- 著者
-
中島 直子
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2007, pp.39, 2007
<BR> 英国の社会改良家オクタヴィア・ヒルはオープン・スペース運動の中心人物である.同運動は1880年代から1890年代にかけて全盛期となる.ヒルは同運動を発展させるために,関係者と協力し,コモンズ保存協会・カール協会・首都圏公共公園協会・コモンズ保存協会ケント・サリー委員会・ナショナルトラストなどオープン・スペース運動を行う複数の組織の充実や創設に関与する.ヒルは同運動を,労働者階級を対象とする住宅改良運動を行う仲間たちと共に始めるが,イングランド教会の牧師,博愛主義者,芸術家,高位聖職者,労働者層らも協力した.シティ,教区会,地域委員会区,首都圏建設局など地方自治体の議員,ならびに上下両院の国会議員ともヒルは交渉があった.オープン・スペースを都市内外に保護する活動を全英に周知させ,同運動を発展させるには,国会での同問題の発議・審議,さらに法案の制定など国会議員との連携が必要であったからである.<BR> 1850年代~1880年代にかけてヒルが友人に宛て書いた書簡を中心資料として,彼女と議員と社交の拡がりを示す.ヒルはシャフツベリー,ケイシャトルワース,ショールフェーブル,クロス,ホランド,ブライス,オコナーらの国会議員との交渉があった. 上記議員の所属は上下両院,与野党,自由・保守両党と様々であるが,彼らは各々の立場と得意とする諸分野とから社会改良を実現させようとするリベラルな議員であった.なかには福音主義者やアイルランド自治論者も含まれた.<BR> 今回の発表では,ヒルや議員の著した論文ならびに国会議事録を資料に加え,彼女と国会議員との交渉の内容と拡がりを検証する.19世紀後半の英国で,オープン・スペース運動が,どのような議員の関心と支持を得ていたのか.ヒルはどのように巧みに活動し,同運動を強化,発展させることに成功したのか明らかにする.