- 著者
-
輪島 裕介
- 出版者
- 国際日本文化研究センター
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2003
本年度も、前年度に引き続いて第二次世界大戦後の日本の大衆文化の歴史的展開を研究し、とりわけそこにおける音楽の位置について主題的に検討した。昨年度は主に1970年代以降の「若者文化」の形成と変容を主題的に扱ったが、本年度は戦後初期からの、「大衆文化」および「大衆音楽」に関する言説の変遷に着目した。1950年代の『思想の科学』グループや、1960年代の「朝日ジャーナル」や「話の特集」に代表される対抗文化的ジャーナリズムにおける歌謡曲/流行歌へのまなざしのありようを通時的に研究し、旧来支配的であった「洋楽」(西洋芸術音楽)を範型とする教養主義的な語りや、大衆の啓蒙を目指す既成左翼的な文化の語りのなかでは蔑視されてきた歌謡曲/流行歌に、「日本の民衆的/民族的な土着性」という意味が投影されることによって真正性が付与されてゆく過程を明らかにした。その成果の一部は早稲田大学オープン教育センター講座「感性の現在への問い」のゲスト・スピーカーとして『「艶歌」の誕生:流行歌が「日本の心」になるとき』と題して口頭発表した(2005年6月23日)。また、1990年代以降の民族音楽学およびポピュラー音楽研究に関する学説史的な概観を行い、その知見に基づき事典の項目執筆を行った。担当項目は「ワールドミュージック」(約1万字)、「ライブ」(約1000字)(『音の百科事典』丸善、2006)「1989年以降の民族音楽学」、「日本のワールドミュージック」、「カーニバル文化の政治性」(各約5000字)(『世界音楽の本』(岩波書店近刊)である。