著者
高橋 均 荒 このみ 山本 博之 増田 一夫 遠藤 泰生 足立 信彦 村田 雄二郎 外村 大 森山 工
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

戦後、欧米先進諸国に向けて、開発途上国出身の多くの移民が流入し、かれらを文化的に同化することは困難であったため、同化ではなく統合を通じてホスト社会に適応させようとする≪多文化主義≫の実験が各地で行われた。本研究課題はこのような≪多文化主義≫が国際標準となるような≪包摂レジーム≫に近い将来制度化されるかを問うものである。結論として、(1)≪多文化主義≫の背景である移民のエンパワーメントは交通・通信技術の発達とともになお進行中であり、いまだバックラッシュを引き起こす危険を含む。(2)第一世代はトランスナショナル化し、送出国社会と切れず、ホスト社会への適応のニーズを感じない者が増えている。(3)その反面、第二世代はホスト社会の公立学校での社会化により急速に同化し、親子の役割逆転により移民家族は不安定化する。このために、近い将来国際標準的な≪包摂レジーム≫の制度化が起こる可能性は低い。
著者
村田 雄哉 猪股 伸一 山口 哲人 渡辺 雅彦 玉岡 晃 田中 誠
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.50-53, 2015 (Released:2015-03-07)
参考文献数
8

患者は生来健康な26歳,女性.職業はキャビンアテンダント.勤務中に乗客の重い荷物を全身の力で頭上の棚に持ち上げ,その夜より強い頭痛と嘔気が生じた.頭痛や嘔気は立位や夕方に増強し,臥位で改善した.computed tomography(CT)脊髄造影で髄液漏出が認められ,脳脊髄液減少症と診断された.治療として硬膜外生理食塩液持続注入を行い,症状・activities of daily living(ADL)ともに改善がみられた.合併症が多いと考えられる硬膜外自家血注入を行わず,安全かつ効果的に治療することができた.また,非外傷性の脳脊髄液減少症は発症契機が不明なことが多いが,本症例では重い荷物を頭上に持ち上げるようなストレッチ運動が契機となった可能性が高いと考えられた.
著者
村田 雄哉 猪股 伸一 山口 哲人 渡辺 雅彦 玉岡 晃 田中 誠
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.14-0020, (Released:2014-12-26)
参考文献数
8

患者は生来健康な26歳,女性.職業はキャビンアテンダント.勤務中に乗客の重い荷物を全身の力で頭上の棚に持ち上げ,その夜より強い頭痛と嘔気が生じた.頭痛や嘔気は立位や夕方に増強し,臥位で改善した.computed tomography(CT)脊髄造影で髄液漏出が認められ,脳脊髄液減少症と診断された.治療として硬膜外生理食塩液持続注入を行い,症状・activities of daily living(ADL)ともに改善がみられた.合併症が多いと考えられる硬膜外自家血注入を行わず,安全かつ効果的に治療することができた.また,非外傷性の脳脊髄液減少症は発症契機が不明なことが多いが,本症例では重い荷物を頭上に持ち上げるようなストレッチ運動が契機となった可能性が高いと考えられた.
著者
村田 雄二郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

研究1年目の今年度は、当初の研究計画にしたがい、備品購入による研究環境の整備、基礎的な文献の収集と調査を行った。また、北京に出張した機会を利用して、中央民族大学を訪問し、胡振華・索文清教授と面談し、中国の民族学研究をめぐって、研究交流を進めた。索教授からは、大陸におけるチベット近現代史研究の現況に関して、貴重な提言と示唆を得た。さらに研究開始後まもなく、日本の外交資料館に収蔵される外交文書「西蔵問題及事情関係雑纂」に、本研究に有用な資料が含まれることが判明した。次年度も引き続き、これらの資料や情報を活用した研究を進めて行くつもりである。以上の作業にもとづく今年度の研究成果は、次の通りである。1、 南京国民政府はその成立当初から、周辺民族、とくにチベット・新疆・モンゴルの統合問題を重要な政治課題に掲げ、行政院(内閣)に蒙蔵委員会を設置するなど、その実効支配のための制度や環境を整えようとした。2、 しかし、そうした努力にもかかわらず、対チベット関係においては、東チベット地区(中央は1939年に西康省を設置)で1930年唄から、チベット・漢軍の激しい武力衝突が頻繁に発生したことが物語るように、中央政府がチベットに実効支配を及ぼす力はなかった。1931年の満州事変が、国民政府による国家統一の危機をさらに深めたことはいうまでもない。3、 こうした状況の中で、1933年にダライ・ラマ13世が死去したことは、中央政府にチベット「介入」へのまたとない機会を提供するものだと受けとめられた。34年、ラサでのダライ・ラマの葬儀に列席した黄慕松は、中央大官の初めてのラサ入りとなった。また、40年の新ダライ・ラマ即位式典に蒙蔵委員会委員長呉忠信が参列したことは、国民政府のチベット関与を一歩前進させるきっかけになった。4、 ただし、呉忠信の式典参加をめぐっては当時から、「主宰」か「参列」かで、その解釈が大きく分かれており、民国期の中蔵関係を考える上での、一つの焦点となっている。次年度は、この点に的を絞り、黄慕松および呉忠信のチベット入りをめぐる中蔵関係の展開について、档案資料を駆使した個別研究を行うことにする。
著者
村田 雄一 大橋 秀行 添田 啓子 久保田 富夫
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.459-467, 2020-08-15 (Released:2020-08-15)
参考文献数
23

要旨:本研究は,医療観察法の入院医療における作業療法実践から,介入の焦点や技術と作業療法士の役割について明らかにすることを目的とした.この医療に従事するエキスパートの作業療法士を対象に半構造化面接を行い,質的分析を実施した結果,本人の“守りたい暮らしの安定”を目指す作業療法実践の概念的構造が得られた.この医療における多職種チームの中で作業療法士は,対象者の守りたい暮らしを主眼におき,当たり前の日々の生活の中にある作業(occupation)を安定してできるようにともに取り組むことにより,間接的に再他害行為を防止することを担っている.
著者
村田 雄
出版者
Waseda University
巻号頁・発行日
2004

近年,OSは様々な要求を取り込むために機能が増加し,その構造が大規模化,複雑化している.この様な状況の中,膨大なソースコードをもつLinuxのようなOSは理解が困難であり,OSの内部構造を学ぶ上では不適切である.そこで我々は,小規模なOSであるOS/161をARMプロセッサ向けに移植を行った.これにより,OSを理解する上でOSの移植は非常に効率の良い方法であることが分かった.また,組み込み機器では応答性やリアルタイム性といった要素は重要であるため,その性能を向上させる手法としてCopy-on-Writeの実装および評価を行った.この結果,Copy-on-Writeは性能改善に非常に有効であり,最悪なケースでもオーバヘッドは1.39%と非常に小さいことが分かった.
著者
山元 直道 古賀 誠 村田 雄一 森田 三佳子 松本 俊彦
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.391-397, 2023-06-15 (Released:2023-06-15)
参考文献数
21

筆者らは地域生活を送る,薬物や処方・市販薬の物質使用障害者を対象とした作業療法プログラム「Real生活プログラム(以下,リア活)」を開始した.本研究の目的は,リア活に参加した対象者のケアニーズや生活上の目標をテキストマイニングの手法で分析し,本プログラムの今後の方向性を検討することである.リア活参加者30名の分析の結果,共起ネットワークでは8個のサブグラフが検出され,人とのつながりや社会復帰,薬物への欲求対処,生活の改善・安定,就労準備に分類できた.リア活は,複雑な背景や症状を抱える物質使用障害に対するテーラーメイドの治療の役割を果たし,参加者が新たに人-作業-場所とつながるきっかけとなる.
著者
松本 直久 福永 智栄 門馬 和枝 村田 雄哉 岡部 大輔 石川 慎一
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.137-141, 2023 (Released:2023-05-16)
参考文献数
11

直腸テネスムスとは排便がない,もしくは少量しか出ないにもかかわらず,頻繁に便意を催す不快な感覚である.抗不整脈薬や神経ブロックによる治療の報告があるが確立された治療法はない.患者は68歳の女性.子宮頸がん術後,再発腫瘤による尿管圧排のために水腎症となり,左右の腎瘻が造設されていた.腹膜播種による腸閉塞のために緊急入院後,症状緩和を主体とする方針になった.薬剤では軽快しない直腸テネスムスに対して神経ブロックを計画した.不対神経節ブロックは効果不十分,サドルフェノールブロックは施行困難であった.局所麻酔薬を用いた持続仙骨硬膜外ブロックにて効果を確認した後に,神経破壊薬を用いた仙骨硬膜外ブロックを行ったところ直腸テネスムスは消失した.ブロック後5日目に退院が可能となり,症状の再燃はなくブロック後12日目に自宅で永眠した.神経破壊薬を用いた仙骨硬膜外ブロックは直腸テネスムスに有効と考えられる.
著者
張競 村田雄二郎編
出版者
岩波書店
巻号頁・発行日
2016
著者
柴田 梓沙 濱田 真一 島 佳奈子 智多 昌哉 大西 洋子 山嵜 正人 村田 雄二
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.218-224, 2021 (Released:2021-08-07)
参考文献数
31

妊娠女性の高齢化に伴い子宮筋腫合併妊娠や癒着胎盤は増加傾向にあり,両者の合併で方針に苦慮することがある.今回われわれは,子宮体部前壁下部筋腫に加え帝王切開瘢痕部を覆う前壁付着胎盤で癒着が疑われる症例を経験した.前壁付着の前置胎盤に準じ子宮底部横切開による帝王切開術を選択し,良好な経過を得たので報告する.症例は37歳,7妊3産,3回の初期中絶既往があり,第1子は妊娠32週前期破水経腟分娩,第2子は妊娠39週経腟分娩,第3・4子は妊娠33週双胎妊娠前期破水にて緊急帝王切開分娩であった.今回は自然妊娠であった.初期より子宮体部前壁下部に10 cm大の変性筋腫,子宮後壁に5 cm大の筋腫を認め,妊娠16週で当院に紹介された.胎盤は帝王切開瘢痕部を覆うように子宮前壁全体に付着していた.妊娠後期のMRI検査にて癒着胎盤の可能性も示唆されたため,周術期の出血のリスクや子宮を温存した場合の出血・感染のリスク,今後変性筋腫に対し子宮摘出が必要になる可能性を説明し,明確な挙児希望がなかったため本人・家族の同意を得て子宮底部横切開による帝王切開術および子宮摘出を行う方針とした.妊娠37週4日に硬膜外麻酔および腰椎麻酔下に尿管ステントカテーテル留置後,帝王切開術を実施した.児は2880g男児,Apgar score 8/9であった.胎盤を遺残させたまま筋層を仮縫合した後,腟上部切断術を行った.術中出血量は750 ml,手術時間は1時間24分であった.術後経過も良好で,術後7日目に母児ともに退院となった.胎盤病理では癒着胎盤を示す明らかな所見は認めなかった.子宮体部前壁下部筋腫合併妊娠では通常の子宮下節切開が困難で児の娩出に難渋することがある.本症例では子宮全摘を前提に子宮底部横切開による帝王切開術を行った.子宮底部横切開は,胎盤前壁付着の体部前壁下部筋腫症例にも応用ができると考えられる.〔産婦の進歩73(3):218-224,2021(令和3年8月)〕
著者
村田 雄司
出版者
日本エアロゾル学会
雑誌
エアロゾル研究 (ISSN:09122834)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.98-103, 1987-06-20 (Released:2011-06-28)
参考文献数
4
著者
黒木 太司 山岡 幸一 石川 頌平 村田 雄介 出穂 剛史 米山 務
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌. C, 電子・情報・システム部門誌 = The transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan. C, A publication of Electronics, Information and System Society (ISSN:03854221)
巻号頁・発行日
vol.128, no.6, pp.825-831, 2008-06-01
参考文献数
9
被引用文献数
1

An NRD guide pulse radar front-end was fabricated for level sensor applications at 60 GHz. Main emphasis was placed on circuit configuration. Typically, an oscillation power is divided by a junction circuit and is introduced into two parts. One is for transmitting wave, and the other is for LO wave to perform hetero-dyne detection. The frequency of the former is up-converted so as to be different from the frequency of the LO wave, and thus, a power amplifier is installed in the transmitting side due to low output power of the up-converted millimeter-wave. In this paper, we proposed a new circuit configuration, which consists of a Gunn oscillator with two output ports to eliminate a junction circuit, a direct pulse-modulator to obtain a high level transmitting power without an expensive millimeter-wave power amplifier, and a filter-based down-converter with an up-converter as a local oscillator.<br>Range finding was performed by using the NRD guide pulse radar, however multi-reflection occurred between a target and a planar antenna due to a pencil beam radiation of our developing planar antenna, so that precise distance estimation could not be performed for short range detection. With this in mind, an FPGA-based signal processor was developed in order to eliminate such multi-reflection. The sequential sampling method was employed to reduce experimental errors, which were investigated in terms of difference of periods between a modulated pulse train and a sequential sampling clock. The error of range finding was successfully reduced to be less than 2 % for the distance range from 2 m to 10 m under multi-reflection environment.
著者
鈴木 静香 村田 雄二 杉本 彩 永井 智貴 正木 信也 田中 暢一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb0511, 2012

【はじめに、目的】 上腕骨近位部骨折や鎖骨骨折患者において、困難となる日常生活動作の一つとして結帯動作がある。しかし、結帯動作の制限因子について言及している文献は少なく、その因子も画一化されたものではない。そこで、結帯動作を再獲得するため、その制限因子を検討した。結帯動作を運動学的に捉えると、肩関節伸展・内旋・外転の複合運動である。また、解剖学的に捉えると、肩関節の筋・靭帯・関節包の影響を受けると考えられる。今回は制限因子として短期間で効果が得られる筋に着目し、制限因子を検討することとした。【方法】 対象は右上肢に整形外科疾患の既往のない健常者15名(男性11名・女性4名、年齢:22~37歳)とした。結帯動作の運動学的要素のうち肩関節伸展・内旋の可動域(以下ROM)に影響する筋として、烏口腕筋・棘下筋・小円筋を対象とした。各筋に2分間ストレッチを実施する群と筋に介入を加えず2分間安静臥位とする群の計4群(烏口腕筋群・棘下筋群・小円筋群・未実施群とする)にて、前後の結帯動作の変化について検討した。結帯動作は立位にて右上肢を体幹背面へと回し、第7頸椎棘突起-中指MP関節間の距離(以下C7-MP)を測定し、各筋の介入前後にて評価した。C7-MPの変化は、実施前の距離を100%とし変化率として表した。被験者15名には各筋に対する介入効果が影響しないよう、各群間で介入後1週間以上の期間を設けて実施した。次に、C7-MPの変化に及ぼす因子の検討として、肩関節でのLift off・第2内旋・伸展の3項目(以下関連項目)を測定した。Lift offの測定は、腹臥位にて右上肢を体幹背面へと回し、尺骨茎状突起をヤコビー線に合わせ、肩関節内旋により尺骨茎状突起がヤコビー線から離れた距離とした。統計処理は、C7-MPの変化率について4群間での比較を一元配置分散分析にて行い、多重比較はTukey法を用いた。次に、有意差を認めた2群間について関連項目での比較にはt検定を用いた。有意水準はそれぞれ5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に対して事前に研究参加への趣旨を十分に説明し、同意を得た。【結果】 C7-MPの変化率については烏口腕筋群と未実施群間(P=0.006)、棘下筋群と未実施群間(P=0.009)で有意差を認めた。有意差を認めた各群間での関連項目の検討では、烏口腕筋群と未実施群間で第2内旋ROMに有意差を認め(P=0.009)、棘下筋群と未実施群間で伸展ROMに有意差を認めた(P=0.019)。【考察】 烏口腕筋と棘下筋が、介入前後でのC7-MPの変化率に未実施群と有意差を認めたことより、これらの筋が結帯動作の制限因子となっていることが示唆された。また、烏口腕筋への介入により第2内旋ROMの改善を認め、棘下筋への介入により伸展ROMの改善を認めており、運動学的にこれらが結帯動作改善の因子と考えられる。烏口腕筋・小円筋は起始・停止より、第2内旋ROMの制限因子と考えられる。結果では、烏口腕筋のみに結帯動作の改善を認め、第2内旋ROMの改善に関与していた。烏口腕筋は、肩関節前面に位置しており、小円筋は後面に位置している。結帯動作では肩前面に伸張が生じることから、烏口腕筋の介入の影響が大きかったと考える。棘下筋は伸展・内旋で伸張されるという報告があり、伸展ROMの制限因子と考えられ、烏口腕筋も起始・停止より伸展ROMの制限因子と考えられる。結果では、棘下筋のみに結帯動作の改善を認め、伸展ROMの改善に関与していた。これらの筋は、伸展・内旋ROMに関与しており結帯動作の制限因子となると考えられる。烏口腕筋に有意差を認めなかった原因として、今回筋のみに着目しているが前関節包や靱帯の影響が大きく、伸展ROMの改善を認めなかったと考える。今後は、関節包や靭帯等も視野に入れた検討が必要である。今回、烏口腕筋・棘下筋・小円筋を対象に検討したが、小円筋は未実施群と有意差を認めなかった。有意差を認めなかった原因は、有意差を認めた烏口腕筋や棘下筋は肩関節中間位において肩関節伸展すると伸張される。しかし、小円筋は肩関節中間位では肩関節伸展時、伸張位とはならない。これより、小円筋への介入が結帯動作に影響を及ぼさなかったと考える。また、結帯動作では伸展運動が生じた後、内旋運動が生じる。以上を踏まえると、結帯動作の改善には伸展ROM改善の影響が大きく、棘下筋への介入により伸展ROM改善を認めたことから、棘下筋への介入が最も効果があるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 烏口腕筋・棘下筋が結帯動作の制限因子と示唆されたことにより、これらに介入する事で早期に結帯動作の再獲得となり、日常生活・QOLの改善につながると考える。
著者
鈴木 静香 村田 雄二 杉本 彩 永井 智貴 正木 信也 田中 暢一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0511, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 上腕骨近位部骨折や鎖骨骨折患者において、困難となる日常生活動作の一つとして結帯動作がある。しかし、結帯動作の制限因子について言及している文献は少なく、その因子も画一化されたものではない。そこで、結帯動作を再獲得するため、その制限因子を検討した。結帯動作を運動学的に捉えると、肩関節伸展・内旋・外転の複合運動である。また、解剖学的に捉えると、肩関節の筋・靭帯・関節包の影響を受けると考えられる。今回は制限因子として短期間で効果が得られる筋に着目し、制限因子を検討することとした。【方法】 対象は右上肢に整形外科疾患の既往のない健常者15名(男性11名・女性4名、年齢:22~37歳)とした。結帯動作の運動学的要素のうち肩関節伸展・内旋の可動域(以下ROM)に影響する筋として、烏口腕筋・棘下筋・小円筋を対象とした。各筋に2分間ストレッチを実施する群と筋に介入を加えず2分間安静臥位とする群の計4群(烏口腕筋群・棘下筋群・小円筋群・未実施群とする)にて、前後の結帯動作の変化について検討した。結帯動作は立位にて右上肢を体幹背面へと回し、第7頸椎棘突起-中指MP関節間の距離(以下C7-MP)を測定し、各筋の介入前後にて評価した。C7-MPの変化は、実施前の距離を100%とし変化率として表した。被験者15名には各筋に対する介入効果が影響しないよう、各群間で介入後1週間以上の期間を設けて実施した。次に、C7-MPの変化に及ぼす因子の検討として、肩関節でのLift off・第2内旋・伸展の3項目(以下関連項目)を測定した。Lift offの測定は、腹臥位にて右上肢を体幹背面へと回し、尺骨茎状突起をヤコビー線に合わせ、肩関節内旋により尺骨茎状突起がヤコビー線から離れた距離とした。統計処理は、C7-MPの変化率について4群間での比較を一元配置分散分析にて行い、多重比較はTukey法を用いた。次に、有意差を認めた2群間について関連項目での比較にはt検定を用いた。有意水準はそれぞれ5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に対して事前に研究参加への趣旨を十分に説明し、同意を得た。【結果】 C7-MPの変化率については烏口腕筋群と未実施群間(P=0.006)、棘下筋群と未実施群間(P=0.009)で有意差を認めた。有意差を認めた各群間での関連項目の検討では、烏口腕筋群と未実施群間で第2内旋ROMに有意差を認め(P=0.009)、棘下筋群と未実施群間で伸展ROMに有意差を認めた(P=0.019)。【考察】 烏口腕筋と棘下筋が、介入前後でのC7-MPの変化率に未実施群と有意差を認めたことより、これらの筋が結帯動作の制限因子となっていることが示唆された。また、烏口腕筋への介入により第2内旋ROMの改善を認め、棘下筋への介入により伸展ROMの改善を認めており、運動学的にこれらが結帯動作改善の因子と考えられる。烏口腕筋・小円筋は起始・停止より、第2内旋ROMの制限因子と考えられる。結果では、烏口腕筋のみに結帯動作の改善を認め、第2内旋ROMの改善に関与していた。烏口腕筋は、肩関節前面に位置しており、小円筋は後面に位置している。結帯動作では肩前面に伸張が生じることから、烏口腕筋の介入の影響が大きかったと考える。棘下筋は伸展・内旋で伸張されるという報告があり、伸展ROMの制限因子と考えられ、烏口腕筋も起始・停止より伸展ROMの制限因子と考えられる。結果では、棘下筋のみに結帯動作の改善を認め、伸展ROMの改善に関与していた。これらの筋は、伸展・内旋ROMに関与しており結帯動作の制限因子となると考えられる。烏口腕筋に有意差を認めなかった原因として、今回筋のみに着目しているが前関節包や靱帯の影響が大きく、伸展ROMの改善を認めなかったと考える。今後は、関節包や靭帯等も視野に入れた検討が必要である。今回、烏口腕筋・棘下筋・小円筋を対象に検討したが、小円筋は未実施群と有意差を認めなかった。有意差を認めなかった原因は、有意差を認めた烏口腕筋や棘下筋は肩関節中間位において肩関節伸展すると伸張される。しかし、小円筋は肩関節中間位では肩関節伸展時、伸張位とはならない。これより、小円筋への介入が結帯動作に影響を及ぼさなかったと考える。また、結帯動作では伸展運動が生じた後、内旋運動が生じる。以上を踏まえると、結帯動作の改善には伸展ROM改善の影響が大きく、棘下筋への介入により伸展ROM改善を認めたことから、棘下筋への介入が最も効果があるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 烏口腕筋・棘下筋が結帯動作の制限因子と示唆されたことにより、これらに介入する事で早期に結帯動作の再獲得となり、日常生活・QOLの改善につながると考える。