著者
白樫 祐介 杉浦 丹 藤本 篤嗣 加茂 真理子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.121, no.14, pp.3343-3348, 2011-12-20 (Released:2014-11-13)

2008年12月から2010年10月に当科において,既存の治療のみでは効果不十分な重症アトピー性皮膚炎患者7名(男性6名,女性1名,年齢19歳~60歳,体重57 kg~90 kg)を対象とし,シクロスポリン1 日量100~150 mg(1.1~1.9 mg/kg)を1日1回朝食前に投与し,投与2週間後に日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎重症度分類による臨床症状の改善度と,副作用の有無を評価した.また,期間中に血中シクロスポリン濃度(C0:投与前,C1:内服1時間後,C2:内服2時間後,C4:内服4時間後)を測定し,ここからAUC0~4を算出した.結果全例で重症度スコアが38~65%(平均51%)改善し,血清Cr値や血圧上昇などの副作用は経験しなかった.Cmaxは768~1,379(平均1,010)ng/ml で,全例で内服1時間以内にTmaxに達し,AUC0~4は1,589~2,449(平均2,003)ng・hr/mlであった.これらの結果から,アトピー性皮膚炎に対してシクロスポリンを1日1回食前に投与し,内服1,2時間後の血中濃度を目安に投与量を調節する方法は,安全かつ有用な方法の一つであることが示唆された.
著者
森下 綾子 谷口 裕子 滝野 長平 大滝 倫子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.1027-1032, 2010-04-20 (Released:2014-11-28)

32名の疥癬患者に対し,輸入したペルメトリンクリームを用いて治療した(9名の予防投与を含む).19名の疥癬患者は,ペルメトリンクリーム単独で治療を行い,1週間間隔で2回,頸部より下の全身に塗布,乳幼児では頭頸部を含め全身に塗布したところ,全例で治癒した.高齢者,角化型疥癬,プレドニゾロン内服などの難治が予測される4名の疥癬患者に対し,ペルメトリンクリームをイベルメクチンと併用して用いた.このうち3名はペルメトリンクリーム2回塗布で治癒したが,角化型疥癬の1名は3回塗布にて治癒した.角化型疥癬患者と密な接触機会があるため予防的にペルメトリンクリーム塗布を行った患者9名は,1回塗布し,6カ月以上発症せず予防効果を得た.32例全例で接触皮膚炎などの副作用は認められなかった.血液学的検査では検査を行った5症例については,塗布前後で肝機能障害,腎機能障害などは認められなかった.ペルメトリンクリームは高い殺虫効果を持つばかりでなく,毒性が低いため,妊婦,授乳婦,生後2カ月以上の乳幼児にも使用できる外用薬であり,本邦でも早期に認可されることが望まれる.
著者
桑原 一也
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.326, 1967 (Released:2014-08-28)

周知の如く,軟膏療法は主として基剤が皮膚表面の病巣に作用して皮疹を改善に導く場合と,軟膏に添加した薬剤が健康皮膚を浸透,病巣に到達して始めて皮疹の改善を斉らす場合とがあるが,本研究は申すまでもなく後者に関する研究である.さて,副腎皮質製剤(以下「コ」と略す)に限らず,一般に薬剤を病巣へ運搬する目的で使用する場合,従来最も大きな障壁となつていたのは,薬剤の皮膚吸収に自ずから限界のあることである.従つて,全身投与に比べると,どうしても臨床効果が劣り,殊に表皮に全く損傷のない手掌足底や,その他の部位でも角化肥厚の強い病的皮膚では期待するほどみるべき効果があがらなかつた.このため軟膏療法はせつかく全身療法とはまた異なる幾つかの優れた特徴を持ちながら,ただ表層の病巣を修復することに主点がおかれていた.ところが,最近Carb,Sultzberger & Witten,Scholz,Tyeらが軟膏貼布部位を特殊な方法で密封する,いわゆるoccu-lsive dressing technique(密封療法,以下ODTと略す)を考案してより,かかる病巣へも目的の薬剤が充分到達して臨床効果を発揮でき,しかも全身性の副作用を起さない程度の,甚だ好都合な結果を斉らすことが明らかにされた.ともかくODTは軟膏療法に一大進歩を斉らし,今や各方面に素晴らしい成果を挙げているが,このODTを契機に,最近皮膚吸収に関する研究が再び活発となつて来た.ところで,皮膚吸収の最近における最も大きな進歩といえば,なんといつても,Malkinson & Kirshenbaum,McKenzieら一連の研究であろう.従来,薬剤の皮膚吸収は専らこれが生体に浸透することのみに重点が置かれ,皮膚でそれがどのように,どの程度利用されるかどうかという点については全く考慮が払らわれていなかつた.換言すると,薬剤の皮膚吸収は,極く最近までサルチル酸(以下「サ」と略す)値や14C-labelled 「コ」軟膏の尿中排泄量の測定が優れた検査法とされ,主として,その多寡により良否が云々されていた.ところが,Malkinsonらが独特な器具gas flow cellを考案,放射性「コ」軟膏の皮膚吸収状態を,尿中排泄量を測定するかわりに,皮上に残るいわゆるresidual radioactivityから逆に皮膚吸収状態を推測したところ,ここに多量放射性物質の残る軟膏,つまり吸収の悪い軟膏ほど,臨床効果の優れていることが判り,軟膏の優劣は吸収の良否より,病巣に,活性の形でどの程度残存するかにあることが明らかにされた.また軟膏の皮膚吸収は無制限に行なわれるのでなく,病巣と皮膚表面のそれとの濃度の差,つまり濃度勾配(concentration gradient)と密接な関係のあることが併せて明らかにされた.これと前後してMcKenzieらは各種「コ」軟膏のいわゆるvasoconst-rictor activity(毛細血管収縮能)を測定,この成績を皮疹の臨床効果と比較検討して,吸収の良否と本検査成績とはむしろ負の相関関係にあり,本作用の強い「コ」製剤ほど皮膚からの吸収が遅延し,一方臨床効果はそれだけ優れていることが確認され,かくして,軟膏の皮膚吸収に関する概念はこの数年間にすつかり変貌した.
著者
伊藤 泰介
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.701-706, 2021-04-20 (Released:2021-04-21)
参考文献数
22

男性型,および女性型脱毛症の治療の治療は情報が溢れており,医療者も患者も振り回されがちである.しかし科学的根拠の有無という見地に立てば,それら情報整理は意外にもシンプルである.適切な診断のもと,それぞれの治療方法の根拠と有害事象をよく理解した上で選択できるようにまとめられている診療ガイドラインのエッセンスを概説した.
著者
木下 美咲
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.671-678, 2021-04-20 (Released:2021-04-21)
参考文献数
19

トリコスコピーを使いこなし,毛髪疾患の診療に活かすために役立つ知識を解説する.トリコスコピー所見は「毛器官の障害」,「毛周期異常」,「毛幹形態異常」に分けて捉えると理解しやすい.この病態別に代表的所見を整理した上で,フローチャートを用いた診断法を紹介する.さらに,疾患合併例や複雑例にも対応可能なフローチャートの活用法「2ステップ法」を取り入れ,症例を提示しつつ診断の実際について述べる.
著者
佐藤 伸一
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.118, no.9, pp.1691-1695, 2008-08-20 (Released:2014-12-03)

B細胞は以前考えられていたより,免疫反応の制御において多彩かつ重要な機能を有していることが明らかとなった.さらにB細胞は自己抗体とは関係なく,抗原提示細胞やサイトカイン産生細胞などとして働き,膠原病の症状発現に必須の役割を果たすことも示された.今後,皮膚自己免疫疾患に対してもB細胞をターゲットとした治療が急速に拡大することが予想される.
著者
谷垣 武彦 佐藤 健二 佐野 栄春 羽倉 明 湯通堂 満寿男 樋口 冨士夫 池永 満生 渡辺 信一郎
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.15, 1984 (Released:2014-08-20)

著者らは今までに疣贅状表皮発育異常症(EV)の患者から3種類の異なるHPVを分離し,EVは数種類のヒトイボウイルス(HPV)に起因していることを明らかにしてきた.今回本邦におけるEVの実態調査を行った結果,その臨床像,皮膚悪性腫瘍の併発にも差異があることを明らかにした.本調査患者66例の家系中,近親結婚が44%を占め,本疾患は高い確率で遺伝が背後にあり,劣性遺伝といえる.患者分布は北海道,東北のような寒い地方は少なく,暖かい九州では多数見られた.皮膚悪性腫瘍の併発も南ほど多い傾向か見られた.癌の発生部位は,いわゆる露光部位が72.2%も占めた.本疾患は血族結婚をはじめとする遺伝的背景の上に,HPV感染が生じ,太陽紫外線らの環境因子によって皮膚悪性腫瘍が発生,つまりウイルス・紫外線及び宿主という三者の相互作用が発癌に関与していることが本疫学調査から明らかにされた.
著者
山本 隆之 西村 雅恵 宮島 進 岡田 奈津子 内藤 雅文 阿部 泰士 小林 晏
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.112, no.4, pp.385-391, 2002-03-20 (Released:2014-12-27)

48歳,女性.1986年頃からRaynaud症状がみられ,1988年に手の浮腫性硬化,開口障害,が出現し強皮症と診断された.以来,両足趾に小潰瘍が反復出現し,逆流性食道炎,食道潰瘍を伴うようになった.1998年に生検にて十二指腸にamyloid A(AA)蛋白の沈着を認め,続発性アミロイドーシスと診断され,翌年には直腸にもアミロイドの沈着を指摘された.同時期に心機能の軽度低下,軽度の肺線維化を認め,同年12月心不全,腎不全に陥り,血液透析導入となった.心機能は回復したが,腸管運動の著明な低下がみられるようになった.2000年2月突然心肺停止に陥り,永眠された.剖検の結果,心はアミロイドの高度沈着と強皮症による小型の線維化巣,壊死巣を多く認め,腎はアミロイドの高度沈着と強皮症による弓状―小葉間動脈の求心性内膜肥厚像を認めた.また食道,空腸から結腸にかけては内輪筋の萎縮,消失,線維化がみられ,アミロイドも高度沈着していた.強皮症に続発性アミロイドーシスを合併することは稀であるが,長年の経過を有する強皮症は続発性アミロイドーシスの合併を考慮に入れる必要があると思われた.
著者
船坂 陽子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.132, no.12, pp.2671-2679, 2022-11-20 (Released:2022-11-21)
参考文献数
17

高齢化社会を迎え,慢性の紫外線曝露による光老化の治療を求められることが多い.光老化を予防するためには,遮光が必須である.サンスクリーン剤について正しい知識を持って活用することが肝要である.シミ,シワについては種々の治療法が確立されている.特にケミカルピーリング,IPL(Intense Pulsed Light),レーザー治療については繰り返し用いられることが多く,光老化皮膚に対して,長期反復して治療に用いた場合の安全性について検証した結果とあわせて解説した.
著者
端本 宇志
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.157-160, 2019-02-20 (Released:2019-02-20)
参考文献数
22

Episodic angioedema with eosinophiliaは,好酸球増多を伴って繰り返される血管浮腫,体重増加,発熱を主症状とする疾患である.本邦では症状が一過性で軽症にとどまる例が多く,Non-episodic angioedema with eosinophilia(NEAE)という名称が用いられる.発作時には血液中のIL-5やTARCが上昇し,主にT細胞の機能異常によって発症している可能性が高い.治療には一般に経口ステロイド薬が用いられるが,NEAEでは自然軽快が期待できる.また,NEAEに対する抗ヒスタミン薬の投与は,治療期間を短縮しないと報告されている.
著者
山﨑 修
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.130, no.11, pp.2367-2372, 2020-10-20 (Released:2020-10-20)
参考文献数
33

黄色ブドウ球菌は外毒素として表皮剝脱毒A,B(exfoliative toxin;ETA,ETB),トキシックショック症候群毒素-1(toxic shock syndrome toxin-1;TSST-1),エンテロトキシン(staphylococcal enterotoxin;SE),Panton-Valentine型ロイコシジン(Panton Valentine leukocidin;PVL)などの病原因子を産生し,水疱性膿痂疹,ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS),トキシックショック症候群(TSS),neonatal TSS-like exanthematous disease(NTED),せつ・せつ腫症などの皮膚疾患とそれぞれ深く関連している.
著者
石川 博康 玉井 克人 見坊 公子 角田 孝彦 澤村 大輔 梅木 薫 菅原 隆光 矢島 晴美 佐々木 千秋 熊野 高行 三上 英樹 三上 幸子 高木 順之 門馬 節子 菊池 朋子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.113, no.8, pp.1229-1239, 2003-07-20 (Released:2014-12-13)

帯状疱疹の現状把握を目的とし,2000年4月から2001年3月までの1年間に東日本地区の総合病院と診療所の計11施設を受診した帯状疱疹患者1,065例を対象に統計的解析を行った.結果として,1)8月が最多であったが季節差は認めなかった.2)男女比では女性が多く(M:F=1:1.4),年齢別では60代を中心とした大きな峰と10~20代の小さい峰との2峰性を示した.3)発症部位は上肢~胸背部が最多で31.2%を占め,胸髄部発症例は全体の50.8%であったが,部位別分節別で比較すると頭顔部が最多であった.4)汎発化は2.3%にみられ,70代を中心に頭顔部症例が多かった.5)PHN(postherpetic neuralgia:帯状疱疹後神経痛)は5.3%に残存し,70代を中心に腹背部に多かった.6)抗ウイルス薬は全体の79.0%に投与されていた.7)頭顔部症例の13.4%に眼病変が,1.1%にRamsay-Hunt症候群がそれぞれ合併していた.8)全体の8.8%に基礎疾患を認めた.9)2回以上の再罹患率は全体の3.6%であった.10)医療機関別の比較では患者の年齢層が有意に異なっており,総合病院は60代以上の高齢者主体で診療所は50代以下が多かった.
著者
乃村 俊史
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.132, no.11, pp.2495-2500, 2022-10-20 (Released:2022-10-20)
参考文献数
23

化膿性汗腺炎は,腋窩・臀部・鼠径部などの間擦部を中心に炎症性結節や囊腫,排膿,瘢痕,瘻孔を繰り返す難治性皮膚疾患であり,かつて本邦では慢性膿皮症と呼称されていた.診断には,好発部位での皮疹出現と慢性再発性の経過が重要であるが,未だ本症についての医師の疾患理解は十分とは言えず,診断と治療の遅れが本症の難治例の多さに繋がっている可能性がある.本症は,かつてはアポクリン汗腺を主座とする細菌感染症のひとつと考えられていたが,2010年に一部の患者にγセクレターゼをコードする遺伝子群(NCSTN,PSENEN,PSEN1)に機能喪失変異を持つことが発見されてからその病態理解が進み,現在は毛包を主座とする自己炎症性疾患と考えられている.化膿性汗腺炎に対しては,以前は抗生剤の内服と外用,外科的治療が行われていたが,2019年にアダリムマブが使用可能になり治療成績が向上している.今後,さらに治療が多角化していくことが予想されるが,皮膚科医が本症の疾患概念や病態を正しく理解することで治療新時代にうまく適応し,本症の治療成績が向上することを強く期待している.
著者
大磯 直毅
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.129, no.10, pp.2137-2143, 2019-09-20 (Released:2019-09-20)
参考文献数
14

色素異常症は,色素増強症,色素脱失症,異物沈着症に分類される.色調変化をともなう皮膚疾患は多岐にわたり,色素異常症との鑑別診断が求められる.鑑別すべき疾患のひとつに色調変化をともなう母斑・母斑症がある.本稿では,母斑・母斑症における色調変化の発症機構について最近の知見を整理したい.
著者
吉永 和恵
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.14, 1975

色素性母斑の加令による変動を検べる目的で自験例62例について臨床分類を行ない, Miescher et Albertini の分類に従い,組織学的検討を行なった. 生下時より存在する非隆起性斑状母斑,点状集族性母斑は生涯を通じ非隆起性で,組織学的に a,b 型母斑細胞のみからなり,加令め変化としては境界母斑から真皮母斑への移行がみられたL隆起性斑状母斑,巨大色素性母斑,乳頭状母斑は後年(恐らくは10代以後)隆起性となり,組織学的に加令に無関係に境界活性を有し. a,b 型母斑細胞の下方に合胞体形成細胞,c 型母斑細胞が増加している.長じても複合母斑の形を留めていた. 生後に出現する丘疹状黒子,軟属腫様母斑,前者は10代から隆起性となり,後者は20代になって出現する.a,b 型母斑細胞は b 型母斑細胞の巨細胞化,浸潤細胞の出現,間質の増加も加わって加令とともに衰退の傾向を示したが,合胞体形成細胞,マイスネル小体様器官は真皮下層から上層に向かって加令とともに増加の傾向を示したレ 次にこれら母斑の構築要素の非特異的コリンエステラーゼ活性の有無を検討した. ChE は表皮滴落型母斑細胞である a,b 型母斑細胞は陰性, Schwann由来とされる合胞体形成細胞,マイスネル小体様器官,c 型母斑細胞のいずれも活性を示した.酵素学的にも2系統の集合体の組合せによって病型毎に活性の状態は異なっていた.臨床的に非隆起性であるか,隆起性となるかめ理由として. a,b 型母斑細胞が胎生中,生後もまなくのうちに増加したのに比し, Schwann 由来性母斑細胞は遅れて,10代になって出現,増加する特徴を有する母斑細胞であるためと考えた.
著者
五十嵐 中 松崎 稔矢 滕 麗達 長谷川 紗由美 常深 祐一郎
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.719-731, 2021-04-20 (Released:2021-04-21)
参考文献数
26

ホスラブコナゾールL-リシンエタノール付加物(F-RVCZ)を含む爪白癬に対する薬剤の費用対効果を,完全治癒率と質調整生存年(quality-adjusted life years:QALY)をアウトカムとして評価した.各薬剤の標準的な投与期間における投与開始48週間後の評価をした場合,F-RVCZを最も安価のテルビナフィン後発品と比較すると,費用は57,361円増大し,完全治癒率は20.7ポイント増加する.完全治癒者1人増加当たりの増分費用効果比は,277,155円,1 QALY獲得あたりの増分費用効果比は1,979,681円となり,一般的に許容可能な上限値(500~600万円/QALY)の水準を下回っており,費用対効果に優れた薬剤であると判断した.
著者
国定 充
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.130, no.9, pp.2035-2041, 2020-08-20 (Released:2020-08-21)
参考文献数
11

紫外線による皮膚発がんは他のがん腫と同様,がん遺伝子およびがん抑制遺伝子の変異により生じる.その起点となる現象としては紫外線が細胞のDNAに吸収されることによって生じるピリミジンダイマーという変異を高率に起こす二量体形成であり,これは紫外線による特有の変異のパターンを起こす.この二量体を修復(ヌクレオチド除去修復)できない遺伝性疾患が色素性乾皮症である.その他紫外線によって生じる活性酸素,そして紫外線による炎症反応も皮膚発がん形成に重要な関わりを持つ.
著者
大日 輝記
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.131, no.7, pp.1709-1712, 2021-06-20 (Released:2021-06-20)
参考文献数
16

局所免疫療法は円形脱毛症に対して最も推奨度の高い治療のひとつとして日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドラインのみならず海外のガイドラインでも採り上げられている.しかしながら本邦では手技が保険収載されていないこと,治療に用いるハプテンなどが医薬品として定義されていないことが課題である.本治療を,2016年改正医療法施行規則に定められた「高難度新規医療技術等」として香川大学医学部附属病院の評価委員会に申請,承認を受けた.一連の手続を紹介し,本治療のさらなる普及の足がかりとなることを期待する.