著者
玉岡 晃
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.252, 2016-03-01

2015(平成27)年11月末に開催された第33回日本神経治療学会総会(会長:祖父江元・名古屋大学教授)において,「症例から学ぶ」というユニークなセッション(座長:鈴木正彦・東京慈恵会医科大学准教授)に参加した。「神経内科診療のピットフォール:誤診症例から学ぶ」という副題がついており,春日井市総合保健医療センターの平山幹生先生(以下,著者)が演者であった。 臨床医学のみならず基礎医学にも通じた該博な知識の持ち主でいらっしゃる著者が,どのような症例提示をされるか,興味津々であったが,予想に違わず,その内容は大変示唆に富む教育的なものであった。自ら経験された診断エラーや診断遅延の症例を紹介し,その要因を分析し,対策についても述べられた。講演の最後に紹介されたのが,この『見逃し症例から学ぶ 神経症状の“診”極めかた』であり,講演で提示された症例も含めた,教訓に富む症例の集大成らしい,ということで,早速入手し,じっくりと味わうように通読した。
著者
下分 章裕 三好 輝行 小山 鉄郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1087-1090, 1996-06-15

Emery-Little核硬度分類を細分化した新しい核硬度分類法を用いて白内障手術予定眼1,000例を分類し,その有用性を検討した。新しい分類法はEmery-Little分類のグレード1〜5の各段階をさらに4等分し,細分化したものである。Phaco ChopTM法を行うには,従来のEmery-Little分類では分類の程度が不十分と思われた。この新しい細分類法を用いれば,Phaco ChopTM法における適切なフックの深さ,核分割数を事前に予測することができた。また,分割された核片による後嚢破損の危険性を正確に評価できるため,術者の力量に合わせた適切な術式の選択も可能となった。
著者
太田 伸生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.102-103, 2018-01-15

文部科学省の学校保健安全法施行規則の改正によって,蟯虫の検査は2015年度で終了となった.誰もが思い出すセロファンテープ法による蟯虫検査であるが,今後,学童の記憶から徐々にフェードアウトしていく運命である.中央部が青色に着色されたセロファンテープを,起床時に肛門に当てて,肛門周囲に産卵された蟯虫卵を検出する方法を“テープ法”,“セロファンテープ法”,“スコッチテープ法”などと呼んでいた.法改正の後,私たちの業界でもいろいろなことが起こり,ここしばらくは混乱が続くであろう.というのも,このセロファンテープの供給が継続できないことになったからである. 蟯虫は別名pin warmとも呼ばれる体長1cm内外の腸管寄生線虫であり,虫卵を経口的に摂取して感染した後,成虫は腸管回盲部に定着寄生する.腸管粘膜侵入性もなく,宿主免疫応答も軽微であるため,感染者はほとんど自覚することはない.雌虫は宿主の夜間就眠中に肛門に出てきて産卵し,肛門周囲の違和感によって手指で触る際に虫卵で汚染され,それが再び経口感染するが,その他に感染者の衣類や手指の接触を介して他者に感染が及ぶこともある.そのような感染パターンのため,感染者は未就学児童や小学校低学年学童が多く,また,同居家族にも感染が及ぶ傾向がある.疫学的には住居内の1人当たりの専有面積と反比例するとされ,集合住宅居住者に多いなど,都市型寄生虫感染症である.セロファンテープ法であるが,ご承知の通り,2日連続検査が行われる.この方法に限らず,検便検査の感度は決して高くなく,蟯虫検査のセロファンテープ法でも,2日法では約半数が偽陰性となることが知られており,9割程度の診断効率を得るには5日連続検査が必要である.最近の都市部学童の蟯虫陽性率は0.3%前後であることからすると,日本国内では学童の200人に1人程度の感染者がいることになる.
著者
高畑 圭輔 加藤 元一郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.861-869, 2008-07-01

はじめに 深刻な精神神経障害によるハンディキャップを持ちながらも,一方で突出した「才能の小島(island of talent)」を持つ患者を,「サヴァン症候群(savant syndrome)」1,2)と呼ぶ。サヴァン症候群はごく稀にしかみられないものの,その存在は古くから知られていた。1887年にDownが記述した,先天的な知能低下にもかかわらず類い稀な才能を併せ持った複数の症例は,サヴァン症候群に関する最初期の報告である。その際Downは,その逆説的な才能を強調して,idiot-savant(白痴の天才)と名付けた3)。彼らの才能は,音楽,絵画,彫刻,計算,記憶など多岐に及び,しかもすべての症例に重度の精神遅滞や認知障害が併存していた。また,映画「レインマン」に登場するレイモンド・バビットのモデルとなったキム・ピークは,脳梁欠損などの深刻な中枢神経系の異常が存在するにもかかわらず,過去に読んだ約9,000冊の書物の内容を正確に記憶しているという驚異的な能力を具えたサヴァンとして知られている4)。これまでに,サヴァン症候群の症例は数多く報告されているが,彼らの認知過程や神経基盤の解明に向けた研究が行われるようになったのは比較的最近のことである。サヴァン症候群に出現する驚異的な才能は,従来の高次脳機能における障害や欠陥という概念だけでは説明することができないものであり,彼らの認知過程と神経基盤の詳細を明らかにすることは,われわれの脳内の情報処理過程を解明するためにも大きな役割を占めるものと思われる4,5)。
著者
西村 秀一 樋口 昇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.734-739, 2021-11-15

【ポイント】◆現在に至る歴史的観点を知ることは重要.空気感染を認めさせるための長い闘いがあって今がある.◆いかにして空気感染が証明されてきたかを知れば,現在のCOVID-19での証明レベルの妥当性が見える.◆やっと勝ちとった空気感染の概念も,今度は固定的イメージが定着し,アップデートができないでいる.
著者
林 健太郎 永田 泉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.529-539, 2013-06-10

Ⅰ.はじめに 頚動脈起始部の狭窄は脳血流の低下を来したり,プラークの破綻や血栓形成により脳塞栓症の原因となる.動脈硬化性病変は欧米に多く,頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)は欧米で広く行われてきた.食生活の欧米化や高齢化に伴い,本邦においても患者数は増加してきており,疾患の重要度は増してきている. 手術の有効性を評価するランダム化試験も欧米で行われてきた.North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial(NASCET)では70%以上の症候性高度狭窄例に対するCEAの有効性が示され60),European Carotid Surgery Trial(ECST)でも同様の結果が示された21).Asymptomatic Carotid Atherosclerosis Study(ACAS)やAsymptomatic Carotid Surgery Trial(ACST)では無症候性病変が検討され,高度狭窄例においてCEAの有効性が示された22,29).近年はcarotid artery stenting(CAS)の有効性を評価するための比較対象となる場合が多いが,CEAの成績は比較的一定している. 脳卒中治療ガイドライン2009では症候性頚動脈高度狭窄に対してはCEAを行うことが推奨され,症候性中等度狭窄および無症候性高度狭窄においても推奨されている78).症候性軽度狭窄あるいは無症候性中等度狭窄ないし軽度狭窄においては,プラークが不安定であったり,潰瘍が認められる場合にはCEAを考慮してもよいが,科学的根拠はないとされている. このようにCEAの有効性は認められており69),日本脳神経外科学会のデータでは2011年に3,776件施行されている.CEAは脳卒中発作を予防するための手術であるため,合併症を低く抑える必要があり,手術リスクは症候性病変では6%,無症候性病変では3%以下の場合に有効とされている.よって,手術および周術期管理に熟達した術者と施設において行われるべきである.本稿ではCEAの手術説明の一助となることを目的に,CEAの合併症に関する論文をレビューした.
著者
塚田 泰彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.515-517, 2003-06-01

症例呈示 患 者:69歳,女性.腰椎椎間板ヘルニア術後に残存した下肢神経症状を苦にして,自殺目的で24%パラコート製剤(パラゼットDC(R))を約100 ml服毒した.自宅裏庭で徘徊しているところを夫に発見され,救急車にて当センターへ搬送された.現場周囲には吐物があり,救急車搬送中に緑色の嘔吐が3回あった.来院後も,強い嘔気を訴えていた. 来院時,血圧107/52 mmHg,心拍数90/分,経皮的酸素飽和度97%と安定しており,意識レベルも清明だった.直ちに微温湯20 lで胃洗浄を施行したが,希死念慮が非常に強く,診察・治療に非協力的であった.尿中パラコート定性は陽性で,血中パラコート定量は服毒3時間後で1.2 μg/mlであった.
著者
森本 康裕 野上 裕子
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.600-604, 2009-07-01

脳神経外科手術時の血糖管理は,他の手術時とは異なるいろいろな側面を持っている。 ブドウ糖は脳で代謝される主な基質であり,低血糖は避けなければならない。逆に,高血糖状態で脳虚血が起こると神経学的予後を悪化させるという報告が多い。この両面から,脳神経外科手術時には血糖値に注意が払われてきた。血糖値の上昇を避けるため,手術中には糖を含まない輸液を用いるとされてきた。また,ブドウ糖投与は脳浮腫の原因となる。しかし,レミフェンタニルを使用するようになったことで,少量のブドウ糖負荷では血糖値を上昇させることはなくなった。近年,重症患者における厳密な血糖管理〔intensive insulin therapy(厳重血糖管理)〕が患者の予後を改善するとして注目されている。しかし,この厳重血糖管理については見直しがされてきている。さらに,急性脳障害患者への適応は議論の分かれるところである。 本稿では,脳神経外科手術時,特に脳障害患者に対するブドウ糖の投与と血糖コントロールについて,最新の知見を紹介したい。
著者
伊藤 直人 森川 将行 飯田 順三 平尾 文雄 東浦 直人 岸本 年史 橋野 健一 南 尚希 中井 貴 中村 恒子 南 公俊 山田 英二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.983-985, 1998-09-15

高血圧を伴った神経ベーチェット病で,剖検によって死因がクモ膜下出血と診断された,まれな1例を経験したので報告する。クモ膜下出血の出血部は神経ベーチェット病の病変の中心である橋底側の動脈で,経過中に高血圧を併発していることもあり,神経ベーチェット病と高血圧およびクモ膜下出血との関連が示唆された。
著者
西川 星也 高松 敦子
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.155-158, 2016-04-15

細胞競合は主に上皮組織でみられる現象で,組織の一部に変異細胞が誘導されると,正常細胞との境界で競合が起こり,最終的に変異細胞が組織から排除される(図1A-図1C)。変異細胞が正常細胞に取り囲まれると,細胞死や排出が引き起こされることが観察されている。排除の結果,空いた空間には正常細胞が増殖し,それによって正常な組織サイズを維持すると言われている。このことから細胞競合現象は,正常な発生,組織の維持などに重要な役割を果たすと考えられている。 細胞競合は最初,ショウジョウバエ翅成虫原基にMinute変異細胞クローンを誘導した系で発見された1)。Minuteはリボソームタンパク質関連の遺伝子であり,そのヘテロ変異個体は単独でも生存可能で,正常サイズの翅を形成する(図1B)。しかし,成長の速さが正常個体に比較して遅いことから,細胞競合の結果,どちらの細胞群が生き残るかという勝敗の運命は,成長速度の相対値によって決まると考えられた。
著者
野村 恭一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1397-1410, 2015-11-01

ギラン・バレー症候群(GBS)の治療は,1950年代までは主に対症療法のみであった。1950〜1960年代に副腎皮質ステロイド療法が導入されたが,その後のランダム化比較試験(RCT)の結果からステロイド剤単独治療の有効性は否定された。1970〜1980年代には血漿交換療法(PE)が導入され,大規模RCTによりその有効性が確認された。1990〜2000年代には免疫グロブリン静注療法(IVIg)が行われ,PEを対照とした多施設RCTを施行し,IVIgはPEに勝るとも劣らない治療法であることが確立した。さらに,2010年代には生物製剤を用いた新たな治療法が試みられている。
著者
伊藤 洋 榊原 健介 三木 靖雄
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1028-1031, 2012-10-01

平成23年12月のある日,当院の救急救命科医師から連絡が入った。 「脳死患者から移植臓器提供がありそうで,移植コーディネーターからの説明が終わり,1回目の法的脳死判定が行われる」と…。 その前月に,愛知医科大学病院における『脳死患者からの臓器摘出マニュアル』が,平成22年7月に日本臓器移植ネットワークが発表した『臓器提供施設の手順書』をもとに作られたばかりで,それまでに1度だけ委員会が開かれただけだった。約10年前と1年前に,それぞれ別々に医局関連病院で,脳死ドナーから臓器摘出が行われたという話は聞いていたが,当院では初めてだった。 それから実際の臓器摘出術までは約1日。高度救急救命センターを運営する救急救命科と中央手術部での麻酔管理をする麻酔科とで,業務が分かれている当院の特性もあるが,院内のコーディネートを含め,さまざまなことを感じた。 本稿では,その実体験から見えてきた脳死下臓器提供の実際と課題について述べる。
著者
岡野 正
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.912, 1981-06-15

螢光眼底撮影の最近の進歩は実に目覚ましく,とくにhardwareの主体を構成する眼底カメラに関しては,本邦ではC社・K社・M社・N社・O社・T社など数多いメーカーの開発の努力もあって,容易に良質の螢光眼底写真が撮れるようになった。しかしsoftwareの面では,なお多くの混乱や試行錯誤がみられ,ことにフイルムの活用法については撮影器機の進歩にはるかにとり残されている感がつよい。 螢光眼底撮影では問題を臨床に限っただけでも,解像力の良いmicroangiography的な個々の毛細血管まで微細に写そうとする場合とrapid sequence angiographyとして眼底の血行動態の時間的造影諸相を記録する場合との二つの面がある。両者それぞれ意義があり,理想的な螢光眼底撮影のroutineでは,頻回にしかも良質の映像を記録したいというのが螢光眼底の専門家ならずとも眼科臨床一般のつよい要望である。だが,この二つの性格は手技上必ずしも両立しえないようである。例えば通常使われている36枚撮り白黒フイルム(例:トライX,ネナパン400,イルフォードPH5など)を使った場合,はじめから毎秒3駒などの高速度で使えば12秒でフイルムは終ってしまう。しかも,通常は36枚全部が螢光用に使われる訳ではない。我々の教室では,最初の1駒は患者の名前などのデータ記録用,次の2駒は検眼鏡所見の白黒写真とし,4駒目から螢光造影の記録をはしめる。
著者
中村 友美 山根 寛 山田 純栄
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.359-370, 2016-08-15

要旨:昨今の精神科医療の改革に伴う作業療法プログラムの整備状況と課題を明らかにするため,協力の得られた32施設にプログラムに関する質問紙調査を行った.精神科病床100床未満の公的総合病院では急性期プログラムが整備されていたが,100床以上の民間精神科病院では慢性期対象の大集団プログラムが中心で,急性期や退院促進プログラムが不足し,半数以上は全体でのリハビリテーション検討体制がなかった.プログラムの問題は約8割の作業療法士が認識し,プログラム整備が困難な要因には民間病院の収益性や診療報酬の問題が共通し,施設の構造や体制,作業療法士の認識や技能,他職種との連携に関する問題も相互に関係していることが示唆された.
著者
卜部 美代志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.415-416, 1975-04-20

私達は,学生の頃,外科総論の講義をきいて,外科的症候学,ないし,外科的診断学を学んだことを,なつかしく思いだすことができる.それで考えられることは,外科学のはじまりは,疼痛,腫脹,腫瘍,出血,潰瘍などphysical signsから起こつて,発達してきたのではないかということである.その後,今日までの外科学の進歩に従つて,これらのphysical signsの観察内容,ならびに,意義づけも,昔に比べて大きく進展し,近代外科学の理論がおりこまれているにちがいない.例えば,出血についても,現代の外科医がぜひ知らねばならない新しい知見がたくさん加えられ,また,今後,進むべき方向も示されているにちがいないのである. Physical signsは,くわしくいえば,症状と所見とに分けられるであろう.
著者
宮田 祥子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.855-862, 1974-10-15

I.はじめに 早期診断が困難である膵癌の初期ならびに経過中に精神症状——とくにうつ状態,不眠,不安,涕泣発作,不穏,自殺意図など——が出現することは外国においては,しばしば報告1〜11)されており,膵癌の診断に役立つ症状として注意を払うべきだとさえいわれている。膵癌ほどしばしばではないが,再燃性膵炎,慢性膵炎,膵石その他の膵疾患においても精神症状を伴うものがあるといわれる5,10,12〜17)。さらに内分泌器管としての膵臓を考えるなら糖尿病のさいにうつ状態18)を示すものが多いことも注目されねばならない。著者はこれまで主として内科外来に現れるうつ病者に注目してきたが19),そのさい,膵障害を疑わせる症状を示すものが相当数あるという印象を持ち,うつ病者の膵機能について調べてみる必要があると考えた。いまだ少数例にすぎないがうつ病患者に膵機能試験を行い,若干の知見を得たので報告する。
著者
讃岐 美智義
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.79-85, 2019-04-19

研修医が気管挿管の練習のために気管挿管シミュレータを使う際,頭部を思いっきり後屈させたあげく喉頭鏡のハンドルを後ろに倒して口の中をのぞこうとする。この行為こそが,気管挿管の上達の大きな妨げになると考える。現状のシミュレータと患者では,頸椎の可動域,開口,舌の状態が明らかに異なっているのである。 麻酔導入時の初期研修医“あるある”なのだが,頭位も悪く開口もできていないのに,看護師から喉頭鏡を受け取ろうとする。いけないのは初期研修医だけではない。介助についている看護師も喉頭鏡を受け取ってと言わんばかりに,研修医の目前に点灯した喉頭鏡をちらつかせる。喉頭鏡を渡すことが気管挿管の介助だと思っている。受け取る方も悪ければ,渡す方も悪いのだ。 あげくに研修医は,受け取った喉頭鏡を左手に持ったまま右手で患者の口を開け…(おもむろに)喉頭鏡を入れようとするが,どうやってもうまく入らない。喉頭鏡を入れるスペースが口腔内にないため,無理矢理,喉頭鏡のブレードで強く舌を押し込みつつ喉頭鏡を進める。なんとなく入ったと思ったら(本当は口腔外にブレードの大部分が出ていて,入っていないのだが),喉頭鏡のブレードを後方に倒してみる。しかーし,喉頭が見えるどころか舌しか見えない。バキッ。前歯にあたる(指導医は冷や汗)。歯が折れなかったとしてもこの時点で,唇,舌,口腔内をひどく傷つけ出血していることは日常茶飯事である。初回はこんなモノだ。この状態を見た指導医は喉頭鏡を取り上げて,自ら手本を見せる(取り上げられるのは仕方がないが,お互いに気まずい空気が流れるのが問題である)。2回目の研修医は,ちょっと賢くなって開口してから喉頭鏡を受け取る(これは大きな一歩である)。しかし,頭部を異常に後屈しているのは変わらない。これを見た指導医は,頭位をすこーし戻してスニッフィング位にするのだが,研修医は患者の額に自分の手を押しあてて後屈を強めてしまう(あぁ〜っ,頸椎が…と指導医は冷や汗)。昨日シミュレータで練習してきたらしい。シミュレータでは頭部後屈を強めれば,喉頭がよく見えたという。そのまま気管挿管を続けさせてみるが,やはり口腔内を傷つけてしまい,喉頭鏡を指導医に取り上げられる。このような珍研修が繰り返され,気管挿管の上達は牛歩のごとしである。これでは,気管挿管がまともにできないまま,麻酔科研修が終わってしまう(本当は気管挿管ではなく,マスク換気や気道の開通全般について理解し,実践してもらいたいのに…)。 このような研修医ばかりではないが,何回やっても気管挿管ができない研修医がいるのは確かである。そのまま年を重ねると,気管挿管ができない○○科専門医となる。実際,十分に経験を積んだ内科系の医師に,気管挿管はどうしたらできるようになるかと,真面目な相談を受けたことがある。初期臨床研修制度が始まる十数年以上前から気管挿管を指導していた筆者は,麻酔科に研修にやってきた医師に,1〜2か月の研修期間内にどのように気道確保を教えようかと考え,教育法を試行錯誤していた。そして,初期臨床研修制度が始まった2004年前後には,ついに研修医向けの気道確保伝授法を確立した。これが,気道確保マスター法SANUKI Methodである。現在は,これを指導医ではなく後期研修医もマスターすべき指導法と位置づけ,屋根瓦方式で世の中に広めようと布教中であるため,ここに紹介したい。
著者
山本 朗
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.75-80, 2012-01-15

はじめに 心身の発達の障害は,「発達過程が初期の段階で何らかの原因によって阻害され,認知,言語,社会,運動などの機能の獲得が障害された状態11)」と医学的には理解される。心身の発達の障害は,現在の医学診断としては,脳性麻痺,知的障害,広汎性発達障害などの多様な診断を含む概念である(このような障害を持つ子どもを本稿では「障害児」と呼ぶ)。障害児の概念は,主として医学の発展の中で徐々に構築されてきたものであるが,心身の発達の障害に相当する状態自体は古代から認識されていて,新村によれば,日本書記における伊邪那岐・伊邪那美の神婚により生まれた水蛭子が,わが国最古の「不具」未熟児(障害児に相当)記載であるという12)。平安時代初期に編纂された,わが国最古の仏教説話集である「日本霊異記」にも,障害児が登場する説話が存在し,中巻第三十,第三十一,下巻十九などが例として挙げられる5)。 一方,エンパワメントとは,パワーレスの状況にある人がパワーを発揮するために,個人や社会などのさまざまなレベルで,その人の潜在的な力を強化したり,抑圧的な社会や環境を変革したりする支援の姿勢である7)。1960年代の米国の社会変革運動の中で誕生した概念で,わが国では1995年頃から普及し9),現在では医療・福祉などの分野において,支援の姿勢として重要なものとなっている。 本稿では,日本霊異記の中巻第三十,第三十一の両説話における障害の発生論を検討したうえで,エンパワメントの観点を交えて考察したい。本稿の目的は,過去の文献を主体的にとらえなおすことにより,現代の障害児支援に寄与する示唆を得ることである。この目的を持ちながら,論を進めることにする。
著者
小林 陽一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1135-1139, 2020-11-10

●査読してくれたことに対して敬意を示しましょう. ●修正論文を再投稿する前に,投稿規定をもう一度確認し,上級医のチェックを受けてから再投稿しましょう. ●質問・指摘に対して1つずつ丁寧に回答し,本文中にもマーカーや赤字などで示して修正部分が一目でわかるようにしましょう.
著者
土肥 謙二 加藤 晶人 八木 正晴
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1056-1065, 2021-09-10

Point・診断については低髄液圧症に関する症状を理解し,直接的な髄液の漏出を証明するために診療指針に基づいて画像診断を行う.・治療についてはまず安静と十分な補液を行う.硬膜下血腫合併例では患者ごとの病態と緊急性を判断して治療の優先順位を決定する.・病名については臨床・研究ともに未だ混乱している.グローバルな研究を推進するためには正しい診断と病名の統一が必要である.