著者
杉本 秀樹 佐藤 亨
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.47-52, 1993-03-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
24
被引用文献数
7 6

本研究は, 窒素追肥がダイズにおける過湿障害の軽減に有効か否かを知るために行った. まず, 水田転換畑でダイズ品種タマホマレを栽培し, 花芽分化期に畦間に5~8cmの深さに水を溜めて8~11日間過湿処理を行い, 過湿処理終了後に硫安を窒素成分で12gm-2追肥した. 過湿・無追肥区における子実収量は無過湿・無追肥区に対して20%低下したが, 窒素追肥を行った過湿・追肥区では, 6%の低下に留まった. これは, 莢数減少の度合が軽減されたことに起因した. 次に, 窒素追肥によって莢数減少の度合が軽減されるメカニズムについて調べた. 水田土壌を充填したポットにタマホマレを栽培し, 花芽分化期に地下水位が5~7cmとなるようにポットを水槽につけた湿潤区, 地上水位が2~3cmとなるようにした湛水区, ならびに適宜灌水した適湿区を設け, 7日間の過湿処理終了後に, 各区のポットの半数に硫安をポット当り5g追肥した. 湿潤・無追肥区と湛水・無追肥区では, 葉身窒素含有率の減少が光合成速度の顕著な低下を招いたが, 窒素追肥をした湿潤・追肥区と湛水・追肥区では, 全窒素同化量が増大し, 葉身窒素含有率が上昇して光合成速度が増大した. 光合成速度の増大 (光合成産物の増大) は, 花器脱落の抑制をもたらし, その結果莢数減少の度合が軽減されたものと考えられた. 以上のように, 花芽分化期に過湿処理をしたダイズに窒素追肥を行ったところ, 子実収量の減少が軽減されたが, これは光合成速度増大による花器脱落の抑制に起因したと考えられた.
著者
星川 清親 佐々木 良治 長谷部 幹
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.328-332, 1995-06-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
15
被引用文献数
3 6

水稲乳苗の育苗期間を一層短縮化し, しかも機械移植に必要とされる苗丈(7 cm)の確保を目的として, 育苗期間と光条件をかえた4種の乳苗の育苗をロックウールマットによりおこなった. そして育苗した乳苗の移植後(5, 10日後)に活着生長を調査した. 出芽後も暗条件下で育苗した乳苗(イエロー乳苗)の苗丈は育苗期間7日で 9.6cm, 一方, 出芽後2日間緑化し(グリーン乳苗)さらに3日間ハウス内で育苗した乳苗の苗丈は5.5cmであった. 育苗期間4日のイエロー乳苗の苗丈は4.1cmで, 機械移植に必要とされる苗丈には達しなかった. 移植後の根数, 最長根長は, 同じ育苗期間のイエロー乳苗とグリーン乳苗との間で有意な差はなかったが, 移植後10日間の乾物重の増加は, イエロー乳苗が若干少なかった. 4種の乳苗の育苗期間中の乾物重との増加は, 胚乳養分の消費量と相関関係(r=0.984)にあった. 移植後5日間の乾物重の増加と胚乳養分の消費量の間でも相関関係(r=0.994)があり, 活着期の生育は, 胚乳養分にかなり依存していた. 以上の結果より, イエロー乳苗の活着は, グリーン乳苗に比較すると若干劣るものの,実用性があると思われた.
著者
山本 由徳 池尻 明彦 新田 洋司
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.495-501, 1996-09-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
16
被引用文献数
1

32℃温度条件下で極短期(4日間)に乳苗を育苗する際に, 蛍光灯により500lux(実験1), 170lux(実験2)の光を育苗全期間, 育苗終了前の2日間および1日間当てる区と光を当てずに暗黒下で育苗する区を設けた. また, 実験2では室内光(昼間最高照度70~80 lux)条件下で4日間育苗する区を設けた. そして, 育苗期間の光条件が乳苗の苗素質と移植後の活着および初期生育に及ぼす影響について検討した. 1)育苗期間の光条件に関わらず, 苗丈7~8cm程度, 胚乳残存割合が40%前後で葉齢2.1~2.3の苗が得られた. 育苗期間に光照射することによって, 暗黒下育苗苗にくらべてやや葉齢の進んだ苗となった. 2)苗の葉緑素含有量は照度が高いほど多くなったが, 光照射期間による差は小さかった. 3)活着の指標とした移植後の初発分げつ日は, 暗黒下育苗苗にくらべて光照射苗で照度, 照射期間に関わらず早かった. その結果, 初期生育は暗黒下育苗苗にくらべて光照射苗で優った. さらに, 胚乳を除去して移植した場合には, 光照射苗と暗黒下育苗苗との活着, 初期生育の差はより一層大きくなった. 4)以上より, 乳苗の育苗期間中に100~500lux程度の光を照射しても苗の伸長生長はほとんど抑制されず, 暗黒下と同様に苗丈7~8cmで胚乳残存割合が約40%の苗が得られ, わずか1日だけ光を照射することによって, 葉緑素が形成されるために活着および初期生育が良好になることが明らかになった.
著者
山本 晴彦 岩谷 潔 鈴木 賢士 早川 誠而 鈴木 義則
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.424-430, 2000-09-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
23
被引用文献数
4 3

1999年9月24日早朝, 九州西岸に上陸した台風18号は, 九州を縦断し周防灘から山口県に再上陸し西中国地方を通過した後, 日本海に抜けた.台風の経路上および経路の東側に位置した気象官署では最大瞬間風速40m/s以上の強風が吹き, 最大風速も九州中南部を中心に20m/s以上を観測した.九州や西中国地方では台風の通過と満潮が重なり, 有明海沿岸や周防灘では高潮により堤防が決壊し, 農作物に塩害が発生した.台風に伴う九州7県の農作物および農業用施設の被害総額は914億円, 被害面積20万haにも及んだ.また, 山口県の小野田市や宇部市の消防本部では最大瞬間風速が52.0m/s, 58.9m/sの強風を観測した.宇部港では最高潮位が560cmを観測し, 推算満潮位351cmを209cmも上回る著しい高潮であった.このため, 周防灘に面した山口県内の市町では高潮災害が相次いで発生し, 農林水産被害は高潮に伴う農耕地の冠水と塩害, 強風に伴う農作物の倒伏, ビニールハウスや畜舎の損壊, 林地の倒木など約100億円に及んだ.山口市秋穂二島でも堤防の決壊により収穫直前の水稲や移植直後の野菜苗に約100haにわたり塩害が発生し, 収量が皆無となった.
著者
松井 勤
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.303-311, 2009 (Released:2009-07-13)
参考文献数
55
被引用文献数
14 19

地球の温暖化に伴い,高温によるイネの不稔の発生頻度が増すのではないかと懸念されている.温暖化が高温不稔を通じてイネの収量に及ぼす影響を明確にすること,それに対する対策をその効果と共に示すことは,作物学分野の重要な課題である.この総説は,主に開花期の高温によるイネの不稔発生を対象とした.まず,開花期の高温による不稔の発生条件に関連するこれまでの報告を整理した.次に,高温不稔の発生の仕組みに関する研究について解説し,最後に,耐性品種の育種を中心とした対策技術の創出において重要な,高温不稔に対する耐性に関する研究の現状について解説した.
著者
渡邊 和洋 中園 江 中村 大輔 西谷 友寛 西村 奈月 松島 弘明 谷尾 昌彦 江原 宏
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.373-384, 2016-10-05 (Released:2016-10-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1 8

コムギの多収栽培技術の開発を目的に,耐倒伏性品種「さとのそら」を供試し,慣行の基肥重点型の施肥体系に対して,基肥を減らし追肥で窒素を増施用する生育後期重点施肥の効果を2カ年にわたって検証した.その結果,生育後期重点施肥により,茎立期以降の乾物成長量の大きくなる時期にLAIが高まったこと,登熟期後半まで葉色,NARが高く維持されたことでCGRが高く経過し,成熟期の総乾物重が大きくなった.一方で,茎立期の茎数が少なくなったことに加えて,この時期に窒素を増肥したことで,茎間の同化産物および窒素の競合が緩和され,茎の生存率が高まり,穂数が増加するとともに,シンク容量の大きな穂が形成されて1穂粒数も増加したものと考えられた.さらに登熟期後半までNARが高く維持されたことで1000粒重も増加した.以上の乾物成長経過および収量構成要素の形成の結果,生育後期重点施肥により,収量を15~50%増加させることが可能であった.一方で,成熟期が遅れること,外観品質の低下や子実タンパクの過剰,土壌の酸性化の助長などの普及技術化に向けて改善すべき課題も明らかとなった.
著者
奥野 元子 安達 一明
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.244-250, 1992-06-05 (Released:2008-02-14)
被引用文献数
3 4

本研究では, 吸水経過に差異をもたらす精米の形質を明確にするため, 水温と精米の吸水経過の関係, 立地条件の異なる2地区において栽培された水稲5品種, チドリ, コシヒカリ, ニホンマサリ, 日本晴および近畿33号の精米の性状, すなわち, 搗精歩合, 水分含量, 生粒重, 乾粒重, 体積, 比重および硬度と, 水に浸漬した場合の吸水経過との関係を最大吸水速度と最大吸水量を指標として調査した. その結果, 1)水温20℃以下では, 精米の吸水は水温の影響を大きく受け, 低温ほど最大吸水速度が小さく, また最大吸水量が若干多いことが明確になった. 2)搗精歩合を一定にした場合の精米性状の品種間の変動は, 栽培地が異なっても硬度で最も大であった. 3)精米の最大吸水速度および最大吸水量は精米の硬度と最も相関が強く, 硬度が大きいほど, 最大吸水速度が高く, 最大吸水量も多いことが明らかになった. 4)搗精歩合を異にした米粒間では, 搗精歩合が低いほど, 切断荷重, 最大吸水速度および最大吸水量が大きいことが明確になるとともに, 吸水経過と硬度の関係が搗精歩合によって異なることが明らかになった. 5)搗精歩合が異なった場合の吸水経過と硬度の関係の品種間比較から, 日本晴とコシヒカリの米粒の内部構造の質的差異が窺われた. これらの結果から, 精米を水に浸漬した場合の吸水経過の差異には, 搗精歩合および硬度の違いが密接に関連し, 吸水経過の差異は精米の形質の差異に基づく吸水特性の差異であるといえた.
著者
平 俊雄
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.26-29, 1998-03-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
14
被引用文献数
5 3

1993年の低温と1994年の高温が水稲品種の食味と理化学的特性に与えた影響について検討した.1993年は登熟期の低温のためアミロース含有率は高かった.また, 7月, 8月が低温であったため水稲に不稔が多く玄米窒素含有率が高まった.一方, 1994年は登熟期の高温のためアミロース含有率は低かった.アミロース含有率と玄米窒素含有率の増加はブレイクダウンを低下させ, 登熟期の低温と高温によるアミロース含有率の変動はブレイクダウンの変動に大きな影響を与えた.1994年はアミロース含有率の低い品種は食味が良かった.一方, 1993年はアミロース含有率が高まり食味は低下したが, アミロース含有率と食味の間に明らかな関係はみられなかった.
著者
吉永 悟志 西田 瑞彦 脇本 賢三 田坂 幸平 松島 憲一 富樫 辰志 下坪 訓次
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.481-486, 2000-12-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
16
被引用文献数
9 7

近年, 水稲の湛水土中直播栽培において出芽安定化のために播種後の落水管理が一般に行われてきている.そこで, 播種後の水管理と施肥窒素の動態や水稲の窒素吸収との関係について検討し, 落水管理が水稲の生育・収量へ及ぼす影響を明らかにするための試験を行った.水管理と出芽との関係については本試験においても播種後落水を行うことによる出芽率の向上および初期生育の促進が確認された.苗立ち後の生育は肥効調節型の被覆尿素肥料(LP100)を基肥に施用した場合には播種後の水管理による生育・収量の差は小さかったが, 速効性肥料である硫安を基肥に施用して播種後の落水管理を行った区では硫安施肥を行って湛水管理を行った区に比較して幼穂分化期までの窒素吸収量が低下し籾数不足による減収を生じた.基肥に硫安を施用し播種後落水管理を行った場合には, 初期生育および初期分げつが顕著となるために生育初期の窒素吸収量が顕著に増大すること, また, 落水にともなう施肥窒素の硝酸化成によると推定される土壌中アンモニウム態窒素含有量の低下が生じることが示されたため, これらの要因により幼穂分化期までの窒素吸収量に差を生じたものと推察された.このことから, 播種後落水管理を行う場合には初期の肥効を抑制するとともに, 生育中期の窒素不足を回避するような施肥法を行うことが, 直播栽培における出芽・苗立ちの安定化と生育・収量の安定化の両立に重要となると考えられる.
著者
宮﨑 成生 関和 孝博 吉田 智彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.234-241, 2009 (Released:2009-05-22)
参考文献数
23

栃木県内の主要農業用用水85 地点および農業用排水6地点の水質を1996~1998年の3年間にわたり,水稲栽培期間を中心に調査した.その結果,農業用用水の水質基準値内の割合はpHが70%,ECが88%,CODが84%,T-Nが30%,SSが100%であった.調査時期による水質の変化は小さかった.水質汚濁は渡良瀬川流域と鬼怒川流域で進行していた.また,汚濁の激しい地点は県南部および西部の都市下流域で,人口,下水道普及率との関係が示唆された.農業用排水は用水に比較してSiO2を除き栄養塩類濃度が高かった.調査地が同一である53地点について10年前と比較したところ,栄養塩類の濃度は低下する傾向にあり,特にT-Nで顕著であった.
著者
柏木 めぐみ 村田 和優 ペルマナ ハディアン 山田 哲也 金勝 一樹
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.177-185, 2017-04-05 (Released:2017-04-14)
参考文献数
17
被引用文献数
2

化学農薬を使用しない水稲の種子温湯消毒法は,クリーンな技術として注目され,「60℃で10分間」という処理条件が広く普及している.しかし,この条件では完全に防除できない病害もある.したがって,この消毒法を安定した技術とするためには,多くの品種に高温耐性を付与し,より厳しい条件で処理できるようにすることが重要である.温湯消毒時の種籾の高温耐性には明らかな品種間差があり,この形質は育種学的な手法で改善できる可能性がある.例えば,日本型品種の「ひとめぼれ」の種籾は強い高温耐性を有することが示されている.一方で,インド型品種や糯米品種は一般に種籾の高温耐性が弱く温湯消毒に適さないことも報告されている.これらのことを踏まえて本研究では,「ひとめぼれ」のような有用な遺伝資源となりうる品種を見出すことを目的に,農業生物資源ジーンバンクが確立した「世界のイネコアコレクション」の種籾の温湯消毒時の高温耐性を評価した.その結果,日本型品種の「Rexmont」と「Tupa 729」,インド型品種の「Badari Dhan」の3品種の種籾が,極めて強い高温耐性を有していることが明らかになった.さらに,「Badari Dhan」以外のインド型品種や,糯米品種の中にも「ひとめぼれ」と同等,あるいはそれ以上の高温耐性を示す種籾が存在することが明らかとなり,温湯消毒時の高温耐性に関して有用な遺伝資源となり得る複数の品種を特定することができた.
著者
福山 正隆 武田 友四郎 谷山 鉄郎
出版者
日本作物學會
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.267-277, 1974 (Released:2011-03-04)
著者
荒瀬 輝夫 鈴木 綾子 丸山 純孝
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.84-90, 2002-03-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
7

地下結実性の食用マメ類であるヤブマメの圃場栽培を試み,生育や収量を検討した.実験1の栽培法は株間30cm,畝幅45cmで3種類の支柱を設けた畝立て栽培とし,野外で発芽した地下種子由来個体を移植した.つるの回旋の始まる出芽約30日後を境に,支柱の有無によって主茎葉数の増加率に有意な差が生じた.ヤブマメの収量は地下子実で約20gm-2,地上子実も含めた総子実収量は約40gm-2であった.総葉数と総子実収量との間には高い正の相関があったが,120枚m-2を越えると地下部よりも地上部の子実の生産が増大する傾向が認められた.実験2では地上種子由来個体(A区)と地下種子由来個体(S区)の生長を比較した.2系統を用い,栽植密度は均平な圃場にm2あたり1個体(1×1m)とした.その結果,栄養生長期間を通じて主茎葉数の増加率がA区=S区,総葉数の比成長率がS区>A区であった.地下子実収量を増大させる方策として,播種期,栽植密度,およびつるの仕立て方の改善による総葉数の増大と,栽培環境の改善や育種技術によって子実生産を地下部に集中させることが挙げられる.
著者
山城 美代 鬼頭 誠 道山 弘康
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.161-167, 2019

<p>近年,沖縄島北部と宮古島でソバ栽培が始まっている.両地域にはそれぞれ酸性の国頭マージ(赤色土)と概ね中性の島尻マージ(暗赤色土)が分布している.これら土壌は日本のソバ栽培地の多くに分布する黒ボク土とは土壌有機物量やリンの存在形態など,土壌の理化学性に大きな違いがある.本試験では,国頭マージと島尻マージおよび黒ボク土を用いてソバを栽培し,生育量,収量および各種養分吸収量を比較した.ソバの生育量と収量は黒ボク土に比べて島尻マージより国頭マージで低下し,側枝花房数の減少と結実率の低下が主因と考えられた.窒素含有率は茎と子実において国頭マージで低かった.リン含有率は子実では国頭マージが黒ボク土よりわずかに低かったが,茎では有意に高かった.カリウム含有率は全ての器官で黒ボク土が著しく高く,国頭マージ,島尻マージの順に有意に低下していた.施肥を行っていないカルシウム含有率は子実では土壌間に顕著な違いがなかったが,茎では土壌の交換性カルシウム含有率を反映して国頭マージは黒ボク土と同程度であり,島尻マージでは高かった.マグネシウム含有率は全ての器官とも黒ボク土で最も低く,島尻マージ,国頭マージの順に高くなった.子実重,茎重,側枝花房数は土壌の窒素含有率とAl型リン含有率と高い正の相関が認められたが,Fe型リンや可給態リンとは有意な相関がなく,施肥リンがFe型で固定される沖縄の土壌とは異なり, Al型で固定される黒ボク土ではリン吸収が高まることで生育量と収量が増加したと考えられる.</p>
著者
本多 [ヤスシ] 臼田 純雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.429-431, 1959
被引用文献数
1

I. Experiments were made on the rooting activity of rice seedlings grown in lowland nurseries of different sowing density, in 1956. Thinly sown seedlings attained greater height and larger top-weight, and developed more abundant roots, than thickly sown seedlings. Therefore, "aging" seemed to have progressed quicker in thickly sown seedlings. Chemical composition of the seedling shoots depended upon their rootage. Both total sugar and starch contents increased with the amount of root, which is in turn controlled by nitrogen content in the shoot. Thus, thinly sown seedlings retained juvelinity, and had high rooting ability as compared with that of upland nursery seedlings. II. Furhter experiments in 1957 were made using various fertilizers on characteristically young and aged seedlings. Best results were obtained by the seedlings grown with 2N fertilizer for 44 days. When nitrogen denominater in the ratio suger+starch/nitrogen of the content in seedling is abnormally high additional applications of straw ash, KC1 and (NH<SUB>4</SUB>)<SUB>2</SUB>SO<SUB>4</SUB> tended to improve the conditions and there were produced abundant roots. Rooting activity of seedlings were intensified by increasing the sum of total sugar+starch+nitrogen compounds caused by straw ash and KC1 applications, and on the other hand, by increasing total nitrogen in seedlings by means of addition of (NH<SUB>4</SUB>)<SUB>2</SUB>SO<SUB>4</SUB> fertilizer.
著者
稲田 勝美
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.301-308, 1965-06
被引用文献数
2

For the purpose of estimating the deepness of green color and chlorophyll content per leaf area in intact leaves of crop plants, a type of chlorophyllo-meter was constructed, basing on the principle of a difference attenuance which corresponds the difference between the attenuance at 670 mμ attributable to chlorophyll contained in leaves and that at 750 mμ showing the basic absorption. From the photoelectric characters of chlorophyllo-meter, it was suggested that the reading (-log T) of the meter might be directly proportional to the quantity of chlorophyll present within the light path, provided that the leaf tissue is homogeneous and the chlorophyll content is less than a certain limit. The experimental results may clear the following points: (1) High correlations exist between the order of reading and that of deepness of green color judged by naked eye in rice leaves, particularly in case where the reading difference was greater than 10 per cent (Table 1). (2) Relation between the reading and chlorophyll content per leaf area was studied in several crop plants including rice, wheat, Italian rye grass and sweet potato. As the result, very high positive correlations were obtained within respective plant kind when the leaf parts determined were relatively homogeneous exclusive of the midrib or veins (Figs. 5 and 8B), while some lowering in the correlation was noticed when the midrib was placed in the center of light path in graminaceous plants (Figs. 2, 3, 4, 6, 7 and 8A). (3) Regression coefficient of chlorophyll content per leaf area to the reading differs widely according to the kind of plants. There was not, however, much difference in coefficient among the plants which are included in the same family (Fig. 9). It was concluded that the chlorophyllo-meter may be used for determining the deepness of green color and estimating the chlorophyll content per area in intact plant leaves.
著者
田中 英彦 丹野 久
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.282-287, 2016
被引用文献数
1

過酸化石灰剤被覆種子を用いた落水出芽法において,最適な入水日 (播種粒数の30%程度の出芽と種子根の土中への伸長が確認された日) を気温から推定する目的で,播種後入水当日までの期間で,日最高最低平均気温から基準温度を差し引いた値を積算する方法 (積算気温法) と,1日当たり発育速度 (DVR) を日平均気温 (T) の関数 (DVR=1/(1+exp(-A(T-Th)))/G) として算出した値を積算する方法(DVI法,入水日が1) を検討した.積算気温法では,基準温度を1~10℃の範囲で変化させた場合での積算気温の変動係数を比較したところ,基準温度が6℃で最も変動係数が小さく,この積算気温が85.9℃を超えた日が最適入水日と考えられた.DVI法では, A=0.1908,Th=16.06,G=4.118が最適値となった.落水日数の実測値に対する推定値の二乗平均平方根誤差は,積算気温法で1.4日,DVI法で1.2日であった.上述の知見に基づき,生産コストを低減する過酸化石灰剤無被覆での催芽籾播種 (催芽籾区) の最適入水日を検討したところ,過酸化石灰剤被覆区 (CAL区)の最適入水日 (標準区) では,CAL区の苗立ち率が70.9%であったのに対して,催芽籾区では52.2%と有意に低かった.しかし,標準区よりも約3日入水を遅くすると,催芽籾区の苗立ち率は60.9%に向上した.このことから,催芽籾播種における最適入水日は,積算気温法で105℃,DVI法で1.3を超える日と考えられた.
著者
鬼頭 誠
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.108-116, 2019

<p>沖縄でのソバ前作物としての可能性を明らかにするために,施肥リンがAl型リンで固定される赤玉土とFe型リンで固定される赤色土(国頭マージ)を用いてラッカセイとダイズ,セスバニアの低リン耐性を比較した.また,3種マメ科植物に対する菌根菌の接種効果についても合わせて調査を行った.赤玉土へのリン施肥量の低下により3種マメ科植物の生育量は低下した.しかし,ラッカセイはダイズより低下度合が小さく,セスバニアよりリン無施肥区とリン酸吸収係数の0.1%相当量の少量施肥区で生育が高まっていた.なお,ラッカセイの根粒着生量はダイズと同程度であり,いずれのリン施肥区でもセスバニアより低下した.播種3週間後の生育初期時のダイズとセスバニアの根長はリン欠乏区で著しく低下したが,ラッカセイでは低下せず,種子中のリンを多く含むラッカセイではリン欠乏条件でも初期生育時の根系発達が確保できることが明らかになった.赤色土に菌根菌無接種で栽培したラッカセイはいずれの過リン酸石灰施肥区,リン酸アルミニウムやリン酸鉄施肥区とも地上部生育量,リン吸収量ともダイズと同程度であり,セスバニアより低下した.菌根菌の接種によりラッカセイは生育量とリン吸収量が高まり,セスバニアと同程度以上の上昇が認められ,特に難溶性リンの吸収量と地上部生育量はセスバニアより高まった.これらの結果から,ラッカセイは種子中のリン含有量が高く,初期生育時の根系発達により,低リン肥沃度土壌でリンを吸収する能力が高いが,その後の十分な生育を確保するためには菌根菌の感染が必要であると思われる.</p>