著者
布施 明 坂 慎弥 立澤 裕樹 吉野 雄大 萩原 純 布施 理美 宮内 雅人 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.703-710, 2016-12-31 (Released:2016-12-31)
参考文献数
9

ツイッターで熱中症の共起ワードに着目し,熱中症救急搬送者数との関係を検討した。2014年6月1日から9月30日の間の,日別の熱中症救急搬送者数を集計し,「熱中症と考えられる」ツイートの114,003件を分析対象とした。搬送者数とツイート数の相関係数は0.91で強い相関があり,地域でも同様であった。共起ワードを検討すると,熱中症とは直接関係性が考えにくい単語でも相関が強い場合があることが明らかとなった。年代別での検討では50代以上で頻出する共起ワードの使用率が他の年代と比較して高かったが,性別での検討では,明らかな特徴はなかった。今回の結果は2014年,単年の分析結果であり,他年にも同様の傾向があるかについては検討する必要がある。50代以上はツイートの利用率は低いが,他の世代に比較して共起ワードの検出率が高かった。本結果をもとに,今後,SNSを用いた熱中症の予防に役立つような手法の開発が望まれる。
著者
三宅 康史 有賀 徹 井上 健一郎 奥寺 敬 北原 孝雄 島崎 修次 鶴田 良介 前川 剛志 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.309-321, 2008-06-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
9
被引用文献数
7 10

目的:日本救急医学会熱中症検討特別委員会は,全国の救命救急センター及び指導医指定施設に対し平成18年6-8月に診療した熱中症患者に関する調査を依頼し,66施設から収集された528症例につき分析を行った。結果:平均年齢は41.5歳(3-93歳),男女比413:113(不明2),日本神経救急学会の提唱する新分類でI° 62%,II° 18%,III° 20%であった。発生状況で,スポーツの若年男女(平均年齢25歳),肉体労働の中年男性(同47歳),日常生活中の高齢女性(同59歳)の 3 つのピークがあった。 7 月中旬と 8 月上旬に多く発生し,高い平均気温の時期と同期していた。 1 日の中では11時前後と15時頃に多かった。意識障害(Japan coma scale: JCS)の変化では現場0/JCS:43%(=I°),1/JCS:15%(=II°),2-300/JCS:42%(=III°)に対し,来院時では61%,12%,27%と応急処置による改善がみられた。外来診療のみで帰宅したのは285例(平均年齢38歳),入院は221例(同51歳)あり,収縮期血圧≤90mmHg,心拍数≥120/min,体温≥39°Cを示す症例は入院例で有意に多かった。入院例のALT平均値は240 IU/l(帰宅例は98 IU/l),DIC基準を満たすものは13例(5.9%)であった。入院例における最重症化は死亡例を除きほぼ入院当日に起こり,入院日数は重症度にかかわらず 2 日間が最も多かった。死亡例は13例(全症例の2.5%)あり,III° 生存例との比較では,深昏睡,収縮期血圧≤90mmHg,心拍数≥120/min,体温≥40°C,pH<7.35の症例数に有意差がみられた。日常生活,とくに屋内発症は屋外発症に比べ高齢かつ重症例が多く,既往歴に精神疾患,高血圧,糖尿病などを認め,死亡 8 例は全死亡の62%を占めた。考察:予後不良例では昏睡,ショック,高体温,代謝性アシドーシスが初期から存在し,多臓器不全で死亡する。高齢者,既往疾患のある場合には,日常から周囲の見守りが必要である。後遺症は中枢神経障害が主体である。重症化の回避は医療経済上も有利である。結語:熱中症は予防と早い認識が最も重要である。
著者
布施 明 奥村 徹 徳野 慎一 齋藤 大蔵 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.333-347, 2011-07-20 (Released:2020-09-23)
参考文献数
22

イラク, アフガニスタン戦争において, 米国帰還兵の負傷の受傷機転として, 爆破/爆発が最も多く, その医療対応が注目されている. 市民生活の中でも, テロリズムの脅威が高まるなか, その手段として最も多いのはImprovised explosive devices (IEDs) による爆破である. 爆傷は鈍的, 鋭的外傷に1次爆傷としての爆圧による損傷が加わる病態のため, 爆傷の損傷メカニズムとそれによって引き起こされる病態を理解し, 診療を行う必要がある. 特に, 爆傷肺 (blast lung injury ; BLI), 及び爆傷による頭部外傷 (blast-induced traumatic brain injury ; bTBI) の理解が必要である. また, 現場では安全の確保に最大限の注意を払う必要がある. 本稿で, 欧米を参考に, 日本版「ファーストレスポンダーのための爆傷サバイバルカード」, 「爆傷サバイバルカード」, 及び「爆傷診療録」を試案した. 今後も, 爆傷医療に対する啓発, 爆傷診療指針の確立, 訓練による事前準備が必要である.
著者
鷹澤翔 松本大士 吉沢剛 横田裕丈 岩田泰典 嘉陽拓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【目的】加齢での筋力低下や座位姿勢での作業による体幹の不良姿勢として頭部前方突出位(以下,前突位)が見られる。また,臨床において前突位が上肢機能不全を引き起こしている症例をよく見かけ,前突位を修正する事により上肢挙上角度が増大することをしばしば経験する。先行研究では,前突位による上肢挙上動作での肩甲骨の動きや肩甲骨周囲筋群の活動を中心とした様々な研究は行われている。しかし,前突位と肩関節挙上角度に関して報告している研究は少ない。そこで今回は,頭部位置の違いが肩関節屈曲角度に及ぼす影響を解明することを目的とした。【方法】対象は整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢27.2±4.0歳,身長175±5.9cm,体重65.5±9.9kg,BMI21.4±3.2)の両上肢で測定を行った。測定はベッド上座位(股関節,膝関節屈曲90°)で,足部の位置は肩幅とした。中間位は矢状面上で坐骨結節と肩峰を床面に垂直な直線で結び,この直線の延長線上に耳垂中心がある位置と設定した。前突位は,C7を触知し位置変化がないところまで前方突出してもらい,これを個人の前方突出位と設定した。左右肩関節自然屈曲を3回ずつ測定した。測定は最初に中間位での肩関節屈曲角度を測定し,その後前突位での角度を測定した。なお各測定は疲労の影響を避けるため,各測定時間には十分な休憩をとった。測定は,肩関節屈曲とし,日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が制定する関節可動域検査法で行った。角度計は検者が神中式角度計を使用した。統計処理は,各肢位での最大屈曲角度での2変数の差をt-検定を用いて検定した。すべての統計解析はStatcel3を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき対象者に対し研究の趣旨と内容,得られたデータは研究以外で使用しないこと,および個人情報漏洩に注意することについて十分な説明のうえ同意を得て研究を行った。【結果】頭部両肢位での上肢屈曲角度は,中間位で右150°±11°,左148°±11°,突出位で右138°±11°,左134°±13°であった。中間位と前突位での上肢屈曲角度は有意な差が認められた。突出位で有意に上肢屈曲角度は低下した。(p<0.05)【考察】本研究により,頭部前方突出の増加に伴い肩関節屈曲角度が低下するということが明らかになった。この結果について,野田らの報告では前突位と中間位を比較すると,前突位で肩甲骨は下方回旋を呈したとされており,肩甲骨の可動性が低下したためと考えられる。正常な肩関節屈曲での肩甲骨の動きは,上方回旋・後傾・内転が生じるとされている。また,前突位では頸椎から肩甲骨へ付着している僧帽筋上部線維と肩甲挙筋が伸張され,肩甲骨下方回旋・前傾が起きたのではないかと考える。野田らの報告と前述した筋が伸張されることを踏まえると,肩甲骨上方回旋・後傾が制限され,関節窩上方変位が阻害されたと考える。よって,正常な肩甲上腕リズムが破綻したことにより肩関節屈曲角度の制限に至ったと考える。今回の結果から,頭部位置の変化では肩甲骨への影響が大きいのではないかと考える。しかし,今後の課題として頭部位置の違いだけではなく,脊柱・骨盤の肢位の関係,肩甲骨周囲の筋活動についても検討していくことが必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】肩関節疾患の上肢挙上角度を目指した介入として,頸部アライメントの評価,治療を行うことの有用性があると示唆された。
著者
中江 竜太 佐々木 和馬 金谷 貴大 富永 直樹 瀧口 徹 五十嵐 豊 萩原 純 金 史英 横堀 將司 布施 明 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.398-402, 2019-10-20 (Released:2019-10-20)
参考文献数
12

カイロプラクティックという軽微な外力により両側頸部内頸動脈解離を来したと考えられた1例を経験したので報告する. 症例は41歳の女性, 痙攣を主訴に救急搬送された. 頭部CTでくも膜下出血を, 脳血管撮影でくも膜下出血の原因と考えられる左内頸動脈瘤を認めた. また両側頸部内頸動脈解離を認めた. 同日脳動脈瘤クリッピング術を行ったが, 翌日脳梗塞が出現した. その後の病歴聴取で27日前からのカイロプラクティックへの通院歴が判明し, 両側頸部内頸動脈解離の原因であると考え, 脳梗塞の原因も左頸部内頸動脈解離からの血栓塞栓症と考えた. 抗血小板薬で治療を行い第29病日にリハビリ病院に転院した. 発症3ヵ月後のMRAでは両側頸部内頸動脈解離は軽快した.
著者
布施 明 坂 慎弥 立澤 裕樹 吉野 雄大 萩原 純 布施 理美 宮内 雅人 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.703-710, 2016

<p>ツイッターで熱中症の共起ワードに着目し,熱中症救急搬送者数との関係を検討した。2014年6月1日から9月30日の間の,日別の熱中症救急搬送者数を集計し,「熱中症と考えられる」ツイートの114,003件を分析対象とした。搬送者数とツイート数の相関係数は0.91で強い相関があり,地域でも同様であった。共起ワードを検討すると,熱中症とは直接関係性が考えにくい単語でも相関が強い場合があることが明らかとなった。年代別での検討では50代以上で頻出する共起ワードの使用率が他の年代と比較して高かったが,性別での検討では,明らかな特徴はなかった。今回の結果は2014年,単年の分析結果であり,他年にも同様の傾向があるかについては検討する必要がある。50代以上はツイートの利用率は低いが,他の世代に比較して共起ワードの検出率が高かった。本結果をもとに,今後,SNSを用いた熱中症の予防に役立つような手法の開発が望まれる。</p>
著者
野瀬 友裕 横田 裕丈 吉岡 慶
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2047, 2010

【目的】<BR>足底部の特に母趾はメカノレセプターの分布が豊富であるとされ,体性感覚情報の収集源として重要とされている.足底部からの感覚情報を増加させることで,動的外乱刺激に対して立位姿勢の安定性が増加するといわれている.今回,母趾足底部のメカノレセプターの賦活を目的に触圧刺激を入力し,身体の前方移動距離をFunctional Reach Test(以下,FRT)を用いて検証したので報告する.<BR>【方法】<BR>対象は整形外科的,神経学的疾患の既往のない健常者40名.その内訳は介入群(以下,A群)20名,平均年齢20.8±1.0歳,平均身長168.5±8.8cm.運動学習効果を考慮した非介入群(以下,B群)20名,平均年齢20.4±1.1歳,平均身長167.3±8.7cmである.介入方法は,被検者を背臥位として,左下肢から順に,左右の母趾足底部へ検者の母指腹にて皮膚変異が起こる様に擦り上げ,触圧刺激を1回/秒の頻度で30回ずつ入力した.FRTは試技を2回行った後,休憩を入れずに3回測定し,介入を行った直後に3回測定した.B群には端座位での休憩時間を60秒間設けた.FRTの開始肢位は,裸足で両下肢を肩幅に開き(開扇角は任意),ホワイトボードに体側を向けて立ち,右肩関節90°屈曲位,前腕90°回内位,手指を完全伸展位とした.マグネットにて1mの物差しを被検者の肩峰の高さに固定し,第3指尖位置を読み取った後,合図にてリーチ動作を開始し,最大到達地点を3秒間保持させ,その位置を読み取るまでを1施行とした.また,開始肢位の統一,体幹の回旋を含んでよいこと,踵離地しないこと,目線は手尖とすることを口頭指示して行った.それぞれの試行の最高値を身長で除した値をFRT値として比較を行い,統計処理には対応のあるt検定を用い,有意水準は1%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR>被検者全員に対して,実験前に書面にて本研究の目的,個人情報の保護を遵守する旨を伝え,署名にて同意とみなした.<BR>【結果】<BR>A群では,FRT値が増加した者8名,減少した者9名,変化のなかった者3名であった.FRT値の平均は介入前0.219,介入後0.221であり,有意差を認めなかった(P>0.01).<BR>B群では,FRT値が増加した者14名,減少した者4名,変化のなかった者2名であった.FRT値の平均は休憩前0.228,休憩後0.238であり,有意差を認めた(P<0.01).<BR>【考察】<BR>足底感覚と立位安定性との関係は,先行研究において有意な相関があるとの報告がある.今回,休憩前後の試行において有意にFRT値が上昇したB群に対し,A群では介入前後で有意差は見られなかった.これは,A群において母趾足底部への触圧刺激入力によりメカノレセプターの賦活が起こり,姿勢制御中枢への求心性情報の量的増大が起こり,結果として身体の前方向へのモーメントが制動されたと考えられる.本研究では,賦活されたメカノレセプターによる姿勢制御における働きを,FRT値という量的変化のみで検証したが,今後,重心動揺計や三次元動作解析装置などによる質的変化についても検証していく必要があると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>中枢神経性・末梢神経性感覚障害を有する疾病や外傷の繰り返し,荷重制限,長期臥床,加齢などにより足底のメカノレセプターは機能低下に陥り,情報の量的,質的低下を招く.その結果,平衡機能障害は誘発される.特に高齢者の皮膚ではコラーゲンが減少して弾性が低下することが報告されており,この現象は刺激に対する閾値の上昇と関連していると考えられている.加齢に伴う,足底感覚の低下は転倒のみならず歩行動作を通じて,関節疾患にも影響を与えると考えられる.今回の研究結果から,対象者は若年成人健常者であるため前述した「高齢者の皮膚」に対する介入は行えていないものの,徒手的な感覚入力のみにおいてもメカノレセプターを賦活でき姿勢制御能力に好影響を与えることが示唆された.臨床場面における介入方法として,母趾足底部に対する徒手的な触圧刺激入力は,患者自身でも行える方法として有用であると考えられる.
著者
本村 友一 服部 陽 平林 篤志 松本 尚 横田 裕行 小出 麻記子 重山 香織 寺井 孝宏 松本 勉 笹山 実
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.466-473, 2016-06-30 (Released:2016-06-30)
参考文献数
11

目的:救急医療は消防指令への音声のみによる救急通報から起動される。「119番通報にリアルタイムの動画が伴えば,通報者の口頭指導に対する活動のタイミングが早まり,質が高まる」という仮説を検証することを目的とした。方法:スマートフォン(以下スマホ)動画伝送システムを使用して一般市民の模擬通報者14人(男性7人,女性7人)による通報訓練を行い,口頭指導活動の開始時間,活動の質(評価者が0〜3ポイントで採点)を評価した。結果:従来の音声通話(F群)と比較してスマホ動画伝送(S群)は,3例の模擬症例で口頭指導に対する活動などのタイミングの早期化は認めなかった。一方,口頭指導活動の質はS群がF群より有意に良好であった〔評価ポイントは,症例1で2.1±0.9,0.9±0.9(p=0.003),症例2で2.6±0.5,1.9± 1.0(p=0.045),症例3で2.6±0.7,1.6± 1.2(p=0.016)であった〕。結論:動画を伴った救急通報は,口頭指導に対する活動の質を向上させうる。
著者
鶴田 良介 有賀 徹 井上 健一郎 奥寺 敬 北原 孝雄 島崎 修次 三宅 康史 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.9, pp.786-791, 2010-09-15 (Released:2010-11-09)
参考文献数
9

目的:熱中症患者のバイタルサインや重症度に関する疫学データは少ない。人工呼吸管理を要した熱中症患者の予後に関わる因子を解析する。方法:2008年6月1日から9月30日の間に全国82ヶ所の救命救急センターおよび日本救急医学会指導医指定施設を受診した熱中症患者913名のデータのうち,人工呼吸管理下におかれた患者77名を抽出し,更に来院時心肺停止1名,最終診断脳梗塞1名,予後不明の2名を除く73名を対象とした。対象を死亡あるいは後遺症を残した予後不良群と後遺症なく生存した予後良好群に分けて解析した。結果:予後良好群47名,予後不良群26名(死亡12名を含む)であった。2群間に年齢,性別,活動強度,現場の意識レベル・脈拍数・呼吸数・体温に有意差を認めなかった。現場の収縮期血圧とSpO2,発症から病院着までの時間に有意差を認めた。更に来院後の動脈血BE(-9.5±5.9 vs. -3.9±5.9 mmol/l,p<0.001),血清Cr値(2.8±3.2 vs. 1.8±1.4 mg/dl,p=0.02),血清ALT値[72(32-197)vs. 30(21-43)IU/l, p<0.001],急性期DICスコア(6±2 vs. 3±3,p=0.001)に予後不良群と予後良好群の間で有意差を認めた。しかし,来院から冷却開始まで,来院から38℃までの時間の何れにも有意差を認めなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,予後不良に関わる因子は現場の収縮期血圧,現場のSpO2,来院時の動脈血BEであった。結語:人工呼吸管理を要した熱中症患者の予後は来院後の治療の影響を受けず,現場ならびに来院時の生理学的因子により決定される。
著者
原田 諭 須賀 涼太郎 鈴木 健介 北野 信之介 坂田 健吾 藤本 賢司 中澤 真弓 小川 理郎 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.797-805, 2022-10-31 (Released:2022-10-31)
参考文献数
15

新型コロナウイルス感染症拡大により対面による実習は中止となった。新たな教育手法としてVR動画を活用した遠隔シミュレーション実習を実施した。目的:VR動画を活用した遠隔実習と,従来実施していた実技を伴う対面実習における知識の教育効果を比較検討した。方法:2020年度シミュレーション履修者4年生82名(VRあり)を対象にVRゴーグルを使用して10想定の動画を視聴させ,救急救命士国家試験と同等の筆記試験を実施した。比較対象は,2019年度シミュレーション履修者4年生68名(VRなし)とした。結果:A問題はVRなし群が有意に高かった。D問題はVRあり群が有意に高かった。一般問題はVRなし群が有意に高かったが,状況設定問題はVRあり群が有意に高かった。結論:一般のシミュレーション実習は,A問題でみる一般医学的知識の向上に有用であり,VR動画を活用した実習は,一般のシミュレーション実習より状況設定問題の知識向上に有用であった。
著者
横堀 將司 須賀 涼太郎 鈴木 健介 小川 理郎 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本在宅救急医学会
雑誌
日本在宅救急医学会誌 (ISSN:2436066X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.16-20, 2022-03-31 (Released:2022-07-03)
参考文献数
4
被引用文献数
1

わが国における救急車搬送は664万件/年を超え、人口高齢化に相まってますます増加傾向にある。個々の患者に迅速かつ最善の治療を施すのが医師の使命であり、救急診療の場においても常に診療の質を保つことが不可欠である。 しかし今、このコロナ禍で学生教育や若手医療者育成はそれに追いついているであろうか? 医学生・看護学生は国家試験対策、若手医師・看護師は働き方改革による労働時間制限やコロナ禍による実習中断からon the job trainingによる自己研鑽の場が失われつつある。緊迫した救急現場では、患者救命優先のため、医学生・看護学生や若手医師・看護師は患者に近寄ることもできない。現場では、より効率よく、リアルで、インプレッシブな医学教育手法が求められているのである。 われわれは患者やご家族の許可をいただき、熟練した医療スタッフによるよどみない初期診療をvirtual reality(VR)化し、学生授業や若手医師・看護師教育に生かす取り組みを始めている。学生や若手医療者が救急医学のエキスパートスタッフによる診療を繰り返し疑似体験でき、場所や時間を問わず的確な診療手順を体得できる。GuruVR Smart Syncによるマルチモードにより複数の受講生目線を共有することでタイムリーなフィードバックも可能になっている。遠隔による授業展開をすることで、コロナ禍に負けない医療体制を構築するのみならず、教育の地方間格差もなくすことで医師の地域偏在解決などにも貢献できればと思う。 「机上の学問」という言葉は従来、実地的でない教育の代名詞としてさげすまれてきた。VR教育ツールがわが国の医療のクオリティを保ち、多くの患者の救命に貢献することで、この言葉の概念を根底から変えることを強く期待している。
著者
鈴木 健介 原田 諭 須賀 涼太郎 土肥 莉里香 中澤 真弓 小川 理郎 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本在宅救急医学会
雑誌
日本在宅救急医学会誌 (ISSN:2436066X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.21-24, 2022-03-31 (Released:2022-07-03)
参考文献数
8

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、2020年5月からMicrosoft Teamsを活用し、チャンネル機能を活用し8~10名に1名の教員を配置した遠隔実習を行った。同年8月から、補講という位置づけで対面実習を行った。50~100名教室に8~10名の学生、1名の教員を配置し、シミュレーター人形を用いて実習を行った。感染対策として、2週間前からの行動記録と体温管理、当日の検温、手袋、ゴーグル、不織布マスク、アルコール消毒液、大型扇風機による換気、高濃度次亜塩素酸水による機材の消毒を行った。検温にて体温が高い場合は、医療機関受診を促し、PCR検査等陽性の場合は、積極的疫学調査を独自で行い濃厚接触者を1時間以内に特定できるようにした。同年9月より、後学期の講義や実習が開始され、各学年週に1回は対面で実習ができる教育環境が構築できた。 2021年4月から、前述した感染対策に加えて、CO2濃度を測定した。「CO2が800ppmを超えたら強制的に換気を行う」を感染対策に加えた。同年6月下旬より職域接種を行った。実習では、virtual reality(以下、VR)視聴とシミュレーション実習を行うだけでなく、学生の目線と定点の2つのカメラで撮影し、映像を用いたフィードバックを実践した。2022年1月からオミクロン株による第6波の影響により、積極的疫学調査による早期隔離、濃厚接触者と感染経路の特定を行った。 コロナ禍において、新型コロナウイルス感染対策に関する最新の医学的知識を学び、感染対策を教職員が学生と一丸となって実施した結果、VRを用いたシミュレーション教育が実施できた。
著者
布施 明 片山 映 松田 陽子 横田 裕行 永野 昌俊
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

マイクロ波をラットの脳に照射した脳損傷モデルを作成し、病理組織学的に検討した。3.0kWのマイクロ波を0.1秒間照射し、照射後1,3,7,14,28日に脳を摘出し、大脳皮質運動野、海馬、側脳室脈絡膜について神経細胞数の変化とTUNEL陽性細胞の割合を計数した。側脳室脈絡膜と脳室周囲が特異的に傷害された動物モデルとして爆傷による脳損傷が報告されており、マイクロ波照射による外傷性能損傷と病理組織学的な共通点が見出された。本脳損傷モデルは、マイクロ波発生装置を用いて出力を調節し、量的に再現性の高い脳損傷モデルを作製可能で、blast injuryに類似した新しい脳損傷モデルの可能性が示唆された。
著者
布施 明 坂 慎弥 布施 理美 萩原 純 宮内 雅人 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.573-579, 2019-08-31 (Released:2019-08-31)
参考文献数
10

目的:気象データに熱中症関連ツイートの要素を加えることで熱中症救急搬送者数を予測できるかを検討すること。対象・方法:2015〜2017年を対象とした。2015年東京データを用いて,平均気温と熱中症ツイート数から,熱中症救急搬送者数の予測式を作成した。次に,作成した予測式が他年次や他地域へも適応可能であるかを評価するため,他年次の東京都および,大阪府と神奈川県に関するデータでの検証を行った。結果:予測値と実数の相関係数は0.9726であった。ツイート数を用いたことで予測精度が向上した。他地域でも熱中症ツイート数の補足を加えた予測式は平均気温から算出した予測式よりも有用であった。考察・結論:熱中症の“リアルタイムでの”予防対策として,気象データ(平均気温)に熱中症関連ツイートデータを加えた予測式による熱中症救急搬送者数の予測は有用であると考えられた。
著者
横堀 將司 江川 悟史 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Supplement2, pp.S20-S24, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
5

2020年に脳死判定に関する新しい国際コンセンサスが作成された(determination of brain death/death by neurologic criteria: The World Brain Death Project)。これによると,解消できない要因により脳死判定に関わる臨床検査を完遂できない場合に,補助検査を施行するべきとされている。補助検査は主として脳血流検査および電気生理学的検査に大別される。特に脳波検査は本邦の法的脳死判定では必須とされているが,今回の国際コンセンサスにおいては,脳波検査は脳幹機能を検査できないため,これを判断基準とすべきでないとの記載がある。また,脳血流検査においては,近年普及しつつあるCT血管造影やMRIについても言及されているものの,臨床的データの少なさから,現状では脳血流停止を評価するための補助検査として使用しないことが提案されている。我々には,本邦の脳死判定基準の歴史や国際コンセンサスとの整合性を図り,補助検査を活用することが求められている。
著者
久志本 成樹 横田 裕行 宮内 雅人 川井 真 辻井 厚子 金 史英
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.101-117, 2010-03-15 (Released:2010-05-13)
参考文献数
105
被引用文献数
1 1

敗血症における臓器不全の発現には,侵入病原微生物に対する過剰炎症反応が重要である。しかし,この理論的根拠は,高用量のエンドトキシン(ET)や細菌によるサイトカインストームモデルでの基礎研究結果であり,臨床病態を必ずしも反映しない。過剰炎症反応では説明できない臓器不全の遷延が予後を規定している。敗血症の病態は以下のような視点からの捉えることができる。(1)過剰炎症反応は,従来考えられていたほど長期間に及ばず,早期からの免疫抑制状態の存在が示唆される。剖検で共通してみられる細胞死は,リンパ球と腸上皮細胞のapoptosisであり,免疫担当細胞のapoptosisは急性期からの免疫抑制に関与しうる。(2)組織学的変化では説明のできない臓器機能障害には,ミトコンドリア機能障害が注目されている。細胞死がわずかであるにもかかわらず,臓器機能障害が認められることを支持するものであり,cytopathic hypoxiaとして捉えうる。ETは詳細に研究されている毒素であり,生理的状態の消化管内に約25gが貯蔵されるが,生体への少量の投与により敗血症病態が再現される。従来のETを標的とした抗体による臨床研究では転帰の改善を証明しえたものはない。EUPHAS trialは,腹腔内感染によるsevere sepsis/septic shockを対象として,ポリミキシンB固定化ファイバーによる血液吸着療法(PMX-DHP)による,(1)循環動態,(2)呼吸機能,SOFA(sequential organ failure assessment)score,28日死亡率などを検討したものである。PMX-DHPは循環動態の改善のみでなく,28日死亡率の改善を示し,中間解析にて中止基準を満たしたため64例にて中止された。本治験に関わる疑問点は,(1)ETレベルが測定されていないが,ET除去により効果が得られたものか? (2)治療対象として重要な白血球減少,血小板減少症例が含まれていない,(3)標準療法群では循環動態の改善がないのか? (4)標準療法群の28日死亡率 53%は高すぎないか? (5)ETの完全な除去が重要か? PMX-DHPは免疫抑制状態を改善するか? (6)64例エントリーでの中止は尚早,などが挙げられる。本治験結果は,わが国の診療を再認識するとともに,世界に影響を与える可能性がある。
著者
横堀 將司 山口 昌紘 五十嵐 豊 亦野 文宏 廣中 浩平 恩田 秀賢 桒本 健太郎 荒木 尚 布施 明 森田 明夫 横田 裕行
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.220-228, 2016 (Released:2016-03-25)
参考文献数
27

頭部外傷や脳卒中, 心停止後症候群 (post cardiac arrest syndrome : PCAS) など, 神経救急疾患において脳保護・脳蘇生を指向したモニタリングの重要性が強調されている. また, 依然challengingではあるが, 各種モニタリングを治療方針決定に生かす試みも始まっている. 新しいモニタリングとしてPCAS患者でのaEEG・rSO2による予後予測, 神経外傷モデルによるバイオマーカー (UCH-L1, GFAP) 測定などが挙げられる. これらモニタリングと治療の往復がさらなるエビデンス構築に寄与すると期待される.  本稿は神経救急分野におけるモニタリングの重要性と, それらを加味した治療戦略確立の重要性を提示する. 救急脳外科疾患における “判断と行動” の一助になれば幸いである.
著者
横田 裕行
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.942-950, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

重症頭部外傷は, 高い死亡率とさまざまな後遺症の可能性から外傷学の分野でも大きな位置付けがなされている. そのような中で, 頭部外傷を合併した多発外傷患者では体幹外傷を専門とする外傷医と脳神経外科医の密接な連携が必要となるが, 本邦における外傷治療は「防ぎ得る外傷死」の回避のための標準的治療と, 重症頭部外傷治療における治療と管理のガイドラインの発刊によって大きく進歩してきた. 一方, わが国の著明な高齢化社会を反映して高齢者頭部外傷の増加が大きな問題となっている. 高齢者頭部外傷は身体機能の低下, さまざまな既往症の存在から若年者に比較して予後が不良となる. このような背景から重症頭部外傷, 特に高齢者において病態把握の目的でさまざまな頭蓋内モニタリングやバイオマーカーの測定が行われている.  以上のような頭部外傷の治療や管理の困難性の共通認識のもとに, 2014年に日本脳神経外傷学会総会・学術集会と日本外傷学会総会・学術集会でジョイントシンポジウムが企画された. このシンポジウムでは高齢者を含む頭部外傷患者の転帰を改善するための多くの課題や新しい試みなどが議論された.