著者
亀山 正邦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.968-978, 1975-10-10

はじめに 共同偏視は脳血管発作の重要な徴候の一つである。大脳半球の障害においては,病巣側へ向く共同偏視が,脳幹(橋)障害においては,病巣の反対側へ向かう共同偏視が出現することは,よく知られている。また,大脳半球障害においても,それが刺激的にはたらくときには,共同偏視が病巣と反対側に向くことも,Grassert-Landouzyの法則として古くから知られている。 しかし,これらの所見については,例外がないわけではない。脳血管病巣と共同偏視との関係については,沖中・豊倉らの報告1),Fisher2)の報告などがある。多数例について,脳病変の局在と共同偏視の型およびその出現頻度,特徴などをしらべた研究は,ほとんど報告されていない。
著者
牛場 潤一
出版者
日本リハビリテーション医学会
巻号頁・発行日
pp.79-83, 2010-02-18

はじめに Brain Machine Interface(BMI)は,脳と機械を直接相互作用させる技術の総称である.脳は通常,身体を介して外部環境と関わりを持つが,その仲介となる身体を省き,脳と外部環境を直接作用させよう,という発想がBMIである.こういった考え方によって,完治が困難な身体障害を工学的に克服することがBMIの目標の1つになっている. 運動障害に対するBMIの応用事例は主に,電動義手や電動装具の制御(いわば,失った上肢機能の代替を目指すもの)と,パーソナルコンピュータやテレビなどの家電制御(いわば,環境制御装置としての機能を目指すもの)に大別される.このように,失った運動機能の代償をする「機能代償型BMI」に加えて,最近では神経系機能の再構築を目指す「機能回復型BMI」のコンセプトも示されつつある(表). BMIに用いられる脳活動計測は,その侵襲性によって3つのタイプに分けられる.すなわち,針電極を用いて脳に直接電極を差し込み,神経細胞のスパイク電位を計測する侵襲的な計測方法,硬膜下電極を利用して脳表から局所電位を記録する低侵襲的な方法,頭皮上に皿電極を貼付して脳波を計測する非侵襲的な方法,の3つである.非侵襲的な方法としてはほかに,神経細胞の電気的活動によって生じる磁場変動を計測する脳磁図,機能的磁気共鳴画像法,神経活動によって生じる血流動態の変化を吸光スペクトルとしてとらえる近赤外分光法も存在するが,前二者は計測に際してシールドルームが必須であり,後者は時間特性が悪いことから,BMIに利用した例はそれほど多くない. 当然のことながら,詳細な脳活動を記録分析できる計測手段を用いたほうが,精度の高いBMIを構築することが可能である.また,針電極を用いた脳活動計測の場合,古くから脳科学分野で培われた詳細な細胞活動特性の知見を活かせる点で,研究の具体的道筋が立てやすいように思われる.頭皮脳波は,これら侵襲性のある脳活動計測方法に比べると,空間分解能に劣るほか,体動ノイズや環境ノイズに影響を受けやすいという欠点がある.では,頭皮脳波を用いたBMIが臨床的に意義を持つためには,何が必要であろうか? 頭皮脳波を用いたBMIの利点は,身体的にも精神的にも被験者の負担をかけずにシステムの導入が行えることである.BMIの利用を中断するときにも容易であり,被験者の心理的障壁が比較的低い.計測システムは最も安価で,産業化への道筋が最もつけやすい.頭皮脳波から判別可能な運動関連脳情報は極めて限られるものの,それらを確実かつ即座に判別でき,脱着しやすい安価なシステムとして提供することができれば,重度運動障害者に対する環境制御装置あるいは意思伝達装置としての価値は十分に認められる.また頭皮脳波は,眼電図や頭部や頸部の筋電図など,さまざまな生体信号の混入が避けられないという欠点を持っているが,BMIの想定受益者である重度運動障害者のなかには眼球運動,呼吸や嚥下活動,表情筋などの随意性が残存しているケースは多く認められるので,種々の随意運動に起因するノイズも脳波同様に弁別し,機械制御に用いることで,より実用的なシステムを構築できるものと思われる.
著者
鈴木 健大 柿坂 庸介 北澤 悠 神 一敬 佐藤 志帆 岩崎 真樹 藤川 真由 西尾 慶之 菅野 彰剛 中里 信和
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.167-171, 2017-02-01

症例は28歳女性。てんかん発症は19歳。頭部MRIで右傍シルヴィウス裂に多小脳回を認めた。発作症状は,体性感覚前兆,意識減損発作,健忘発作など多彩であった。家族より,寝言が多い翌日は発作が増加する,との病歴が聴取された。長時間ビデオ脳波モニタリングにより「寝言」は右半球性起始のてんかん発作と判明した。医療者は「寝言」が発作症状である可能性を念頭に置き,積極的に病的な「寝言」の存在を聴取する必要がある。
著者
鬼怒川 雄久 杉田 祐子 佐藤 公光子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.183-190, 2002-02-15

原因不明の眼瞼痙攣47症例に対し抑肝散を内服させた。抑肝散は漢方薬で,神経症・不眠・更年期障害に有効とされている。男性14名,女性33名であり,開瞼困難などの症状はすべて軽症で,角膜障害はなかった。抑肝散の投与量は,40名に対しては7.5gを1日3回,7名に対しては5gを1日2回とした。連続投与3〜7日で自覚症状が45例で改善した。随伴症状としての不眠と神経症も同時に改善した。副作用として軽度の食欲不振が3例に起こった。全症例中26例が40歳以上の女性であり,眼瞼痙攣と更年期障害との関連が推定された。以上から,原因不明の軽度の眼瞼痙攣に抑肝散の内服投与が有効であると結論される。
著者
浜中 淑彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1220-1231, 1975-11-15

上に訳出したV. v. Weizsäcker(1886-1956)の論文は,1926年彼がはじめてSiegmund Freudを訪ねたWienと,翌1927年2月,既に数年来の知己であった哲学者Max Schelerの招きによりKolnのカント協会で行った講演であり,彼の医学的人間学―その生証人として後に彼はSchelerとFreudをあげた―の出発点となったにとどまらず,今世紀20年代における医学のみならず他の学問の領域における新しい入間学誕生の一標石ともなった記念碑的著作であるが,V. v. Weizsäckerの医学的人間学とその周辺については,最近既にかなり詳しく述べる機会(浜中,1972)があったので,ここでは繰り返しを避け,人間学および医学的人間学の歴史的背景について―今世紀の医学的人間学には,後述するごとく19世紀初頭のそれの復興とみなし得る一面もある―若干の補説を試みたい。 人間学はAnthropologie(独)の訳語である。この西欧語(ラテン語ではanthropologia,英語ではanthropology,仏語ではanthropologie―以下A.,医学的人間学はm. A. と略す)は,ανθρωποδ(人間)とλογοδ(言葉,論述,学)なるギリシャ語より16世紀につくられた合成語であるが,明治初年わが国に西洋科学が紹介されて以来,人身学・人学・人道・人性学(西周,昭和6年まで),人類学(井上哲次郎,同14年),人間学(大月隆?,同30年前後)など様々な訳語が当てられてきたことからもうかがわれるとおり,―今日でこそわれわれが人間学と人類学のもとに理解する2つの主たる意味を付与されるに至ったとはいえ―歴史的に,また各国の精神史的伝統の相違に応じて,様々に異なる意味で用いられてきた。
著者
田中 重男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.38-42, 1967-12-10

三池炭鉱三川鉱では,昭和38年11月9日坑内の炭じん爆発で458名が死亡して,そのうち20名が爆死,438名が一酸化炭素中毒死であった。生存者941名のうち,意識喪失の状態になったものが435名あり,その大部分が一酸化炭素中毒によるものである。それから4年後の昭和42年9月28日には,同じ三川鉱で坑内火災が発生して,一酸化炭素中毒のため7名が死亡して,多くの被災者を出したが,今度は全般に症状が軽く,後遺症を残すものはないという見通しである。 一酸化炭素(CO)ガスは各種燃料の不完全燃焼によって生じ,無色,無臭,無刺激性で,比重は0.967と空気よりわずかに軽い。COガスは各種の工場のみならず,石油やガソリンを使用する暖房器具や自動車のエンジンなど,また都市ガスを使用する家庭内においても発生する。日常使用しているものでは,微量ではあるが煙草の煙のなかにも含まれている。とくに集団的にCO中毒が発生して,社会的に問題をおこしているのは,炭鉱の坑内爆発やトンネル工事中の事故などによるものである。
著者
井廻 道夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1563-1564, 1989-10-30

末梢血リンパ球あるいは脾細胞を高濃度のリンパ球の分化誘導・成長因子であるリンホカイン,インターロイキン−2(IL−2)の存在下で培養すると,ナチュラルキラー(NK)細胞に抵抗性の株化癌細胞や新鮮な癌組織の癌細胞を殺すキラー細胞が4〜5日で誘導され,このようなキラー細胞はリンホカイン活性化キラー細胞(lymphokine-activated killer細胞;LAK細胞)と呼ばれる.LAK細胞の誘導には腫瘍抗原刺激は必要でなく,LAK細胞は主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompatibility complex;MHC)に規定されずに広範囲の腫瘍細胞を殺す.LAK細胞は不均一なキラー細胞の集団であり,大きくはMHCに拘束されない細胞傷害性T細胞(CTL)とNK細胞の2群に分かれ,IL−2との培養の初期に誘導されてくるLAK細胞は,主としてNK分画に属し,長期培養を行うとCTL分画のLAK細胞の割合が増してくる. IL−2は,1976年MorganらによりT細胞増殖因子として報告されたヘルパーT細胞により産生されるリンホカインの一種であり,CTLの分化・増殖,NK細胞の増殖・増強,γ—INFの産生誘導を促す作用を有する.1983年には遺伝子組換えIL−2(rIL−2)の生産技術により,大量のrIL−2を得ることが可能となった.
著者
山中 大樹 河野 崇
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.143-148, 2018-09-20

■臨床の視点▲エンドトキシン誘発性痛覚過敏とは?自然免疫応答は,宿主を病原体から守る高度な生体内防御システムである。病原体(抗原)の侵入は,各病原体に特有の分子構造にToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)を代表とするパターン認識受容体が反応することで察知される。その結果,免疫担当細胞が活性化されサイトカインを分泌することで生理的な炎症反応を引き起こし,病原体を排除する。炎症に関連する免疫担当細胞としては,樹状細胞やマクロファージが重要な役割を担うが,中枢神経系ではミクログリアやアストロサイトといったグリア細胞がその機能を果たす。このような免疫系は生体防御に働くばかりではなく,急性および慢性の病態にも関連する。例えば神経損傷時には,免疫担当細胞の活性化により末梢性侵害受容器の過敏化(末梢神経感作)や脊髄後角神経の過敏化(中枢神経感作)が生じ,痛みが遷延することが知られている。 エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)であり,細胞内毒素としてTLR-4を介して自然免疫応答を誘発する。LPSの大量投与(4.0ng/kg)により,敗血症の病態が再現される。また,LPSの少量静脈内投与(0.4ng/kg)による全身炎症モデルは,ヒト健康ボランティアを対象とした臨床研究にも広く応用されており,多くの論文が報告されている。この少量LPS炎症モデルでは,全身の各種侵害刺激に対する疼痛閾値が低下することが一貫して示されている1)。われわれの研究でも,ラットモデルを用いて血行動態に影響を与えない程度の少量のLPS投与により,後肢足底切開後の自発痛が増強されることを報告した2)。このようなLPSによる痛みの増強は,エンドトキシン誘発性痛覚過敏と呼ばれている。実際,感染症などの全身炎症時には,発熱,食欲不振,疲労,抑うつ,傾眠,そして痛覚過敏といった全身症状を呈する。これらの症状はsickness behaviorと呼ばれ,生存のための適応的反応と推測されている。sickness behaviorはLPS投与により再現されるため,エンドトキシン誘発性痛覚過敏はsickness behaviorの一部と考えられる。また,LPS投与後の内臓や骨格筋の痛覚過敏は,それぞれ機能性腹痛症候群,線維筋痛症の病態としても注目されている。
著者
東 泰裕
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.324-329, 2021-12-15

Ⅰ.はじめに 近年,理学療法士(physical therapist:PT)および作業療法士(occupational therapist:OT)分野では臨床実習のあり方について様々な議論がなされており,言語聴覚士(speech therapist:ST)にとっても関心の高い内容であると考えられる.2018年10月には,理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則が改正され,新たに示された養成施設指導ガイドラインにおいて「評価実習と総合臨床実習については,実習生が診療チームの一員として加わり,臨床実習指導者の指導・監督の下で行う診療参加型臨床実習が望ましい」とされた1). 診療参加型臨床実習(clinical clerkship:CCS)とは,「学生が診療チームの一員として診療業務を分担しながら,職業的な知識・思考法・技能・態度の基本的な内容を学習し,実際の診療業務に必要とされる思考力(臨床推論)・対応力などを養うことを目的とした実習形態」2)のことであり,「教育者や実習施設を保護しながらも,臨床実習を可能にするコンプライアンス遵守のためのシステム」3)でもある.一方で,従来型の臨床実習とは,明確な定義はないが「実習施設にて学生自身が患者を担当し評価から治療までの過程を経験する」という“患者担当型”の指導形態が代表的な例3)であり,CCSのような学習理論4)に基づく明確な指導方法やコンプライアンス遵守のためのシステムは存在しない.また,その実施方法は学校養成施設や臨床実習施設によって様々であるとされる5).2017年のPT,OTの学生・卒業生を対象としたアンケート調査6)では,約8割が患者担当型実習を経験したと回答している.この従来の患者担当型実習の問題点として,臨床実習で学生が行う行為の違法性阻却のための条件7)が整備されていないという課題3)や,対象者に触れない見学中心の臨床実習であることなどにより療法士の臨床能力の低下につながっている課題8)が示されている.また,レポート中心の指導となっている実態やその弊害も報告されており9-11),これらの問題を解決するための新たな臨床実習のあり方としてCCSが求められている. 上記の背景から,当院リハビリテーション部では臨床実習のあり方に関する議論を重ねてきた.2018年度にはPT,OTは臨床実習を全面的にCCSへと移行し,STでは移行期間を定め,複数の養成校の協力を得ながらCCSによる臨床実習指導体制の整備を図ってきた.今回は,そのうちの学生1名の実践を報告する. なお,本報告に関して,当院臨床研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号433).その後,学生と養成校の担当教員に口頭および書面にて説明し同意を得た.
著者
山下 格
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.585-587, 2011-06-15

はじめに 思春期妄想症は,村上靖彦氏らが1960年代から詳細な臨床的検討を重ねて報告した症候群である2,3)。その内容は対人恐怖と関連が深く,今もよく参照・引用される。 一方,1980年に発表されたDSM-Ⅲには,社会恐怖(DSM-Ⅳの社交不安障害)がほとんど唐突に取り上げられ,わが国で早くから知られた対人恐怖との異同が関心を呼んだ。筆者は同じ1960年代から対人恐怖の診療の際にしばしば自己の症状に妄想的意味づけをする症例を経験したが,その訴えはDSMの記載とは異なり,上記の思春期妄想症に共通するところが多かった5,6)。今回,操作的診断基準による報告との相違を検討するため,村上氏に代わって要点を紹介する。
著者
遠藤 俊毅 伊藤 明 冨永 悌二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1151-1159, 2021-11-10

Point・脊髄脊椎外科の魅力は,正しい診断と手術により患者の症状を劇的に改善できることにある.・画像を直すのではなく,患者を治す.そのために,神経診察により患者症状の責任病変を絞り込むことが大切である.・画像所見はあくまでも神経診察による診断を確認するために使用する.その際,同一椎間板レベルにおける神経根と脊髄髄節レベルの「ずれ」に注意する.・患者の訴えを聴き,姿勢や動きによる症状の変化に注目する.
著者
栗原 裕基
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.146-150, 2021-04-15

神経堤(あるいは神経冠)(neural crest)は,脊椎動物の胚発生において神経外胚葉と表皮外胚葉の境界に生ずる幹細胞集団である1)。神経堤細胞は,神経板から神経管が形成される過程で,その辺縁から上皮間葉転換(epithelial to mesenchymal transition;EMT)を経て遊走し,知覚および交感神経細胞やグリア細胞,副腎髄質細胞,色素細胞のほか,頭部では骨,軟骨,歯牙,血管平滑筋など間葉系組織の構成細胞に分化する。神経堤は間葉系細胞への分化の有無により,前後(頭尾)軸に沿って頭部(cranial)神経堤と体幹部(trunk)神経堤の2つの領域に大きく分けられる。ニワトリ胚ではその境界は第3-4体節間に相当する。この境界前後(第1-7体節)と最後尾(第28体節以降)の領域からは腸管神経叢を形成する迷走神経が派生し,それぞれ迷走(vagal)・仙骨(sacral)神経堤として区別されることもある(図1)。神経堤の発生異常は,頭部顔面形成異常やヒルシュスプルング病,先天性中枢性低換気症候群などの先天性疾患を来すことが知られており,神経堤細胞に起源を有する神経芽腫や神経線維腫症などの腫瘍性疾患も含めて,神経堤症(neurocristopathy)と総称されている2)。
著者
岡本 仁
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.43-47, 2019-02-15

脳は経験に基づき内部モデルを構築し,外界の現状と未来を予測する(予測符号化)。認知が脳内の階層的回路を可塑的に変化させて,トップダウンな予測をボトムアップな外部感覚入力と一致させる過程であるのに対して,目的達成行動は自身が行為を加えて外界を変化させることによって,ボトムアップな感覚入力を人為的に変化させ,トップダウンな予測情報に一致させる過程である(能動的推論)。内部モデルの構築とその役割を解明することは,多岐にわたる高次脳機能の作動原理を解明するうえで最も重要な課題である。 この総説は,筆者が執筆に加わった「日本学術会議提言,脳科学における国際連携体制の構築—国際脳科学フロンティア計画と国際脳科学ステーションの創設—」1)のなかで筆者が執筆した内容と一部重複する。本総説が,読者の皆さんがこの提言の全体を広く読んでいただく契機ともなれば幸いである。
著者
岩﨑 素之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1141-1150, 2021-11-10

Point・脊髄の解剖を理解し,神経回路を意識してみる.・臨床診断を行うための最低限の知識を得る.・実際の症例に当てはめて,合理的な病態説明ができるか確認する.

1 0 0 0 抗ENA抗体

著者
岩田 進
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.254-255, 1986-03-01

抗ENA抗体は抗核抗体の一種で,全身性エリテマトーデス(SLE),慢性関節リウマチ(RA)をはじめとする自己免疫疾患の患者血清中に見られる. ENAとはextractable nuclear antigen(可溶性核抗原)の略で,細胞成分の中の核質成分の総称である(図1).この成分は生食水またはリン酸緩衝液により抽出され,非ヒストン核蛋白または酸性核蛋白抗原(nuclear acids protein antigen;NAPA)とも呼ばれている.しかしENAから核酸を除いたものがNAPAであり,必ずしも同一成分とは言い難い.これまでENAの中の抗原性をもつ核成分が主にNAPAであることから同一視されてきたが,抗原分析の進歩により塩基性蛋白抗原も存在することが証明され,これらを総称する意味で非ヒストン核蛋白と言う場合が多くなってきている.
著者
杉浦 むつみ 大前 由紀雄 池田 稔 中里 秀史 赤野間 百香
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.140-143, 2001-02-20

はじめに Ramsay Hunt症候群(以下,Hunt症候群と略)は,外耳道,耳介のへルペス疹に加え,同側の顔面神経麻痺とさらに内耳神経症状を認める症候群で,その原因は水痘帯状疱疹ウイルス(以下,VZVと略)の膝神経節における再活性化とされている1)。帯状疱疹におけるVZVの再活性化は,同一のあるいは隣接する神経根または神経節で起こり,その支配領域に臨床症状を呈することが多い。しかし,皮膚科領域からの報告では,異なる神経節においてウイルスの再活性化が同時に起こることが知られている。特に両側性に,かつ隣接しない神経節において帯状疱疹が出現するものは,複発性帯状疱疹として取り扱われている2)。 今回われわれは,耳介の帯状疱疹を伴わずに,反対側の体幹に帯状疱疹を同時に認めた顔面神経麻痺の症例を経験したので,その経過と病態に対する若干の考察を加えて報告する。
著者
小宮 義孝
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.421-425, 1962-08-15

学校を卒業してから,すぐに東大医学部の衛生学教室にはいって,そこで5〜6年,ごろちゃらしていた。 と,ある日,当時の医学部長林春雄先生がお呼びになる。ふとしたことから先生には,日ごろ何やかやとご厄介になるようになっていた。で,おうかがいすると,「君は上海に行く気はないかね」とのたまう。
著者
蝦名 玲子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.850-854, 2021-12-15

はじめに 先月号では,注意を喚起させたり,気付かせたり,控えめに警告したりし,人々の行動をより良いものにするように誘導する「ナッジ」について紹介した. 現在,新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)のワクチン接種が進められ,2021年9月13日時点で,すでに国民の5割以上が2回接種を完了したが1),このワクチン・コミュニケーションでも,ナッジは活用されていた.メディアは日々,多くの人々がワクチンを接種する様を報道し,首相官邸もホームページ2)で総接種回数や接種率を実績として公表しているが,これらは,社会規範に従うという人の特性を利用したナッジといえる. しかし,こうしたナッジに,逆に反発を覚える人もいる.そうした人に,今後,どうアプローチしていけばいいのか?
著者
Cheryl Tatano Beck 中木 高夫 黒田 裕子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.362-370, 2011-07-15

「エビデンスに基づく実践(Evidence-Based Practice ; EBP)」を提供しようとする強い外圧により,私たちの学問に質的研究から得られた最高レベルのエビデンスをもたらすために,看護研究者たちは質的研究のメタ・シンセシス訳註1の方向に目を向けるようになった。メタ・シンセシスは,質的研究をエビデンス階層のふさわしいレベルに位置づけ,エビデンス階層のレベルを高めるのに役立つ。私たちには,「実践に移植することができるように,研究者,臨床家,そして一般の人々に利用可能な知識を生みだす」責務がある(Thorne, Jensen, Kearney, Noblet, & Sandelowski, 2004, p.1360)。システマティック・レビュー訳註2は,例えば,航空機が離陸する前に,耐空性能が十分であることを確認する飛行前検査に匹敵するものである(Pawson, 2006)。メタ・シンセシスのようなシステマティック・レビューは,臨床実践に利用される前に,あるいは保健政策を形づくるのに先だって,その結果の信頼性を確かなものとするために,厳格な一連のステップを踏む。 いまから40年前,Glaser & Strauss(1971)は,もし蓄積された知識の体系を構築するための方法が使用されなければ,研究者たちがばらばらに訪問するために,その個別の質的研究からの結果は「他から切り離されている全く関係のない知識の島(p.181)」としてとどまるに過ぎないと警告した。メタ・シンセシスはそのような1つのアプローチである。Sandelowski, Docherty, & Emden(1997)は,他者から孤立して作業する「分析的マスタベーション(分析だけに没頭してしまう視野狭窄)」に質的研究者たちが貢献しないように強調した。
著者
北 素子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.253-259, 2012-06-15

はじめに 筆者らは,Catherine Pope,Nicholas Mays,そしてJennie Popayによる書籍『Synthesizing Qualitative and Quantitative Health Evidence : A guide to methods』(2007)を翻訳する機会を得て,医学書院より日本語版タイトル『質的研究と量的研究のエビデンスの統合─ヘルスケアにおける研究・実践・政策への活用』(Pope, Mays, & Popay, 2007/伊藤,北監訳,2009)として出版した。本書は,英国における医療制度と,エビデンスに基づくヘルスケア政策とマネジメントという文脈において執筆されたものであり,英国を発祥とするEvidence Based Medicine(以下,EBM)の情報インフラストラクチャー(コクランライブラリー)のシステマティックレビューに,質的研究を含めてゆくためのさまざまなアプローチがまとめられている。その目的は,質的研究と量的研究から得られたエビデンスを,政策や臨床実践場面での意思決定に活用できる形に統合してゆくことにある。 日本の看護界においても,質的研究・量的研究の量と質を確保することと平行して,それら両方の研究から産み出された成果を活用され得る形にまとめ上げていく気運が高まっている。そのあらわれは,例えば2010年にPatersonらによる『Meta-study of qualitative health research a practical guide to meta-analysis and meta-synthesis』(2001)が邦訳され,『質的研究のメタスタディ実践ガイド』(Paterson, Thorne, Canam, & Jillings, 2001/石垣,宮﨑,北池,山本監訳,2010)として紹介されたこと,さらに2011年,第37回日本看護研究学会学術集会が黒田裕子大会長(北里大学看護学部教授)のもと,「エビデンスに基づいた看護実践を! 現場の研究熱を高めよう」というメインテーマで開催され,メタ分析およびメタシンセシスに関する研究手法を積極的に実践しておられるC.T. Beck博士の招聘講演が行なわれたこと,それに伴い,博士の論文「Meta-synthesis : Helping Qualitative Research Take Its Rightful Place in the Hierarchy of Evidence」(Beck, 2011)(邦題「質的研究をエビデンス階層の正しいレベルに位置づけるのに役立つ方法」)が,本誌『看護研究』44巻4号に収録されたことなど,枚挙にいとまがない。こうした状況の中で,改めてPope博士らによる本書を読み返してみると,質的研究を看護実践のエビデンスとして位置づけるためのさまざまな方略を俯瞰することができるという点で,私たちにさまざまな可能性を示してくれるように思う。 本稿では,第30回のJRC─NQRでの発表内容をもとに,本書の書かれた背景,すなわち質的研究から得られたエビデンスをシステマティックレビューに含めていこうとする統合アプローチの背景と,Pope博士らがその著書で提示している内容から,システマティックレビューにおける「統合」の位置づけ,さまざまな統合アプローチ,および質的方法論を基盤とする解釈的アプローチについて概説する。