著者
伊藤 孝士 阿部 彩子
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.116, no.6, pp.768-782, 2007-12-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
40
被引用文献数
1

The climate in the Quaternary is characterized by ice age cycles with periods in the range of tens of thousands to a hundred thousand years, triggered by long-term insolation variations due to the Earth's orbital and precessional motions. Although we can accurately calculate long-term insolation variations at the top of the Earth's atmosphere, we need to know the physical and dynamical processes occurring in the complicated climate system of the Earth in order to understand the true nature and origin of the ice age cycles. In this manuscript, first we briefly review how the gravitational interaction between planets causes insolation variations. Then, we summarize the recent status of large-scale numerical experiments as to how the ice age cycles take place in the climate system of the Earth, with a particular focus on dynamical modeling of ice sheets.
著者
吉田 二美 デルマワン ブディ 中村 士 柳沢 俊史 黒崎 裕久 中島 厚 伊藤 孝士
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集 日本惑星科学会2005年秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
pp.45, 2005 (Released:2006-07-24)

8.2mのすばる望遠鏡と0.25平方度の広視野を持つ主焦点カメラSuprime-Camを組み合わせて、見かけの等級が約20-24等という微小メインベルト小惑星を100個同時に検出し、それらのライトカーブを得た。それらの自転周期分布を調べた結果、「全体の約25%が自転周期2時間以下のいわゆる高速自転小惑星である」という驚くべき結果を得た。高速自転小惑星はこれまで近地球小惑星のグループだけに発見されていたが、我々の結果はこれまで調べられていなかったメインベルトの微小サイズの小惑星には大きい割合で高速自転小惑星が存在することを示唆している。
著者
跡部 恵子 井田 茂 伊藤 孝士
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.57-57, 2003

観測限界から、これまでに発見されている系外惑星は全て巨大ガス惑星と考えられているが、地球型惑星も存在しているだろう。惑星において、生命、特に陸上生命が誕生、進化するためには、ハビタブル・ゾーン(液体の水が存在できる軌道領域)での軌道安定性に加え、惑星表面の気候が安定に保たれる必要があると考えられる。惑星自転軸傾斜角の変動は、気候に多大な影響を与える。一般的に自転軸傾斜角の変動は数度であるが、自転・軌道共鳴によって数十度に達する場合がある(Ward 1974, Laskar et al. 1993)。実際、現在火星の自転軸は共鳴の影響で十数度の変動をしており、このような大変動は惑星の居住可能性に影響を与えるであろう。<BR> 本研究では、系外惑星系のハビタブル・ゾーンにある仮想的地球型惑星の自転軸傾斜角変動について調べた。自転軸の振幅を表す解析式を用いて計算を行った結果、巨大惑星が地球型惑星の軌道をかろうじて安定に保てる場所にある場合、地球型惑星は共鳴の影響を受けやすいことがわかった。つまり、軌道的に安定であっても、自転軸傾斜角の大変動が引き起こされる可能性がある。<BR> さらに実際の系外惑星系において、仮想的地球型惑星の自転軸変動を評価した。その結果、地球型惑星が、安定軌道、かつ小さな自転軸変動を示す可能性のある系は稀であることを示唆する結果を得た。しかし、惑星の逆行自転や、近接した巨大衛星の存在は自転軸変動を抑える傾向があり、これらが陸上生命発達の鍵を握っているかもしれない。
著者
柳沢 俊史 吉田 二美 伊藤 孝士 奥村 真一郎 小田 寛 池永 敏憲 吉川 真 樋口 有理可
出版者
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

これまでの近地球小天体の発見手法とは全く異なる新たな検出手法を開発し、実際に日本及び豪州でのサーベイ観測をとおして近地球小天体を9つ発見した。これにより小型の望遠鏡とFPGAを利用した高速解析による安価で効率的な近地球小天体の発見手法が確立され今後多くの近地球小天体、特にこれまでほとんど発見されてこなかった10m-数100m級の近地球小天体の発見に大きく貢献すると思われる。これにより太陽系進化に関するあらたな知見をもたらすことが期待されるとともに地球衝突天体の早期発見にも役立つはずである。
著者
脇田 茂 瀧 哲朗 伊藤 孝士
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.124-139, 2019-06-25 (Released:2020-01-24)

太陽系内に存在する小天体を活動的な天体とそれ以外に分ける時,前者の代表は彗星であり,後者の代表は小惑星と言えよう.ところが昨今,小惑星に分類されるものの彗星で見られるダストテイルが観測されるような天体が続々と発見されている.こうした天体は活動的小惑星と総称され,それらの実態や活動の原因を知ることは太陽系内の物質輸送や力学進化・衝突進化を理解することに繋がる.本稿では活動的小惑星を通して太陽系の歴史を読み解くことを目指して私達が開催した一連の勉強会で得られた知見のまとめを記し,更には活動的小惑星の今後の研究の方向についていくつかの考察を行う.
著者
荒井 朋子 川勝 康弘 中村 圭子 小松 睦美 千秋 博紀 和田 浩二 亀田 真吾 大野 宗佑 石橋 高 石丸 亮 中宮 賢樹 春日 敏測 大塚 勝仁 中村 智樹 中藤 亜衣子 中村 良介 伊藤 孝士 渡部 潤一 小林 正規
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.239-246, 2012
参考文献数
54

地球近傍小惑星(3200)Phaethonは,ふたご座流星群の母天体であるが,彗星活動は乏しく,彗星と小惑星の中間的特徴を持つ活動的小惑星(あるいは枯渇彗星)と考えられている.また,ふたご座流星群のスペクトル観測から報告されているナトリウムの枯渇及び不均質は,太陽加熱の影響よりも局所的部分溶融を経た母天体の組成不均質を反映している可能性が高い.部分溶融の痕跡を残す原始的分化隕石中に見られる薄片規模(mm-cmスケール)でのナトリウム不均質は,上記の可能性を支持する.従って, Phaethonでは局所的な加熱溶融・分別を経験した物質と,始原的な彗星物質が共存することが期待される. Phaethonは,太陽系固体天体形成の最初期プロセスを解明するための貴重な探査標的である.また,天文学,天体力学,小惑星・彗星科学,隕石学,実験岩石学などの惑星科学の多分野に横断的な本質的課題解明の鍵を握る理想的な天体である.本稿では,小惑星Phaethon及び関連小惑星の科学的意義と探査提案について述べる.
著者
伊藤 孝士 マルホトラ レニュー
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集 日本惑星科学会2007年秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
pp.111, 2007 (Released:2008-04-28)

本発表では近地球天体とりわけ近地球小惑星と惑星・月との衝突確率に関する制限多体数値実験の結果を報告する。近地球小惑星の大半はメインベルトの内側からやって来ると思われており、その具体的な機構は小惑星が強い共鳴帯に注入されることによる地球型惑星軌道へ輸送とされている。そうした天体が月や地球型惑星と衝突する場合の確率、および衝突速度・角度の分布を計算し、サイズ頻度分布の情報を経由して最終的にはクレーター記録との照合を計画している。
著者
大谷 栄治 倉本 圭 今村 剛 寺田 直樹 渡部 重十 荒川 政彦 伊藤 孝士 圦本 尚義 渡部 潤一 木村 淳 高橋 幸弘 中島 健介 中本 泰史 三好 由純 小林 憲正 山岸 明彦 並木 則行 小林 直樹 出村 裕英 大槻 圭史
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊・星・人 : 日本惑星科学会誌 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.349-365, 2011-12-25
被引用文献数
1

「月惑星探査の来たる10年」検討では第一段階で5つのパネルの各分野に於ける第一級の科学について議論した.そのとりまとめを報告する.地球型惑星固体探査パネルでは,月惑星内部構造の解明,年代学・物質科学の展開による月惑星進化の解明,固体部分と結合した表層環境の変動性の解明,が挙げられた.地球型惑星大気・磁気圏探査パネルは複数学会に跨がる学際性を考慮して,提案内容に学会間で齟齬が生じないように現在も摺り合わせを進めている.本稿では主たる対象天体を火星にしぼって第一級の科学を論じる.小天体パネルでは始原的・より未分化な天体への段階的な探査と,発見段階から理解段階へ進むための同一小天体の再探査が提案された.木星型惑星・氷衛星・系外惑星パネルは広範な科学テーマの中から,木星の大気と磁気圏探査,氷衛星でのハビタブル環境の探査,系外惑星でも生命存在可能環境と生命兆候の発見について具体的な議論を行った.アストロバイオロジーパネルでは現実的な近未来の目標として火星生命探査を,長期的な目標として氷衛星・小天体生命探査を目指した観測装置開発が検討された.これらのまとめを元に「月惑星探査の来たる10年」検討は2011年7月より第二段階に移行し,ミッション提案・観測機器提案の応募を受け付けた.
著者
伊藤 孝士
出版者
社団法人プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.149-153, 2015-02-25

惑星や小惑星・彗星といった太陽系天体の運動はケプラー運動でよく近似できる.これらの天体の多くはより重い中心天体を周回し,そこに働く摂動は一般に小さい.また現代に於いては天体同士の衝突も稀であり,力学的には太陽系を保存系と看做すことも妥当である.これらの性質により太陽系力学はシンプレクティク数値積分,特に微小摂動系向けの計算方法と親和性が高い.本節では太陽系力学の様々な局面で利用されるシンプレクティク数値積分法のいくつかを紹介し,その現状と課題・将来の展望について簡潔に述べる.