著者
松下 佳代 MATSUSHITA Kayo
出版者
名古屋大学高等教育研究センター
雑誌
名古屋高等教育研究 (ISSN:13482459)
巻号頁・発行日
no.14, pp.235-255, 2014-03

後期近代社会への移行が本格化した1990 年代以降、期待される学習成果(目標)として能力を掲げ、その学習成果を評価することが、高等教育において重視されるようになってきた。本稿の目的は、ルーブリックを用いた評価に焦点をあてて、学習成果としての能力の評価の可能性と課題を明らかにすることにある。そのために本稿では、AAC&U(アメリカ大学・カレッジ協会)の提案した、目標としての「本質的学習成果」と、評価ツールとしての「VALUE ルーブリック」を取り上げて、それがわが国の学士課程教育に与える示唆を検討した。本質的学習成果では知識・理解と区別される重要な一般的能力(あるいはジェネリックスキル)が抽出され、VALUE ルーブリックはその評価のためのメタルーブリックを提供している。だが、その範囲は教養教育に限定されており、わが国の学士課程教育全体をカバーするものではない。本稿では、歯学教育でのPBL におけるルーブリック開発の事例を取り上げて、職業教育と結びついた専門教育の中で、問題解決という一般的能力がいかに具体化され、評価されうるかを例証した。Since the 1990s, when the characteristics of late modern society became evident, higher education institutions and organizations began to establish generic competences as expected learning outcomes (i.e., goals) and assess them. This study examines the potential and challenges of assessing competences as learning outcomes, focusing on rubric-based assessment. We investigated the Essential Learning Outcomes (ELO) as goals and the VALUE Rubrics as an assessment tool, both of which were proposed by the Association of American Colleges and Universities (AAC&U), examining their implications for Japanese higher education. The ELO comprises important generic competences as well as disciplinary knowledge, and the VALUE Rubrics are designed as metarubrics to assess those competences. However, the ELO and the VALUE Rubrics cover only liberal education, not the full range of Japanese undergraduate education. Taking an example from a Problem-Based Learning (PBL) practice in a faculty of dentistry, we illustrated how problem solving competence is embodied in professional education as well as in liberal education and is assessed through rubrics localized for each discipline.
著者
長沼 祥太郎 杉山 芳生 澁川 幸加 浅川 裕子 松下 佳代
出版者
京都大学高等教育研究開発推進センター
雑誌
京都大学高等教育研究 (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
no.25, pp.13-24, 2019

本研究の目的は、学習者自身によるパフォーマンス評価の評価結果は妥当な評価に近づきうるかどうかを明らかにすることである。本研究ではまず、「市民的オンライン推論能力」を素材として、パフォーマンス課題とルーブリックを開発した。先行研究を参考に、回答を客観的に判断可能な箇所を課題に組み込み、ルーブリックとの対応関係を明確化して採点しやすさを追究した。次に、ある私立大学の学生90名がパフォーマンス課題に取り組み、ルーブリックを用いて自己評価・相互評価を行った。分析では、これらの学生の自己・相互評価の結果を課題作成者による評価結果と比較し、それらの一致度(一致率・相関係数)を算出した。その結果、いずれも高い一致度を示した。本研究は、学習者自身の自己評価や相互評価は、評価方法や対象とする能力によっては、より専門的な鑑識眼を持った採点者と大きな齟齬なく採点できることを示した。このことにより、パフォーマンス評価の実行可能性を高める上で、学習者自身の採点結果を使用できる可能性が示唆された。
著者
蓮 行 松下 佳代 田口 真奈 平田 オリザ 斎藤 有吾 安藤 花恵 芝木 邦也 川島 裕子
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

高等教育機関における教育への演劇的手法の活用に関して、特に看護分野での活用事例を分析し、プログラムの設計指針を構築することができた。さらに、事例分析の結果と作成した設計指針から、主に看護分野を対象としたロールプレイの手法を用いた教育プログラムである「模擬健康相談」を提案し、看護学部におけるモデル授業の実施と評価も行なった。その結果、プログラムの有用性の実感には課題が残ったものの、参加者が楽しんでプログラムに参加しており、また、看護師として患者に対応することの難しさを実感したことが示唆された。
著者
松下 佳代
出版者
京都大学高等教育研究開発推進センター
雑誌
京都大学高等教育研究 = Kyoto University Researches in Higher Education (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.67-90, 2019-12-01

本稿の目的は、汎用的能力を分野固有性と汎用性の関係から捉えること、さらには、先端事例としてミネルヴァ大学のカリキュラムの特徴を明らかにすることを通して、大学教育における汎用的能力の概念とその育成について再考することにある。本稿ではまず、汎用性を「分野固有性に依らない汎用性」「分野固有性を捨象した汎用性」「分野固有性に根ざした汎用性」「メタ分野的な汎用性」という4つのタイプに分類した。このうち、「分野固有性を捨象した汎用性」は見かけの汎用性であり、教育目標にはなりえない。残る3つのうち、「分野固有性に依らない汎用性」と「分野固有性に根ざした汎用性」は対照的な立場にある。前者は、汎用的能力の存在を前提とし、それをリスト化・目標化して育成しようとするのに対し、後者は、能力を基本的には分野固有のものとみなし、それが活用の文脈を広げることで汎用性を徐々に獲得していくと考える。4番目の「メタ分野的な汎用性」は、「分野固有性に根ざした汎用性」を土台として得られる俯瞰性である。続いて、このうち能力の汎用性についての最も強い主張であると考えられる「分野固有性に依らない汎用性」に焦点をあて、その典型例であるミネルヴァ大学の目標・カリキュラム・評価を検討した。ミネルヴァの取組は、学習転移の起こりにくさを根拠に能力の汎用性を否定する主張に対するチャレンジであり、カリキュラムマップとは異なるやり方でカリキュラムの体系化を図る方法を提示した点で注目されるが、日本の大学にそのまま採り入れることは困難である。最後に、日本の大学においては、ミネルヴァの成果を部分的にふまえながら、「分野固有性に根ざした汎用性」を追求することが提案された。
著者
衛藤 久美 中西 明美 藤倉 純子 松下 佳代 田中 久子 香川 明夫 武見 ゆかり
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.252-266, 2019-05-15 (Released:2019-06-11)
参考文献数
17

目的 埼玉県坂戸市が2006年より女子栄養大学と協働して取り組んできた,坂戸市全小・中学校における「坂戸食育プログラム」(以下,食育プログラム)の評価を行い,これまでの成果と今後の課題を明らかにすることを目的とした。方法 本プログラムの対象は,小学5年生から中学2年生の全児童生徒である。本研究では,2006年度から2014年度に実施された児童生徒および教師対象の調査データを用い,経過評価および影響評価を行った。食育プログラムの授業実施状況および学習者の反応を把握するための調査(調査A),食育プログラム実施者のプログラムに対する反応として,小・中学校教員の食育プログラムへの関わりによる変化を確認するための調査(調査B)のデータを用いて経過評価を行った。4年間の児童生徒の学習効果を確認するための追跡調査(調査C),各学年の児童生徒の学習効果を確認するための前後比較調査(調査D),4年間の食育プログラム学習後の生徒の状況を把握するプログラム終了後調査(調査E)のデータを用いて影響評価を行った。活動内容 小学校の4年目ならびに中学校の2年目に教員が回答した授業実施状況について,授業が指導案通り「実施できた」クラスが7割以上,教材を「すべて使用した」クラスが8割以上,学習内容を児童生徒たちが「ほぼ理解できた」クラスも5割以上だった。小学校教員ならびに中学校男性教員は,研修会参加や授業実施経験がある者において「食育への関心が高くなった」と回答した者の割合が高かった。児童生徒の学習効果について,4年間の食育プログラムの学習効果はみられなかったが,各学年の食育プログラム学習前後に,具体目標②「健康を考え,バランスの良い食事をとろう」に関する食態度が改善した。終了後調査より,4年度すべて9割以上の中学2年生生徒が,食育プログラムを「学習してよかった」と回答した。結論 食育プログラムは,継続的に実施され,教員の食育への関心を高めることに役立っていると示唆された。児童生徒は,授業に多く含まれる目標「健康を考え,バランスの良い食事をとる」ことに関する食態度で有意な変化がみられた。今後は,学習内容の改善や,継続的な食育プログラムの実施体制の推進の他,学校を拠点とし,児童生徒の家族等他世代へも波及するような食育の検討が必要である。
著者
松下 佳代
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2003-03

平成12-14度科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))研究成果報告書 課題番号:12480041 研究代表者:松下佳代 (京都大学高等教育教授システム開発センター助教授)
著者
田口 真奈 出口 康夫 赤嶺 宏介 半澤 礼之 松下 佳代
出版者
京都大学
雑誌
京都大学高等教育研究 (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.91-111, 2010-12-01
被引用文献数
2

The PPF program of the Graduate School of Letters, Kyoto University, is one of pioneering attempts of PPF in Japanese universities. This paper aims to describe the program against its international and national backgrounds, to evaluate it on the basis of, among others, interviews of its participants, and to outline its future prospects. The program started in 2009, and now it is in its second year. It was planned and run by a project team that consisted of staff of the Center for the Promotion of Excellence in Higher Education and the Graduate School of Letters. The authors of this paper are among its members. The program is also authorized and supervised by the committee of Faculty Development of Kyoto University. In 2009, 30 lecturers took part in the program. They were former students of the Graduate School of Letters, and taught as part time lecturers in undergraduate courses of the Faculty of Letters. The program was designed to be an example of mutual FD in which each lecturer was expected to peer review the classroom performances of his or her fellow lecturers. To carry out the task of mutual peer review, lecturers were asked to attend several lectures of their colleagues, discussion meetings that followed immediately after each lecture, and a half-day teaching seminar that was held at the end of the entire lecture series. Our research revealed that most participants positively and highly evaluated this program as a precious opportunity for improving their teaching skills. They also found that the program provided them with mental support and encouragement for their carrier making. Admittedly, follow up studies are needed to assess whether this program really contributed to the development of participants' teaching abilities. It remains a problem how to sustain this program and to incorporate it into a regular graduate school-level curriculum of teaching training.
著者
大山 牧子 村上 正行 田口 真奈 松下 佳代
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.105-114, 2010

本論文では,構造の異なる大学生対象の中国語e-Learning教材を用いて,学習者特性と学習行為の関連性を明らかにすることを目的とする.学習者特性としては,FELDERによってモデル化された学習スタイルのうち<活動-内省>の軸に着目し,協力者を選定した.その上でケーススタディを行い,学習行為のプロセスを詳細に分析し1面で見られるように可視化した.その結果,学習スタイルの違いが学習行為を決定付ける1つの要因としてあげられることが示唆された.