著者
鈴木 雅之
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.226-239, 2014
被引用文献数
4

本研究では, 大学入試場面における競争の機能を高校生がどのように捉えているか, すなわちどのような受験競争観を有しているかについて検討を行った。また, 受験競争観によって学習動機や受験不安, 学習態度がどのように異なるかを検討した。まず予備調査を実施し, 受験競争観尺度を作成した結果, 受験競争観には, 心身の消耗や学習意欲の低下, 友人関係の悪化といった「消耗型競争観」と, 自己調整能力や学習意欲の向上, 友人関係の親密化といった「成長型競争観」の2つの側面があることが示唆された。そして高校2年生576名を対象に本調査を行った結果, 高校生は消耗型競争観よりも成長型競争観を強く有しており, 大学入試における競争をそれほど否定的には捉えておらず, むしろ肯定的に捉えている可能性が示唆された。さらに, 消耗型競争観を強く持つ学習者ほど外的な学習動機や受験不安が高い一方で, 成長型競争観を強く持つ学習者ほど学習の価値を内在化し, 受験を乗り越えるためだけの学習を取らない傾向にあることが示された。これにより, 大学入試における競争が学習者に与える影響は, 受験競争観によって異なることが示唆された。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.197-208, 2014
被引用文献数
4

本研究では, 高校英語において, 教師が学習者の予習方略使用や授業内方略使用, そして, それらの関連に与える影響について検討を行った。まず予備調査を行い高校の英文解釈の授業における教師の授業方略を測定する質問紙を作成し, 985名の高校1年生および2年生, また, その英語の授業を担当している15名の教師を対象として本調査を行った。階層線形モデルを用いた分析の結果, 授業中に教師が単語の解説や生徒の指名を多く行うほど, 学習者は辞書を調べておく, 他の人に聞くといった方法で予習を行うことが示された。また, 単語の解説や指名が多いと, 学習者の授業中のメモも増加することが示された。さらに, 本研究では, 予習時に自分なりに単語や文の意味を推測しておく方略(推測方略)の効果が教師の行う授業によって異なることも示され, 教師が単語の意味の成り立ちについて詳しく解説することで, 予習時の推測方略が授業内の学習に促進的に機能することが示された。
著者
豊田 秀樹 秋山 隆 岩間 徳兼
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.209-225, 2014

テストを構成している項目の性質を調べる際の有用な方法の一つとして項目特性図がある。項目特性図は設問項目における受験者の正答率を用いて, 当該項目がどのような性質, 特性を有していたのかを分析するための道具である。項目特性図作成の際に, 分析者は受験者を任意の数の群に分ける作業が必要となる。経験的に5群に分割されることが多いものの, 群数を決定するための明確な基準, 根拠は知られていない。群への分割数の選択について, 統計的な基準や根拠を与えることができれば, 項目特性図を用いて項目の性質を調べる上で便利である。本論文では項目特性図における情報量規準を用いた群数の選択法を論じる。シミュレーションを行い, 与えられた真の群数を推奨可能であることが示唆された。また, 実データへの適用例を通じて提案手法が妥当な群数を推奨可能であることを示す。
著者
藤原 健志 村上 達也 西村 多久磨 濱口 佳和 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.187-196, 2014
被引用文献数
4

本研究の目的は, 小学生を対象とした対人的感謝尺度を開発し, その信頼性と妥当性を検討することであった。小学4年生から6年生までの1,068名を対象とし, 対人的感謝, ポジティブ感情, ネガティブ感情, 共感性, 自己価値, 友人関係認知, 攻撃性を含む質問紙調査を実施した。主成分分析と確認的因子分析の結果, 1因子8項目から成る対人的感謝尺度が構成された。対人的感謝尺度は高いα係数を示し, 十分な内的一貫性が認められた。また, 対人的感謝尺度は当初の想定通り, ポジティブ感情や共感性, 友人関係の良好さと正の関連を, 攻撃性と負の関連を有していた。以上より, 対人的感謝尺度の併存的妥当性が確認された。さらに, 尺度得点については, 男女差が認められ, 女子の得点が男子の得点よりも有意に高かった。最後に, 本尺度の利用可能性について考察されるとともに, 今後の感謝研究に関して議論された。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.168-174, 1986-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
3 5

The purpose of this study was to examine (a) the concepts of masculinity and femininity, and their interrelation,(b) the appropriateness of the scale for measurements of sex-roles, and (c) the difference of role expectations for both sexes. Using two types of adjective lists, scores concerning desirabilities for men, women, and ‘self’ were factor analyzed respectively in unipolar scales among 155 undergraduates and in bipolar (SD) scales also among 217 undergraduates. In both scales, three factors were identified; “agency” emphasizing personal abilities or properties,“communion” oriented to cooperation with-or consideration for others, and “delicacy-charms” consisting of tenderness and sexual attractiveness. The scale was termed ISRS (Ito Sex Role Scale). Agency and communion were the main structural dimensions of sex-roles, mutually related with desirability for both men and women. The unipolar scales were more suitable for measurements of sex-roles than SD scales for the independence of factors. Role expectations for men consisted of agency and communion, while delicacy-charms were added to those for women. Reliability and validity of ISRS were substantiated in various aspects.
著者
堀野 緑 市川 伸一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.140-147, 1997-06-30
被引用文献数
8 28

This study explored the structures of learning motives and strategies, and examined a model positing that motives affected strategy selection, which in turn influenced performance in English learning of high-school students. Six scales for learning motives were employed, which had been made through a classification of students' free responses. Correlation analysis revealed that the six scales could be divided into two groups, i.e., "content-attached" and "content-detached" motives. On the other hand, factor analysis showed that learning strategies for English words were classified into the following three : organization, imaging, and repetition. The content-attached motives correlated significantly with each of the strategies, but the content-detached motives did not. Moreover, only the organization strategy had a significant effect on performance which was represented by three scores in an achievement test. That was consistent with theories and experimental findings in cognitive psychology, and supported the effectiveness of organization strategies in verbal learning. It was concluded that content-attached motives were needed to use organization strategies, and that the framework of so-called "intrinsic motivation" should be reexamined.
著者
小泉 令三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.58-67, 1995-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

This research examined children's perceptions of junior high school (JHS) and their adaptation to JHS. In the first study, the structure of children's (N=420) expectations and worries about JHS was demonstrated to be five-dimensional by a factor-analytic procedure: (1) worries about interpersonal relationships,(2) expectations about interpersonal relationships and school work,(3) expectations and worries about club activities,(4) worries about school work, and (5) desires for freedom. The levels of expectations were higher than those expected from a previous research. The results also showed that club activities play an important role in children's perceptions of JHS. In the second study, part of the subjects (N=115) in the first study was tested again at the ninth month after transferring to JHS. Cluster analysis applied to them identified four subgroups showing different patterns of expectations and worries, as well as adaptation to JHS environment. One of the four subgroups, which showed high level of expectations in general and low level of worries about interpersonal relationships, was suggested to be most adaptable to JHS.
著者
香川 秀太 茂呂 雄二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.346-360, 2006-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

本研究は, 密接に関連する状況間の移動と学習に関する状況論的な諸議論に新たな知見を追加するため, 看護学校内学習から周手術期の臨地実習へ移動する看護学生の学習過程を検討した。研究1では観察を行い, 「校内では, 学生は, 根拠に基づいて看護することの重要性が実感できず, その学習が希薄になってしまう傾向にあるが, 臨地実習に入ると, その重要性をより実感して厳密に実施することを学習する。それはなぜか。」という問いを設定した。研究IIでは, 実習期間終了直後の学生に半構造化面接を実施し, 修正版グラウンデッドセオリーに基づく分析を行い, この学内と臨地の差異の背景と考えられるものの一つを,【時間の流れ】の相違 (異時間性) として概念化した。臨地では, 学生の現在の行為が未来の患者の容態変化と繋がっている (共時) 上, 学生は, 患者の変化のつど, 継続的に行為を調整していく (通時) が, 学内では, 学生の現在の行為は看護対象の未来の容態変化ではなく, 合格・不合格と繋がっている (共時) 上, 対象と行為の関係が一時点で終わる (通時)。こうした異時間性が, 根拠立ての重要性の実感の差異を説明することが示唆された。
著者
秋山 道彦 武井 澄江 斉藤 こずゑ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.265-272, 1982-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

本研究では日本語を話す子どもたちに命題文の証明課題と疑問文に対する応答課題を与え, 証明の過程と応答の過程に関する3つの仮説-等価仮説, 証明原型仮説, 疑問文単純仮説を検討し, さらに英語を話す子どもたちの結果の比較を通して言語発達の普遍性の仮説の検討を行った。どちらの課題においても肯定文と否定文が含まれ, そのそれぞれには真の文と偽の文が含まれていた。結果は日本語を話す子どもたちにとっては, 疑問文に対する応答の方が命題文の証明よりもむずかしく, 証明原型仮説を支持した。これは日本語の否定疑問のあいまいさによるものと解釈された。以前に行われた英語を話す子どもの結果が疑問文単純仮説を支持したことから, なぜ異なった言語で異なった仮説が支持されたのか考察を行った。その結果, 両言語の語順のちがい, 命題証明過程と疑問文応答過程の心理学的なちがい, 証明課題と応答課題の頻度のちがいなどが, 理由としてあげられた。真偽の次元を考慮すると, 特に4歳児の否定命題の課題と否定疑問文の課題で, 従来英語圏で行われてきた研究結果と反対の結果が出た。すなわち日本語を話す子どもたちにとっては, 偽の否定命題の方が真の否定命題よりもむずかしかった。この点を説明するためにモデルが提出された。モデルの主要な特徴は, 偽・肯定命題と真の否定命題を聞いたとき子どもはそれに対応する真の否定形をもった知識を表象として形成することと, 語順の最後にくる否定詞をさきに処理することであった。このモデルは英語圏で検案されたモデルと比較され, 言語発達・言語処理は言語により異なること, 普遍性の仮説は常に成立するわけではないことが結論された。
著者
清水 健司 岡村 寿代
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.23-33, 2010-03-30
被引用文献数
1 4

本研究は,対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデルにおける認知特性の検討を行うことを目的とした。認知特性指標は社会恐怖認知モデル(Clark&Wells,1995)の偏った信念を参考に選定された。調査対象は大学生595名であり,対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデル尺度短縮版(TSNS-S)に加えて,認知特性指標である完全主義尺度・自己肯定感尺度・自己嫌悪感尺度・ネガティブな反すう尺度・不合理な信念尺度・自己関係づけ尺度についての質問紙調査が実施された。その結果,分析1では各類型の特徴的な認知特性が明らかにされ,適応・不適応的側面についての言及がなされた。そして,分析2では2次元モデル全体から見た認知特性の検討を行った。特に森田(1953)が示した対人恐怖に該当すると思われる「誇大-過敏特性両向型」と,DSM診断基準に準じた社会恐怖に該当すると思われる「過敏特性優位型」に焦点を当てながら詳細な比較検討が行われた。
著者
澤田 匡人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.185-195, 2005-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 妬み感情を構成する感情語の分類を通じて, その構造を明らかにすることであった。研究1では, 児童・生徒92名を対象とした面接調査を実施し, 172事例の妬み喚起場面を収集した。事例ごとの12語からなる妬み感情語リストへの評定に基づいた数量化III類を行って解析した結果, 妬み感情は2つの軸によって3群に分かれることが示された。研究2では, 児童・生徒535名に対して質問紙調査を実施し, 8つの領域に関する仮想場面について, 12の感情語を感じる程度を評定させた。因子分析の結果, 妬み感情は「敵対感情」「苦痛感情」「欠乏感情」の3因子構造であることが確認された。また, 分散分析の結果,(1) 敵対感情の得点は, 能力に関連した領域に限り, 女子よりも男子の方が高く,(2) 苦痛感情と欠乏感情の得点は, 学年が上がるのに伴って増加する傾向にあることが明らかとなった。このことは, 加齢と領域の性質が妬み感情の喚起に寄与していることを示唆するものである。
著者
藤井 勉 上淵 寿
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.263-274, 2010-09
被引用文献数
1 10

本研究は,達成目標理論における暗黙の知能観研究において,顕在的測度(質問紙)と,潜在的測度(Implicit Association Test:IAT)を使用し,顕在・潜在の両側面から,参加者の暗黙の知能観を査定し,課題遂行場面で生じる感情や行動パターンとの関連を検証した。実験1では,IATの再検査信頼性を確認した。同時に,IATは顕在的な測度とは関連がみられないことを示した。実験2では,自己報告の他に,課題遂行中の参加者の表情を他者評定し査定した状態不安と,質問紙およびIATで査定した顕在・潜在的な知能観との関連を検討した。結果は,先行研究からの仮説どおり,顕在的測度と潜在的測度は,関連する対象が異なった。顕在的知能観は,自己評定式の尺度の回答に関連していた一方,潜在的知能観は,他者評定による自発的行動に関連していた。従来の研究で扱われてきた,顕在的測度で査定される意識的な領域のみならず,潜在的測度で査定される無意識的な領域への,更なる研究が必要であることと,潜在的な知能観を意識化するアプローチを用いた介入方法も検討する価値があることを示唆した。
著者
谷口 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.427-438, 2005-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
42

本研究の目的は, ひとつの病院内学級における教育実践を詳細に検討することから, 入院児に対してどのような教育的援助が提供されているのかを明らかにし, 教育実践の特徴カテゴリーを抽出することである。先行研究の少ない分野において有効とされる質的研究法を採用し, 参与観察エピソード及び半構造化面接逐語録をグラウンデッド・セオリー法に則って分析した。分析は概念化からカテゴリー生成, さらに現場教師からのコメントや更なるデータ収集を経て最終的な教育の特徴モデルの生成まで5段階で行われた。結果として, 病院内学級における教育実践が, 通常の教育の枠を超えて, 〈特別支援教育/ 普通校/小規模校/保育/家庭/医療/ソーシャルワーク〉という多様な援助実践の特徴を併せ持っていることが見出された。本研究は, ひとつの病院内学級におけるデータに基づく仮説生成型探索的研究ではあるが, 提示された特徴モデルにより, 従来, 他の特別支援教育と比較してとらえどころがないとされていた病院内学級における教育実践の特徴を捉える新たな視点を提供することができた。
著者
田島 充士 森田 和良
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.478-490, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
28
被引用文献数
5 2

本研究では, 日常経験知の意味を取り込まないまま概念を暗記する生徒達の, 「分かったつもり」と呼ばれる学習傾向を改善するための教育実践である「説明活動(森田, 2004)」の効果について検討した。本実践では, 生徒達が教師役を担い, 課題概念について発表会で説明を行うことになっていた。また残りの生徒達は聞き手役として, 日常経験知しか知らない「他者」の立場を想定して, 教師役に質問するよう求められた。この手続きを通し, 日常経験知の観点を取り入れた概念解釈の促進が目指されていた。小学5年生を対象に実施された説明活動に基づく授業を分析した結果, 以下のことが明らかになった。1)本授業の1回目に実施された発表会よりも, 2回目に実施された発表会において, 教師役の生徒達は, 日常経験知を取り入れた概念解釈を行うようになった。2)聞き手役からの質問に対し, 1回目の発表会では拒否的な応答を行っていた生徒達が, 2回目の発表会では, 相手の意見を取り入れた応答を行うようになった。これらの結果に基づき, 本実践における, 日常経験知との関係を考慮に入れながら概念の意味を解釈しようとする, バフチン理論のいう概念理解へ向かう対話傾向を促進する効果について考察がなされた。
著者
馬場 安希 菅原 健介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.267-274, 2000-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
13 7

本論文では現代女性の痩身化の実態に注目し, 痩身願望を「自己の体重を減少させたり, 体型をスリム化しようとする欲求であり, 絶食, 薬物, エステなど様々なダイエット行動を動機づける心理的要因」と定義した。痩身は「幸福獲得の手段」として位置づけられているとする立場から, 痩身願望の強さを測定する尺度を構成するとともに, 痩身願望が体型への損得意識を媒介に規定されるモデルを検討した。青年期女子に質問紙による調査を行い, 痩身願望尺度の一次元構造を確かめ, ダイエット行動や摂食行動との関連について検討し, 尺度の信頼性, 妥当性が確認された。また, 体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と, 痩身願望との関連性を検討した結果, 「賞賛獲得欲求」「女性役割受容」「自尊感情」「ストレス感」などに関連があることが示された。そこで, これらの関連を検討したところ, 痩せれば今より良いことがあるという「痩身のメリット感」が痩身願望に直接影響し, それ以外の変数はこのメリット感を媒介して痩身願望に影響することが明らかになり, 痩身願望は3つのルートによって高められると考えられた。第1は, 肥満から痩身願望に直接至るルートである。第2は, 自己顕示欲求から生じる痩身願望で, 賞賛獲得欲求と女性役割受容が痩身によるメリット感を経由して痩身願望と関連しており, 痩身が顕示性を満足させるための手段となっていることが示唆された。第3は, 自己不全感から発するルートである。自尊感情の低さと空虚感があいまったとき, そうした不全感の原因を体型に帰属し, 今の体型のせいで幸せになれないといった「現体型のデメリット感」を生じ, さらにメリット感を経由して痩身願望に至ることが示された。これらの結果から, 痩身願望が「女性的魅力のアピール」や「自己不全感からの脱却」を日的として高まるのではないかと考えられた。
著者
葛谷 隆正
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.8-17,65, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12

われわれは民族的好悪とその人格性要因に関する問題について男女232名に対して行なつた調査結果を考察してきたが, いまその主要な点を要約し列挙してみることとしよう。(1) 大学生の民族的好悪の状態は5年前の調査結果と比較して0.874という高い相関があり, かなりの一致性がみられるが, 特にシナ人・インド人・朝鮮人に対しては一の方向に, オーストラリヤ人・スイス人・アメリカ人に対しては十の方向にかなりいちじるしい変化をきたしていた。(2) 民族的好悪感と民族的優劣観とは0.760の相関を示し, 相当の一致性のあることがわかつた。しかし, ロシア人・ユダヤ人・シナ人・アメリカ人においては好悪感よりも優劣観においていちじるしく+であり, これに反し日本人・インド人・ビルマ人・フィリピン人・黒人に対してはいちじるしく一であることが注目された。(3) 民族的好悪と人格性要因との関係については,(i) 外国びいきの性格の強もいのはそうでないものよりも優劣点・自己嫌悪点がより高く, 偏見点においてより低いという傾向が顕著にみられた。しかし偏見点が彼等においてより低いということは外国びいき自国ぎらいという人間的罪悪感から逃れるためのかれらのとる自己防衛手段の現われではないかと察せられる。(ii) ・偏見的性格の強いものはそうでないものに比して優劣点がより低く自己嫌悪点がより高いという傾向が明瞭に看取された。(iii) 自己嫌悪の強いものはそうでないものよりも優劣点も偏見点もより高いという傾向がはつきりうかがわれた。(iv) したがつて, 外国びいきの性格の強いものも偏見的性格の強いものも基本的には同一の人格性力学をもつた2つの異なつた姿であると見られる。
著者
秋田 喜代美 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.109-120, 1996-03-30
被引用文献数
1

The purposes of this study were to examine mothers' conceptions of book-reading to their children and relations between those conceptions and their behavior styles of setting home environment on reading. Two hundred and ninety-three mothers in Study 1 and three hundred and thirty-two mothers in Study 2 answered a questionnaire concerning their recognitions on the functions, and their behavior of setting environment. The main findings were as follows : (1)Two functions were identified as "UTILITY" and "ENJOYMENT" ("UTILITY" : read to get children to master letters and acquire knowledge ; "ENJOYMENT" : read to share a fantasy world with their children and communicate them.) Although many mothers attached importance to "ENJOYMENT" function, some mothers did to "UTILITY" ; but differences were shown among mothers. (2)Mothers changed the ways of reading according to their children's age. (3)There were relations between conceptions of functions and ways of reading. Though mothers rated "UTILITY" higher, their reading styles were seen to promote children to become independent readers.
著者
熊谷 蓉子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.11-20, 1958-03-25

最初に本研究の意義において,立体表現活動が描画活動よりも,より容易であり根元的であることを明らかにしたが,この2つの活動が最初に行われ始める時期を考察してみると,紙とクレヨンでする描画活動の方が材料からくる抵抗が少いために,幼児にとってはより容易であり,粘土活動よりは早期に始められる。しかしながらこの期の活動は造形活動でも表現活動でもなく,ただ手のリズミカルな運動を楽しむ一種の遊びなのであって,粘土の場合も2才になると,それを握って操作するに充分な手腕力がつくため,描画活動でいわれる錯画と同じような活動が始められる。すなわち粘土のかたまりを机上にたたきつけたり,ちぎったり,くっつけたり,まるめたりするようなごく単純で無作意,無目的な活動である。ところで描画活動において錯画の中に初めて何か形らしいものが現われ,やがてそれが花や船や人の顔になり始めるころには,粘土活動でも何か形らしいものや,命名された「あめ」だの「リンゴ」だのが作られるのである。この形の現われ始める時期が両活動においてほぼ一致していることは,28名の調査を行った幼児から参考資料として集めた自由画と,その児童の粘土活動とを照合した結果明らかになった。形らしいものの現われ始める時期は,大体2才の終りから3才にかけてであるが,最初に現われる形は描画の場合と同じく,命名されていても作品と命名の結びつき19が客観的には理解しがたい場合が多い。しかしながらこの傾向は4才になると一変する。4才児は興味の持続時間命名,形の構成,活動,作品数等すべての点において3才児との問を大きく引きはなす。すでに6才児の中には形を作らない子どもは1人もいなくなり,どのような点からも明らかに造形活動として認められるのである。故に2才の粘土をただ操作して楽しんでいた遊びの時期から,造形活動へと移るのは3才から4才にかけての時期で,これが立体表現活動の最初の著しい発達をとげる時期であると考えられる。〔A〕,〔B〕2つの調査結果の共通な点,すなわち「興味の持続時間」や「題材」「作品数」などについて,幼児と学童の比較を打ってみると,5才児と1年生ではほとんどその差のないことが削る。作品をみても材料の相違があるだけで,特に著しい差は見当らない。故にこのことから児童は入学という,1つの団体生活=社会生活への本格的な出発である激しい環境の変化を経るにもかかわらず,この期には顕著な発達を示さないことが明らかにできる。従って次に著しい変化の現われるのは,I年生からIII年生にかけて,すなわち6〜8才のころである。この期になると幼児期の「食べ物」に変って「乗り物」,人物などが多くなり,空想的表現が多くなる。何を作っても一生懸命で工夫がなされるし,とかく沢山の附属物や装飾がほどこされて説明が詳しくなる。この期の作品には夢があり楽しさがあふれていて,命名も単純でなく,何か事件のようなものを表現しようとしたりして,ユーモラスな題がつけられ成人の微笑を誘う。一方更にIV年生を中心として見られる大きな変化の時期は,描画活動の写実期に相当すると思う。この期においては表現力(器用さ,立体感,運動感たどに現われている)に特に著しい発達が見られ,これはI年生とIII年生の間における差よりも,一層はなはだしい差を示している。この期の作昂はほとんど写実的表現によって支配され,用いる題材も著しく違ってくる。ここで注意すべきは,IV年生にはIII年生ほど楽しい気分があふれ,のびのびとした作品が多くないということである。幼児は自分の残した作品にはほとんど興味を示さないのに比して,高学年児ほど自分の作ったものに対する批評やその成果を気にする傾向にある。故にその作品には自然と子どもらしいのびのびとした所が失われてくるのである。しかしながらそうだからといって高学年児は粘土工作を楽しんでいないのかというと決してそうではない。参考資料として行った図画と粘土工作に対する興味の比較調査の結果が,これを如実に示している。結果をグラフで示すとFig.6になるが,高学年児ほど絵よりも粘土を好む。これは,この期の児童の知的発達がめざましく,自己の作品に対する批判眼がするどくなるためである。すなわち,二次元の平面で三次元の事物を描写する描画活動では,表現意欲とそれを表現する技術とか即応しなくなるために,絵画的表現活動の行きづまりに直面するものと解釈する。ここにおいて児童の表現活動における立体表現活動が新しい意義をもってくる。すなわち立体表現活動は外界の立体物を実立体で表現するのであるから,この高学年の児童には何の抵抗も制約も感じさせない。従って,児童はこれによって容易に絵画的表現活動の行きづまりを打開することができるのである。