著者
田村 謙太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.122-125, 2017-01-15

筆者は現在、都内の「外国人向け診療所」という変わった職場に勤務しています。 信州大学医学部を卒業後、横須賀米海軍基地でインターン研修を1年、その後、横須賀共済病院で初期研修を2年やりました。米国での臨床研修に興味があったので、その準備期間として外国人診療を続けられるという意味で、今の診療所に勤め始めました。腰かけのつもりが結局そのまま居続けてしまった、というのが正直なところです。 これから、「東京オリンピック」の開催などで、ますます外国人の患者さんを診察する機会も増えてくると思います。そこで今回は、英語が苦手な先生方に、外国人診療のコツをお伝えしたいと思います。
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1200, 2006-12-10

1921年(大正10年),島崎藤村が49歳の時に発表した『ある女の生涯』は,その前年に東京の精神病院で死亡した長姉そのをモデルにした小説である.藤村の長姉は,統合失調症を思わせる病のために根岸病院に入院し,65歳で亡くなるのだが,『ある女の生涯』にはこの長姉が示したであろうさまざまな精神症状が描かれている.なかでも印象的なのは対話性幻聴を思わせる表現で,この作品には,主人公おげんの内面に関する次のような描写がみられる.「おげんの内部にいる二人の人がいつの間にか頭を持ち上げた.その二人の人が問答を始めた.一人が何か独語を言えば,今一人がそれに相槌を打った」. 藤村は対話性幻聴を思わせる会話を,おげんの内面に定位させる形で描いているのである.しかも,おげんの内部にいるという二人の間では,「熊吉はどうした.熊吉はいないか」「いる」「いや,いない」「いや,いる」とか,「しッー黙れ」「黙らん」「なぜ,黙らんか」「なぜでも,黙らん」といった,対立的・論争的な会話が交わされている.こうした対立性・論争性は対話性幻聴の特徴であって,そうした特徴を藤村は「同じ人が裂けて,闘おうとした」と表現しているが,『ある女の生涯』には,このほかにも対話性幻聴を思わせる次のような会話が描かれている.「俺はこんなところへ来るような病人とは違うぞい.どうして俺をこんなところへ入れたか」「さあ,俺にも分からん」(中略)「お玉はどうした」「あれは俺を欺して連れて来ておいて」「みんなで寄ってたかって俺を狂人にして,こんなところへ入れてしまった」.
著者
長谷川 泉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.30-31, 1957-12-01

昔は医師が特権階級であつた.社会的名声においても,また経済的な点からいつてもそうであつた.その頃は,医は仁術ですらあつた.だが,現在では医は算術といわれるくらい,せちがらい世の中に生きることを医師も余儀なくされている.目下保険診療の単価の値上,点数の改正をめぐつて,厚生省,日本医師会,被保険者の三つ巴の論議がかわされている.厚生省案と医師会案とが真向から対立して,その帰趨は軽々に結論を下せない実情にある.かつて自由診療であつた頃の医師はまさしく特権階級であつた.だが,保険診療になつて医師の特権的な位置はゆらいでいる. 現在の医業の実情はどうなつているのであろうか.そして医師の考えていることはどのような方向であるのか?——保険問題がやかましい折からそのような基本的な課題に答える便利な調査がある.それは東大社会学尾高邦雄教授と,統計数理研究所鈴木達三博士によつてまとめられた「医師 意見 調査 報告」である.以下このデータによつて注目すべき諸点を見てゆくことにしよう.(この調査の対象となつたのは昭和30年12月31日現在の東京都内在住の男子医師で,ランダム・サンプリングの方法によつて抽出された600名である.)
著者
山村 幸江
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.245-249, 2017-04-30

●目的 ・シェーグレン症候群の診断 ・耳下腺・顎下腺における導管系の形態評価 ●対象 唾液腺造影検査は耳下腺と顎下腺における導管系の形態評価が必要な病態,すなわち慢性炎症や唾石,シェーグレン症候群などが対象となる。唾液管開口部から逆行性に造影剤を注入するという侵襲的な検査でもあるため,CTやMR,超音波検査の普及につれて施行頻度は減少し,近年では主にシェーグレン症候群の診断目的に,手技の容易な耳下腺に対して行われる。急性炎症およびヨード過敏症では禁忌である。
著者
玉岡 晃
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.329, 2016-04-10

●神経内科の臨床に携わるすべての医師必読の書 2015年11月末に開催された第33回日本神経治療学会総会(会長:祖父江元・名古屋大学教授)において,「症例から学ぶ」というユニークなセッション(座長:鈴木正彦・東京慈恵会医科大学准教授)に参加した.「神経内科診療のピットフォール:誤診症例から学ぶ」という副題がついており,春日井市総合保健医療センターの平山幹生先生(以下,著者)が演者であった. 臨床医学のみならず基礎医学にも通じた該博な知識の持ち主でいらっしゃる著者が,どのような症例提示をされるか,興味津々であったが,予想に違わず,その内容は大変示唆に富む教育的なものであった.自ら経験された診断エラーや診断遅延の症例を紹介し,その要因を分析し,対策についても述べられた.講演の最後に紹介されたのが,この『見逃し症例から学ぶ神経症状の“診”極めかた』であり,講演で提示された症例も含めた,教訓に富む症例の集大成らしい,ということで,早速入手し,じっくりと味わうように通読した.
著者
小柴 健
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1400-1401, 1978-10-10

曙光から現在まで 人間に対する腎移植の歴史は古く,当初は異種動物の腎を使用して行われた.1906年Jaboulayがブタとヤギの腎を尿毒症婦人の両腕に移植したのが最初であるが,これは失敗に終わっている.ついでUnger(1906),Schonstadt(1913)およびNeuhof(1923)がそれぞれサル,類人猿,ヒツジの腎を用いて尿毒症患者に異種移植を行っているが,いずれも効果的な移植腎機能を見ずに終わっている.こうした異種動物の腎を用いての移植はその後40年間記録されていないが,1963年になってから,Hitchcock,Reemtsma,Starzlらによって,ヒヒまたはチンパンジーの腎を用いて相ついで再開された,このときにはイムランやプレドニソロンを用いての免疫抑制療法がすでに開発されており,これら症例の多くに一時的にせよ良好な腎機能を認めたが,長期生着をみるには至らなかった.現在では,異種移植は腎移植の臨床の分野から姿を消したままになっている. ヒトの腎を用いての同種移植は,1936年にソ連のVoronoyによって初めて行われた.水銀中毒の26歳の婦人の大腿部に脳炎で死亡した患者からとった腎を移植し,尿分泌が得られたが,異型輸血のため48時間後に死亡したと報告されている.これは急性腎不全に対する同種腎移植の初例であるとともに死体腎移植の初例でもあった.
著者
山口 洋一朗 帖佐 悦男
出版者
メジカルビュー社
巻号頁・発行日
pp.432-433, 2019-04-19

主に手や指の刺傷などから発生する化膿性屈筋腱腱鞘炎でみられる診察所見であり、処置が遅れると屈筋腱壊死をきたすため、身体所見を知っておくことが重要である。なお、筆者らが渉猟しえた範囲ではKanavel四徴に該当する表現で記載してある英語文献は認められず、Kanavel signやKanavel'ssignsといった表現のみであったため、Kanavel四徴はわが国独自の表現である可能性が高いと思われた。なお、『整形外科学用語集第8版』では「Kanavel徴候(Kanavel sign)」と記載されている。
著者
中井 義勝 濱垣 誠司 高木 隆郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1297-1299, 1998-12-15

摂食障害は心身症の代表的疾患で種々の内分泌・代謝異常を来す。神経性無食欲症の血清総コレステロール値は幅広く分布し,高コレステロール血症は神経性無食欲症の33〜61.1%にみられる6〜9,12)。 神経性無食欲症は制限型とむちゃ食い/排出型に下位分類されるが,最近では神経性無食欲症の既往のない神経性大食症(以下BN)が増加している2)。BNの血清総コレステロール値についての報告は少ない9,13)。今回216名という多数のBN患者を対象に血清総コレステロール値を測定し,その結果を神経性無食欲症と比較したので報告する。
著者
森島 久代
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.396-403, 2013-04-01

皆様,こんにちは。この度,第116回日本産科麻酔学会 学会長の照井 克生 先生から,「産科麻酔の新たな一歩」という学会のテーマの一環として,私のこれまでの研究歴を振り返り,日本の(産科)麻酔科医が,もっと積極的に研究に向かえるような助言を,ということでご指名いただきました。
著者
立石 貴之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.659-665, 2021-06-15

Point ●横隔膜の機能は構造上,胸郭の形状と脊柱アライメントに依存する ●脊柱のコントロールにおいて,横隔膜の最大の関与は腹腔内圧の発生である ●課題遂行時には呼吸を止めないように注意を払う
著者
平賀 勇貴 久野 真矢 平川 善之 許山 勝弘
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.327-333, 2017-06-15

要旨:人工膝関節置換術(以下,TKA)後の痛みにより破局的思考や不安,抑うつ傾向を認め,自己効力感が低下した事例に対する作業療法を経験した.カナダ作業遂行測定(以下,COPM)によって挙がった散歩に焦点をあて,活動の自己管理能力を促すために「疼痛をコントロールして散歩ができるようになる」ことを目的として,活動日記を実施した.事例は,活動日記を通して散歩に対する達成感から,自己効力感が向上し,活動量に対する自己管理能力を獲得した.また,COPMにおいて散歩は遂行度2から8,満足度2から8へと向上した.本事例を通して,TKA後患者に対する活動日記を取り入れた作業療法実践の有用性が示された
著者
南 由起子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.874-877, 1998-09-01

今回は聖路加国際病院の医療倫理委員会で取り上げられた検討事項について紹介し,臨床倫理について考えてみたいと思う.
著者
玉 珍 及川 直樹 千見寺 貴子 青木 光広 坪田 貞子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.353-358, 2016-04-25

背景:ピアノ演奏家の手内筋筋力は知られていない.本研究では女性のピアノ専攻学生とピアノ非経験者の手内筋筋力を比較し,ピアノ専攻者の手内筋の特徴を調べた. 対象と方法:ピアノ専攻者16名(19.8歳)とピアノ非経験者17名(対照:21.5歳)の握力とピンチ力,手内筋筋力をJAMAR Hand DynamometerとRotterdam筋力計で測定した. 結果:握力はピアノ専攻群と対照群間に差がなく,両群内の利き手非利き手の差もなかった.ピンチ力と手内筋力はピアノ専攻群が対照群より大きかった(P<0.01). まとめ:ピアノ専攻群の左右の手内筋は発達しており演奏に適していた.
著者
吉永 清宏 杉本 篤言 江川 純 染矢 俊幸
出版者
三輪書店
巻号頁・発行日
pp.756-762, 2020-07-20

はじめに 米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)は,2013年5月に精神疾患の診断分類体系であるDiagnostic and Statistical of Mental Disorders(DSM)の第5版1)(DSM-5)を発表した.前回の改訂版(DSM-Ⅳ,1994年)以来,19年ぶりの改定となり,数多くの改訂がみられた.ここでは自閉スペクトラム症の新設,双極性障害の独立や物質使用障害の再編等,従来の診断カテゴリーから大幅な変更が施された部分を中心に概説する.
著者
渋谷 達明
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.250-257, 1968-12-15

トリの匂いに対する感覚については,一世紀以前,すなわち1800年代から注目されていた。そのごく初期には,ハゲタカなどが特に腐つた肉や動物の死屍を好むことから,遠くからその匂いをかぎつけて集まつてくるのだろうということが素朴に信じられ,したがつてトリの嗅覚の鋭敏さについては疑いが持たれていなかつたのである。 しかしAudubon(1834)はあらためてこれに疑問を持ち,自分で二種類のハゲタカ(Black vulture,Turkey vulture)を使い野外観察を試みた。まず充分に乾ききつた1枚のシカの皮を野外に置いた。これにはほとんど匂いがなかつたが,やがてハゲタカはそれを見つけて舞いおり,その皮を引裂いたのである。一方,悪臭のたちはじめたブタの死体を運び,上空から見えないような所に置いたが,沢山飛んでいたハゲタカはそれに気付かなかつた。このような結果から彼はハゲタカは嗅覚を持つていないだろうと結論したのである。
著者
滝野澤 直子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.760-763, 1993-08-01

おしっこの湯気 「おしっこ」という言葉が好きだ.あっ,いや,その,「尿」という言葉に比べればという意味ですよ.尿というのは,白い紙コップに入ったアレであり,私のおしっこは,尿じゃない.尿は冷たい.おしっこは温かいものだ,と思う. 青森で生まれ育った私は,おしっこというと,白い湯気つきで思い浮かぶ.冬の朝などにトイレにしゃがむと,おしっこからモクモクと湯気が立ちのぼる.元来がロマンチックな質なので,結婚披露宴のドライアイスみたいだぁ,と湯気が消えるまでまじまじと見入ったものだった.