著者
中垣 啓
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.369-378, 1990-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1

The present study was designed to examine so-called context effect on performance in number conservation tasks. Twenty-two nonconservers.(mean age 4 years 11 months), in standard number conservation tasks received same kind of tasks in three modified conditions. Main findings were as follows. In the first place, even the subjects who failed a one-to-one correspondence task gave conserving responses in a meaningful context. In the second place, many subjects gave conserving responses even in the condition in which the transformation of elements was accompanied with addition of one element and therefore non-conserving responses were in fact correct. In the third place, conserving responses could be induced even in a condition without context, if only a perceptual contrast of elements after transformation would be enough weakened. These results were interpreted as evidences of degeneration theory, proposed by the author, according to which conserving responses in a meaningful context would not mean the facilitation of conservation competence inherent in young children, but induced by evading cognitive perturbations which were essential in standard conservation tasks.
著者
田村 修一 石隈 利紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.438-448, 2001-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
4 11 27

この研究は, 指導・援助上の困難に直面した教師が, どのように他の教師に援助を求めるかについて明らかにし, 加えてバーンアウトとの関連について明らかにすることを目的に実施された。日本の中学校の教師155名から質問紙を回収した。分析の結果, 以下のことが明らかになった。男性教師の場合は, 教師自身の指導・援助に対する同僚からの批判を感じている人と, 同僚に助けてもらうことに抵抗のある人のバーンアウト得点は深刻であった。そして, 同僚からのソーシャル・サポートがある人のバーンアウト得点は低かった。女性教師の場合は, 生徒からの反抗の多い教師と, 同僚に助けてもらうことに抵抗のある人のバーンアウト得点は深刻であった。この結果から, 教師へのサポートをどのように供給したらよいかについて, 考察された。
著者
坂田 成輝 音山 若穂 古屋 健
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.335-345, 1999-09-30
被引用文献数
1

本研究では,教育実習期間中に実習生が経験するストレッサーを継時的に測定する尺度(教育実習ストレッサー尺度)の開発を目的とした。157名の実習生を対象に,34の刺激事態項目に対してその経験の有無と不快に感じた程度を実習期間中に計3回評定させた。同時に心理的ストレス反応尺度(PSRS-50R),高揚感尺度,身体的反応尺度に対しても継時的に評定させた。項目分析の結果,5つのストレッサー・カテゴリー(基本的作業,実習業務,対教員,対児童・生徒,対実習生)から構成される教育実習ストレッサー尺度(計33項目)が作成された。教育実習ストレッサー尺度で測定された各ストレッサー得点と心理的ストレス反応得点との継時的な関係を検討した。実習開始直後では多くの心理的ストレス反応に作用するストレッサーに共通性が認められた。しかし実習中頃になると反応毎に作用するストレッサーが異なり,実習が終了近くなると再び多くのストレス反応に作用するストレッサーが共通してくることが示された。以上の結果から,実習生に生起する心理的ストレス反応へのストレッサーの作用を捉える上で教育実習ストレッサー尺度は有効な尺度であることが示された。
著者
森本 哲介 高橋 誠 並木 恵祐
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.181-191, 2015
被引用文献数
1

本研究では, 高校生女子の自己形成意識を高めることを目的に, 自己の強みを日常生活の中で活用する自己形成支援プログラムを実施し, その効果を検証した。プログラムは, 第1週目に参加協力者の"性格的な強み(Character Strengths : 以下CSとする)"を測定し, 第2週目に参加協力者自身の中で上位5つのCSを個人毎にフィードバックした。そしてその後1週間の日常生活で, 各参加協力者がフィードバックされたCSを自分なりの新しい方法で活用するよう促す, という手順で行われた。効果検証のために, 「可能性追求」と「努力主義」からなる自己形成意識尺度を測定した。また実験群では, 自己の上位5つの強みについての主観的な感覚を測定した。群(実験群・統制群)×test時点(pre・post)の2要因分散分析の結果, 実験群ではプログラムの前後で可能性追求と努力主義の得点が有意に上昇したが, 統制群では得点に有意な変化はみられなかった。さらに実験群の参加協力者は, 自己の強みをより意識し重要であると感じやすくなり, また自己の強みを活用しているという感覚が有意に高まっていた。これらの結果から, 自己の強みを活用する自己形成支援プログラムが高校生女子の自己形成意識を高めるために有効であることが示された。
著者
原田 杏子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.54-64, 2003-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 一般の人々による日常的な相談・援助場面の会話に注目し,「人はどのように他者の悩みをきくのか」を明らかにすることである。会話データから帰納的な分析を行うため, 質的研究法の 1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。データ収集においては, 大学生の同年代・同性ペアによる実験的な相談・援助場面の会話を録音した。データ分析においては, 〈概念のラベル付け〉から〈最終的なカテゴリーの選択〉へと至る4つの段階を経て, データからカテゴリーを生成した。その結果, 他者の悩みをきく際の発言として,【推測・理解・確認】【肯定・受容】【情報探索】【自己及び周辺の開示】【違う視点の提示】【問題解決に向けた発言】という6つのカテゴリーが抽出された。生成されたカテゴリーを先行研究と比較すると, 悩みのきき手が自分の体験を開示したり, 問題を受容するよう促したりするところに, 臨床面接や援助技法とは異なった日常的な相談・援助のあり方が見出された。これらのカテゴリーは, データに基づいた暫定的なものではあるが, 今まで研究対象として見過ごされてきた日常的な相談・援助に実態像を与えるものとなった。
著者
鈴木 豪
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.138-150, 2015-06-30 (Released:2015-08-22)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

本研究では, 鈴木(2014)の手続きを改め(グラフの提示と共通点・相違点の発見順序の固定), 多様な考え方の比較検討方法の違いが課題解決に及ぼす影響を検証した。平均を既習である小学5年生(N=44)を, 代表値(平均, 最頻値, 最大値, 最小値)をもとにした四つの考え方について, (a) 共通点・相違点を考える比較検討方法(共通相違群), (b) 最も良い考え方を選びその理由を考える比較検討方法(最良選択群), のいずれかを経験する群に割り当てた。児童は比較検討を行った後, 事後課題2問に回答した。その結果, 外れ値が存在するときに, 次に得られる値を予測する事後課題では, 共通相違群の方が, 外れ値を除いた平均や最頻値をもとに回答できた割合が大きかった。また, 外れ値を含んだ平均をもとに回答した児童のうち, 外れ値の存在に言及した児童の割合も共通相違群の方が大きかった。次に, 2種のデータの大小を比較する事後課題では, 共通相違群の方がより多くの比較方法を示すことができていた。共通点・相違点を考える比較検討方法が, 最も良い考え方を選ぶ比較検討方法よりも, 代表値を用いた課題解決により良い影響を及ぼすことが示された。
著者
板津 裕己
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.86-94, 1994-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

The aim of this study was to investigate the relation between self-acceptance and interpersonal attitude. Self-acceptance was measured with Self Acceptance Scale (SASSV, Itatsu, 1989, 1993), and interpersonal attitude was done with Interperso nal Attitude Inventory (IAI, Kato & Takagi, 1980) and Interpersonal Relations Inventory (IRI, Fukuyama, 1981). Subjects were 391 male university students. Close relationships were found between many subscales and indices of SASSV, and subscales on IAI and IRI. Every subscale and Basic Trait (Secondary Factor) on SASSV had a close relation with different aspect on interpersonal attitude. Subjects who accepted their own self had a friendly attitude toward others. From the results mentioned above, a hypothesis was built up willing that each trait or factor of self-acceptance had a close relation with specific aspect on interpersonal attitude. DBS (Distance Balance Score), which was one of the indices of SASSV, was related to discrepancy sc ores on IRI. This result meant that inner balance of self-acceptance contributed to disparity between self-attitude and attitude for others.
著者
佐久間 路子 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.33-42, 2003-03-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,人間関係に応じて自己が変化する動機,変化に対する意識を測定する尺度の作成および自尊感情との関連における性差を検討することである。大学生男女742名を対象に,変化程度質問,変化動機尺度,変化意識尺度,セルフ・モニタリング尺度,相互独立的-相互協調的自己観尺度,自尊感情尺度などからなる質問紙を実施した。主な結果は以下の通りである。1)変化動機尺度は関係維持,自然・無意識,演技隠蔽,関係の質の4因子,変化意識尺度は否定的意識,肯定的意識の2因子が見いだされ,信頼性と妥当性が確認された。2)変化動機の関係維持,自然・無意識,関係の質は,男性よりも女性の方が得点が高かった。3)男女ともに,変化程度は自尊感情との関連が見られなかったが,女性においてのみ否定的意識と演技隠蔽の自尊感情への負の影響が認められ,変化動機および変化意識と自尊感情との関連には,性別による違いがあることが示された。
著者
清水 秀美 今栄 国晴
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.348-353, 1981-12-30
被引用文献数
17
著者
仲 真紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.28-37, 1983
被引用文献数
1

本研究では, 論理的推論において用いられる「だから」(「だから」の論理的機能。例:「夏は暑い。だから暑くなければ夏ではない。」) と経験的推論において用いられる「だから」(「だから」の経験的機能。例:「夏は暑い。だから薄着をする。」) を区別し, これらがどのように獲得されるかを調べた。被験者は小学校2年, 4年, 6年である。但し調査と実験では中学生, 大学生についても調べた。<BR>調査では, 2つの機能の獲得過程を調べる実験的研究に先がけ, 実際に「だから」の2つの用法があるかどうか, また「だから」にそれら以外の用法があるかどうかを調べた。方法は文章完成課題 (例:「夏は暑い。だから-。」) を用いた。<BR>実験では, 「だから」を含む命題を聴覚呈示し, 「だから」の使い方が正しいか否かを評価させることにより, 論理的機能, 経験的機能がどの程度獲得されているかを調べた。<BR>補足実験は, 上の実験で得られた発達傾向の再現性と外乱に対する安定性を調べるために行われた。「だから」の使用に関する1度限りの教授を行い (外乱), その効果を事前・事後テストで測定した。<BR>主な結果は以下の通りである。<BR>1. 「だから」は論理的命題, 経験的命題に用いられる。また, その他の命題 (対立や類比) にも用いられることがある。<BR>2. 論理的機能は小学校期では十分獲得されない。<BR>3. 経験的機能は2年でもかなり獲得される。<BR>4. 主観的命題 (例:「あの犬は小さい。だからかわいい。」) や類比的ないし疑似類比的命題 (例:「リンゴは赤い。だからバナナは長い。」) における「だから」の使用を正しいとする反応は, 小学校期を通じて著しく減少する。<BR>5. 以上 (2, 3, 4) の発達傾向は再現性があり, また1 度限りの教授という-過性の外乱に対して安定である。
著者
岸田 元美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.1-12,61, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
7

This study is the 2nd report by the author concerning the study on the human relationship between pupil and teacher. The 1st report was an analysis of pupils' attitude toward their teachers. In order to confirm the points which had been proposed in the 1st report, the author took six teachers as subjects and investigated their personality traits and the educational attitude toward their pupils which had caused the differences in the pupils' attitude toward them.As personality traits, sex, age, intro-extro vert, the term of teaching experience and final schooling were adopted. In order to investigate the patterns of teachers' educational attitude toword the pupils, a questionnaire was made, asking the teachers their daily attitude toward the pupils. The questionnaire consisted of five investigation sheets (1) affectionate indifferent (2) authoritathe laissez-faire (3) strict liberal (4) devoted neglectful (5) qualified unqualified.The pupils' attitude toward their teaehers was then compared with the teachers' personality traits and educational attitude toward the pupils.The main results of the investigation were as follow; The teachers' sex and age scarecely influenced upon the pupils' attitude toward them but their educational attitude toward the pupils much influenced upon it. Those teachers who had more desirable human relations to their pupils were identified as qualified, devoted, liberal and affectionate.
著者
小林 敬一 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.377-385, 1992-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
3

In this study, two issues concerning processes of prospective memory, that is, the relations between the use of memory aids and metamemory knowledge, and the effect of activities which arise on process till remembered, were examined. Eighty undergraduates were asked to bring four objects they may use in class or test hours two weeks later. The main results were as follows: 1) the relation between use or non-use of memory aids and metamemory knowledge weren't noticed ; 2) according to the importance and the effort made in order to bring the objects manipulated as experimental factors, recognition of importance, memory aids and conversation with others, etc., influenced the subject's performances in various ways, suggesting that conversation with others may have two functions (monitoring and reciprocal supplements) specially in the processes of prospective memory.
著者
浦上 昌則
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.400-409, 1996-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
28
被引用文献数
2 3

It appears that students develop their motivation for self-growth through career exploration process. This study explored the relationships among career decisionmaking self-efficacy, vocational exploration activities and self-growth motivation in career exploration processes. Subjects were 224 women's junior college students majoring in liberal arts. Data were collected on two occasions in the process. At the beginning of a job-searching, the career decision-making self-efficacy expectations were measured. Eight months later, the questionnaire measuring the activity of vocational exploration and the change in self-growth motivation in their exploration process was administered to the students. These data were analyzed using covariance structure analysis. The results indicated that self-growth motivation was directly predicted by the career decision-making self-efficacy, and two factors of vocational exploration activity, i. e. collecting and integrating information about self and vocation, and reconsidering one's own vocational exploration activities. The career decisionmaking self-efficacy had a significant effect on all vocational exploration activity factors. Based on these results, the meaning of vocational exploration activity in the career development was discussed.
著者
橋本 剛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.94-102, 2000-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
4 4

教育場面においても対人関係の否定的側面が精神的健康に及ぼす影響は重大な問題であると考えられる。本研究では (1) 社会的スキルと対人ストレスイベント (ストレッサーとなり得る対人関係上の出来事) の関連,(2) 対人方略 (他者との関わり方/スタイル) と対人ストレスイベントの関連,(3) 対人方略と社会的スキルの関連, を検討することを目的とした。分析対象は大学生計200名 (男性105名, 女性95名, 平均年齢19.38歳) であった。分析の結果, 社会的スキルは対人劣等とは負の関連を持つという仮説は支持されたが, 対人摩耗とは正の相関を示すという仮説は必ずしも支持されなかった。また, 社会的スキルの対人ストレス緩衝効果は示されず, 部分的に直接効果が示された。対人方略と対人ストレスイベントの関連については, 内省傾向が否定的影響力をもつことが確認された。対人方略と社会的スキルの関連については, 対人関係の深化を回避する傾向が社会的スキルと負の関連を持つことが確認された。最後にこれらの知見を受けて, 今後の課題などが議論された。
著者
秋田 喜代美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.307-315, 1988-12-30
被引用文献数
2

This study examined the effects of self-questioning (question-generation) on reading comprehension and on self-evaluation of comprehension. Seventh-grade students were assigned to one of 4 treatment groups : a question-generation group (Gr. G), an answering questions generated by an experimenter group (Gr. A1)(Exp. 1), an answering questions generated by Gr. G group (Gr. A2) (Exp. 2), or a read-reread control group (Gr. C). Verbal ability, as measured by the Siba Vocabulary Test, was used to group Ss into 3 levels. The quality of questions generated by Gr. G and task performances were analyzed in terms of comprehension of macrostructure. The major results were as follows. a) Question-generation facilitated the comprehension of main ideas. In particular, this effect was larger for lower than for higher verbal ability students. Such effect was caused not by the contents of questions generated, but from the process of generating those questions. b) Gr. G seemed to evaluate more adequately on their comprehension though without any significant results. To examine such result, more valid measures should be planned in the future.
著者
小浜 駿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.283-293, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
26
被引用文献数
3 2

本研究では, 先延ばしの際に生じやすい意識から先延ばしを3パターンに分け, 3パターンそれぞれの先延ばしを行いやすい者の学業遂行について検討することを目的とした。学業遂行に影響を与えると考えられる変数として, 3パターンの先延ばしを行いやすい者の仮想的有能感および達成目標についても検討が行われた。292名の4年制大学生を対象とした質問紙調査の結果, 以下の3点が明らかとなった。第1に, 否定的感情が一貫して生じる先延ばしは, 学業遂行に悪影響を与えないことが明らかとなった。ただし, 失敗を回避しようとする状況では学業遂行に悪影響が生じる可能性が示唆された。第2に, 状況の楽観視から生じる先延ばしは, 学業遂行に悪影響を与えることが明らかとなった。また, 低い学業遂行の帰結として生じる自己評価の低さを, 他者軽視に基づく仮想的有能感によって補償していることが推察された。第3に, 計画性をもって行われる先延ばしは, 学業成績に好影響を与えることが明らかとなった。計画性をもって行われる先延ばしは, 気晴らしの機能をもつ先延ばしによって課題遂行のための目標が明確化するために学業遂行に好影響を与えると推察された。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.191-198, 1999-06-30

心配には問題解決のために能動的に制御された側面(問題解決志向性)と制御困難性という2つの側面が存在している。本研究では両者の関連を因果分析によって検討した。心配のプロセスをとらえる質問紙を大学生359名に実施したデータを, 共分散構造分析によって分析したところ, 問題解決志向性は制御困難性を抑制する効果とともに, 問題が解決されないという感覚(未解決感)を強めることを通じて, 制御困難性を促進する効果ももっていることが見出された。問題解決志向性から制御困難性へのこのような正負の効果が相殺しあって, 両変数はほぼ無相関であった。さらに, 心配の問題解決志向性は普段一般の積極的な問題解決スタイルを反映していること, 問題解決の自信の低さや完全主義という性格特性が未解決感を強めることが見いだされた。問題解決にかかわる変数から構成されるモデルが, 心配の制御困難性の分散の約31%を説明していたことから, 問題解決に着目した理論化および臨床的介入が有効であることが示唆された。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.271-282, 2002
被引用文献数
7

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題を解決しようとする動機を反映している。先行研究では, 問題を解決するための方略 (問題焦点型対処方略) の使用が, 思考の制御困難性を強める場合力あることが見いだされている。本研究では, 問題焦点型対処方略と思考の制御困難性との関連を規定する要因として, 問題解決過程を評価, 制御する思考 (内的陳述) に着目して検討した。大学生177名を対雰とした質問紙調査の結果, 問題解決への積極性や粘り強さをしめす自己教示 (考え続ける義務感) と問題解決過程に対する否定的な評価 (未解決感) が, 問題焦点型対処方略と思考の制御困難性の関連を媒介していた。考え続ける義務感と未解決感は, いずれも思考を持続させるような内容の変数である。これらの結果から, 動機的な要因による思考の持続が, 思考の制御困難性の重要な規定要因であることが示唆された。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.186-197, 2001-06-30
被引用文献数
1

心配は, 制御困難な思考であると同時に, ストレスへの対処方略でもある。本研究では, 心配がどのような性質の対処方略なのかを調べるために, 情報回避, 情報収集, 解決策産出という3つの対処方略とストレスに関する思考の制御困難性との関連を検討した。成人134名を対象とした質問紙調査の結果, 情報回避, 情報収集, 解決策産出のいずれもが思考の制御困難性を増強し得ることが示された。さらに, この関連はそれぞれの対処方略のもつストレス低減効果とは独立であった。また, 性格特性によって, 対処方略の使用が思考の制御困難性に及ぼす影響が異なることが分かった。結果を, 心配のメカニズムのモデルに照らして考察し, 問題焦点型対処に分類される情報収集と解決策産出については, 動機的な要因による思考の持続が思考の制御困難性を規定するのに重要である可能性を示唆した。