著者
菅原 七郎
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.529-535, 2015-06

有袋類の多くの野生種は他の哺乳類や動植物と同様に人類の各種開発行為により年々生棲域が侵食されてきて,その数が減少してきている。20世紀末までに,有袋類の6種が絶滅寸前種,17種が絶滅危惧種とされており,2011年のIUCNリストではヒメ,ミナミケバナとキタケバナウォンバットのうちキタケバナウォンバットは現存数138~160匹で絶滅寸前種に指定されている。一方,オーストラリアやニュージーランドのある地域では上記と逆にアカカンガルーやクロオオカンガルーが,ニュージーランドではフクロキツネがそれぞれ過剰繁殖してしまっている。これら野生種の回復,保全や調整のためのARTs(assisted reproductive technologies)が用いられているが有袋類では他の動物種と比べてその成果は実用化まではもう少しといった段階である。この要因は有袋類の生殖機能が特異的であり,捕獲飼育も十分でなく,解明されていないことである。有袋類の生殖機能を調節する手法は効率を高めるものと低下または一次的に停止させるものとの相反する二つの仕方が必要である。
著者
鈴木 達行
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.685-688, 2009-07
著者
宮崎 昭 丹治 藤治
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.323-327, 2015-04

昭和32年に国の天然記念物に指定された「奈良のシカ」は春日大社の神鹿として,1,200年以上もの長い歴史を生きぬいて今日にいたっている。しかし,シカをとりまく環境はいつの時代にも安泰というわけではなかった。古くは社寺境内ということで聖域とみなされて,殺傷禁断の安住の地であったため,戦前900頭前後で落ち着いていた生息頭数も,戦中・戦後の社会混乱期には激減して,昭和20年には推定頭数がわずか79頭になってしまった。そのような状況の中で奈良の鹿愛護会はシカの保護育成に努力した。頭数は昭和28年には254頭に回復し,さらに食糧事情が好転し経済成長が著しい時代を経ると39年には1,058頭に達した。しかしその後10年間ほどは頭数が逆にいくぶん減少した。
著者
川道 美枝子 川道 武男 山本 憲一 八尋 由佳 間 恭子 金田 正人 加藤 卓也
出版者
養賢堂
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.633-641, 2013 (Released:2014-01-31)
著者
中井 裕 砺波 謙吏 大村 道明 大串 由紀江
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.511-520, 2014-05

東北および関東の太平洋側に立地する飼料工場の生産量シェアは,国内全体の約3分の1に相当する。宮城県石巻には飼料工場が6つあるが,津波による施設等の損壊ほか浸水被害があった。例えば,ある工場では,震度6強の揺れによる機械への被害は少なかったが,3.6mの津波が襲い,製品在庫が大量流失し,機械設備が破損,電気設備も冠水した。高圧変電所の被災に伴い,通電までには45日を要した。復旧にあたっては,30cmものヘドロに埋まり除去に苦労したほか,水に浸かった飼料をどのように処理するかという大きな問題に直面した。それでも機械設備を修復し,5月18日に製造テストを開始して同23日から本格稼動させている。また,青森県八戸のある工場では,震度5強の揺れによる機械への被害は少なかったが,1.5mの津波が襲い,製品在庫の大量流失のほか,機械と電気設備も冠水した。3日後に高圧通電したことから復旧を急ぎ,3月23日に製造テストを開始し,28日から本格稼動させている。このように,被災した飼料会社では復旧に尽力するとともに,飼料業界でバックアップ体制を敷き,余力のある北海道・西日本・九州の工場で増産し,長距離輸送する体制を発生後1週目から本格化させている。あわせて備蓄飼料穀物35万tの貸付,輸送車両の高速道路使用特別許可等もあった。一方で,燃料・トランスバック・内航船が不足するという事態も生じた。また,一部の外国船は遠方の港への荷降しを希望し,対応に追われた社もあったようだ。
著者
對馬 宣道 栗田 明日香 大森 聖 菊地 萌 鈴木 波 前田 亮輔 太田 能之 吉田 達行 中尾 暢宏 田中 実
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.343-348,図巻頭1p, 2014-03

日本ウズラの卵の斑紋は,極めて特徴的であり人々の目を惹くため,1960年代の研究者たちの興味は,もっぱら卵管の卵殻腺部からの色素分泌と,卵殻表面への色素沈着に向けられていた。また,これらの研究者が,対象とした日本ウズラの卵殻色素と言えば,独特の斑紋の形成に深く関与しているプロトポルフィリンであった。そのため,1970年以降も日本ウズラの卵殻色素に関する研究は,プロトポルフィリンに着目したものばかりであった。そのなかで,Pooleは日本ウズラ卵の卵殻色素としてプロトポルフィリンの他に,ビリベルジンが存在することを指摘している。彼はその論文のなかで,日本ウズラの卵を割って内側(卵殻膜側)を観察したとき,卵殻内側の色が薄茶色をしているものと,緑色をしているものの2つに大別できることを示している。さらに,彼は内側の色が緑色をしている日本ウズラ卵殻から抽出した溶液を用いて,その吸収スペクトルをとったところ,プロトポルフィリンのピーク(波長415nm)以外に,波長680nm付近に異なるピークが存在することを見出した。Pooleは,この波長680nmにピークを示す物質をビリベルジンであろうと推測している。最近,日本ウズラの卵殻腺部からの抽出液を用いて,質量分析を行った研究によると,卵殻腺部にはプロトポルフィリンの他に,ビリベルジンが存在することが明らかにされている。
著者
砺波 謙吏
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.665-668, 2015-08

今号では,27年度の牛肉輸出振興の取り組み予定とともに,牛肉以外の輸出準備分科会(豚肉,鶏肉,鶏卵,牛乳・乳製品)の取り組み状況を紹介する。牛肉輸出の現状と課題(牛肉輸出促進部会の取り組み) (1) 牛肉輸出の現状 牛肉輸出については,平成26年の輸出量が1251t,輸出金額が約82億円となり,過去最高を記録した(金額ベースの対前年比42%増)。主な輸出先国は,香港が約20億円(385t),アメリカが約12億円(153t),シンガポールが約7億円(123t)となっている。次いでマカオ,タイ,EUと続く。EUにあっては,約4億円(45t)に留まったが,昨年6月中旬に初めて輸出されることとなり,約半年の実績値であること,文化と歴史のある28ヵ国が構成国であることを考えると,まだまだ輸出拡大する余地があるといえよう。昨年に過去最大の輸出を記録した牛肉であるが,この成果は各事業者や産地の生産者が取り組んできた牛肉輸出振興のための長年のさまざまな苦労と努力が実を結んだ結果であり,そのための輸出環境整備や施策を講じた農林水産省や厚生労働省など関係機関の支援があってのものであったといえよう。
著者
中田 嘉子
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.269-276, 2010-02

パラグアイは南半球、南米大陸中央南部に位置し、東から北東をブラジル、北西から西をボリビア、南西から南をアルゼンチンに囲まれている内陸国で、面積は日本の約1.1倍の40万km2である。気候は亜熱帯から温帯に属し、夏は40℃を超える暑さが続くが、短い冬には気温が一桁にまで下がり、霜が降りる。主要産業は農業で、中でも大豆は世界4位の輸出量を誇っている。他にも綿花や小麦、米、広大な土地を生かした牧畜業も盛んである。
著者
阿部 亮
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.277-280, 2010-02

飼料構造論。飼料米。日本は「瑞穂の国」である。瑞穂とは、みずみずしい稲の穂を表現する言葉であり、日本の美称として、「瑞穂の国」という冠を頭上に載せてきた。瑞穂の国の歴史は、米をめぐるさまざまな社会の出来事の系譜でもある。五公五民という米で支払う重税の負荷と農民の呻吟、田畑永代売買の禁令、飢餓と打ち壊し、米価暴騰と買い占め、そして打ち壊し、第二次世界大戦後の食糧難等々、米は日本人の生活の中で重たい地位を占め、白米は、日本の長い歴史の中では、神聖な存在ですらあった。「米を家畜(畜生)に、とんでもない、罷り成らぬ」という心情は、つい、この前まではあった。しかし今、米(稲)と畜産の連携が、「瑞穂の国」の新たな形として推進され始めている。
著者
大成 清
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.448-452, 2011-04

豚の脂肪除去体組織中の鉄含量(ppm)をみると、新生子豚は29しかない。この量は子猫の53%、子兎の21%、人の子供の31%といった具合に非常に少ない。新生子豚はこのように少ないが、成熟豚になると90にも違し、上記動物中では最も多く含むことになる。ちなみに、成熟動物の鉄含量(ppm) は猫60、兎も60、人は74である。新生子と成熟動物の鉄含最比をみると、豚は3.1倍、猫は1.1倍、兎は0.4倍、人は0.8倍となっている。兎と人は減少し、猫は変らずといったところだが、豚は土を食べる動物だけに、物凄く増加するのである。新生子豚はもともと鉄の保有量が少ないうえ、豚乳中の鉄分も少なく、しかも発育も急だし、成豚の鉄保有量も多いので、貧血は起こるべくして起こるわけである。ここで改めて、貧血とは何かということを取りまとめてみたい。幼豚の場合、 血液中のヘモグロビン(g/100ml)は正常時は12、貧血時は5、ヘマトクリット(血液中の赤血球、 %)は35:17、赤血球数(100万/1立方mm)は5:3、赤血球の大きさ(立方ミクロン)は70:55、赤血球のヘモグロビン濃度(%)は35:30となっている。最後は貧血の対策とは何かということだが、幼豚期の鉄剤注射と、それ以後における鉄剤の飼料添加ということになる。
著者
波岡 茂郎
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.21, no.10, pp.1357-1358, 1967-10
著者
四野見 悠喜男
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.73-79, 2010-01

住民主体の農村開発と農民グループの育成。ボリビア国は南米大陸の中央部に位置する内陸国で、国土面積は日本の約3倍(110万km2)、人口は983万人である。一人当たりGNIは1,260米ドル、人間開発指数は0.695で南米では最も貧しい国である。ボリビアの農業農村分野におけるこれまでのわが国の援助はJICA個別専門家の派遣、開発調査、無償資金協力、技術協力(プロ技)、本邦研修等を通じて行われ、ボリビアの農業分野の発展とそれを担う人材の育成に大きな貢献をしてきている。援助の重点は主として低地湿潤地帯に注がれてきていたが、それはこの地域が国内の農業先進地域であることに加え、サンファンおよびオキナワという日本人移住地があることが大きな要因となっている。技術協力分野ではボリビアにおける農業技術開発・普及の拠点となっているボリビア農業総合試験場への専門家派遣から始まり、熱帯農業研究センターへの専門家派遣、プロ技「小規模農家向け稲種子普及改善計画」が実施され、国立家畜改良センターへの専門家派遣、プロ技「家畜繁殖改善計画」および「肉用牛改善計画」などが実施されてきている。これらの技術協力はいわゆるセンター方式技術協力と呼ばれていたもので、ボリビア側の技術者に対して日本の優れた技術を移転し、それを通じてボリビアの将来の農業発展に貢献しようとするものであり、これらの技術協力を通じたボリビア側の技術力向上への我が国の貢献は高く評価されているということができる。
著者
堀野 眞一
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.23-28, 2013-01

東日本大震災で起きた東京電力福島第一原発の事故は東北から関東にかけた広い範囲に放射能汚染をもたらした。放射能の直接的な作用が,人体に及ぼすのと同様の影響を野生ニホンジカ(以下,シカ)にも及ぼすことは,疑う余地が無い。しかし,それを実際に検出することは容易でなく,長期的な調査研究が必要になると思われる。一方,人間活動,とくに狩猟活動,の変化を介した放射能汚染の間接的な影響は既に出始めている。そのようなことがなぜ起こるのかを理解するとともに,今後の推移を予想するためには,人間とシカの関係について現状と背景を知っておく必要がある。
著者
藤本 儀一
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.675-681, 2008-06

アメリカの遺伝学者、バンフレックは、乳牛における能力の遺伝について、雌よりも雄の優位性をうたっている。したがって、各酪農家の対応も、この雄の優位性のもとに行われている。本稿では、個々の酪農家の有する乳牛の系統への高能力雌牛の導入に際し、最も確実かつ有効であるのは、『高能力雌牛が屠場に行く時に、この雌牛の卵巣卵を摘出し、この卵胞を熟成し、それに高能力雄牛精液を、体外授精させ、この受精卵を雌牛に移植することである』と述べた。幸い、わが国の卵巣卵移植技術は、すでに数十年前に、農水省畜試の杉江佶博士が、世界にさきがけて行なわれ、画期的成果として評価されていた。ついで、京大教授、のち近畿大教授の入谷明博士とその一統による、屠場卵巣卵移植が公表された。この技術を用いて、国あるいは各道・都・府・県の畜産試験場が中心となって、各酪農家の雌牛に適用すれば、わが国の酪農の未来は明るくなる。現在残っている少数の精鋭酪農家が、飼養する乳牛も、いまより数段レベルをあげられ、外圧にも耐えられる経営が可能である。
著者
大成 清
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.547-552, 2013-05

アメリカのDDGS産業の経過をみると,最初に行われたのは湿式法によるエタノール製造である。自動車のガソリンに一部混入するようになってから乾式法による製造が拡大した。この製造法から副次的に排出されるDDGSは,ゴールデンDDGSとして,旧式法とは一線を画すようになった。これでかなり製品の品質は安定するとともに,一段と向上したわけだが,依然として品質は不安定であった。このため,更なる品質の向上を目指して採られた手段は,DDGSのSつまりソリュブルをDDGSから除去するということである。DDGに液状かつ低品質のソリュブルを吸着さすと,その後乾燥に更なる加熱を要し,リジンの品質低下や,全般的な消化率の低下を招くというのである。この結果,DDGSではなく,DDGが一部上市されるようになってきた。これで一応の終結をみたかに思えたが,実はそうではなかった。今度はアミノ酸バランスの一層の改善と,含有カロリーの向上を目指して,エタノールの発酵工程に入る前に,原料トウモロコシの脱外皮,脱胚芽を行い,CP41%という高蛋白質DDGを生産するわけである。以上のようにアメリカのDDGならびにDDGS産業は,品質の向上を求めてどこまでも発展してきた。アメリカを始め,いろいろな国ではバイオエタノールの生産に鎬を削っているが,これとは別に,今アメリカではシェール・オイル(chale oil)の生産が話題になっている。油母頁岩(オイル・シェール)というのがある。アメリカの内陸各地で石油を含んだ岩石が探査され,すでに採油も始まっているという。これが実用化すれば燃料革命が起るわけで,食糧用穀類からエタノールを製造するという,迂遠な道を辿らなくても済むことになる。オイル・シェールは油母(ゆも)頁岩,瀝青ケツ岩とも呼ばれ,北アメリカ,オーストラリア,スコットランドや,中国東北部(旧満州国)に古くから産出していた。中国東北部にあったのは,満鉄撫順炭鉱で,満鉄にはかつて筆者も勤務していたことがあり,郷愁の地である。撫順炭鉱(東西47km,南北4km,埋蔵量10億トン,従業員3万2千人)は,有名な露天掘りの炭鉱で,石炭層の上層に頁岩が厚く覆われていた。しかし頁岩中の油分は微量で,レトルト中で乾留した場合の収油率は,平均約5.5%といわれ,当時の技術レベルでは実用化は無理とされていた。アメリカでは地中深くから,オイルだけを採取する新技術を開発(ノースダコタ州,バッケン油田)したようで,一挙に注目を浴びている昨今である。
著者
菅原 七郎
出版者
養賢堂
巻号頁・発行日
vol.66, no.12, pp.1221-1224, 2012 (Released:2013-06-18)
著者
冨田 健太郎
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.1337-1341, 2008-12

わが国の食農教育の一教材としての熱帯アメリカ農牧情報の活用。「食文化(それの基礎)」、「飽食」および「崩食」の現状を考える。また、筆者の中学時代の話を出して恐縮するが、担任の先生の言葉を思い出したので簡単に記してみたい。その先生は担当が理科であったが、非常に厳しい方であった。理科の授業か道徳であったか定かではないが、その先生の奥様も同じ理科の先生であったという。その奥様は、冬場に買い物でトマトを買ってきたという。それを見た担任は、「なぜ、冬場にトマトを買ってくるんだ!」とその奥様を叱責したという。その理由はこうである。「トマトは夏場に食べるものであって、冬場はもちろん温室栽培だから、別ないい方をすると、石油を食っているのと同じだ!」というのがその先生の言い分だったのである。つまり、「トマトは夏場に食べるからこそ、トマトとしての価値がある」というのである。当初は、すごく理屈っぽい先生だという印象があったが、「食農教育」の中で、必要な言葉(名言)だと思うようになってきたのである。