著者
高垣 マユミ 中島 朋紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.472-484, 2004-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1 4

本研究は, 小学4年生を対象とした一斉形態の理科授業の協同学習において,「知識の協同的な構成が生じている場面においては, どのような相互作用がみられるのか」また,「そのような相互作用を教室において生じさせる要因は何か」について検討することを目的とした。授業の構成は, ブリッジングアナロジー方略 (Clement, 1993) を教授的枠組みに据え, 学習者の既有知識から出発した「話し合い活動」による協同的探求を中心とし, 解釈上の疑問や問題点を検証する場として実験・観察を位置づけた。理科授業の協同学習における発話事例の解釈的分析から, 以下の結果を得た。1) 知識の協同的な構成には,「個別的」VS.「統合的」の二項対立的な相互作用のスタイル間の揺さぶりによる組織的変化が必要であることが示唆された。2) 科学の基礎概念についての対話者間の解釈上の違い, 及び,「アナロジー」,「可視化」という具体的事象の理解を深める道具立てにより,「操作的トランザクション」の対話が生成され, 相互作用の組織的な変化が生起することが見出された。
著者
下仲 順子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.303-309, 1980-12-30

本研究は,文章完成テストに投映された老年群と青年の自己認知概念を中心にした心理特徴面を比較することにより,老年期の自己概念の諸特徴を世代差,性差の観点から追求することを目的として行われた。 対象者は,青年群は私立大学生男112,女112,計224名である(年齢範囲18∼25才)。老年群は居宅老人男110,女89,計199名である(年齢範囲69∼71才)。社会経済条件は両群共平均かそれ以上に属している。 結果:家庭イメージでは,両群共約半数の者は肯定的表現をしているが否定的反応では青年群の方が多く,中立的客観的反応では老年群の方が多い。友人イメージにおいて,肯定的反応は青年群女に多い。老年群では肯定反応とほぼ同率で客観的反応がなされておりそれは老人女に多い。体イメージでは,青年女子が健康等の肯定反応が多く,老年群では否定的な表明は老人女性に多い。加齢イメージにおいては性差,世代差は示されなかった。 過去および現在の自己イメージでは青年群に否定的自己記述が多く示された。だが未来の自己イメージでは,老年群は肯定および否定反応に集中しているが,青年群は過半数の者が肯定的な未来志向を示していた。 生と死イメージは,老年群のみに性差が示され,とくに女性老人の否定的表明が特徴的であった。次に生きる喜びを老年群は家族との交流や自己の健康面に求めているが青年群は物事の達成による充実感覚に喜びを求めている。また青年群は自分の人生に対して肯定的表明を示しているのに比し老年群は客観的記述が多い。 以上の両群の諸特徴は世代差,性差の観点から考察された。すなわち世代的差違として青年群に示された心理特徴面は,成人として自我を確立してゆく過程の中で,種々の観点からの自己省察の機制が反映していると解釈された。これに対し老年群の肯定した自己の受け入れ等の特徴は,自我の統合性の段階を反映していると推定される反面,自己の未来に対して冷静,否定的であるといった面や家族という縮少した世界の中で安定しているという面は日本の老年期特有の心的特性が表明されていると考察された。 次に両群で示された性差特徴としては,青年群で友人イメージ,自己の体イメージ等においてのみ性差が示され,それは青年女子に肯定的表明が多かった。これらは若さに対する社会的評価および男女の性役割の違いが影響していると推察された。一方老年群の性差は女性老人に特徴的であり,家族という枠組みの中で,内面的には未来への不安感を抱きつつ消極的安定をしているという特徴が示された。
著者
奈田 哲也 堀 憲一郎 丸野 俊一
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.324-334, 2012
被引用文献数
3

本研究の目的は, 奈田・丸野(2007)を基に, 知識獲得過程の一端を知り得る指標としてエラーバイアスを用い, 他者とのコラボレーションによって生起する課題活動に対するポジティブ感情が個の知識獲得過程に与える影響を明らかにすることであった。そのため, 小学3年生に, プレテスト(単独活動), 協同活動セッション, ポストテスト(単独活動)という流れで, 指定された品物を回り道せずに買いながら元の場所に戻る課題を行わせた。その際, 協同活動セッション前半の実験参加者の言動に対する実験者の反応の違いによって, 課題活動に対するポジティブ感情を生起させる条件(協応的肯定条件)とそうでない条件(表面的肯定条件)を設けた。その結果, 協応的肯定条件では, エラーバイアスが多く生起し, より短い距離で地図を回れるようになるとともに, やりとりにおいて, 自分の考えを柔軟に捉え直していた。これらのことから, 課題活動に対するポジティブ感情は, その活動に没頭させ, さらに, 相手の考えに対する柔軟な姿勢を作ることで, 新たな視点から自己の考えを捉え直させるといった認知的営みを促進させる働きを持つことが明らかとなった。
著者
石川 隆行 内山 伊知郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.60-68, 2001-03-30

本研究は,5歳児の罪悪感に共感性と役割取得能力が及ぼす影響を検討した。その際,罪悪感を感じる場面として対人場面と規則場面を設定した。幼稚園5歳児100名を対象として,罪悪感,共感性および役割取得能力について面接法で測定した。罪悪感については,どれくらいあやまりたい気持ちになるかを測度とした。また,共感性はAST(Affective Situation Test),役割取得能力はSelman課題で測定された。その結果,共感性は対人場面での罪悪感に影響し,役割取得能力は規則場面での罪悪感に影響することが明らかになった。したがって,5歳児では対人場面と規則場面では罪悪感の規定因が異なることが示唆された。
著者
早川 貴子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.274-283, 2009-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,幼児期の対人的葛藤場面における謝罪行動の予測に影響を与える要因を検討することであった。特に,(1)加害行為の意図性によって加害者の謝罪行動の予測が異なるかどうか,(2)加害行為の意図性及び加害者の謝罪行動の予測によってその後の関係の見通しが異なるかについて検討を行った。4歳,5歳,6歳児を対象に,仮想の葛藤場面に関する意図的場面と偶発的場面のストーリーを聞かせ,加害者の立場に立って回答させた。その結果,(1)謝罪行動の予測については,4歳児よりも6歳児で多く認められ,葛藤の終結のために謝罪行動が必要と認識している事が示された。加害行為の意図性による影響は,4歳児より5歳児で認められるが,6歳児では認められなくなることが示された。(2)謝罪行動とその後の被害者との関係の見通しに関しては,5歳児で関連が認められるが,6歳児では関連が認められなくなった。つまり,加害行為の意図性と謝罪行動との関連に関する今回の結果から,5歳児で謝罪行動の転換点がある可能性が考えられた。
著者
田中 優子 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.514-525, 2007-12-30
被引用文献数
8

本研究では,大学生を対象とし,目標や文脈という状況要因が批判的思考の使用に関わるメタ認知的判断に及ぼす影響を検討することを目的として,研究1では,批判的思考が「効果的」な文脈と「非効果的」な文脈を収集した。研究2では,収集した文脈の分類を行い,それぞれの特徴を抽出した。2つの文脈にはそれぞれ異なる特徴がみられた。研究3では,「正しい判断をする」「物事を楽しむ」という2つの目標と文脈を独立変数として,批判的思考をどの程度発揮しようとするかというメタ認知的な判断に及ぼす影響を検討した。その結果,「物事を楽しむ」という目標よりも「正しい判断をする」という目標においてより批判的思考を発揮しようと判断すること,同じ目標であっても文脈によって批判的思考の発揮判断が変化することが明らかになった。さらに,批判的思考の発揮判断は,目標や文脈を考慮するものの全体的に批判的思考を発揮しようとするタイプ,効果的な文脈で非常に高く批判的思考を発揮しようとするタイプ,非効果的文脈では目標に関係なくほとんど発揮しようとしないタイプという3タイプによって特徴づけられることが示された。
著者
杉江 修治 梶田 正巳
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.381-385, 1989-12-30

The quality of interactions among small group members constitutes a significant factor that brings about positive effects in school learning. And aspects affecting the quality of the interactions are still more numerous. In this study, we chose one of the important aspects, namely: "the effects of teaching activities", and examined the reasons why the activities would produce good results in small groups. Two types of instructions were given...A: "You must teach another person after learning yourself", B: "Your attainment will be evaluated after you have learned". Two types of activities were directed after a study lasting 25 minutes...a: To teach another person, b: To review the learning tasks. E_1 was the condition of A+a, and E_2: A+b, and C: B+b. Ss were 11-12 year-old children, and the tasks used were arithmetic. Results were as follows. (1) The learning set to teach another person "after one has learned" had positive effects on academic achievement. (2) The activities to teach another person seemed to have a possibility to raise some positive effects.
著者
神野 秀雄
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.89-99, 1984-06-30

The purpose of this study was to classify the developmental change of preschool and school aged autistic children through the application of NAUDS(Nagoya University of Autistic Child's Developmental Scale). The NAUDS consisted of 13 items, each one was to evaluate one aspect of some autistic characteristics ; Language (L_1, L_2), Activity level (A_1.A_2), Emotion (E_1,E_2), Empathy (Em), Human relation (Ad_1, Ad_2, C), Eye contact (Ey), Perseveration of sameness (P.S) and Stereotyped behaviour (St). Each item of NAUDS consisted of 5 rating steps according to the level of improvement of autistic characteristics. 1. Factor analysis of NAUDS : NAUDS was administered to 41 autistic children and 28 mentally retarded children treated with play therapy at a clinic (Reseach center of Remedial Education, Aichi University of Education) and 55 autistic children in a prefectual special school for mentally retarded. The NAUDS data were analysed by the principal factor method and the results were rotated by the varimax method.The factors obtained for autistic children were quite different from that of mentally retarded. The 1st factor loaded on E_1, E_2, Em and Ey items was named E factor and the 2nd factor loaded on L_1, L_2, Ad_1, Ad_2, and C items was named L factor. The remaining 4 items (A_1, A_2, P.S, St) were accounted for A factor (FIG. 1). On the other hand, for the mentally retarded children 11 out of 13 items (other than A_1, P.S) were highly correlated to each other and only one factor was extracted (FIG. 2). 2. Examination oftheimprovementofautistic characteristics and the correspondence of developmental change among 13 items : 18 autistic children having been treated with play therapy for 3 or more years were evaluated by NAUDS every year. In the process of developmental change the high correspondence found were among E_2, Em, Ad_1, Ad_2, and C but the correspondence among A_1, P.S, C and St were rather low (FIG. 3, 4). 3. Index for the improvement of autistic characteristics and the classification of the developmental change : From the results of the previous 2 sections, we proposed E-score and L-score as the appropriate index for the improvement of autistic characteristics. E and L scores were obtained as the average rating score for the items containing 1st or 2nd factor respectively. 23 autistic children treated with play therapy once a week at this research center 3 or more years, were evaluated every year. At the beginning of this study, their mean age was 6.3 years. Longitudinal change of autistic characteristics was analysed from the viewpoint of the locus of E and L scores and four types were identified. D1 Type E score level 1-2 L score level 1 (FIG. 5) D2 Type E score level 2 L score level 2 (FIG. 6) D3 Type E score level 3 L score level 3 (FIG. 7) D4 Type E score level 4 L score level 4 (FIG. 8) In addition to the four types discribed above we set up another type(D5) including intelligent autistic children. D5 Type E Score level low L Score level high (Fig. 9)
著者
葉山 大地 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.393-403, 2010-12

本研究の目的は,友人から冗談を言われて怒りを感じる場面での聞き手の反応を規定する要因を,パーソナリティ要因(拒否に対する感受性)と状況要因(話し手との親密さ,冗談に対する周囲の友人の反応)の観点から検討することである。聞き手の反応には「迎合的反応」,「回避的反応」,「感情表出反応」が含まれる。本研究では場面想定法を使用し,大学生417名(男性169名,女性247名,性別不明1名)を4つの状況(たとえば,「親友が話し手であり,周囲の友人は冗談に対して笑っている」)のうちのひとつに割り当て,その状況において冗談に対してどのように反応するかを回答するよう求めた。分散分析の結果,拒否に対する感受性が高い回答者は,親友が話し手で,かつ周囲の友人が笑っていない状況において,迎合的な反応を行わないと評定することが示された。しかしながら,拒否に対する感受性が高い回答者は,周囲の友人が笑っている場合は,迎合的反応をする頻度を高く見積もっている。この結果は,拒否に対する感受性が高い回答者は,状況によって拒否される可能性を考慮し,自己防衛的な反応を選択していることを示唆している。The purpose of the present study was to examine a personality factor (Rejection Sensitivity: RS) and situational factors (e.g., the relation between the speaker and the listener, and reactions of surrounding friends) as determinants of listeners' reactions to aversive jokes. In the present study, listeners' reactions included compliant reactions, avoidant reactions, and emotionally expressive reactions. University students (169 men, 247 women, 1 person gender not reported) were randomly assigned to 1 of 4 specific situations, such as one in which the listener's best friend is the speaker, and surrounding friends laugh at the joke. The participants were then asked to estimate the frequency of their reactions to aversive jokes in the situation to which they had been assigned. A 3-factor ANOVA mainly showed that participants who were high on rejection sensitivity estimated a low frequency of complaint reactions in situations in which their best friend was the speaker and surrounding friends did not laugh at the joke, whereas those participants estimated a high frequency of compliant reactions in situations in which their best friend was the speaker and surrounding friends did laugh. These results indicate that the participants high on rejection sensitivity assessed the possibility of rejection in each situation and selected their reaction in relation to self-protection.
著者
一柳 智紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.361-372, 2009
被引用文献数
1

本研究の目的は, 児童による話し合いを中心とした授業における児童の聴き方の特徴が, 学級や教科の課題構造の違いによりどう異なるか明らかにすることである。小学5年生2学級において, 担任教師による児童の聴く力の評価と, 社会科と国語科の授業を対象に直後再生課題を行い, 児童による再生記述について, 学級(2)×評価群(高・中・低)×教科(社会・国語)の3要因分散分析を行った。結果, 1)授業中の発言の有無にかかわらず, 「よく聴くことができる」と教師から認識されている児童は, 能動的に発言内容と発言者に注目し, つながりを意識しながら, 自分の言葉で発言を捉えていること, 2)学習課題の違う教科により, 発言のソースモニタリングや話し合いの流れを捉えるといった児童の聴き方の特徴が異なること, 3)学級により, 2)の教科による聴くという行為の特徴は異なることが示された。これにより, 学級や課題構造に伴う話し合いの展開の違いが, 児童の聴くという行為に影響を与えていることが示唆され, 今後より両者の関連を考察することが課題として示された。
著者
川井 栄治 吉田 寿夫 宮元 博章 山中 一英
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.112-123, 2006-03-30
被引用文献数
2

ネガティブな事象に対する認知パタンが自己否定的なものに固定化し,それに伴って自己効力感やセルフ・エスティームが低下することを防ぐための授業を考案して,それを小学校高学年の児童に対して学級単位で実施し,その効果について多面的な検討を行った。実験計画はプリポスト・デザインとポストオンリー・デザインを併用した統制群法であり,自己否定的な認知パタンを固定化させないようにすることの必要性について説明したうえで,実際にそのための授業を行う実験群と,前者の説明のみを行う統制群を設けた。得られたデータを分析した結果,実験群の児童の方が統制群の児童よりも,自己否定的な認知パタンを否定する方向の信念を抱くようになっているとともに,自己効力感とセルフ・エスティームが高まっていることが示された。また,このような効果の持続性および日常への般化の存在も示された。
著者
若松 養亮
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.209-218, 2001-06-30
被引用文献数
1

大学生における進路未決定のうち, 一般学生に見られる決定の困難さのメカニズムを解明するために, 教員養成学部において質問紙調査を実施した。分析の対象は3年生233名である。「もう迷わない」と決めた進路の選択肢があるか否かで操作的に決定・未決定を定義づけたところ, 決定者が84名, 未決定者が149名であった。その両群間によって, 未決定者は(A)自分の抱える問題が何なのかを理解できていないのではないか, および(B)意思決定のための行動に結びつきにくい困難さを抱えているであろうという2つの仮説を検討した。その結果, 仮説Aは支持されたが, 仮説Bは支持されなかった。そこで「快適さ」の指標を加えて分析対象者を限定したところ, 未決定者が情報や答が得られにくい問題に悩まされているという結果が見出され, 仮説Bが支持された。さらに未決定者のうち, indecisive傾向の強い者は拡散的に新たな進路の選択肢を求めるという結果が見出され, それは仮説Bを支持するものであった。最後に, 未決定者に対して有効と思われる処遇と, 今後の研究に向けての考察を行った。
著者
針生 悦子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.275-284, 2010
被引用文献数
2

日本語で, 有声音で始まる擬音語と無声音で始まる擬音語がペアになっている場合, 前者は, より大きな対象から発せられるより大きな音を, 後者は, より小さな対象から発せられるより小さな音をあらわす。日本語話者のおとなは, 実在の擬音語ペアだけでなく, 初めて耳にする擬音語ペアにも, このルールを適用し意味を理解しようとする。本研究では, 日本語話者の子どもが, この"感覚"を, いつ, どのようにして備えるようになっていくのかについて, 書記体系であるひらがな——ひらがなでは, 有声音と無声音の対応は濁点の有無によって系統的に標示される——の影響に注目しつつ検討した。その結果, 4歳児は既に, 実在の擬音語だけでなく, 新規な擬音語も, このルールを適用して理解しようとするようになっていることが見いだされた。また, 濁音文字が読める子どもは, 読めない子どもより積極的に, このルールを新規な擬音語ペアに適用していた。このように, ひらがなについての知識は, 子どもが, 有声音と無声音に関する意味づけを, 実在の擬音語だけでなく新規な擬音語にも適用可能なものへと一般化していく過程で, 一定の役割を演じている可能性が示唆された。
著者
竹村 明子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.176-185, 2010-06-30

本研究は,実践教育の効果を検討するため,自己決定理論(Deci&Ryan,1985)を基に,介護福祉士養成課程の学生の介護実習前後における自己決定性(内発調整・同一化調整・取入調整・外的調整)の変化と実習中の心理的欲求満足感(関係性欲求満足感・自律性欲求満足感・有能さ欲求満足感)との関係について,横断的研究方法(調査協力者117名)と縦断的研究方法(調査協力者110名)を用いて検討を行った。その結果,縦断的研究において,内発調整が実習後高くなることが見出され,介護実習は学生の介護への自己決定性を高めている可能性が示唆された。さらに,実習中の心理的欲求満足感が高いほど,特に利用者(高齢者)と良好な関係性を築けたという満足感が高いほど,内発調整および同一化調整が促進されることが見出された。介護のように人と関わることが重要となる分野では,実習中の利用者との関係が実習の効果に大きく影響することが示唆された。
著者
生月 誠 田上 不二夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.425-430, 2003-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
11

本研究では, 視線恐怖を主訴とする被験者の, 視線恐怖軽減のメカニズムを解明することが目的である。実験1では, 言語反復を含むリラクセーションによる脱感作の手続きを, 実験2では, 拮抗動作法による脱感作の手続きを用いた。いずれも, 自己視線恐怖より, 他者視線恐怖の軽減に効果的であり, distractionが視線恐怖軽減の重要な要因となることが示唆された。また, 自己視線恐怖は自己の視線に関する独特の認知を伴っており, 認知変容のための手続きである自己教示訓練が効果的であったと考えられる。
著者
畑野 快
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.404-413, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
24
被引用文献数
4 4

本研究の目的は, コミュニケーションに対する自信がアイデンティティと関連していることを実証することである。研究1では, 大学生254名に質問調査を行い, 「意図伝達への自信」, 「意図抑制への自信」, 「意図理解への自信」(3下位尺度)からなるコミュニケーションに対する自信尺度(Self-confidence in Communication Scale : SCS)を作成した。α係数の値から十分な信頼性が示され, またコミュニケーション・スキル, セルフ・モニタリング, 自尊心との相関分析の結果から妥当性が検討された。研究2では大学生384名に対し質問紙調査を行い, SCSと多次元自我同一性尺度(Multiple Ego Identity Scale : MEIS)との関連を検討した。まずSCSに対し確認的因子分析を行い, 因子構造の安定性を検討した。適合度は十分とは言えなかったが, 概ね因子構造の安定性が確認された。そしてSCSとMEISの相関分析の結果から, SCSが心理社会的自己同一性と特に関連していることが示された。
著者
中道 圭人
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.347-358, 2007-09-30

幼児の条件推論,ワーキングメモリ(WM),抑制制御の関連を検討した。実験1では年長児(N=25)を対象に,経験的あるいは反経験的な事柄での条件推論課題,WM課題(逆唱),抑制制御課題(昼-夜ストループ課題)の関連を検討した。その結果,反経験的な条件推論と抑制制御の間に正の相関が見られたが,条件推論とWMの相関は見られなかった。実験2では年長児(N=26)を対象に,課題手続きを改善した条件推論課題とWM課題,抑制制御課題の関連を検討した。その結果,実験1と同様に抑制制御は反経験的な条件推論のみと正の相関を示し,その一方,WMは条件推論全般と正の相関を示した。本研究の結果から,幼児期における条件推論,WM,抑制制御の関連が明らかとなった。
著者
落合 美貴子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.351-364, 2003-09-30

教師バーンアウトは,ヒューマンサービス従事者のバーンアウトの中でも,とりわけ深刻な問題として研究されてきている。教師バーンアウトは,教育学,心理学,社会学等多領域に跨がるテーマであることから,学際的な視点が必要である。本論は,その点を踏まえて,まず国外の研究を概観し,次いで日本の研究動向を探った。そして,特に要因研究に焦点を当て先行研究のメタ分析を行い,今後の教師バーンアウト研究に必要とされる4つの視点を提示した。それは,(1)バーンアウト研究は,概念やその成立機序からしてストレス研究とは一線を画すべきであること,(2)社会・文化的視点,特に教育制度や教師文化の独自性に関する認識が不可欠であること,(3)時間軸の重要性から,教師のライフヒストリー研究等の縦断的研究が必要であること,(4)これまでの量的研究は,バーンアウトの内実に迫り得ていないことから,質的研究法を導入する必要があること,である。
著者
宇都宮 博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.209-219, 2005-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35

本研究は, 青年期の子どもからみた両親のコミットメントに関する認知尺度を作成し, 両親間の葛藤解決および青年の不安との関連性を検討することを目的として実施された。女子青年136名 (平均20.4歳) を対象に質問紙調査を実施した。分析の結果, 両親の結婚生活に対するコミットメントの認知は, 父母いずれも「存在の全的受容・非代替性」「社会的圧力・無力感」「永続性の観念・集団志向」「物質的依存・効率性」の4因子が抽出された。このうち, 不安と比較的強い相関がみられたのは「存在の全的受容・非代替性」と「社会的圧力・無力感」であり, 両者は異なる関連にあった。すなわち, 「存在の全的受容・非代替性」を高く認知している者ほど不安は低減するのに対し, 「社会的圧力・無力感」が高い者ほど不安は強まることが示された。また両親のコミットメントと女子青年の不安の関連は居住形態によって異なり, 親と同居している場合に顕著であった。さらに両親間の葛藤解決と不安の関連は一様ではなく, コミットメントの性質によって異なる可能性が示唆された。
著者
伊藤 貴昭 垣花 真一郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.86-98, 2009-03-30
被引用文献数
4 5

説明を生成することが理解を促進することはこれまでの研究でも数多く示されてきた。本研究では,他者へ向けた説明生成によって,なぜ理解が促されるかを検討するため,統計学の「散布度」を学習材料として,大学生を対象に,実際に対面で説明する群(対面群:13名),ビデオを通して説明する群(ビデオ群:14名),上記2群の説明準備に相当する学習のみを行わせる群(統制群:14名)を設定し,学習効果を比較した。その結果,事後テストにおいて対面群が他の2群を上回っており,対面で説明することが理解を促すことが示唆された。一方,ビデオ群と統制群には有意差は見られず,単に説明を生成することのみの効果は見られないことが示された。プロトコル分析の結果,「意味付与的説明」,またその「繰り返し」の発話頻度と事後テストの成績との間に有意な相関が見られ,対面群ではビデオ群よりこの種の発話が多く生成されていた。対面群でそれらが生成された箇所に着目すると,これらの少なくとも一部は,聞き手の頷きの有無や返事などの否定的フィードバックを契機に生成されていることが明らかとなった。本研究の結果は,他者に説明すると理解が促されるという現象は,聞き手がいる状況で生じやすい「意味付与的説明」,またそうした発話を繰り返すことに起因することを示唆している。