著者
山本 一真 大熊 諒 岩井 慶士郎 渡邉 修 安保 雅博
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.332-337, 2020-12-15

近年,脳卒中や脳外傷による後天性脳損傷者の自動車運転再開支援が全国の医療機関などで行われるようになり,実車での評価前のスクリーニングとして神経心理学的検査が実施されている.しかし,失語症者の場合は実施できる神経心理学的検査が非言語性のものに限られるため,運転再開に至る机上検査結果の基準が示しにくいのが現状である.そこで今回,脳損傷後の失語症例で自動車運転を再開できた再開例と再開できていない非再開例の「病巣」「失語症のタイプ」「SLTA(標準失語症検査)の結果」を比較し,運転を再開できた失語症者の傾向について予備的分析を実施した.結果,失語症者の運転再開例の脳損傷範囲や失語の重症度には幅がみられたが,病巣は前頭葉が多く,タイプはブローカ失語が多かった.そのことから,失語症者の運転再開には聴覚的理解がある程度保たれており,自身の病態を認識していることの必要性が示唆された.

2 0 0 0 No-reflow現象

著者
赤石 誠
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.211-212, 1997-02-15

■最近の動向 No-reflow現象とは,一定時間の虚血の後に冠動脈を再灌流しても,心筋への血流が回復しない現象をいう.その原因として,①白血球による微小血管の閉塞,②心筋の浮腫や拘縮による微小血管の圧迫,③血管内皮の膨化,④血管の攣縮が考えられている.Klonerらの古典的な犬の実験により,このNo-reflow現象は40分間の冠動脈閉塞では生じず,90分間の冠動脈閉塞で生じることが示されている.また,このNo-reflow現象が生じる部分は,心筋虚血が最も強い心内膜下領域であることも示されている. 現在,No-reflow現象とは,心外膜上の冠動脈に閉塞がないのに微小血管抵抗が高いために冠動脈血流が得られない状態と,心外膜上の冠動脈に閉塞がなく,冠動脈血流が得られているにもかかわらず,灌流域の心筋への血流が得られない状態の両者を指している.いずれも急性心筋梗塞症における血管再疎通後にしばしば認められる現象である.急性心筋梗塞症に対する再灌流療法が,一般的な治療法となっている今日,閉塞している冠動脈をPTCAや血栓溶解療法により再疎通させても心筋への血流が回復しないというNo-reflow現象は,心筋梗塞症の再灌流後の心筋の病態にもたらす意義,治療法を含めて,私たちが真剣に議論しなくてはならない問題の一つである.
著者
清水 晶
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.45-47, 2019-04-10

summaryヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus:HPV)感染が関連する癌としては子宮頸癌をはじめ,陰茎癌,肛門癌,中咽頭癌などが知られている.爪部有棘細胞癌/Bowen病もHPV感染に起因するが,十分には認識されていない.今回われわれは自験例と既報告HPV関連爪部有棘細胞癌136例を集計した.患者平均年齢は52.2歳,男女比は2.5:1であった.右1〜3指,左3指に好発し,臨床的には爪母周囲に生じ,爪周囲型と爪下/爪甲線条型に分けられた.HPVのDNA型のほとんどは粘膜型ハイリスクであり,HPV16型が約半数を占めるが特にBowen病では多様性がみられた.患者およびパートナーではHPV関連病変が多く,爪有棘細胞癌/Bowen病はハイリスクHPVのリザーバーおよび性感染症としての認識が必要であると思われた.
著者
石福 恒雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.11-16, 1980-01-15

筆者がここで二重身体験というのは,自分がもう一人存在するという体験の総称であり,そのなかには,後に述べるようにさまざまな様式が存在し,いわゆる自己像幻視(Heautoskopie)も含まれている。それゆえ,二重身体験は幻覚の問題と深いかかわりをもっている。筆者はここで二重身体験の考察をとおして幻覚の問題を論じていくことにしたい。 二重身の場合,それは自分自身の分身なのか他者の分身なのかは一応問題にしなければならないであろう。精神病理学上はどちらも存在するが,言葉の使い方からみる限り,Doppelgangerはむしろ他者の分身という意味が本来のものである。しかし,筆者がここでいう二重身はもっぱら自分自身の二重身を指している。筆者は最近別の論文のなかで,主として分裂病者にみられる自己の二重身(以後単に二重身とする)の問題を論じたが,ここではその論点を土台にして,幻覚の問題に直接示唆を与えてくれそうないくつかの体験の局面を選びだし,それに基づいて幻覚の問題を論じることにしたい。
著者
伊東 直哉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2307, 2020-12-10

私が岡先生を尊敬する理由の一つに岡先生が素晴らしい教育者であるということがあります.岡先生は,自身が長い修行期間を経たのだからといって,教え子にも同じ期間の修行を要求するタイプの医師ではありません. さて,感染症科にご相談いただく症例のなかには,発熱に対して必要な培養検査のみならずアセスメント不在で抗菌薬が処方されているケースがわんさかあります.少しでも臨床感染症を勉強したことのある人にとっては,こういったプラクティスが間違いであることは明白です.しかし,こういった症例に対して正論を相手にゴリ押しすれば,面倒なやつだとレッテルを貼られ,コンサルトが来なくなり,感染症科はいずれ沈没してしまうでしょう.私自身もそういったケースの主治医に対してネガティブな感情をぶつけてしまったことがありました.しかし,現在では長期間および頻回に同様のケースに曝露された結果,耐性機序を獲得しネガティブな感情は排泄ポンプですぐに排除され,日々の表情筋のトレーニングで感情を抑えた顔を保持することができるようになりました.とはいえ,私が“悟り”を開くまでにはある程度の期間が必要であったのは事実であり,そこに至るまでにいくつものトラブルがありました.
著者
皿谷 健 柳沢 如樹 高倉 裕樹 嶋崎 鉄兵
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.125-133, 2021-01-01

皿谷 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により,病床数や医師の数についてクローズアップされ,「PCR検査」「クラスター」「潜伏期」などの用語が広く知られて一般の人たちの間でも飛び交うようになりました.また,COVID-19関連の論文がリアルタイムに急増して,世界中で情報共有されていることを感じました.このように大きな影響を及ぼしているCOVID-19について,異なるご施設でCOVID-19診療に対応されている先生方にお集まりいただき,お話を聞かせていただきたいと思います.
著者
福田 佳奈子 足立 厚子 指宿 千恵子 白井 成鎬 佐々木 祥人
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.751-755, 2016-09-01

要約 患者は味噌醸造家に育った兄弟である.症例1:32歳,男性(兄).中学時より麹吸入時呼吸困難を繰り返していた.症例2:22歳,男性(弟).小児期から手足の腫脹,腹痛,下痢,嘔吐を繰り返し,麹吸入時の呼吸困難に加え,成人後,摂食後2時間後に腹痛・嘔吐があった.2症例ともに自家製の麹,麹菌,味噌のプリックテストが強陽性であった.アスペルギルス特異IgE(Immuno-cap)は,症例1クラス1,症例2クラス0であった.症例2は血清補体価CH50およびC4が著明に低値であった.症例1は麹菌に対する即時型機序,症例2は補体が関与する機序を考えた.麹菌に対するアレルギーの報告は,味噌醸造を家業とする職業性が多い.麹菌(Aspergillus oryzae)特異IgEは通常測定できず,交叉性のあるAspergillus fumigatus特異IgEで代用診断される.麹菌が産生するαアミラーゼ特異IgEは自験2例では陰性であったが,病態への関与を否定するものではない.
著者
泉谷 一裕
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.851-856, 2014-10-01

要約 9〜65歳の男性4名,女性1名の足底に無症候性橙色色素斑が認められた.8mm大の色素斑を認めるもの,小さな色素斑を散在性に多数認められる症例があった.現症では炎症所見は認められなかった.皮膚に色素斑を生じ,春と秋に好発するため,臀部や頰部で報告されているカメムシ皮膚炎との関連性を推察した.しかしながら,これまでカメムシが及ぼす足底の変化を調べた報告は全くなかった.そこで,マルカメムシ,クサギカメムシの2種を足底で踏む皮膚試験を施行し,その皮膚の変化を観察した.クサギカメムシでは試験開始5分以内に自験例と同様の橙色色素斑が出現し,2週間で完全に消退した.試験経過中カメムシ皮膚炎とは異なり,炎症所見は全く認めなかった.以上より,自験例の色素斑はカメムシにより生じた足底橙色色素斑と判断した.治療は不要で2週間以内に自然消退する.
著者
堀内 圭輔 千葉 一裕
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1254-1257, 2020-11-25

今回は昨今,特に問題になっているAuthorshipの誤用・乱用・悪用を取り上げます.敢えて口にすることがはばかられる暗黙の了解事項ともいえる内容も若干含みます.指導医,Principal Investigator(PI)からしてみると,“何をいまさら”と思われるかも知れませんが,本連載はもともと,若手の医師・研究者が対象ですので,あえてこの話題を取り上げます.言わずもがなですが,筆者が偉そうにこれらの問題を語れる立場ではないことは重々承知の上です.不行儀・不埒をご容赦ください.

2 0 0 0 作話症

著者
越賀 一雄 浅野 楢次
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.15-20, 1959-01-15

Ⅰ 話をする,あるいは話を作るということが,人間の精神生活の発達の中で極めて大きな意味を持つていることは,子供の心理的発達をみても十分にうなずかれることであり,それは人間学的にも深い意義を持つている。「目は口程に物を言い」ということもあろうが,まず話をする,話を作るといえば言葉なしでは不可能であり,作話症とか妄想も根本的には言葉というものについて考えねばならないであろう。 話をするといえば,いろいろな意味があつて一概にはいえないが,話を作るといえば,そこに若干悪い意味を含んでいるようである。「あの人のいうことは作り話が多い」というのは少し非難めいた言葉であつて,はつきりいえば嘘つきということなのである。しかし大体,聴く人の注意を惹きつける上手な話は嘘の多少混じつた話であつて,ただ事実を無味乾燥にくどくどと述べただけではあまり面白くないのが普通である。話は横道に入るが,精神病医の患者の症状の記載にもそんな趣がある。ただ患者のいつたり,振舞つたりするところを忠実に述べるのみでは上手な記載とはいえないのであつて,不必要なところは適当に省略し,必要な点は強調してこそ初めて上手な記載といえると思う。勿論あまりに1ヵ所を強調しすぎて虚構の作話になるのは困る。省略,強調は精神病医が勝手にやるからといつてその記載が主観的だなどと決めてかかるのは主観客観ということを本当に弁えぬ主観的独断である。かかる点で精神病医の記載には文学に相通ずるものがあるように思う。誰かが一体妄想について果して精神病医と文学者とのいずれがこれをよく理解しているであろうかと多少精神病医に皮肉まじりに問いかけていた精神病医があつたが,これは考察に値する問題を含んだ問いかけである。
著者
南野 知恵子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.979, 1999-11-25

私は参議院議員として,助産婦として,女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツを確立するため努力をしてきましたが,低用量ピル認可に向けた働きかけもその一環として研究会・政策勉強会などを通じて最大限やってまいりました。この度「低用量ピル」という選択肢を日本の女性が手にすることができたことは大きな前進をとげたといえます。 女性が自らのリプロダクティブ・ヘルス/ライツを承認するということは,自らの女性性を認知したうえで自立することですが,真の始まりはこれからだと思います。受胎調節実地指導員の役割を引き受ける助産婦には責任も生じてきます。ピルをより求めやすくする,より適切な保健指導や相談を受けやすくする環境整備,医療界で働く人々の専門性の効果的発揮により受益者のニーズに応えられるなど,解決しなければならない課題は山積しています。人間が互いに人対人として認め合い,他性を理解し尊重する相互間の受容が,どのように熟してゆくかにかかっていることであるとも思います。私自身看護婦・助産婦・受胎調節実地指導員でもあり,同性の悩みに触れてきた経験から多くを学びました。かつてわが国の女性は,一人の人間として自立していくための選択肢に乏しく,そのことに気づかない女性,気づかせてもらえない多くの女性がいました。リプロダクティブ・ヘルス/ライツの課題達成は看護職者であり政策作成の場にいる私にとって燃える課題でした(今もそうですが)。ピルの認可に40年もの長期を要したことは,日本がやはり「男性社会」であると感じざるをえませんでした。そこで,改善をめざして多くの議員の協力をとりつけることを考えました。まず,自民党内の勉強会に,松本清一・熊本悦朗先生をお招きし「性感染症とエイズの問題」について講演していただきました。「ピル・エイズ・性感染症」をテーマにしたのは,初めてでした。
著者
長谷 公隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1167-1173, 2004-12-10

はじめに バイオフィードバック(biofeedback;以下BFと略)とは,通常では認識することが困難な生体内の生理現象を視覚や聴覚などで感知できる知覚信号に変換し,随意的には制御できない現象をその知覚信号に基づいてコントロールさせようとする行為である.筋電図バイオフィードバック(EMG-BF)療法は,筋収縮の程度を知覚信号に変換して患者に提示し,これを制御させることによって目的とするパフォーマンスの改善を図る治療法であり,Marinacciら1)が神経筋再教育に用いて以来,運動学習のための一手法としてリハビリテーション医療に広く応用されている.制御対象として選定された筋肉の収縮を,促通(facilitation)させるのか,弛緩(relaxation)させるのかによって大きく分類することができ,その適応は表1に示すように多岐にわたっている. 促通訓練は,筋力増強を必要とする病態に対して,筋肉の活動を量的に提示することによって施行される.しかし,痙性麻痺に対するEMG-BF療法は,麻痺筋の促通訓練に先立って,制御したい運動に拮抗する筋群の弛緩訓練が必要な場合がある.また,弛緩訓練には,過剰な筋収縮を抑制することで局所的な不随意運動を制御させようとする場合と,特定の筋収縮を制御することで,疼痛や全体としての運動パフォーマンスなど,筋張力が低下することとは直接関係のない事象の機能的改善を得ようとする場合に分けられる.これらの効果をリハビリテーション医療に適用するためには,EMG-BF療法の基本的技術を十分に理解したうえで,患者の特性や病態に応じた治療プログラムに基づいて実施する必要がある. 本稿では,EMG-BF療法を臨床に用いるために必要な基礎知識をまとめるとともに,その臨床効果について,無作為対照試験(randomized controlled trial;RCT)を中心にレビューする.
著者
小栗 顕二
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1083-1092, 2020-10-01

はじめに本稿は科学技術のめまぐるしく変化する現代の話ではなく,はるか昔にリタイアした私の,研究生活を始めた頃(1965年頃)から始まる。科学論文というものは,失敗や苦労の遍歴は記されず,すべてが順調に進んだ事柄だけを披歴する成功譚である。しかし,実際の研究生活はそんなものではなかった。当時,独立した麻酔科学講座を置いている大学はまだ少数で,多くは臨床教室としてか,あるいは外科学の麻酔専任医師がいるだけの大学が多かった。したがって独自の研究環境をもっている大学は少なかった。 この頃は,決まった研究方法も確立されておらず,遠心分離器,分光光度計,ガスクロマトグラフ,電気泳動装置,低温室…があれば素晴らしい研究室であると誇らしげに自負するような,まるで無人島に流れ着いた流民が日々の飢えをしのぐ食料を求めてジャングルの中に分け入っていくような時代であった。
著者
鈴木 美穂
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.44, no.13, pp.1272-1274, 2016-12-01

Q プロゾーン現象って何ですか? A 抗原抗体反応において,抗原または抗体のどちらか一方が過剰であることが原因で,反応が抑制される濃度領域が現れることを地帯現象(zone phenomenon)と言います.抗体過剰による反応抑制領域を前地帯(prozone),抗原過剰による場合を後地帯(postzone)と言いますが,一般的には両者ともプロゾーン現象と言われることが多いです.
著者
小幡 祥子 海老原 全
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.912-914, 2019-05-31

最新の知識◆近年,アトピー性皮膚炎の病態への皮膚微生物叢の関与が指摘され,黄色ブドウ球菌に対する静菌的治療が再注目されている。◆ブリーチバス療法のエビデンスが集積されるに従い,欧米の主要なアトピー性皮膚炎診療ガイドラインでも推奨されており,今後国内のアトピー性皮膚炎患者の関心も高まると予想される。
著者
平岡 浩一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.509-513, 1997-07-15

はじめに いわゆる症例報告は臨床,研究領域を問わず盛んに行われている.しかし,主に事例の経過の説明に終始することの多い症例報告は,多くの場合治療介入を留保した対照群を持たないため,治療効果に関する客観的な因果関係の分析が困難である.他方,従来は多標本(複数の症例)を対象とした方法が客観的な治療効果の判定には多く用いられてきたが,これは多くの症例と多大な時間と労力を必要とすると同時に,個人差の多い疾患の場合,多標本から得られた結果が必ずしも個々人にあてはまらない場合が多いという欠点を持つ. シングルケーススタディは1個体のデータから治療効果を判定する,歴史的には心理学から発展した実験計画法である.シングルケーススタディは同一個体内で独立変数導入と撤回を交互に行いながら標的行動の定期的な繰り返し測定を行うことにより,1個体の複数のデータを用いて治療効果を客観的に判定する.したがって,この方法は先述の多標本研究法の短所を補って,単一症例から客観的な治療介入効果の判定を可能にする. もうひとつのシングルケーススタディの優れている点は,多標本を用いた対照比較研究においては半数の患者に治療効果が低いと予想される治療介入を長期間継続しなければならないという倫理的な問題があるのに対し,シングルケーススタディにおいては1症例における非治療期間の複数の繰り返し測定のデータがこの対照群として機能するので,そのような治療を留保する多数の症例を必要としないことがあげられる.これらの利点は規模の小さなコストの低い客観的な治療効果の判定を可能にし,日常の臨床場面での応用も比較的容易であり,理学療法の意志決定のためのツールとしての使用も期待できる. さて,シングルケーススタディには多くのデザインがあるが,治療を留保する相に始まり治療導入,再度の治療撤回をスケジュールとするABA型デザインが最も一般的である.そこで本稿ではABA型デザインを中心にその具体的方法について脳卒中片麻痺の歩行速度に及ぼす下腿三頭筋の持続的伸張の効果を観察する場合(仮想)を例にあげながら紹介する.
著者
満田 直美 栄徳 勝光 菅沼 成文
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.475-479, 2020-05-10

●つわりのなかった妊婦に比べ,つわりのあった妊婦のほうが早産の頻度が低かった. ●つわりの程度と早産リスクには関連があり,つわりの症状が強いほうが早産リスクは低下していた. ●つわりと早産リスクの関連性についてのこれまでの研究結果は一致していないが,つわり症状があるほうが早産リスクが低下するという報告が多い.

2 0 0 0 Modic sign

著者
大鳥 精司 折田 純久 稲毛 一秀 鈴木 都 山内 かづ代
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1129-1137, 2016-12-25

Modic signとは 椎体終板変性は,MRIで日常的に観察される変化である.一般的には退行性変化として考えられている.図1で示すように,年齢とともに椎間板高が減少し,その変化が椎体終板に発生する現象である.高齢者の8割以上はこのような画像を呈している.変性腰椎の椎体終板変性はModicら1)により報告され,一般的にはModic signと呼ばれている.椎体終板はMRIのT1強調画像で低輝度,T2強調画像で高輝度を呈するModic Type 1,T1強調画像,T2強調画像でともに高輝度を呈するType 2,さらにT1,T2強調画像で低輝度を呈するType 3に分類された2,3)(図2).最近のModic signのレビューによると,腰椎にその変性を認める割合は14%であり,変性の程度は年齢に比例し,10年間で6%の増加を認めることが報告されている.Modic signの分類ではType 2が多く,次にType 1であり,Type 3が最も少ない2).多くの論文において椎間板の変性が腰痛の原因となりうることが報告されているが,椎間板の近傍に存在する椎体終板変性の病理と臨床的意義に関する論文は少ない.本稿では,現在までにわかっているModic signの臨床的意義に関して述べたい.
著者
松本 俊彦
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.432-437, 2020-04-01

はじめにあなたは今,ひそかに薬物問題に悩んでいて,漠然と「このままではマズい」と感じている。しかし他方で,うまくコントロールできている点を無理に探し出して安心しようとしたり,問題を職場環境のせいにして,「次年度異動すれば状況はよくなる」と自分に信じ込ませようともしている。日々,気持ちはこの両極をあたかもヤジロベエのように揺れ動きつつ,「これが最後の1回」と自分にいいきかせるのを,もう何回,何十回も繰り返してきたことだろう。いや,ちがう。もしかするとあなたは自己嫌悪のあまり自暴自棄になり,すでに「いざとなったら死んでしまえばよいのだ」と背水の陣を敷いているのかもしれない。 私は今,この文章を,現在進行形で薬物問題に悩む麻酔科医に向けて書いている。
著者
尾方 克久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.305-314, 2003-04-10

リアノジン受容体は,細胞内Ca2+ストアから細胞質へCa2+を放出するチャネルタンパクで,骨格筋にはRyR-1が発現し,筋小胞体膜のCa2+放出チャネルを構成する。N末側80%以上の大部分は筋細胞質で,4量体を形成してフット構造を構成し,T管膜のL型電位依存性Ca2+チャネルと共役して,筋細胞膜の興奮による筋細胞質へのCa2+動員をもたらす。悪性高熱は全身吸入麻酔薬や筋弛緩薬の投与により,高体温や骨格筋の異常収縮が生じる常染色体優性遺伝の致死的病態で,発症素因者にはCa2+誘発性Ca2+放出の異常亢進を認める。その約半数はRyR-1の変異による悪性高熱症(MHS1)であり,28種の点変異が報告されている。先天性ミオパチーであるセントラルコア病(CCD)に悪性高熱が生じやすいことが知られていたが,CCDもRyR-1の変異により生じることが明らかにされ,13種の点変異が報告されている。RyR-1の変異で生じるMHS1とCCDを包含する,「RyR-1チャネロパチー」という概念が,病態解明に新たな視点をもたらす。