著者
吉野 正敏 岩田 修二 藤田 佳久 吉村 稔
出版者
愛知大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

平成5年度の研究では,次のような結果をえた。(1)東アジア・東南アジア・南アジア・北オーストラリアを含む地域における夏と冬の季節風循環は,最終氷期(18,000年〜20,000年B.P.)について復元すると,低緯度では不活発で,現在に比較して乾燥していた。一方,後氷期の8,500年〜7,000年B.P.の温暖化してきた時代は,特に南半球の冬すなわち北半球の夏のSW季節風は強く,北半球の低緯度では活発で対流活動が強く,現在に比較して湿じゅんであった。(2)このような状態は歴史時代の寒冷と温暖な時代にもあてはまるのではないかと考えられる。寒冷な時代,35Nより北側では湿じゅんだが35Nより南側の低緯度側では乾燥で,地中海東部・中近東・東アフリカなどでこのコントラストが明らかであるが,東アジアではやや不明瞭であったと推定される。(3)中国の人口増減・戸数の増減を歴史時代の2,000年間についてみると,2世紀,6〜8世紀,11〜12世紀に拡大がある。これらはいずれも気候が温暖な時代に相当する。また,温暖な時代には黄河下流域や揚子江最下流域の人口密度も増大する。逆にやや寒冷な時代には華南の諸省で人口や戸数が増加する傾向が認められた。(4)清朝の中・後期の水害頻度は1855年までは黄河が准河の下流に流入していたため、発生した場合が多い。その後,黄河は北流し,准河流域の水害頻度はこの流域内だけに起因する水害となった。すなわち,十年〜数十年の時間スケールでみる古環境変遷には人間活動の影響が大きい。(5)日本の歴史天候データベースを構築しつつ,江戸時代の降水量分布について考察した。その結果,十数年スケールでみた同じような寒冷な時代でも,日本の中間降水量分布にはいろいろな型があることがわかった。(6)最後に以上の結果をまとめて,気候条件と人間活動の関連図を作った。
著者
吉野 正敏 岩田 修二 藤田 佳久 吉村 稔
出版者
愛知大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

今年度は東アジアにおける歴史時代の中で特に温暖であった8〜9世紀と寒冷であった18〜19世紀の気候特性を明らかにし、その機構を明らかにした。そしてそれぞれの時代における気候が人間活動に及ぼすインパクトについて考察した。(1)中国東北部に8〜10世紀前半に栄えた渤海国をとりあげ、日本との間の渤海使・遺渤海史について考察した。その結果、季節性が極めて明瞭で、冬の季節風の利用、最も強い危険性をもつ期間をさけたことなどが考えられた。また、多少高湿であったため、牧草の生育には好条件で牧蓄業を背景とする国家経済の安定が国家成立を支えたと思われる。(2)華南の人口は上述の寒冷な小氷期には急激な上昇を示めす。また、反対に古代の暖った期間には華北や、現在のモンゴル地域には人口増加が明らかであった。(3)中国の清代の長江流域の洪水記録によると1736年〜1911年に多く、例えば長江の洪水流域には、1700年代中期、1820〜1850年、1880〜1990年の3つのピークがある。多雨であったばかりでなく、地方経済の弱体化にともなう堤防管理の悪化も原因の一つであったと考えられる。(4)古日記を利用して江戸時代の日本の天候を復元してその経年変化をみると、天保期の変動は近畿地方が東日本より顕著である。そしてその変動傾向は逆である。また、飢饉年でも日本全体がひと夏中同じ傾向を示す場合は少なく、季節の前半と後半で差がある年が多かった。(5)東ヒマラヤ・東南チベット・雲南省などでも5,000〜4,000年前は高温多湿であった。その後、1200〜700年前にも温暖な時代があったがチベット文化圏の拡大によって人間活動が活発化し、森林が破壊された。
著者
吉野 正敏
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.223-233, 1990-10-28 (Released:2017-04-27)
被引用文献数
1

Luosanfung is a foehn wind blowing on the west coast of Hengchun Peninsula, the southern-most part of Taiwan. In order to describe its climatological features, observed records at the meteorological observatories and a result of field observation by the author were analysed and the following summaries are obtained. It blows strongly in the winter months, particularly under the winter monsoon synoptic situation. In addition to the macro-scale winter monsoon situation, when the local anticyclone is formed in the region of the mouth of Yangtze River and the cyclone in the Basi Channel, NE wind develops strongly on the southern-most part of Taiwan. In most cases, Luosanfung develops more at night than in day time. Air temperature is 2-3℃ warmer, relative humidity is lower and sunshine hour is longer on the west coast than on the east coast under the typical Luosanfung condition. The local peoples suffer frorn the strong wind for bicycle or motor-cycle driving, house construction and agricultural land use. The onion production is increasing by utilizing the wind conditions in this area. According to an estimation by the wind-shaped trees, Luosanfung develops on the west coast after passing over the low mountain area and flowing down along the relatively lower parts of the hilly area.
著者
吉野 正敏 工藤 剛彦 星野 光子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.205-210, 1973-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

えられた結果を要約すると次の通りになる. 1) 海風の開始時刻は,夏は10時(±1時間)で,その他の季節は12~13時のことが多い.しかし,季節変化は比較的小さい.終了時刻は,18時以降で夏に遅く23~24時になり,季節変化が比較的大きい. 2) 風向が陸風から海風に移行するとき,または海風から陸風に移行するときは, 1~2時間の移行時間がある場合が多い.どちらが長いかは,地点により異なる. 3) この移行時間の風向は,陸風から海風へ,または海風から陸風へ時計廻りに連結する風向である. 4) 海風と陸風の風速を比較した場合,海風の方が強い.春~夏における最大風速では,海風を1とすると陸風はほぼ0.7~0.8倍の強さである. 5) 海風の風速の最大は13~16時ごろ現われる.しかし午前に極大がでるところもある.陸風には,海風ほど顕著に現われる時間帯がない. 6) 夕なぎは明らかで海風の最強時の1/2~1/3の風速に弱まる.朝なぎは明らかでない. 7) 日の出後で,しかも陸風の終るころ, 8~10時に風速の極大がでることがある. 8) 海風の風速,安定した風向の出現からみると,海風が明らかに発達するのは, 4月から10月までである.
著者
原田 和雄 松川 正樹 吉野 正巳 犀川 政稔 佐藤 公法 林 慶一 長谷川 正
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
科学教育研究 (ISSN:03864553)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.316-330, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
24

The research activities that scientists perform routinely were analyzed and divided into stages. The research process of inquiry-based science in school was developed on the basis of the results of the analysis of scientists’ research activities. Two possible approaches were considered in the research process of inquiry-based science. Pathway 1 starts from the first stage of the inquiry-based science, which is the stage of having interest, curiosity or questioning. Pathway 2 starts just from the stage of defining the problem after presentation of a problem to students from a teacher or an advisor. Pathways 1 and 2 are the same after the problem defining stage, because a concrete inquiry activity starts after defining the problem. The main stages after defining the problem are developing a strategy for problem solving, observations or experiments, summarization of results, discussion and reaching conclusion. The scientific ability to be developed at each stage of the inquiry-based science was defined on the basis of the activities of researchers at the corresponding stage of scientific research. The activity at each stage was analyzed and defined as “Science Activity” and “Remarks on the Activity” and the results were summarized.
著者
三浦 文子 吉野 正代 富岡 光枝 長谷川 美彩 田中 康富 嶺井 里美 尾形 真規子 佐藤 麻子 岩本 安彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.865-870, 2009-10-30 (Released:2010-03-01)
参考文献数
8

簡易血糖測定器は,糖尿病患者が自己管理に用いるだけでなく,臨床現場での迅速な血糖測定に活用されることも多い.安定性については今までにも報告されているが,近年,測定時間の短縮化,血液量の微量化などの改良がなされてきている.そこで,環境・検体要因が血糖測定の安定性に支障をきたすことがないか,5機種の簡易血糖測定器を用いて,高低3濃度の血糖値について検討を行った.5機種とも同時再現性と希釈直線性は良好であった.静脈血血漿と指尖血全血の相関は各機種とも良好であったが,測定環境,患者因子,共存物質の影響で測定原理の違いや機種により測定値にばらつきが認められた.特に,環境因子の影響は血糖濃度により差異が認められ,使用方法や測定環境と共に,血糖実測値の高低による各因子の影響を含め測定値の評価をする必要のあることが示された.