著者
阿部 聖哉
出版者
環境アセスメント学会
雑誌
環境アセスメント学会誌 (ISSN:13481819)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.24-30, 2022-08-10 (Released:2022-08-31)
参考文献数
57

This report provides an overview and future challenges of animal, plant, and ecosystem impact assessments in the Environmental Impact Assessment Act. Red List species, subject to animal and plant impact assessments, generally have a small population, and field surveys often do not provide sufficient data. Therefore, species-specific information, especially habitat data, is essential for impact assessment. Ecosystem impact assessments have been conducted using regional indicator species. However, planning stage procedures introduced by law revision focus on a rather critical natural environment. In addition, international organizations recently applied red list assessments to plant communities, habitats, and ecosystems. In the future, the red list of ecosystems will be beneficial for assessing impacts on the Japanese natural environment.
著者
小林 聡 阿部 聖哉
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.245-256, 2018 (Released:2018-12-27)
参考文献数
34

谷津田は関東における里山の代表的な景観であり、生物多様性が高く保全優先度の高い環境であると認識されている。特に首都圏近郊では都市化が進み、残された自然としての重要度は高い。ニホンアカガエルは谷津田の健全性の指標動物であるとされ、本種の谷津環境の利用状況やその景観的な生息適地はこれまで多く議論されてきている。本種は茨城県を除く関東地方のすべての県でレッドリストに掲載されている地域的な絶滅危惧種であり、乾田化やU字溝による移動阻害、都市化による生息地の消失、分断化が主な脅威として認識されている。しかし、本種を指標として谷津田の保全に取り組む上で参照可能な、陸上の移動可能距離(500 m?1 km程度)を挟む100 m?5 km程度の小さなスケールでの個体群の連続性評価に関する知見はほとんどない。本研究では、首都圏の主要都市である千葉市の中心地から5 kmの都市近郊にあり、保全活動が盛んな谷津田環境である坂月川ビオトープとその周辺に位置するニホンアカガエルの主要な生息地4か所および坂月川ビオトープの下流に点在する小規模繁殖地について、その遺伝的多様性や遺伝的構造の有無、繁殖地間での遺伝的交流の有無の評価を2種類の遺伝マーカー(ミトコンドリアDNAおよびマイクロサテライト多型)により実施した。遺伝的多様性の解析結果では、都川水系に属する坂月川ビオトープおよび大草谷津田いきものの里で遺伝的多様度が比較的低く、鹿島川水系に属する2地点は比較的高い状況が確認された。STRUCTURE解析では、鹿島川水系の2地点は類似したクラスター組成を持ち、都川水系の坂月川ビオトープおよび大草いきものの里はそれぞれ個別のクラスター組成を持っていたが、ミトコンドリアDNAの遺伝的距離による主座標分析では鹿島川水系の1地点も他の地点と離れて配置された。また、坂月川沿いに点在する繁殖地が途切れた約1 kmのギャップを境に、上下流の遺伝的構造が不連続に変化している状況が異なる手法で共通に得られた。本調査地のような都市近郊では、生息地の縮小がもたらす遺伝的浮動により生息地ごとに遺伝的組成が変化し、孤立化によってその差異が維持されている可能性も高い。これらの結果を受け、上下流の遺伝的構造が不連続に変化している地点間での、中継地となる繁殖可能水域や陸上移動しやすい植生の創出などの具体的な保全対策について議論した。
著者
富田 基史 小林 聡 阿部 聖哉 津田 その子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.45-50, 2018-08-31 (Released:2019-05-10)
参考文献数
33

緑化工事において地域性種苗を使用する場合,種苗の移動可能範囲を定めることがまず必要となる。本研究は,種苗移動可能範囲の設定に向け,日本の暖温帯(東北〜九州)において海浜植物6種の葉緑体DNA非コード領域(3,010〜3,647 bp)の遺伝変異にもとづく地域差を評価することを目的とした。ハマエンドウでは主要2グループが,日本海側と太平洋側に分かれて分布する傾向が認められた。一方,ハマヒルガオ・ネコノシタでは複数のハプロタイプが得られたものの明瞭な地域差は認められなかった。コウボウムギ・コウボウシバ・イワダレソウはすべてのサンプルが同一ハプロタイプであった。
著者
石間 妙子 関島 恒夫 大石 麻美 阿部 聖哉 松木 吏弓 梨本 真 竹内 亨 井上 武亮 前田 琢 由井 正敏
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.118-125, 2007-11-30
被引用文献数
1

現在、ニホンイヌワシAquila chrysaetos japonicaは天然記念物および絶滅危惧IB類に指定されており、その繁殖成功率は最近30年間で急速に低下している。繁殖の失敗をもたらすと考えられる要因の中で、近年、鬱閉した針葉樹人工林の増加による採餌環境の悪化が注目されつつある。この対応策として、2002年、林野庁は岩手県北上高地に生息するイヌワシの繁殖成績を改善するため、列状間伐による森林ギャップの創出を試みた。イヌワシの採餌環境としての列状間伐の有効性を評価するため、林野庁が試験的に実施した列状間伐区、間伐区と環境が類似している非処理対照区および事前調査によりイヌワシの採餌行動が度々確認された採餌区の3調査区を設け、イヌワシの探餌頻度および北上高地に生息するイヌワシの主要な餌であるノウサギとヘビ類の個体数を比較した。ノウサギ生息密度の指標となる糞粒数は、間伐区において伐採翌年に著しく増加したが、伐採2年後には減少し、3年後には伐採前とほぼ同じ水準まで減少した。ヘビ類の発見個体数は、調査期間を通していずれの調査区においても少なかった。イヌワシの探餌頻度は、調査期間を通して間伐区よりも採餌区の方が高かった。このように、本研究で実施された列状間伐は、イヌワシの餌動物を一時的に増やすことに成功したものの、イヌワシの探餌行動を増加させることはできなかった。今後、イヌワシとの共存を可能にする実用的な森林管理方法を提唱するため、イヌワシの採餌環境を創出するための技術的な問題が早急に解決される必要がある。
著者
小林 和幸 松井 崇晃 重山 博信 石崎 和彦 阿部 聖一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.250-255, 2002-06-05
被引用文献数
2

切り餅の食味官能試験方法を確立するため,新潟県作物研究センターの生産力検定試験供試材料を用いて検討した結果を報告する.試料米の調製:供試玄米を粒厚1.85mm以上の整粒に調製した.調製した玄米を搗精歩合89%に搗精し,精白米を10℃で1週間以上貯蔵して,米粒水分の均一化を図った.切り餅製造:家庭用製餅器(SD-3603,ナショナル)を使用し,以下のように行った.規定量の白米を洗米し,15時間吸水させた.脱水後,餅つき機に規定量の蒸し水を注入,うすにもち米を移してセットし,以降,自動操作で餅をついた.ビニールを敷いた型枠に餅を移し,上からさらにビニールをかけて,のし棒で1.5cmの厚さに圧延した.一昼夜放冷後4×6cmに裁断し,切り餅を作成した.官能試験方法:供試点数は基準のわたぼうしを含めて4点とし,熟練した15名以上のパネルで実施した.水温75℃で10分間ゆでた餅を皿に盛り,外観・白さ・コシ・粘り・のび・味・舌触り・総合評価について,11段階で評価した.平均値の有意差検定により,,基準との差で判定を行った.生産年が異なる育成材料および比較に供試したこがねもちの食味評価から,本法による切り餅の食味官能試験方法は有効であると判断された.
著者
阿部 聖哉 梨本 真 松木 吏弓 竹内 亨 石井 孝
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.103-111, 2005
参考文献数
29
被引用文献数
2

&nbsp;&nbsp;1.動物の生息環境として重要な林床植生分布の推定方法を検討するため,秋田駒ヶ岳のイヌワシ行動圏において,植生図と植物社会学的調査資料からGISと統計的手法の一つである分類木を用いて林床ササ被覆度の予測地図を作成することを試みた.<BR>&nbsp;&nbsp;2.林床ササ被覆度は林冠優占種と高い相関のある場合もあったが,コナラ林のように林冠優占種が同じでも様々な被覆度を示す場合があった.<BR>&nbsp;&nbsp;3.分類木を用いて林床ササ被覆度に影響を与える要因を解析した結果,林冠優占種,林冠高,夏至付近の日射量指標が被覆度の判別に寄与する要因であることが明らかになった.得られた分類木の判別正答率は76.3%となり,これをもとにGISによってササ被覆度の予測分布図を作成した.<BR>&nbsp;&nbsp;4.本研究の結果から,林床の光環境を間接的に指標する林冠構造や日射量指標のGISデータを用いて,林床のササ被覆度の予測分布図が作成できることが示唆された.
著者
石崎 和彦 橋本 憲明 松井 崇晃 名畑 越夫 神戸 崇 奈良 悦子 星 豊一 阿部 聖一 小林 和幸 重山 博信 平尾 賢一 金田 智
出版者
新潟県農業総合研究所
巻号頁・発行日
no.13, pp.47-66, 2015 (Released:2015-06-24)

「コシBL13号」は,新潟県農業総合研究所作物研究センターにおいて開発されたいもち病真性抵抗性同質遺伝子系統である。1996年より,戻し交配法を適用し,「K59」を1回親,「コシヒカリ」を反復親として育成された。いもち病真性抵抗性遺伝子型はPitと推定される。2011年から奨励品種決定調査に供試され,いもち病抵抗性以外の特性において「コシヒカリ」と類似性が高いことから,2013年に新潟県の奨励品種に採用された。なお,「コシBL13号」は,2014年に種苗法に基づき品種登録された。
著者
濱田 麻紀子 植田 聖也 阿部 聖裕 渡邉 彰
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.250-253, 2011-12-28 (Released:2016-07-05)
参考文献数
8

当院に外来通院中の安定期COPD患者16名(男性13名,女性3名,平均年齢70.0±9.7歳)を対象に,運動習慣測定器を用いて,1日の歩数と栄養状態・呼吸機能・ADL・運動耐容能・HRQOLとの関連を検討した.平均歩数4,000歩/日以上の群(H群8名)と4,000歩/日未満の群(L群8名)間で各項目について分析した結果,H群において%FEV1.0,TP値,Alb値,Shuttle Walking Test Distance(SWTD)が有意に高値を示した.また,歩数とSWTDとの間で,強い相関関係(r=0.79)がみられた.さらに,在宅用NRADLの全項目,SF-36v2の,PH(身体機能)・GH(全体的健康感)の2項目でH群が有意に高値を示した.以上より,安定期COPD患者において,1日の歩数を測定することは,運動耐容能やHRQOL等を推測する簡便で有用な一手段になりうる可能性が示唆された.
著者
小橋 吉博 沖本 二郎 松島 敏春 重藤 えり子 倉岡 敏彦 竹山 博泰 江田 良輔 矢野 修一 小林 賀奈子 大西 隆行 森 健一 上田 暢男 森高 智典 西村 一孝 阿部 聖裕
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR TUBERCULOSIS
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.435-441, 2002-06-15
被引用文献数
8

MAC症に対して, ATSおよび日本結核病学会が提言した治療ガイドラインが臨床上適切かどうか, 過去の治療法との比較も併せ検討した。対象は, 1995年4月から2001年3月までに6カ月以上治療がなされ, 治療開始から12カ月以上経過観察を施行できた肺MAC症159例とした。治療状況は, 抗結核薬。CAM102例, 抗結核薬のみ33例, その他24例であった。治療効果は, 抗結核薬.CAMが菌陰性化率45.1%, 再排菌率39.1%, 臨床的改善率29.4%であった。一方, 抗結核薬のみは菌陰性化率30.3%, 再排菌率70.0%, 臨床的改善率12.1%と不良で, CAMが含まれた治療法で優れた成績が得られていた。次に, 抗結核薬.CAMの治療が行われた102例ではガイドラインに一致した RFP, EB, SM, CAMの治療が41例に施行され, 菌陰性化率58.5%, 再排菌率37.5%, 臨床的改善率36.6%であった。一方, 他の抗結核薬.CAMは61例に施行され, 菌陰性化率36.1%, 再排菌率40.9%, 臨床的改善率24.6%と, ガイドラインに沿った治療法が最も優れた成績であった。<BR>しかし, いまだ肺結核に対する治療効果と比較すると不十分であり, 今後新しい非定型抗酸菌に有効な治療薬の開発が望まれる。
著者
原田 洋 阿部 聖哉 目黒 伸一 持田 幸良
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

環境保全林の機能と構造を研究するため川崎市東扇島と熱海市の環境保全林を対象とした。リターフォール量とその季節的変動を明らかにすると同時に林床に堆積するリターの分解率を測定し、土壌動物の現存量との関係から、環境保全林の管理手法の基礎を確立するとともに、土壌動物相から環境保全林の自然性の回復の度合いを判定すること、樹木による煤塵の捕集量や樹種による付着量の差、ならびにCO2固定量の推定など環境保全林の機能と動態を総合的に把握することを目的としている。リターフォールの月別変化は東扇島では5月に落下量が急増し、夏期は少し減少するが、熱海では初夏にピークが現われている。この落下パターンの違いは熱海のほうが標高が高いため、温度の上昇時期が1.5ヶ月ほど遅くなることによるものである。リター堆積量と落葉量から平均分解率を算出すると、東扇島では64%、熱海では84%であった。これは落葉を摂食する土壌動物の現存量の差によるものであろう。CO2固定量は、m^2あたり熱海では31.3kg(平坦地)と58.7kg(マウンド上)で、1年間にそれぞれ9.1kg,8.4kg増加した。東扇島では23.4kgと25.1kgとなり、1.1〜1.2kg増加した。若齢林の熱海で高いのは立木密度の差によるもので、淘汰されるにしたがい一定量になるものと考えられる。樹幹流中煤塵量は熱海では9本の合計値で50〜60g、東扇島では6本の合計値で110〜170gとなった。樹木サイズは東扇島のほうが大きいが、煤塵量も多くなっている。また、雨量は林外前のほうが多いが,両地域とも林内雨中煤塵量が多く、環境保全林のもつ煤塵捕集機能の高さが確認された。土壌動物群数は熱海のほうが多く、土壌動物による自然の豊かさ評価においても高い値を示した。これは若齢林であっても周辺に土壌動物の供給源となる自然環境が存在しているからである。また、ササラダニ類による自然性の評価においても東扇島より熱海で高く、関東地方の社寺林や明治神宮林なみの高い評価となった。
著者
谷川 忍 植竹 敦子 土谷 智子 高橋 絵理子 阿部 聖子 林 明子
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.21-28, 2002-02-05

函館市立柏野小学校では,4月に「たんぽぽ」「ひまわり」の知的障害児学級2学級に加えて,新たに情緒障害児学級「なのはな」が開設され,児童数12名,スタッフ5名という数字的には大変恵まれた体制となった。本学級では本紀要19号20号で報告してきたように,保護者そして児童のニーズに応えるべくIEP ・ TEACCHの手法に学んだ実践により,ようやく学級のカラーが出来上がってきたと自負していたところであったが,今年度はなかなか思うように進まず,自閉症センター「あおいそら」のアドバイスも得ながら,子どもたちへの対応を見直してきた。また保護者へのインフォームドコンセントとアカウンタビリティーの充実を図るために,IEPについても見直しを図ってきた。 IEP・TEACCHに学んで,子どもたちの指導の最適化を目指した学級づくりも3年がたとうとしている。日々試行錯誤の毎日であるが,少しずつ子どもたちも落ち着き,変容が見られてきた。