著者
石川 満佐育 濱口 佳和
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.526-537, 2007-12-30

本研究では,近年諸外国で研究が盛んに行われているforgivenessの概念に注目し,ゆるし傾向性として実証的に取り上げ,わが国の中学生・高校生を対象に,ゆるし傾向性と外在化問題・内在化問題との関連を検討することを目的とした。研究1では,中高生574名を対象に,ゆるし傾向性尺度の作成を行った。因子分析を行った結果,「他者へのゆるし傾向」,「自己への消極的ゆるし傾向」,「自己への積極的ゆるし傾向」の3因子からなるゆるし傾向性尺度が作成された。研究2では,中高生553名を対象に,ゆるし傾向性尺度の信頼性,妥当性の検討を行った。その結果,十分な値の信頼性,妥当性が確認された。研究3では,中高生556名を対象に,ゆるし傾向性と外在化問題(身体的攻撃・関係性攻撃),内在化問題(抑うつ・不安)との関連を検討した。相関,重回帰分析により検討を行った結果,ゆるし傾向性と外在化問題,内在化問題との間には,負の関連が示された。従って,中高生にとって,ゆるし傾向性は,外在化問題,内在化問題の軽減に有効である可能性が示された。
著者
狩野 武道 津川 律子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.168-178, 2011-06-30 (Released:2011-10-21)
参考文献数
39
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 大学生が示す無気力が, スチューデント・アパシー的無気力と抑うつ的無気力に分類可能かどうかを検討し, それぞれの特徴について考察することであった。大学生155名を分析対象とし, 全3回の縦断的質問紙調査を行った。用いた尺度は, 意欲低下領域尺度, 抑うつ気分を測定する項目, 抑うつの反応スタイル尺度の否定的考え込みと分析的考え込みであった。その結果, 持続的に学業に対して無気力を呈する群は, 持続的に抑うつを伴う群(抑うつ的無気力群)と伴わない群(スチューデント・アパシー的無気力群)に分類できることが示唆された。また, 抑うつ的になったときに否定的に考え込む傾向, 分析的に考え込む傾向において, 抑うつ的無気力群はともに高く, スチューデント・アパシー的無気力群はともに低いことが示された。これらの結果から, 無気力研究においてスチューデント・アパシー的無気力と抑うつ的無気力を区別する必要性が論じられ, また, 大学生の無気力に対する予防, 援助に関して考察された。
著者
卜部 敬康 佐々木 薫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.283-292, 1999-09
被引用文献数
1

本研究の目的は,授業中の私語の発現程度とそこに存在している私語に関するインフォーマルな集団規範の構造との関係を検討することであった。中学校・高校・専門学校の計5校,33クラス,1490名を対象に質問紙調査が実施され,私語に関するクラスの規範,私的見解および生徒によって認知された教師の期待が測定された。私語規範の測定は,リターン・ポテンシャル・モデル(Jackson,1960,1965;佐々木,1982)を用いた。また,調査対象となった33クラスの授業を担当していた教師によって,各教師の担当するクラスの中で私語の多いクラスと少ないクラスとの判別が行われ,多私語群7クラスと少私語群8クラスとに分けられた。結果は次の3点にまとめられた。(1)多私語群においては少私語群よりも相対的に,私語に対して許容的な規範が形成されていたが,(2)生徒に認知された教師の期待は,クラスの規範よりはるかに私語に厳しいものであり,かつ両群間でよく一致していた。また,(3)クラスの私語の多い少ないに拘わらず,「規範の過寛視」(集団規範が私的見解よりも寛容なこと)がみられた。これらの結果から,私語の発生について2つの解釈が試みられた。すなわち結果の(1)および(2)から,教師の期待を甘くみているクラスで私語が発生しやすいのではなく,授業中の私語がクラスの規範と大きく関わっている現象であると考察され,結果の(3)から,生徒個人は「意外に」やや真面目な私的見解をもちながら,彼らの準拠集団の期待に応えて「偽悪的」に行動する結果として私語をする生徒が発生しやすいと考察された。
著者
松本 明生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.38-49, 2014 (Released:2014-07-16)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本研究の目的は, アクセプタンス方略を示す自己教示が体験の回避およびスピーチ不安に与える効果について検討することであった。FNE得点および聴衆不安尺度得点をもとに選ばれた30名のスピーチ不安の高い男女大学生の研究参加者を, アクセプタンス自己教示群, 対処的自己教示群, および統制群のいずれかに振り分けた。研究参加者に対してはスピーチ課題をベースラインとして1回, 介入期間中に3回, さらに介入終了から6か月後に1回実施した。アクセプタンス自己教示群と対処的自己教示群には, 介入期間中にそれぞれの群の自己教示を記憶して, それをリハーサルするという訓練を3回実施した。一方, 統制群には自己教示に関する訓練は行わなかった。その結果, ポストテストとフォローアップにおいて, アクセプタンス自己教示群のみに日本語版AAQ得点の増加が見られた。また, アクセプタンス自己教示群および対処的自己教示群では, スピーチ場面でのSUDと聴衆不安尺度得点がポストテストとフォローアップにおいて低減していた。これらの結果は, アクセプタンス方略を示す自己教示はアクセプタンスの増大とスピーチ不安の低減をもたらす有効な手段となりうることを示すものである。
著者
植木 理恵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.301-310, 2002-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,学習方略との関連から高校生の学習観の構造を明らかにすることである。学習観を測定する尺度はすでに市川(1995)によって提案されているが,本研究ではその尺度の問題点を指摘し,学習観を「学習とはどのようにして起こるのか」という学習成立に関する「信念」に限定するとともに,その内容を高校生の自由記述からボトムアップ的に探索することを,学習観をとらえる上での方策とした。その結果,「方略志向」「学習量志向」という従来から想定されていた学習観の他に,学習方法を学習環境に委ねようとする「環境志向」という学習観が新たに見出された。さらに学習方略との関連を調査した結果,「環境志向」の学習者は,精緻化方略については「方略志向」の学習者と同程度に使用するが,モニタリング方略になると「学習量志向」の学習者と同程度にしか使用しないと回答する傾向が示された。また全体の傾向として,どれか1つの学習観には大いに賛同するが,それ以外の学習観には否定的であるというパターンを示す者が多いことも明らかになった。
著者
笹屋 里絵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.312-319, 1997-09
被引用文献数
5

This study examined how children used facial and situational cues to infer others' emotions. The subjects were 4-year-olds, 5-year-olds, first-graders, third-graders, fifth-graders, seventh-graders, and adults, and each group consisted of 10 males and 10 females. Subjects saw Picture stimuli providing facial cues (Task 1), Videotaped stimuli providing situational cues (Task 2), Videotaped stimuli providing both cues depicting the same emotion (Task 3), and Videotaped stimuli providing both cues depicting different emotions (Task 4). In conflicting condition (Task 4), 4-year-olds relied solely on facial cues to infer emotion, but this preference decreased with age. Having reached the third grade, girls were integrating both facial and situational cues, whereas boys who relied on situational cues in the third- and fifth grades, did not integrate both cues until the seventh grade. The way to use the cues in Task 4 was related somewhat to a development of abilities to understand other's emotions from facial cue (in Task 1) and from situational cue (in Task 2).
著者
西松 秀樹 千原 孝司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.436-444, 1995-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1

The purpose of this research was to consider the effectiveness of intra-individual evaluation (teacher's evaluation) on students' intrinsic motivation, and to compare the relative effectiveness of intra-individual evaluation, absolute evaluation, relative evaluation, and non-evaluation and to reconfirm the effect of the intra-individual evaluation and self-evaluation on intrinsic motivation. Two experiments were conducted in first grade classes of a junior high school. Experiment I demonstrated the effectiveness of the intra-individual evaluation on students' intrinsic motivation when compared with absolute evaluation, relative evaluation, and non-evaluation. Experiment II examined the effect of teacher evaluation, and student self-evaluation on intrinsic motivation. The results yielded significant main effects of teacher evaluation and student self-evaluation on students' intrinsic motivation. The results suggested that it was important to consider both teacher evaluation (intra-individual evaluation) and self-evaluation to enhance students' intrinsic motivation
著者
都筑 学
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.40-48, 1993-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
18 6

The purpose of this study was to clarify how Marcia's four ego identity status groups differed in regard to the affective (cognitive-motivational) aspect of time perspective. Subjects were 150 male and 135 female undergraduates. They were administered the following three questionnaires: 1) Time attitude scale, composed of 20 pairs of adjectives to measure attitude toward personal past, present and future; 2) Circles Test, measuring relation among personal past, present and future; 3) Kato's (1983) identity status questionnaire, made of 12 questions concerning present commitment, past crisis and future pursuit. The main results were as follows: 1) Attainment and Moratorium drew three circles more integrated patterns than on Foreclosure and Diffusion; 2) Diffusion had the most negative attitude toward their personal past, present and future. Foreclosure was found the most positive, while Attainment and Moratorium ranked intermediate. From the above results, it was suggested that Attainment had the most realistic and planned attitude toward the future.
著者
外山 美樹 長峯 聖人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.178-191, 2022-06-30 (Released:2022-07-12)
参考文献数
31
被引用文献数
1 2

本研究の目的は,新型コロナウイルス感染症拡大の状況下において,正常性バイアスが生じているかどうかを検討すること,および新型コロナウイルス感染症に関する認知(自身の感染可能性,感染者増加可能性,終息の予期,感染予防の自覚,自粛の自覚)が非自粛行動,感染者への怒り,ストレスならびに抑うつと関連するのかどうかを検討することであった。調査対象者は,東京都に在住の20歳代から60歳代の710名で,2つの時点でweb調査を実施した。本研究の結果より,新型コロナウイルス感染症拡大の状況のような慢性的,長期的な事象においても正常性バイアスが見られることが確認された。また,新型コロナウイルス感染症に関する認知の内容(自身の感染可能性の認知,外界のリスク認知,安全性に関する認知)によって,どの側面と関連するのかが異なることも明らかとなった。さらに,感染予防の自覚と自粛の自覚においては,2ヶ月後の非自粛行動を予測することが示された。今後は,新型コロナウイルス感染症拡大の状況下における正常性バイアスのより長期的な影響を検討するとともに,正常性バイアスの規定要因を検討することの必要性が議論された。
著者
岡田 涼 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-11, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
25 4

本研究の目的は, 自己決定理論において概念化されている複数の動機づけから個人を動機づけスタイルとして表し, その動機づけスタイルによって, 実際の課題解決場面において課題に対する興味にどのような相違が見られるかを検討することであった。研究1では, 大学生の学習活動に対する動機づけを尋ねる質問紙を作成し, それらの得点から, 4つの動機づけスタイル (高動機づけ, 自律, 取り入れ・外的, 低動機づけ) を見出した。研究2では, 従来の自己決定理論研究において用いられることの少なかった実験的な手法を用いて, 動機づけスタイルが課題への興味に及ぼす影響を検討した。その結果, 非統制的な教示条件下において, 取り入れ・外的スタイルは高動機づけスタイルよりも課題に対する事後の興味得点が低くなっていた。また, 高動機づけスタイルと取り入れ・外的スタイルは, ともに低動機づけスタイルよりも課題遂行中の不安・強制感が高かった。以上のように, 動機づけスタイルによって課題への興味のあり方や課題遂行中の不安が異なるという結果は, 個人の動機づけを動機づけスタイルとして多面的に捉える枠組みの有用性を示すものであると考えられる。
著者
山本 琢俟 河村 茂雄 上淵 寿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.52-63, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
42
被引用文献数
7 6

本研究では,学級の社会的目標構造と子どもの自律的な向社会的行動や自律的ではない向社会的行動との関連について,小学生と中学生の学校段階差を検討した。なお,向社会的行動の対象をクラスメイトに限定し,検討を行った。多母集団同時分析の結果,小中学生共に,学級での思いやりや互恵性の強調された目標を認知することと,自律的な向社会的行動との関連が確認された。一方で,学級での規律や秩序の強調された目標を認知することは自律的ではない向社会的行動と関連していることが確認された。このことから,向社会的行動の生起には学級での思いやりを強調することと規律を強調することが共に有効であろうが,特に学級での思いやりを強調する指導によって子どもの自律的な向社会的行動を予測し得ることが示唆された。また,横断的検討ではあるものの,学級の向社会的目標構造と子どもの自律的な向社会的行動との関連に学校段階差が確認されたことから,学級での向社会的目標を強調する教師の指導が自律性支援としての性質を持つ可能性を指摘した。最後に,本研究の限界と今後の課題についてまとめた。
著者
外山 美樹 長峯 聖人 浅山 慧
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.19-34, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
45
被引用文献数
3

本研究は,大学生を対象にし,努力に対する信念についてその構造を明らかにし,その個人差を測定することができる尺度を作成すること,ならびに努力についての信念が目標追求行動と関連しているのかどうかを検討することを目的とした。研究1ならびに研究2より,努力についての信念は,「重要・必要」,「コスト感」,「才能の低さの象徴」,「効率重視」,「環境依存性」,「義務・当然」そして「外的基準」に分類されることが示され,これら7つの下位尺度から成る努力についての信念尺度を作成した。研究2―研究4より,本研究で作成した「努力についての信念尺度」は,一定の信頼性(内的一貫性と時間的安定性)と妥当性(構造的な側面の証拠,外的な側面の証拠)を備え持っていることが確認された。また,研究4より,個人が持っている努力についての信念によって,目標達成が困難になった時の目標追求の仕方が異なることが示され,努力についての信念は行動を規定する要因であることが明らかとなった。今後は,本研究で作成された「努力についての信念尺度」を用いて,さまざまな行動(e.g., 学習行動)との関連について検討することが望まれる。
著者
岡本 直子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.199-208, 1999-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

本研究の目的は, 1) 親密な他者の存在と成功恐怖との関係, 2) 成功恐怖の性質における性差, 3) 性役割観すなわち, 男女が自分の性別に対する社会の期待をいかに認知しているかという「役割期待の認知」や, 成功者にどの様な性役割像を抱くかという「成功者イメージ」と, 成功恐怖の出現との関係, の3点を検討することである。大学生を対象に, 1) 性・対人関係の違いによる成功恐怖の出現の仕方を調べるための, 刺激文を与えそれに関する質問に自由記述で回答させる投影法的方法の課題, 2) 役割期待尺度, 3) 成功者に対するイメージ尺度, の3つからなる質問紙を配布し, 302名 (男性149名, 女性153名) から有効なデータが得られた。データの分析結果から, 男性は競争場面において, 親友や恋人など, 自分と親密な相手を負かして成功した場合に成功恐怖が高くなること, 一方, 女性は恋人を負かす場合に成功恐怖が高まることがうかがわれた。また, 女性が, 成功は女性としての伝統的なあり方に反するものであると感じる場合に成功恐怖を抱く傾向にあるのに対し, 男性は, 「失敗の恐れ」をもつ場合に成功に対して逃げ腰になる, というような, 男性と女性との成功恐怖の性質の違いが示された。また, 女性は, これまでの研究で男性的であるとされていた活動的な特性をもつことを望ましくないと評価すればするほど, 成功恐怖を抱きやすいことがうかがわれた。一方男性は, 望ましい男性的役割とはかけ離れたイメージを成功者に抱く場合に成功恐怖を抱きやすいことが示唆された。
著者
遠藤 愛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.224-235, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では, 境界領域の知能と年齢に不相応な学力を有する中学生を対象に, 算数文章題の課題解決を目指す学習支援方略を検討した。アセスメントの手続きとして, (a)WISC-IIIによる認知特性と, (b)つまずいている解決過程の分析を実施し, それらを踏まえ案出した2つの学習支援方略(具体物操作条件とキーワード提示条件)を適用した。その結果, 対象生徒の課題への動機づけが具体物操作条件にて向上し, 立式過程におけるつまずきがキーワード提示条件にて解消し, 効果的に課題解決がなされた。しかし, 計算過程でのケアレスミスが残る形となり, プロンプト提示を工夫する必要性が示唆された。以上から, 算数文章題解決のための学習支援方略を組む上で踏まえるべきポイントとして, 生徒が示す中核的なつまずきを解消する方略を選択すること, 学習支援方略を適用したときのエラー内容をさらに分析して別の過程における課題解決状況を確認することの2点が示された。
著者
織田 揮準
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.166-176, 1970-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8
被引用文献数
37 13

評定尺度研究の一環として程度量表現用語の意味づけに関する実態調査を, 一対比較法を用いて行なった。選ばれた程度量表現用語は,(1) 実現の程度量 (確信) 表現用語 (16語),(2) 現実の程度量表現用語 (18語),(3) 時間的程度量 (頻度) 表現用語 (16語), および,(4) 心理的時間表現用語 (18語) であり, 調査対象は小学4年生 (延べ2,588名), 小学6年生 (延べ2,379名), 中学2年生 (延べ2,617名) と大学生 (延べ2,084名) であった。程度量表現用語の程度量に関する一対比較判断の結果にもとづき, 判断の比率行列が作られ, また, 尺度値が算出された。その結果, 低学年の理解と大学生群の理解には大きなずれのみられる程度量表現用語のあることが明らかにされ, 評定尺度の作成にあたり, 判断カテゴリー用語の決定は研究者側の理解のみでなく, 同時に被験者群の理解をも配慮しなければならないことが示唆された。
著者
坂上 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.411-420, 1999-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
6 4

本研究では, 人格特性と認知との関連を検討するため, 大学生169名を対象に, 個人の感情特性と図版刺激における感情情報の解釈との関連について調べた。感情特性の指標として, 5つの個別感情(喜び, 興味, 悲しみ, 怒り, 恐れ) の日常の経験頻度を尋ねた。また, 感情解釈の実験を行う直前に, 被験者の感情状態を測定した。感情解釈の課題としては, 被験者に, 人物の描かれた曖昧な図版を複数枚呈示し, 各図版について, 状況の解釈を求めた上で登場人物の感情状態を評定するよう求めた。両者の関連を調べたところ, 喜びを除く全ての感情特性と, それぞれに対応した感情の解釈との間に, 正の相関が認められた。すなわち, 被験者は, 自分が日頃多く経験する感情を図版の中にも読みとっていた。また, 特定の感情 (悲しみと怒り, 恐れと悲しみ, 恐れと怒り) については, 感情特性と感情解釈との間に相互に関連が認められた。感情特性と感情解釈の相関は, 感情状態の影響を取り除いてもなお認められたことより, 感情特性は, 感情状態とは独立に個別の感情に関する認知と関連を持っていることが示唆された。
著者
金田 茂裕
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.333-346, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
46

教授者は日々の教育実践の中で,具体的に扱う「問題」に加え,それに対する「学習者の取り組み」とも対峙する。本研究では,教授者の知識に関する既存の概念をふまえ「課題知識」と「学習過程知識」の2つを定義し,教授者が各知識を獲得したとき,教授者主導,学習者主体の教授学習法の望ましさ判断をどう変化させるかを検討した。実験の参加者は大学生とし,問題として「答えが複数ある文章題」を設定し,公立小学校5年生を学習者として想定してもらい,課題知識付与群(問題の解法と正解を提示:N=147),学習過程知識付与群(学習者の解答例と出現率を提示:N=136)で,事前事後デザインにより判断の変化を調べた。その結果,問題の難易度が学習者にとりどの程度かの判断の平均評定値は,事前から事後にかけ,2群で同じように上昇したが,教授学習法の望ましさ判断の平均評定値は,2群で異なる方向に変化した。課題知識付与群では,教授者主導を望ましいと判断する傾向が強くなり,学習者主体の傾向は弱くなった。一方,学習過程知識付与群では,教授者主導の傾向が弱くなり,学習者主体の傾向は強くなった。以上の結果は,教授者が課題知識,学習過程知識のいずれを基礎とするかにより,教授学習法の望ましさ判断を異なる方向に変化させることを示唆する。
著者
川岸 弘枝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.170-178, 1972-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
2 3

自己受容及び他者受容は, 対人関係における自己意識 (自己に対する知覚, 感情など) の影響を明らかにするための重要な指標であり, 肯定的態度として測定される。これまでの研究には, 測定スケール, 測定方法, 他者との関係の中に大きな問題点が残されたままになっていた。本研究では, この問題を解決し, 受容について総合的に検討することを目的とし, 主に測度の検討を中心に研究をおこなった。I測定スケールの作製と測度間の関係(1) 多面的に性格を記述する形容詞を選択し, 最終的に141項目からなる受容尺度を作製した。(2) 測定方法としては, 各語について, 社会的に望ましいと思われる語がどのくらいあてはまるか-「社会的受容得点」自己にどのくらい満足しているか-「満足度得点」・個人的に望ましいと思っている枠組みにどのくらいあてはまるか-「個人的受容得点」の3種類の測度について作製した同一の尺度を用いて検討した。その結果, 3測度間に密接な関係が見出されたが, 肯定的態度の基礎としては,「社会的受容得点」がもっとも重要な役割をもつことが明らかにされた。II他者受容との関係と適応についてII-1自己受容と他者受容の関係他者として, 実際に被験者にとって初対面の男女2名に登場してもらい, Iで作製した項目に対して評定を求めた。自己受容各測度との関係を求めたところ, 同性の他者を見る時には, 自己受容得点と関係があるが, 異性の他者を見る時には, 有意な関係がみられず, 性によってちがいが見出された。特に女性の場合, 他者を評定する時, 男性よりも自己に対する態度を反映させる傾向が強いことが示された。II-2適応との関連について自己受容得点の高低と, 他者受容得点の高低とをくみあわせた4つのグループを作り, YGテストの結果から, 特徴を見出そうとした結果, 他者受容の高低とは拘りなく, 自己受容の高い者が適応的, 低い者が不適応の傾向を示し, 防衛的態度を示すと考えられたグループの特徴を明らかにすることはできなかった。将来の課題として, 各個人の評定内容を分析し, 適応理解の手がかりとする研究をすすめる必要があると思われる。
著者
則武 良英 湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.290-302, 2022-09-30 (Released:2022-10-20)
参考文献数
51

高テスト不安者は,試験中に心配思考が生起して成績低下が生じる。テスト不安が最も高まるのは中学2年生ごろの生徒であるが,中学生のテスト不安を緩和するための介入方法はない。本研究の目的は,短期構造化筆記を作成し,中学生のテスト不安と数学期末試験成績に及ぼす影響を調べることであった。研究1では,短期構造化筆記を作成し,予備調査として35名の中学生の日常不安を対象にした介入実験を行なった。その結果,中学生に対する高い適用可能性が示された。そこで研究2では,141名の中学生を対象に,実際の期末試験に対するテスト不安を対象に介入実験を行なった。その結果,本介入により中学生の多様な感情制御が促進され,テスト不安が緩和されたことが示された。さらに,数学期末試験成績に対する効果を調べた結果,高テスト不安中学生において不安減少量が大きい者ほど成績が高かったことが示された。本研究の結果をまとめると,本介入により中学生の感情制御が促進され,テスト不安が緩和されることで,数学期末試験成績の低下が緩和されたことが示された。今後は,介入によって生起する感情制御プロセスの更なる解明が望まれる。