼ同じであると言えるのではないだろうか。そこで、授業で話題にし、教科書的な記述事項をより身近に感じられるようにと教材化して活用を図ってきた次第である。現地への地学巡検を行う場合にも、東京港(竹芝桟橋)から大島・利島(玄武岩質)、新島・式根島・神津島(流紋岩質)の双方へは、東海汽船で往路・復路とも同じ航路で結ばれているため一度に容易に溶岩性質と火山島形の関係などを比較しながら見て廻れ学習に大変便利で好都合であり、私自身、希望生徒を募り夏季になるとしばしば実施してきた経験を有する。3.結果・考察 資料を基にした授業の中で、生徒たちから出される主な疑問や論点を紹介しておく。<案1>に対するものは、「なぜ、安山岩質マグマの生成が見られないのか?」、<案2>に対するものは、「新島・式根島・神津島は海洋上にあり、果たして大陸性地殻と言えるのか?」といった類のものである。一連の学習過程に要する総時間はグループ検討、発表活動を含め、30分程度を予定している。繰り返しになるが、正解は用意されていない。しかし、「結晶分化作用」という学習事項について、地域に関する素材・教材を用いて教科書的な記述事項と関連付け、身近なものとして感じ捉え考究するメリットは大きいと感じて行ってきた。現在、教育界で関心事の“Active Learning ”で大事なことの一つに、知識を既成のものとして受け身で単に覚えるために学ぶのではなく、答えが見当たらないあるいは未解明の問題・課題に既知の知識を駆使し、「科学の方法」(仮説、推論、検証)を用いながら如何に能動的にアプローチしていくかという点にあるとすれば、本発表で紹介したような試行も一つの参考事例になるのではないかと考えている。
著者
松江 清高 野田 英樹 近藤 浩一
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

個人行動データを用いて各個人がビル内の食堂を利用するかどうかを推定するモデルを作成し、それを食堂食事数予測問題へ適用したときの効果を分析した。従来は、個人行動データを用いず、機械学習の一つであるランダムフォレストにより食堂利用率を推定するモデルを作成し、その結果とビル在館者数から食堂食事数を予測していた。従来手法で食堂食事数を予測した場合の予測誤差は約47食であるのに対し、個人行動モデルを適用した場合は約44食となり、従来手法を若干上回る結果が得られた。
著者
永田 鴻流 黒木 康能 岡田 昌也
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

取り得る行動の選択肢が膨大に存在する実世界において,人は取得した状況情報から行動生成に関する制約条件を見出し,適切な行動を決定できる.本研究では,人が多様な状況のそれぞれに適応した行動を生成することを「状況論的知能の発現」と考える.本稿では,人が状況論的知能を発現させる際の計算構造を理解するために,人をある種のロボティクスシステムとして見なした研究手法を提案する.具体的には,人の知能発現状況に関して生態学的妥当性を有する実験環境において,(1)実世界における人の知能についてその仮説をもとに行動と状況の視点で確率・数理モデルを構成すること,(2)そのモデルを実践的に検証して得られた知見から新たな仮説(モデル)を生成すること,の二点を繰り返すものである.
著者
石田万里 石田隆史 坂井千恵美 アンディ アリヤンディ 木原康樹 吉栖正生
雑誌
第55回日本脈管学会総会
巻号頁・発行日
2014-10-17

【目的】オメガ‐3系脂肪酸は,全死因死亡と各種心血管疾患のアウトカム(突然死,心臓死,心筋梗塞など)を低減させると報告されている。私たちはこれまで動脈硬化発症のメカニズムにDNA損傷によるゲノムの不安定性が関与していることを報告してきた。そこで本研究では,オメガ‐3系脂肪酸が動脈硬化進展を抑制するメカニズムのひとつとして,ヒト血管内皮細胞のDNA損傷をオメガ‐3系脂肪酸が軽減するか否かを検討した。【方法と結果】酸化ストレス(H2O2)によるヒト大動脈内皮細胞のDNA損傷,特に二本鎖切断を,リン酸化ヒストンH2AX抗体を用いた蛍光免疫染色により定量的に評価した。エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)はH2O2による二本鎖切断を有意に減少させた(p<0.05)。DNA損傷応答の主要タンパクであるATMの活性化はEPAおよびDHAによって増強せず,二本鎖切断の減少はDNA修復の増強によるものではないと考えられた。ウェスタンブロットを用いた検討から,EPAおよびDHAは細胞内のカタラーゼの発現を増強することが明らかとなった。そこでCM-H2DCFDAを用いて細胞内活性酸素種(ROS)量を定量したところ,EPAおよびDHAは内因性およびH2O2投与後の細胞内ROS量を有意に抑制した(p<0.05)。【結論】オメガ‐3脂肪酸であるEPAおよびDHAは血管内皮細胞においてH2O2によるDNA損傷を軽減する。この作用はカタラーゼの発現増強およびそれによる細胞内酸化ストレスの減弱によることが示唆された。