著者
小浜 駿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.392-401, 2012 (Released:2013-06-04)
参考文献数
14
被引用文献数
5 2

本研究の目的は, 第1に先延ばし意識特性尺度を用いて3パターンの先延ばしを行いやすい者を特定することであり, 第2に3パターンの先延ばしを行いやすい者の適応性について検討を行うことであった。大学生235名を分析対象とした。主成分分析の個人得点を用いて調査対象者を群分けし, 精神的健康および気晴らし尺度の平均差の検討を行った。分散分析の結果, 以下の3点が明らかになった。第1に, 否定的感情が一貫して生じるパターンの先延ばしは, ストレスコーピングとして機能しない非機能的な気晴らしを繰り返し行い, 日々の精神的適応を悪化させる不適応的な先延ばしであることが明らかになった。第2に, 状況の楽観視を伴うパターンの先延ばしは, 気分緩和を意図して先延ばしを行い, 先延ばし中には課題を忘れて気晴らしを楽しむことができるパターンであるが, 気晴らしへの依存を起こしやすいことが明らかになった。第3に, 計画性と気分の切り替えが生じやすいパターンの先延ばしは, 課題のために考えをまとめようと意図して一時的に先延ばしをした結果, 目標明確化が進み, 気分悪化が生じない適応的な先延ばしであることが明らかになった。
著者
佐藤 寛 今城 知子 戸ヶ崎 泰子 石川 信一 佐藤 容子 佐藤 正二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.111-123, 2009-03-30 (Released:2012-02-22)
参考文献数
32
被引用文献数
27 11

本研究の目的は, 学級単位で担任教師が実施することのできる, 児童の抑うつに対する認知行動療法プログラムの有効性について検討を行うことであった。小学5~6年生の児童310名を対象とし, 150名が介入群に, 160名が統制群に割り付けられた。介入群の児童に対して, 心理教育, 社会的スキル訓練, および認知再構成法を中心的な構成要素とする, 9セッション(1セッション45分)からなる学級規模の集団認知行動療法プログラムが実施された。その結果, 介入群の児童は統制群の児童に比べて抑うつ症状が大きく低減していた。さらに, 介入群の児童は抑うつ尺度のカットポイントを超える割合が低くなっていたが, 統制群ではカットポイントを超える児童の割合に変化は認められなかった。介入群の児童は, 介入目標とされた社会的スキルと認知の誤りにも介入前後で改善が見られ, 全般的な主観的学校不適応感も軽減され, 抑うつや認知行動的対処に関する一般的な理解度が高まるといった効果が認められた。最後に, 子どもの抑うつに対する心理学的介入プログラムの有効性や実用性を向上させるために必要とされる点について議論された。
著者
尾之上 高哉 井口 豊
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.122-133, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
26
被引用文献数
2 3

本研究では,学習法としてのブロック練習と交互練習に注目し,それぞれの単独効果,及び,それらを組み合わせた時の複合効果を比較検討する実験を行った。大学生66名が,学習を1週間の間隔をあけて2回行い,2回目の学習の1週間後にテストを受けた。66名は,2回の学習の方法が異なる次の4つの条件,つまり,条件1(2回ともブロック練習で学習する),条件2(1回目をブロック練習で2回目は交互練習で学習する),条件3(1回目を交互練習で2回目はブロック練習で学習する),条件4(2回とも交互練習で学習する),のいずれかに割り当てられた。条件間でテストの正答率に差があるかを分析した結果,正答率は,条件4,条件2及び3,条件1,の順で高く(条件4>2=3>1),この3者の間には有意差が確認された。つまり,交互練習の機会が増えるに従って,学習内容の定着が進むことが示された。また,実験参加者には,テスト時に自身が想起した解答がどの程度正しいと思うかについての確信度判断を,多段階評定を用いて行ってもらった。その確信度判断と実際のテストの得点の関連を条件毎に分析した結果,学習者は,定着に効果を持つ学習法で学習した時の方が,確信度判断を正確に行える可能性があることが示唆された。
著者
宇佐美 慧
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.385-401, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
41
被引用文献数
3 5

社会科学の分野においては, サンプリングされた個人(e.g., 生徒, 患者, 市民)の測定データが, 上位の抽出単位である集団(e.g., 学校, 病院, 地域)にネストされた構造を持つことが多い。このような階層データにおいては, 一般に階層線形モデル(Hierarchical Linear Model : HLM)のような, 同一集団内に所属する個人間の相関情報を考慮した解析手法が有用である。本研究では, 階層データにおいて, 2群間の平均値差に関心がある場合に着目し, 検定力および効果量の信頼区間幅の観点から必要なサンプルサイズを決定するための決定方法を, 群の割り当てが個人単位で決定される場合(Multisite Randomized Trials : MRT)と集団単位で決定される場合(Cluster Randomized Trials : CRT)のそれぞれについて, ランダム切片モデルを用いて解析した状況を想定して統一的に導出する。さらに, 実用上の観点から, 一定の検定力および信頼区間幅を得るために必要なサンプルサイズをまとめた数表の作成も試みた。 MRT型の収集デザインのための数表は, 個人内の反復測定デザインや, ランダムブロックデザインなどの, いわゆる対応のあるデザインから得られるデータにおいても利用可能である。
著者
山岡 明奈 湯川 進太郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.73-86, 2019-06-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
78
被引用文献数
3 2

創造性を増進することは社会にとって有用であると考えられるが,しばしば創造性の高い人は精神的に不健康であると指摘されてきた。一方で,近年では創造性が高くても精神的に健康な人の存在も示唆されている。そこで本研究では,創造性と精神的健康の両方と関連深い概念として知られているマインドワンダリングという現象に着目し,創造性の高さや精神的健康さの違いによって,マインドワンダリングの特徴に違いかあるのかを実験的に検討した。まず,62名の参加者の創造性と抑うつ傾向およびワーキングメモリ容量を測定した。その後,思考プローブ法を用いて,映像視聴中のマインドワンダリングの思考内容,自覚の有無,話題数を測定した。分析の結果,創造性が高く精神的に健康な人は,マインドワンダリング中に過去のことを考える頻度が少ないことが示された。本研究の結果は,マインドワンダリングを用いて,精神的健康を維持しつつ創造性を増進するための基礎的知見を示したといえる。
著者
島村 直己 三神 廣子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.70-76, 1994-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
17 14

Since the National Language Research Institute's (NLRI) investigation “Hiragana letters read and written by pre-school children,” in 1967, investigations of pre-school children's reading and writing ability conducted among regions have been nearly non -existent. Accordingly, the authors investigated the actual ability of 1, 202 pre-school children in Tokyo and Aichi Prefecture to read and write Hiragana letters. Results show that children's reading and writing ability has improved since the 1967 NLRI investigation. However, according to the Ministry of Education, only 10% of the kindergartens teach reading and writing. So we conclude that there has been intentional early education in institutions outside nursery schools, kindergartens and the home.
著者
小泉 令三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.289-296, 1986-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

The adaptation process of transferred children (New-TC) in grades three to six in new schools was investigated four times in the three-month period following their transference by means of questionnaires which covered physical, interpersonal and socio-cultural environments of the school. Subjects were 40 New-TC, 65 children transferred the previous year (Ex-TC) and 120 children who had been in the schools before Ex-TC (Host-C). The main findings were as follows: (1) New-TC had lower score than Ex-TC and Host-TC in interpersonal transaction with classmates and teachers during their first two periods,(2) New-TC with lower social difficulty, such as feeling of anxiety or difficulty in social situations, showed a tendency for higher score in interpersonal transaction with classmates and teachers,(3) New-TC had lower score than Ex-TC and Host-C in cognition of school facilities and equipments (physical environment) during their first three periods,(4) No difference was found in three groups concerning reception of class (interpersonal environment) and interest of learning (socio-cultural environment). These results were discussed from a microgenetic developmental view-point.
著者
下山 晴彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.145-155, 1995-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
9 11

It is often said that university students in Japan are comparatively passive and enervated. However both the peculiarity of Japanese adolescent process and the diversity of enervation must be taken into consideration. The primary purpose of this research was to investigate the meaning of the variety of enervation in relation to such adolescent aspects as pycho-social moratorium, mentality of student apathy and identity development. Passivity Area Scale, Moratorium Scale, Apathy Mentality Scale, Identity scale were administered to 522 male freshmen. The data were analyzed using multiple regression analysis. It was shown that the passivity in the area of campus was more serious than in the area of class and study. From the analysis using covariance structure analysis it was found that the structure of passivity in the area of campus was different from that in the area of class and study in so far as it was related to anhedonia seriously considered an apathetic mentality and a basic identity confusion.
著者
柏木 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.193-202,253, 1967-12-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
6 3

パースナリティーの発達, ないし社会的適応のひとつの重要な側面である性役割学習過程が, 男・女の性に対してそれぞれどのような役割特性を認知しているかの面から問題とされた。ことにとれが自我に目覚めて外的権威に反発する時期を経て社会的人間へと転じてゆく青年期にどのような変化をたどるか, また自身の性によって認知のしかたにどんな相違があるかが検討された。性役割特性を示す形容詞群から成る質問紙を用い, 男・女両性についてそれぞれの特性がどの程度望ましいかの比較・評定を求めた。そこから男.女両役割得点および両得点差が求められ, 男女をどのような差で役割分化させているかが検討された。その結果, 次の諸点が指摘された。(1) 全34項目中10項目については, 全被験者群によって同様な結果が得られ, 被験者の性・年令の差を問わず認知のしかたにある共通する面の存在することが示された。(2) 一方, 他のいずれの群とも共通性をもたず特定の1群だけが性役割の分化にあたって有効とする特徴的な点もいくつかみられた。(3) 一般に, 男性に対しては役割特性が明瞭であり, 多くの特性が付与されている。これに比べて女性役割特性はより少なく, ことに年少段階では明瞭に認知されがたい傾向がある。(4) 被験者の性によって, 中学生から大学生にいたる問の年令による変動のしかたには相違がみられた。すなわち,(a) 男子では, 男・女両役割の分化の程度に著しい年令差があり, 年少段階ではわずかな特性でしか性役割は区別されておらず未分化である。年長になるにつれて男・女役両割はこまかく明瞭な差をもって分化してゆく。(b) 女子では, 男・女両役割を識別するのに有効な項目特性数に関しては年令差はみられない。しかし内容的にみると, 何が基準となって識別されているか, 女性役割特性が明瞭に積極的に捉えられているか, などの点で, 年長段階と年少段階との問には相違がある。(5) 低年令段階では男子と女子との間に認知のしかたに差があるが, 年長段階になると性差は小さくなり, 男・女群間の相違は小さくなる傾向がみとめられた。(6) 男・女両役割得点差と評定の絶対値との関係から各群の特徴が吟味され, 今後とるべきいくつかの分析方向が示唆された。
著者
吉良 悠吾 尾形 明子 上手 由香
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.11-22, 2020-03-30 (Released:2020-05-01)
参考文献数
41
被引用文献数
7

本研究は,ソーシャルスキルの階層性を考慮し,認知や情動面のスキルも測定できる「成人用ソーシャルスキル自己評定尺度」が青年に適用可能であることを確認した上で,項目反応理論を用いて短縮版尺度を作成し,その短縮版尺度を用いて,具体的な対人場面におけるスキルである対人スキルと,それらを発揮する基となる,汎状況的な認知・情動・行動スキルであるコミュニケーション・スキルとの関連性を検討することが目的であった。多母集団因子分析によって,青年のソーシャルスキルを同様の因子構造で測定できることを確認した上で,項目反応理論を用いて35項目であった項目数が20項目となる短縮版尺度を作成した。また,階層的重回帰分析の結果,対人スキルの発揮のためには,自分の意思を相手に伝えるための行動スキルだけでなく,認知や情動面のスキルも重要であること,その関連性は対人スキルの種類によって異なることが示された。したがって,青年のソーシャルスキルを高めるためには,対人スキルの種類に合わせて,認知や情動面のスキルを含めた訓練が有効であることが示唆された。
著者
成田 健一 下仲 順子 中里 克治 河合 千恵子 佐藤 眞一 長田 由紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.306-314, 1995-09-30
被引用文献数
22

The purpose of this study was to examine the reliability and validity of a self-efficacy scale (SES : Sherer et al., 1982) using a Japanese community sample. The SES comprised 23 items measuring generalized self-efficacy. The SES and other measures were administered to a total of 1524 males and females whose ages ranged from 13 to 92. Exploratory factor analyses were conducted separately for sex and age groups and the factor structures obtained from these were compared. The results revealed a clear one-factor solution for the sample as a whole. A similar one-factor structure was obtained across sex and age groups. The SES was found to have satisfactory test-retest reliability and internal consistency. The correlations of the scores on the SES with other measures, such as depression, self-esteem, masculinity, and perceived health, provided some supports of construct validity. Some evidences of the construct and factorial validity of the SES in the Japanese community sample were found.
著者
則武 良英 武井 祐子 寺崎 正治 門田 昌子 竹内 いつ子 湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.134-146, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
36
被引用文献数
4

本研究の目的は,ハイプレッシャー状況がワーキングメモリに及ぼす影響を明らかにすることと,ハイプレッシャー状況が引き起こす負の影響に対する短期筆記開示介入の効果を明らかにすることであった。研究1では,大学生を対象としてハイプレッシャー状況下でワーキングメモリ課題の遂行を求めた。研究1の結果から,ハイプレッシャー状況下ではワーキングメモリ課題成績が低下することが示された。研究2では,ハイプレッシャー状況でワーキングメモリ課題を遂行する直前に,参加者に短期筆記開示の実施を求めた。また,ネガティブな感情を扱う短期筆記開示に対して,研究2ではポジティブ感情を扱う短期利益筆記介入を開発し,2つの介入の効果を比較した。研究2の結果から,短期筆記開示はプレッシャーの負の影響を緩和して,ワーキングメモリ課題成績低下を一部緩和することが示唆された。特に,短期利益筆記は短期筆記開示と比較して,介入効果が安定することが示された。従来の短期筆記開示と比較して,本研究の短期利益筆記は子どもへの適用可能性が高いため,今後は教育現場における本介入の有効性を明らかにしていく必要があると考えられる。
著者
竹村 和久 高木 修
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.57-62, 1988-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
3

“Ijime” (in Japanese, a rough equivalent of bullying) is a serious social phenomenon in which some school children are frequently and systematically harassed and attacked by their peers. In this study, differences of negative attitude toward a deviator and conformity to majority were investigated in connection with various roles (victims, assailants, bystanders, spectators, mediators, and unconcerned persons) in the “ijime” situation. The subjects, 195 junior high school students, were asked to respond to a questionnaire which measured (a) negative attitude toward a deviator and (b) conformity to the group in various situations. Major findings obtained were as follows: (1) Regarding attitude: there were no significant differences among the above six roles.(2) Regarding conformity: several significant differences were found in every role. In general, the conformity level of assailants was higher than that of mediators.(3) The result of multivariate analysis suggested that the victims were more deviant in both attitude and conformity than in any other roles.
著者
縣 拓充 岡田 猛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.438-451, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
45
被引用文献数
8 2

本研究では, 創造性神話に代表される美術の創作活動に対するイメージが, どのように表現や鑑賞への動機づけに影響するかを検討した。その際, 表現に対する効力感, 及び, アートに対するイメージを媒介変数として仮定し, 創作活動に対するイメージは両者を介して表現・鑑賞への動機づけに効果を及ぼすという仮説モデルを構築した。まず予備調査として, 人々が美術創作やアートに対して持つイメージを, 自由記述式の質問紙によって抽出した。続いて首都圏の大学生・専門学校生306名に対して, 上述の仮説モデルを検証する本調査を行った。構造方程式モデリングを用いた主な分析結果は以下の通りである。1)創作・表現に対するステレオタイプは, 表現に対する低い効力感, 及び, アートに対するネガティヴなイメージを予測した。2)表現に対する効力感やアートに対するイメージは, どちらも表現・鑑賞への動機づけに影響していた。以上の結果から, 表現のみならず, 鑑賞を促す上でも表現に対する効力感を高めるような実践が有用である可能性や, その一つの方法としての, 創作・表現に対するステレオタイプを緩和するというアプローチの有効性が示唆された。
著者
佐藤 有耕
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.347-358, 2001-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35
被引用文献数
3 3

本研究では, 大学生の自己嫌悪感と自己肯定の間の関連を検討した。目的は, どのような自己肯定のあり方が, 大学生の自己嫌悪感を高めているのかを明らかにすることである。自己嫌悪感49項目, 自尊心48項目, 自愛心56項目から構成された質問紙が, 18才から24才までの大学生ら535名に実施された。その結果明らかにされたことは, 以下の通りである。(1) 自己嫌悪感は, 自分を受容的に肯定できるかどうかと関連が強い。(2) 自己に対する評価も低く, 自己に対する受容も低いというどちらの次元から見ても自己肯定が低い場合には, 自己嫌悪感が感じられることが多い。(3) しかし, 最も自己嫌悪感を感じることが多くなるのは, 自分を高く評価するという点では自己を肯定している一方で, 受容的な自己肯定ができていない場合である。本研究では, 自己嫌悪感をより多く感じている青年とは, 自分はすばらしいと高く評価していながら, しかし現在の自分に満足できず, まだこのままではたりないと思っている青年であると結論した。
著者
倉石 精一 梅本 堯夫 安原 宏 奥野 茂夫 村川 紀子 百名 盛之 添田 信子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.23-31,67, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
4
被引用文献数
1 2

この研究の目的は, 数学学力の発達的な変化を, 知能との関係において分析することにあった。そのためまず小4, 小6, 中1, 中3, 高2の計491名の被験者に, 算数数学学力検査と京大NX知能検査を行なった。算数数学学力検査は学習指導要領に従って, 小中学校では数概念, 量概念, 図形概念, 関係概念, 実務, 問題解決の6下位検査からなり, 高校では数量概念, 図形概念, 関係概念, 問題解決の4下位検査からなるものを作成した。まずこのテストの内部関係を求めたところ, かなり高い相関係数がえられたが, 特に関係概念のテストは内部相関も総点との相関も高かった。また相関の比較的低いテストは低学年では実務, 高学年では図形概念のテストであつた。ついで知能検査の因子分析の結果に従い, 各生徒の因子点を算出し, この因子点と算数数学学力テストとの相関を発達的に検討した。その結果小4, 小6, 中1までは言語因子と数学学力テストの相関関係が密接にみられたが, 中3, 高2ではむしろ, 言語因子以外の因子と数学学力テストとの相関が高かつた。また知能偏差値と言語因子点の差によってGP分析を行なつたが, やはり小4, 小6では言語型群の方が算数学力テストの成績がよかったが, 中3, 高2ではむしろ非言語型群め方が数学学力テストの得点は高い傾向がみられた。これらの事実から知能と数学学力との関係は, 単に知能偏差値または知能指数と数学学力テストの総点との単純な相関では一見して発途的になんら変化しないように見えるが, 両者を分析して質的に考察をすれば, 小学校では知能のうちの言語因子と算数学力との相関が高く, それが中学, 高校となるにつれてしだいに言語因子以外の因子と関係が深くなると結論された。
著者
西川 一二 雨宮 俊彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.412-425, 2015
被引用文献数
15

本研究では, 知的好奇心の2タイプである拡散的好奇心と特殊的好奇心を測定する尺度の開発を行った。拡散的好奇心は新奇な情報を幅広く探し求めることを動機づけ, 特殊的好奇心はズレや矛盾などの認知的な不一致を解消するために特定の情報を探し求めることを動機づける。研究1では, 大学生816名を対象とした予備調査を行い, 50項目の項目プールから12項目を選定し, 知的好奇心尺度とした。次に大学生566名を対象とした本調査を行い, 予備調査で作成した知的好奇心尺度の因子構造の検討を行った。因子分析の結果, 各6項目からなる2つの因子が抽出され, 各因子の項目内容は, 拡散的好奇心および特殊的好奇心の特徴と一致することが確認された。2下位尺度の内的整合性は, 十分な値(α=.81)を示した。研究2では, 知的好奇心尺度の妥当性を, Big Five尺度, BIS/BAS尺度, 認知欲求尺度, 認知的完結欲求尺度と曖昧さへの態度尺度を用いて検討した。相関分析と回帰分析の結果, 拡散的好奇心と特殊的好奇心の共通性と対比について, 理論的予測とほぼ一致する結果が得られた。知的好奇心尺度の含意と今後の研究の展望について議論がなされた。
著者
西村 多久磨 瀬尾 美紀子 植阪 友理 マナロ エマニュエル 田中 瑛津子 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.197-210, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
40
被引用文献数
4 8

本研究では, 中学生を対象に学業場面に対する失敗観の個人差を測定する尺度を作成した。その際, 子どもにとって身近で回答しやすい失敗場面を想定し(問題場面, 発表場面, テスト場面, 入試場面), これらの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定するモデルを提案した。中学生984名から得られたデータに対して探索的因子分析を行った結果, 失敗観は「失敗に対する活用可能性の認知」と「失敗に対する脅威性の認知」の2因子から構成されることが, 各場面に共通して示された。また, これら4つの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定したモデルの適合度は十分な値であった。この結果から, 高次因子モデルによって失敗観を測定するアプローチの妥当性が支持された。さらに, 理論的に関連が予想された変数との相関関係も確認され, 尺度の妥当性に関する複数の証拠が提出された。最後に, 作成された尺度を用いた今後の研究の展望について議論がなされた。
著者
河合 輝久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.376-394, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
40
被引用文献数
4

本研究の目的は, 大学在学時に抑うつ症状を呈し始めた友人が身近にいた大学生の視点から, 大学生の抑うつ症状に対する初期対応の意思決定過程と実際の初期対応を明らかにすることである。大学生12名を対象に, 身近な友人が抑うつ症状を呈し始めた時の初期対応について半構造化面接を行った。得られた結果について, グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った結果, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助する利益, 援助しないリスクを意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供する」, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助するリスク, 援助しない利益を意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供せず, 距離を置いたり過度に配慮したりする」, 「専門的治療・援助の必要性を意識し勧めようとしても, 専門的治療・援助の利用勧奨リスクや専門的治療・援助の利用リスクを意識したり, 適切な専門的治療・援助機関を知らなかったりする場合, 専門的治療・援助の利用を勧めない」など8つの仮説的知見が生成された。大学生の抑うつの早期発見・早期対応においてインフォー マルな援助資源を活用する際には, 特に初期対応の実行に伴うリスク予期を軽減させるアプローチが重要であると考えられる。
著者
澁谷 拓巳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.373-387, 2020-12-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
35
被引用文献数
1

項目反応モデルの多くはカテゴリカルな観測変数を対象とするものだが,中には反応時間や回答への確信度といった連続量の観測変数を対象としたモデルも提案されている。本研究では連続した観測変数をベータ分布でモデリングしたNoel & Dauvier (2007) のモデルを拡張し,新たな項目反応モデルを提案する。本研究では,先行研究では示されていなかった,EM法による周辺最尤推定法による項目パラメタ推定方法の定式化と,推定の標準誤差の解析的な導出をおこない,パラメタの等化可能性について議論する。シミュレーションにより,提案手法の真値とのRMSEは0.1程度で推定されることと,EM法による推定が項目数が少ない条件下であっても安定していることが分かった。本来は連続変数として想定されてはいないものの観測カテゴリ数の多い実データに提案手法を適用したところ,比較的小さな標準誤差の推定値が得られることと,能力推定値は段階反応モデルで推定した結果と高く相関していることを示した。