著者
北本 朝展 筆保 弘徳
出版者
国立情報学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

台風は気象学的にも社会的にも重要な現象であるが、その勢力や構造に関する分析はこれまで専門家の人手による方法に頼ってきた。そこで本研究は、台風に関する大規模衛星画像データセットに機械学習(特に深層学習)を適用することで、ビッグデータという視点から台風を分析する新しい手法を提案する。取り組んだテーマは「台風階級の分類」「台風中心気圧の回帰」「台風から温帯低気圧の遷移」「時系列モデルへの拡張」の4つである。特に「台風から温帯低気圧への遷移」に関しては、深層学習ベースの新指標「温低遷移指数」を提案して気象庁ベストトラックと比較したところ、気象庁のタイミングが平均して半日ほど遅いとの結果を得た。
著者
北本 朝展 絹谷 弘子
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1. JDARNの設立と経緯Japan Data Repository Network (JDARN)とは、日本のデータリポジトリを対象として、世界の最新動向を共有しながら、信頼性を向上させるための取り組みを進める、コミュニティ活動である。その源流は、ジャパンリンクセンター(JaLC)が2014年10月から2015年9月にかけておこなった「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」にある。このプロジェクトは、研究データに関する専門家が分野を越えて集まったという点では日本初とも言える画期的な場となった。この活動を引き継ぐものとして研究データ利活用協議会が2016年6月に設立され、その後いくつかの小委員会が提案されることとなった。その一つとして2017年10月に我々が立ち上げたのが「国内の分野リポジトリ関係者のネットワーク構築」小委員会である。2018年10月からは、より多くの分野と関係者を対象とするために「ジャパン・データリポジトリ・ネットワーク(Japan DAta Repository Network : JDARN)」と名称を変更した。JDARNはデータリポジトリに関する動向を共有することが目的の一つであるが、中でも焦点となっているのがデータリポジトリの信頼性という問題である。研究データの生産者がデータを外部サービスに預ける際に、どこに預けるべきかを意思決定する基準として、データリポジトリの信頼性は重要な役割を果たす。そうした信頼性を示す基準の一つにCoreTrustSeal (CTS)がある。CTSはデータリポジトリに関する国際的な認証の一つであり、2019年2月現在で140あまりのデータリポジトリが認証を受けているが、日本ではまだ認証を受けているケースが少ない。CTSの認証が日本では少ない理由を探るため、2017年12月にセミナー「信頼できるデータリポジトリ〜CoreTrustSeal認証に関する実践的情報共有の場〜」を主催し、日本の有力なデータリポジトリがCTSの要求要件を用いて自己評価(self-assessment)してみる試みを行った。その結果、CTSの背景となる考え方がわからないとCTSによる自己評価も難しいことが判明した。そこでまずCTSを理解するための資料の作成を開始し、これが小委員会の主要な活動となった。そしてさらに議論を重ねた結果、CTSありきでなく利活用の側面も考慮したデータリポジトリのガイドラインを作成する課題に活動がシフトしていった。2. データリポジトリのガイドライン現在作成中のデータリポジトリガイドラインは、基本的にCTSの要求要件(16項目)を参考にしつつ、CTSを直訳するのではなくJDARNが独自に構成を提案するものである。このようにCTSを再考するきっかけとなったのが、バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)の八塚茂氏によるCTSのアイテム単位の整理である。CTSの審査過程では、様々なドキュメントを用意しそれを公開していることが透明性の一つの証拠となる。そこでCTSを実際に獲得したデータリポジトリの申請書を分析し、そこで言及されているドキュメントの種類を整理することで、CTSに必要なドキュメントを準備するという次のアクションがわかりやすくなると考えた。CTSの抽象的な項目を具体的なヒト・モノなどに落とし込むことで、より理解しやすいガイドラインを作れる可能性が生まれたのである。しかしドキュメントの整理に比べると、データリポジトリに関わる人に関する項目の整理はより困難である。データリポジトリではどんな職務が必要なのか、それを担うのは誰なのか。しかも職務については、その職務を専門家として何と呼ぶかという名称の問題もある。データ専門家として近年提唱される職名には、データライブラリアン、データキュレーター、データサイエンティスト、データエンジニアなどがあり、その意味も人によって異なる。これらの職務の概念を整理し、それらの長期的なキャリアパスを示すこと、それができければデータリポジトリを基盤としたオープンサイエンスの展開はおぼつかない。こうした問題についてはまだ確固たるモデルがあるとは言えず、我々は現在も議論を続けている。3. 今後の展開JDARNは設立以来、毎月1回ほどの会合を開きながら活発な議論を交わしてきた。そうした議論に参加するデータリポジトリの数が増えれば、日本のデータリポジトリの品質を高め、世界の中での存在感も高め、オープンサイエンスのための基盤としての価値も向上するであろう。そのためにはデータリポジトリが研究に不可欠な存在となる必要がある。データリポジトリというデータのコンテナとしての信頼性・持続性の向上がCTSの焦点であるが、それに加えてデータの統合、分析、可視化、社会実装などコンテンツの利活用に向けた多様な専門家も必要になる。これを単独で担える組織は限られるため、データリポジトリ間のコラボレーションも重要な課題であり、そこにデータリポジトリのネットワークが活きてくると考えている。
著者
北本 朝展 小野 欽司
出版者
国立情報学研究所
雑誌
NII journal (ISSN:13459996)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.7-22, 2000-12-20
被引用文献数
2

本論文の目的は、気象学的知識と情報学的アプローチとを融合した台風雲パターンの時系列解析法を提案し、台風解析における熟練者の解析作業支援や、大量の台風画像からの知識発見などを実現することにある。そのための基礎となるデータセットとして、本論文では20,000 枚規模の台風画像コレクションを構築する。ここで台風画像とは、台風のベストトラックに記録された台風中心が地図投影画像中心に一致するように、台風周辺領域を衛星受信画像から切り出したものである。このようなラグランジュ的表現によって、台風雲システム全体の動きから台風雲パターンに固有の動きを分離できる。次に本論文では、台風雲パターンに特徴的な楕円形状を表現するための手法として、変形楕円を用いた形状分解手法を提案する。この結果を用いて台風の日変化の解析という台風解析の問題に取り組んだところ、本論文で提案する手法は、気象学的知見と一致するような、気象学的に意味のある情報を抽出することができた。
著者
北本 朝展
雑誌
じんもんこん2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.3, pp.9-16, 2014-12-06

遷画とは画像の収集と並べ替えに基づく参加型キュレーションシステムである.クラウドソーシングの観点から見れば,遷画は文脈依存的なアノテーションを通して画像に対する人々の多義的な解釈を引き出し,そのキュレーションを通して仮想展示「ツアー」を共有するシステムと位置づけることができる.2011年10月に遷画が東洋文庫ミュージアムに常設展示された後は,来館者が無料のお土産制作ツールとして遷画を利用する場合も増えたため,既に仮想展示の制作数は2600件を越えている.本論文はこうしたツアーが形成する集合的な文脈について,画像やツアーのレベルから分析を進めるとともに,展示の数学モデルを複雑ネットワークの手法などで分析し,展示の自動生成の可能性についても検討する.最後に遷画がミュージアムに対して与えるインパクトを,実例とともに議論する.
著者
北本 朝展 カラーヌワット タリン Alex Lamb Mikel Bober-Irizar
雑誌
じんもんこん2019論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.223-230, 2019-12-07

機械学習(ディープラーニング)を活用したくずし字OCRの研究が盛り上がりを見せている。こうした研究をさらに後押しするために、我々は世界最大の機械学習コンペプラットフォームであるKaggle上で、2019年7月から10月にかけて「くずし字認識」コンペを開催した。本論文はこのコンペの準備・経過・成果の各段階について、実際に行ったこととそこから得られた教訓をまとめるとともに、人文情報学の分野で機械学習コンペを活用することの価値を検討する。
著者
西村 陽子 北本 朝展
雑誌
じんもんこん2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.3, pp.43-50, 2014-12-06

本論文はシルクロード東部地域を代表する都市遺跡・高昌故城を取り上げ,従来は不正確とみなされていた地図を位相的な特徴に基づき解釈する方法を提案し,現在では所在が不明となっている探険隊調査遺構を同定できることを示す.約100 年前,日欧のシルクロード探検はこの遺跡を発掘調査し,仏教・マニ教キリスト教の遺物など多彩な出土物を獲得した.中でも特にドイツのグリュンウェーデルの調査報告は,時期の早さと細かな平面図を残していることから最も重要な報告とされている.しかしこの地図は歪みが大きく,我々は報告書と現地の遺構と照らし合わせてもどの遺構を記録したのかほとんど把握することができないという問題に遭遇してきた.本論文ではこの問題を解決するために,地図の性質に着目し地図の持つ位相的な特徴に基づいて読み解く方法を提案し,これを「地図史料批判」と呼ぶ.まず我々はグリュンウェーデルとスタインの地図を現況と比較するためにKMLファイルを作成した.さらに歪みの大きい地図の詳細な比較を支援するツールとして古地図と現代地図をピン刺し(pinning)した地点を基準に重ね合わせることができる「マッピニング(Mappinning)」を開発した.次に,地図の位相的な解釈を行う方法を提案し,平面図や古写真と現代写真,地図を使うことで古代都市遺跡の遺構同定が進むことを示す.そして最後にこれらのデータを遺跡データベースとして蓄積する構想を述べ,こうしたデータベースが歴史学・考古学に持つ意義を述べる.
著者
北本 朝展 小野 欽司
出版者
国立情報学研究所
雑誌
NII journal (ISSN:13459996)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.15-26, 2001-03-30

本論文は、日本(国立情報学研究所)とタイ(アジア工科大学)の国際共同研究として進められているプロジェクト、すなわち台風画像データの収集および台風情報データベースの構築に関する報告である。過去の統計データによると東南アジア地域は、北西太平洋で発生する台風の約3分の1が通過する。この危険地域における台風災害を防止し損害を軽減するためには、台風解析と予報という問題に徹底的に取り組むことが重要である。本プロジェクトのユニークな点は、この問題に対して気象学の手法に基づく従来のパラダイムではなく、情報学の分野で発展したアイデアや手法を援用した情報学パラダイムに基づき、台風画像の大規模コレクションを研究の土台として挑戦するという点にある。本論文ではこのコレクションを主に気象衛星 GMS-5「ひまわり」の衛星画像から作成する。ただし GMS-5 を用いて東南アジア地域を観測する場合、衛星画像の実質的な解像度が低下し、雲形状が歪むという欠点が避けられない。そこで本論文では、別の種類の衛星画像、すなわちタイで受信する NOAA 衛星画像を組み合わせることにより、お互いの欠点を補完しつつ高品質な台風画像が生成できることを示す。さらにこのような大量の衛星データをネットワーク経由で交換するための基盤として、日本とタイの間で運用される SINET 国際回線が有効であることを述べる。
著者
井元 智子 北本 朝展
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.236-246, 2013 (Released:2013-12-27)
参考文献数
10
被引用文献数
1

農業分野におけるITの適用は集約的作物に多く,粗放的作物にはほとんどみられない.本研究では,南西諸島における主要作物のサトウキビを対象とし,粗放的作物に対するITの活用,特にリアルタイム情報共有の効果を検討する.サトウキビは収穫後に製糖工場にて加工される.この工芸作物としての特徴に着目し,サトウキビ収穫作業を支援するための携帯端末型アプリケーション“しゅがなび”を開発した.収穫機械の作業オペレーターが“しゅがなび”を使用することで,その位置情報と作業情報がサーバーに送られ可視化される.“しゅがなび”を使用することにより,天候などによる収穫計画の遅れに対して収穫機械を適正に,かつ迅速に再配置するための支援が可能となった.次に,収穫作業に関係する農家・オペレーター・製糖工場の,収穫期間において刻々と変化する収穫状況に関する情報の共有状況を精査した.その結果,一部でのみ共有されている情報が多く,“しゅがなび”による情報の共有化が,収穫順番における三者の合意形成に活用可能であることが示唆された.最後に,関係者全員が収穫期間を通して“しゅがなび”を使用することにより,実際の導入における問題点を明らかにした.
著者
北本 朝展 橋本 雄太 加納 靖之 大邑 潤三
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

「歴史ビッグデータ」とは、現代のビッグデータ解析技術を過去の世界に延長し、過去の世界を新たな視点から探る研究である。人工知能(AI)やシミュレーションなど最新のデータ駆動型モデルを活用するには、くずし字で書かれた史料に残された記録をどう入力すればよいだろうか?史料とデータ駆動型モデルを結合する鍵を握るのが、文書空間と実体空間を結合する「データ構造化」ワークフローである。そこで、文書のテキスト化やマークアップなど文書空間に関する技術と、地名エンティティなど実体空間に関する技術を研究し、分野横断的研究基盤に実装することで、歴史地震学や歴史気候学などの分野で歴史ビッグデータ研究を推進する。
著者
山本 峻平 髙橋 彰 佐藤 弘隆 河角 直美 矢野 桂司 井上 学 北本 朝展
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

デジタル技術とオープンデータ化の進展によりデータベースの活用が注目されている。近年では、インターネット環境の充実により画像や写真に関するデータベースの制作が多くなってきている。例えば、横浜市図書館や長崎大学図書館における古写真データベースなどがあげられる。これらの写真は明治・大正頃の写真や絵ハガキを中心に構成されるが、当時の都市景観がわかるデータベースとして貴重である。発表者らも立命館大学において戦後の京都市電を主な題材とした『京都の鉄道・バス写真データベース(以下京都市電DB)』を公開している(http://www.dh-jac.net/db1/photodb/search_shiden.php)。京都市電DBの活用策としては市電車両を被写体としながらも当時の都市景観が背景として写りこんでいることから、景観研究や都市研究に活用できること、また、年代が戦後から廃線の1978年までの時代であり、記憶の呼び起こし、まちあるきや観光への応用が期待できる。<br>近年、まちあるきが人気を集め、テレビや雑誌などで特集が組まれ、関連する書籍が多く出版されている。その中で、景観の変化や復原、相違点を探すことが行われているが、過去の景観を示す資料は探しだすことは容易ではない。そのような資料の一つとして京都市電DBを活用することが期待される。<br>写真データベースに収蔵されている写真を現地に赴き照合することで、当時の景観との差異が発見でき、まちあるきのアクティビティとして楽しむことができる。また、まちあるきの利用だけではなく、当時の景観との比較から眠っていた当時の記憶が呼び起こされ、記憶のアーカイブなどの研究へも活用できる。<br>本研究は、写真データベースのまちあるきツールとしての有用性の検証を行うとともに、記憶を呼び起こすツールとしての有効性についても検証を行なう。<br>本研究では、国立情報学研究所の北本氏を中心とした研究グループが開発を行っている、アンドロイド・スマートフォン用アプリ、「メモリーグラフ」をアレンジし、「KYOTOメモリーグラフ」アプリを作成し、使用する。アプリには当時の写真が位置情報を持った形で収蔵されおり、それを基に撮影された場所に赴く。次に、スマートフォンの画面に当時の写真を半透明で表示することが出来るので、今昔の写真を重ね合わせ、当時と現在の同アングルの撮影が可能となる。また、撮影された写真には位置情報が付加され、撮影場所の地図による表示やGISと連動することができる。さらに、撮影した写真にはタグが入力でき、コメントや思い出などを入力することができる。これらのデータはスマートフォン内部だけでなく、サーバーに保存することができ、撮影された今昔の写真データや付加されたコメントなどのメタデータをアーカイブし蓄積することができるようになっている。また、当時の写真を現在の風景と重ねる行為は撮影位置や傾きなど撮影時の条件に近づけなくてはならず、当時の撮影者の追体験が得られる。現在、実証実験と位置づけ、プロジェクトメンバー及び近接の関係者数人を被験者として「KYOTOメモリーグラフ」を利用したまちあるきを数回実施する予定である。被験者にはこちらで用意したスマートフォンを貸与するほか、各自のスマートフォンを用いる。今回の実験は、グループで実施し、機器やアプリへの習熟度、安全性、行動観察などを検証する。
著者
北本 朝展
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.240-246, 2021-06-01 (Released:2021-06-01)

第四パラダイムとは,実験・観測科学,理論科学,計算科学に続く第四の科学研究の枠組みであるデータ中心科学を指す言葉である。大規模データを集約したデータベースの構築から始まり,データ駆動型分析を通して新しい知見を得るという科学研究の方法論が様々な分野に浸透し,X-インフォマティクスと呼ばれる新しい分野群を形成しつつある。本論文はX-インフォマティクスの特徴を概観するとともに,いくつかの分野における事例をもとに,その強みと弱みをまとめる。さらにX-インフォマティクスが引き起こす研究方法の変化についても,測定者と解析者の分離と信頼などの点から論じる。
著者
鈴木 親彦 髙岸 輝 本間 淳 Alexis Mermet 北本 朝展
雑誌
じんもんこん2020論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.67-74, 2020-12-05

本論では,美術史の様式研究の大規模化を試みた.まず,顔貌データセットの構築に機械学習とIIIF Curation Platform(ICP)を活用し,さらにICPの新ツールであるIIIF Curation Boardを利用して大規模な画像を対象に様式比較・図像比較を行う方法論を提案する.そして『遊行上人縁起絵巻』の写本の一つである『清浄光寺甲本』を対象とし,500を超える顔貌から,絵巻内の様式の異同と僧侶・尼僧の描き分けを分析する.