著者
奥田 健次 井上 雅彦 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.7-22, 1999-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究では、文章中の登場人物の情緒状態の原因を推論する行動について高次条件性弁別の枠組みから分析を行った。そして、中度精神遅滞を持っ発達障害児2名を対象に、文章課題において登場人物が表出している情緒状態に対して、その原因について適切な感情表出語を用いて応答する行動を形成した。そのために、課題文に対して感情表出語カードを選択する条件性弁別訓練が行われ、さらに文中の感情を引き起こした出来事と感情表出語を組み合わせて応答するための条件性弁別訓練が行われた。その結果、課題文の登場人物の情緒状態にっいて、原因となる出来事と感情表出語を組み合わせて応答することが可能となり、未訓練の課題文に対しても適切な応答が可能となった。これらの結果から、発達障害児に対する文章理解の指導において条件性弁別訓練の有効性が示され、さらに文章理解を促進するために文中の文脈刺激への反応を強化することの重要性が示唆された。
著者
松本 好 榎本 大貴 井上 雅彦
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.61-67, 2021-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
13

本研究では、通所施設への通所が困難となった事例において、家庭訪問支援として子どもおよび母親へ介入することで、子どもの行動上の問題の改善や新しい行動の獲得、母親の養育行動の獲得や養育ストレスの変化を検討した。介入は、機能的アセスメントに基づく子どもへのコミュニケーション指導、母親へのペアレント・トレーニングおよび日常生活の助言、通所施設への移行支援であった。その結果、家庭という日常生活場面で支援を行うことにより、子どもの行動上の問題の減少とコミュニケーション行動の獲得、子どもに対する母親の育児ストレスの改善に及ぼす効果があり、通所施設への通所が可能となった。一方で、母親自身の孤立感ついては変化がみられず、通所施設での継続支援を要する可能性が示唆された。
著者
井上 雅彦 奥田 泰代
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.15-20, 2020-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
15

発達障害の親であり親のための相談者であるペアレント・メンターが、自らの体験の語りについて、聞き手である他者との関係の中でどのように捉え、価値づけしているのかを検討するため、ペアレント・メンター52名(51名が子どもに自閉スペクトラム症の診断あり)に対し、自分の体験を話した機会とその肯定的体験、否定的体験及びその理由について自由記述の質問紙で回答を求め、その内容をKJ 法に準拠した手続きにより整理・分析した。本研究の結果から、ペアレント・メンターがメンター活動の中で自己体験を語るさまざまな機会が示された。肯定的体験や否定的体験になりやすいカテゴリ項目が存在すること、また同じカテゴリの項目でも関与する要因によって、肯定的体験にも否定的体験にもなりうることも明らかとなった。またこれらの体験に関与する要因として、【聞き手からの共感】【聞き手との交流】【達成感】【語りへの抵抗】という4 つが得られた。これらの結果をもとに、ペアレント・メンターが自己体験を話すことの意味とメンターの語りという活動への支援のあり方について考察した。
著者
石坂 務 井上 雅彦
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.5-13, 2020-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
22

本研究では、不登校状態にあった自閉症スペクトラム男児に対し、対象児が課題として有していた感覚過敏性とこだわり、暴力行為についての実態把握を行い、学校、教育委員会、警察、行政など、地域機関の支援体制を整えた。その上で、大学附属専門機関(以下、専門機関)が中心となり、行動論的アプローチを用いた登校支援を行いその効果を検討した。支援当初は男児の持つ過敏性の高さに対し、学校や家庭等周囲からの理解が得られにくく、男児は学校だけでなく外出自体に嫌悪的であった。そのため、当初の目標を学校への登校ではなく専門機関への来所行動に設定した。アプローチとして、過敏性に配慮し、調整した環境において対象児の好みに基づいてアニメやゲームの話をする等、本人の拒否が出にくい設定から来所課題を開始し、段階的に学校でも取り組める学習活動や運動を取り入れていった。また、並行して母親と面談を行い、家庭での環境調整を行うことで、暴言や暴力行為の低減をはかった。専門機関の来所行動を定着させたのち、学校と連携し登校支援を行った。連携に関しては、校内の支援チームと会議をもち、対象児の実態について引き継ぎを行い、かかわる教員、時間、学習活動を段階的に増やしていき、学校での個に応じた支援の引き継ぎと対象児の自発的な登校を定着させた。
著者
山口 穂菜美 佐竹 隆宏 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.117-125, 2022-07-01 (Released:2022-07-01)
参考文献数
10

食後の嫌悪的な結果と食物による感覚的な特徴の回避という回避・制限性食物摂取症(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder:ARFID)様の症状を呈した自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)のある9歳の小児に対して入院にて心理教育とトークンエコノミー法を用いた行動的介入を行った症例を報告した.入院開始時,患児の摂食量は1日1口程度であったが心理教育と行動的介入の開始後徐々に摂食量および体重が増加したため149日目に退院となった.心理教育によって食後の嫌悪的な結果への対処行動を身につけたこと,トークンエコノミー法によって経口摂食の動機づけが高まったことが有効であったと考えられる.さらに,保護者を通した心理的介入を行ったことや,ASD特性に配慮した方略を用いたことが重要な役割を果たした.また,精神科医,小児科医,心理職の多職種連携を行ったことで,身体面,栄養面,行動面の多面的な治療を行うことができたと考えられる.
著者
井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.173-183, 2009-03-31 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

本論文では我が国の自閉症支援における行動論研究のエビデンスに基づく実践を確立するための諸条件について提言を行った。研究基盤を作る上では国際研究のゴールデンスタンダードである評価尺度の標準化推進、研究組織の体制整備、マニュアルの整備、セラピストの養成と専門性の基準策定をあげた。またエビデンス研究の効果を伝える仕組みとして、単一被験体法の普及・発展による他の学問分野との交流促進、行政機関の発信行動を促進するためのシンポジウム開催などの諸条件を指摘した。そして最後にエビデンス研究の効果を生かせる環境作りのために、人材養成と教育分野におけるエビデンス研究の推進を取り上げた。自閉症に対する臨床・教育的研究のエビデンスが臨床サービスとして定着するための戦略について考察した。
著者
井上 雅彦 中谷 啓太 東野 正幸
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.78-86, 2019-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
11

自閉症や知的障害のある人々の問題行動に関する機能分析的アプローチは多くの研究でそのエビデンスが示されている。近年これらの治療研究は、家庭、学校、施設などコミュニティで実施されるものが増加しており、非専門家による行動記録の収集と評価が課題となっている。本研究の目的は、日常場面において非専門家が行う行動記録を援助するアプリケーションを開発することであった。本アプリケーションは、Android(アンドロイド機器用)とiOS(iPhone, iPad用)の2つのOS版を各OSの配布サイトからダウンロードし、スマートフォンやタブレットなどのデバイスで利用可能である。記録者は観察時間や標的行動などを設定し、行動の出現に合わせてカテゴリーをタップすることで記録される。入力された行動観察データは即時にグラフ化して表示させることが可能である。データは各デバイス内に格納蓄積され、必要に応じてcsv形式でメール送信可能なため、パソコンなどでのデータの編集加工が可能となっている。家庭と事業所での試用から、本アプリケーションの有効性と課題について考察した。
著者
山口 穂菜美 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.141-150, 2022-07-01 (Released:2022-07-01)
参考文献数
11

障害児通所支援におけるペアレントトレーニング(以下,PT)の実施状況に関する調査の二次分析を行い,医療型および福祉型児童発達支援センター(以下,センター)と児童発達支援事業所および放課後等デイサービス(以下,事業所)で行われるPTの実施と普及に向けた課題を検討した.その結果,実施プログラム,PT実施者,PTの評価についてセンターと事業所でおおむね共通した特徴がみられた.一方,運営やPTの対象となる子ども,PTを実施するうえでの困難については一部異なった特徴がみられた.課題として,障害児通所支援の職員に対するPT研修やPT実施者へのスーパーバイズの機会の増加およびPTを実施できる人員の確保,利用しやすい評価ツールの開発などがあげられ,センターがPT実施において中核的な役割を担っていくことが期待されることを指摘した.今後,PT実施に関する困難の背景や実態をさらに調査していくことが望まれる.
著者
大久保 賢一 福永 顕 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.35-48, 2007-05-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
9

通常学級に在籍する他害的な問題行動を示す発達障害児に対して、大学相談機関と小学校が連携し、学校場面における行動支援を実施した。対象児に対する個別的支援として、(1)適切な授業参加を促すための先行子操作と結果操作、(2)課題従事行動を増加させるための結果操作、(3)問題行動に対する結果操作を段階的に実施した。また、校内支援体制を整備するために、(1)発達障害の特性や問題行動の対応に関する校内研修の実施、(2)支援メンバー間における情報の共有化と行動の継続的評価、(3)全校職員に対する情報の伝達といったアプローチを行った。その結果、対象児の適切な授業参加や課題従事行動が増加し、問題行動は減少した。また、大学スタッフと保護者の個別的支援を実施する役割を学校職員へ移行することが可能となった。対象児に対する個別的支援と校内支援体制の構築に関して、その成果と課題について考察を行った。
著者
吉田 裕彦 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.311-323, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本研究は、通常学級に在籍している自閉症児におけるボードゲーム(SSTゲーム)を利用した社会的スキル訓練の効果について検討することを目的とした。通常学級での朝の自由時問における行動を般化場面として事前に測定した。訓練は、ボードゲームをクラスの仲間とともに20分の休み時間を利用して4週間に8回実施した。ゲームにおいてプレーヤーは、サイコロをふり、出た目の数だけコマを進める。チャンスカードのマスにとまると、カードに指示されたロールプレイを仲間と演じる。正しく演じられると2人ともにポイントシールを与えられる。その結果として、ターゲットにされた社会的スキルが向上し、般化場面における相互交渉が増加した。SSTゲームの効果と有効性について考察する。
著者
吉松 靖文 村田 健史 井上 雅彦 木村 映善 中川 祐治
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、自閉症児を主とした発達障害児の日常生活を支援するための携帯型生活支援ツールを設計・実装し、その評価を行う。ツールは携帯電話で動作し、自宅、学校、外出先などどの場所にいても利用できる日常生活に根付いたツールとして設計した。さらに、パーソナルコンピュータでも同じユーザインターフェースと同じ機能で動作するアプリケーションを提供した。本研究では、このツールを実装し、これを用いて次の2点について研究を行った。平成16年度〜平成17年度は、発達障害児の生活支援ツールの設計・実装を行った。まず発達障害児に有効なインターフェースを提案し、XMLをベースにシステム設計した。ツールとしては、タイマー機能、スケジュール機能、カレンダー機能、絵カード機能の4つの機能を実装した。平成17年度〜平成18年度は、ツールによる自閉症児を中心とした発達障害児への実験を行った。臨床応用では、様々なタイプや程度の発達障害および生活シーンにおいて適用を行った。知的障害の特別支援学校では、PCでタイマーやスケジューラを表示し、学級での活用を行った。その結果、指示待ち状態にあった自閉症児が自発的に活動に着手したり、一つ一つの活動遂行に時間がかかっていた知的障害児や自閉症児が所定の時間内に活動を終えることが可能になったりするなどの成果が得られた。また、他児の遂行と自分のそれを比較するようになったり、タイマーを使っていない場面での活動への着手・遂行も能動的になったりするなどの効果も見られた。家庭での応用では、朝の支度や下校後の活動支援を行った。その結果、朝がなかなか起きられなかった高機能自閉症児が短時間で自ら起床するようになったり、宿題が通常の何倍もかかっていた高機能自閉症児が平均的な時間で宿題を終えるようになったりするなどの効果が見られた。
著者
大久保 賢一 福永 顕 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.35-48, 2007
被引用文献数
1

通常学級に在籍する他害的な問題行動を示す発達障害児に対して、大学相談機関と小学校が連携し、学校場面における行動支援を実施した。対象児に対する個別的支援として、(1)適切な授業参加を促すための先行子操作と結果操作、(2)課題従事行動を増加させるための結果操作、(3)問題行動に対する結果操作を段階的に実施した。また、校内支援体制を整備するために、(1)発達障害の特性や問題行動の対応に関する校内研修の実施、(2)支援メンバー間における情報の共有化と行動の継続的評価、(3)全校職員に対する情報の伝達といったアプローチを行った。その結果、対象児の適切な授業参加や課題従事行動が増加し、問題行動は減少した。また、大学スタッフと保護者の個別的支援を実施する役割を学校職員へ移行することが可能となった。対象児に対する個別的支援と校内支援体制の構築に関して、その成果と課題について考察を行った。
著者
原口 英之 小倉 正義 山口 穂菜美 井上 雅彦
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.51-58, 2020-02-29 (Released:2021-02-28)
参考文献数
5

全国の都道府県と政令指定都市(以下、指定都市)におけるペアレントメンター(以下、メンター)の養成及び活動の実態を調査し、今後の自治体でのメンターの養成及び活動の普及に向けた課題を検討した。都道府県39箇所(83%)と指定都市16 箇所(80%)から回答を得た結果、個々の自治体の取り組みの実態にはばらつきがあるものの、都道府県、指定都市の実態には概ね共通する部分が多いことが明らかとなった。都道府県、指定都市ともに、5 ~6 割の自治体でメンターの登録制度があり、6 ~7 割の自治体で養成研修修了者への研修が実施されていた。メンターの活動は、6 ~7 割の自治体で実施され、グループ相談、保護者向け研修、保育者向けの研修が多く実施されていた。また、メンター活動の予算のある自治体は6 割、活動の謝礼・報酬のある自治体は4 ~5 割、コーディネーターが配置されている自治体は4 割であった。一方、養成研修の修了者のうちメンターとして登録し活動する人数の割合、養成研修の実施状況、活動評価の方法、情報交換・協議の場の有無については、都道府県、指定都市で違いが見られた。本研究の結果は、都道府県と指定都市、さらには市町村におけるメンターの養成と活動を評価、検討する上での基礎資料となり得るものである。今後、全国でメンターの養成及び活動の普及を目指すためには、メンター養成と活動の取り組みの有無に影響する要因、取り組みを促進するための要因について抽出することが必要である。