著者
田中 国夫 松山 安雄
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.8-14,59, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

社会的態度を因子分析のQテクニックの方法を用いて, 解明しようとするのが我々の主題である。本研究に於ては, 次の2つの点に問題をおいた。第1は, 青年学生集団に於ける, 天皇及び親に対する態度類型を見出すこと, 第2は, 被験者を家族という小集団に求めて, アメリカ及び新中国に対する態度の個人間の態度布置を見出すことである。第1の問題については, 先づ141名の大学生に, 天皇と親に対する態度尺度を与え, 平均的傾向を算出した。その結果は, 天皇に対しては中立的, 親に対しては比較的好意的である。尚天皇に対する態度と, 親に対する態度との間の相関は, γ=0.086で, その関係は全くみられない。次に上記被験者より30名を選び, 天皇及び親に対する態度尺度に含まれる各意見を, 各自の好みに従い品等させ, 個人間の相関を求めた。その結果を因子分析すると, 次の如き類型を見出し得た。即ち, 天皇に対する第1の類型は, 家父長的信頼型因子であり, 第2の類型は, 天皇制否定型因子である。親に対する第1因子は, 純敬愛型因子であり, 第2の因子は, 批判的愛情型と解釈された。又天皇に対して第1類型に属する者が, 親に対しては第2類型に属するという如く, 天皇と親に対する態度が, 同一個人内に於て統一した体系をなして居られぬ事が見られる。第1因子とも第2因子ともつかぬ, 明確な判断を欠く者は女性に多かった。第2の問題については, 被験者を2つの家族に選定した。大阪市在住と神戸市在住の家庭で, 成員はいずれも 5名である。各家族成員に, アメリカ及び新中国に対する態度尺度に含まれている意見を与え, 品等させ, Qテクニックにもとづき因子分栃したその結果得た因子行列を, 直交座標上にプロットすると次の事が判った。両家族とも, アメリカに対する類型は, アメリカの対目政策を批判し乍らも, 世界の文化のリーダーとして敬愛する類型と, 徹底的に批判乃至非難する類型との2つの因子がある。中国に対する態度は, 両家族ともに同一方向に群り, 家族成員間に対立的布置が余りみられないで, 皆同一類型に属している様子が見られる。今日の中国に対するマス・コミユニケーションのあり方の一端をも伺い得て興味深いものがある。
著者
牛山 聡子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.79-89, 1973-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
1

「ジャンケン」は乱率部分強化の特性をもっている。本研究の目的は, そのことが幼児の「ジャンケン」行動の生起を促し, 「ジャンケン」模倣を生じ易くさせ, その後の「ジャンケン」行動もを維持させることを検証することである。また, 代理強化の効果は直接強化によって影響されることを検証する。モデリング刺激としては, 6つのビスケットを「ジャンケン」して勝った方が食べるという内容の映画が使われた。交互条件では, 女のおとなと子どもが「ジャンヶン」の結果, 3つずっビスケットを食べる6子ども勝利条件では子どもが全部食べる。映画は群別, 性別にまとめてみせる。実験は, 映画-自発的遂行測定-(1- 2日後) 映画-自発的遂行測定-(10日過ぎに)-自発的遂行測定の順で行なった。自発的遂行測定では, 被験児 (5才6か月~6才6か月) は2人1組にされ, まず 1つの玩具で遊ぶ。その後, お礼として出された「ビスケット」を食べる。被験児の行動は観察室から観察される。11回目の自発的遂行測定後の質問に対し, 両条件のほとんどの被験児がモデルの「ジャンケン」行動に言及し, 子ども勝利条件の被験児の半分以上 (男女同数) が, 子どもが全部ビスケットを食べたことに言及した。2つのモデリング刺激は男児と女児に異なる効果を及ぼした。子ども勝利条件の女児に比し, 交互条件の女児のより多くが, 明確な「ジャンケン」模倣を示した。男児では最後の1個のビスケットでのみ「ジャンケン」をする傾向があり, 2つの条件の比較をほとんど無意味にした。「ジャンケン」の遂行を促し, 維持するのは「ジャンケン」そのもののもつ部分強化の特性によるという仮説は検証された。また, 代理強化の効果は直接強化によって影響され易いことが示された。
著者
平 直樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.134-144, 1995-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
2 2 3

The present study attempted to measure a kind of writing ability. In order to reduce the individual variations of better basic language skills, a story production task was given to 153 junior and senior high school students. They were shown a picture which had been picked up from a picture book and were asked to make essays the picture would inspire them. It was required that they should make stories supposed to be read aloud to 1st grade children of elementary school by their mothers. In order to keep high quality of evaluation, essays were rated by 7 experts. The reliability coefficients based on the generalizability theory showed quite reasonable values. The path diagram showed that the effects of the basic language skills to the quality of essays could be ignored, but that the emotional factors on writing and reading, and voluntary habit of writing in a daily life had significant effects. Moreover, it was suggested that favourable experiences on books in preschool period had an influence on cultivating a positive emotional attitude on writing and reading, but compulsory trainings for writing had nothing to do with other factors.
著者
中川 恵正
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.114-123, 1980-06-30

本研究は,2個の弁別課題を併行して訓練する併行弁別事態において,後述学習における先行学習の適切次元の有無を変数として,過剰訓練の効果を検討した。 5×2の要因計画が用いられ,第1の要因は移行の型であり,全体逆転移行(W),部分逆転移行(P),半次元外移行-I (HEDS-I), 半次元外移行-II (HEDS-II)か次元外移行(EDS)であった。第2の要因は過剰訓練の有無であり,過剰訓練0試行か過剰訓練24試行かであった。被験者60名(平均年齢4歳1か月; 平均知能115.3)の幼児で,6名ずつ下位群に分けられた。先行学習の規準(5回連続正反応)到達後,あるいは所定の過剰訓練後,ただちに5個の移行条件(W, P, HEDS-I, HEDS-II, EDS)のいずれかを行った。移行学習規準は5回連続正反応であった。正反応に対する強化は"あたり"という言語強化と,ブザー音と黄色ランプの点灯の非言語強化とであった。 主要な結果は次の通りであった。 (1),全体逆転移行群の学習は過剰訓練によって促進される傾向がみられた。また半次元外移行-II群の逆転群の逆転課題の学習は過剰訓練によって促進された。しかし過剰訓練は部分逆転移行群の学習を遅延した。 (2),過剰訓練は半次元外移行-II群の次元外移行課題の学習を促進したが,次元外移行群の学習を促進も遅延もしなかった。 (3),全体逆転移行群と部分逆転移行群の後続学習課程は,標準訓練条件下では異ならないが,過剰訓練条件下では互に異なっていた。 (4),次元外移行課題における学習行程は,半次元外移行-I群,半次元外移行-II群および次元外移行群の3群間に差がみられなかった。 本研究の結果は,後続学習における先行学習の適切次元の有無が過剰訓練の効果を規定する重要な要因であることを示している。さらに先行学習の適切次元が後続学習に存在する場合には,過剰訓練は次元外移行学習をも促進することを明らかにしている。
著者
大江 由香 亀田 公子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.467-478, 2015
被引用文献数
1

本稿では, 再犯防止を図るための効果的な指導法を探索することを目的として, 近年重要性が認識されつつあるメタ認知と自己統制力, 自己認識力, 社会適応力との関連について文献研究を行った。メタ認知能力が低い者ほど, 必要な情報を察知できず, 視野の狭い短絡的・感情的・主観的な判断・行動をしやすいと言う。そして, メタ認知能力に乏しいと, 衝動性が高くなり, 自己に関連する情報や他者の非言語的なメッセージを読み誤りやすくなる傾向があることが分かり, 文献研究の結果, メタ認知の能力の乏しさが犯罪・非行への準備性を高める得ることが推察された。メタ認知能力は, 知的障害や発達障害などがあってもトレーニングによって鍛えることができ, マインドフルネスを含む第三世代の認知行動療法などによっても涵養し得ることから, 今後犯罪者・非行少年の処遇にメタ認知の向上を目的とした指導法を積極的に取り入れていくことが重要と考えられた。
著者
西村 多久磨 村上 達也 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.453-466, 2015
被引用文献数
3

本研究では, 共感性を高めるプログラムを開発し, そのプログラムの効果を検討した。また, プログラムを通して, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動が高まるかについても検討した。介護福祉系専門学校に通う学生を対象に実験群17名(男性6名, 女性11名 ; 平均年齢20.71歳), 統制群33名(男性15名, 女性18名 ; 平均年齢19.58歳)を設けた。プログラムを実施した結果, 共感性の構成要素とされる視点取得, ポジティブな感情への好感・共有, ネガティブな感情の共有については, プログラムの効果が確認された。具体的には, 事前よりも事後とフォローアップで得点が高いことが示された。さらに, これらの共感性の構成要素については, フォローアップにおいて, 実験群の方が統制群よりも得点が高いことが明らかにされた。しかしながら, 他者の感情に対する敏感性については期待される変化が確認されず, さらには, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動への効果も確認されなかった。以上の結果を踏まえ, 今後のプログラムの改善に向けて議論がなされた。
著者
三和 秀平 外山 美樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.426-437, 2015
被引用文献数
6

本研究は, 教師の学習の特徴を踏まえた"教師の教科指導学習動機尺度"を作成しその妥当性および信頼性を検討すること, またその特徴を検討することを目的とした。研究1では教師202名を対象に, 予備調査によって作成された原案54項目を用いて因子分析を行った。その結果, "内発的動機づけ", "義務感", "子ども志向", "無関心", "承認・比較志向", "熟達志向"の6因子29項目から構成される教師の教科指導学習動機尺度が作成され内容的な側面の証拠, 構造的な側面の証拠および外的な側面の証拠が一部確認され, 尺度の信頼性も確認された。研究2では現職教師243名および教育実習経験学生362名を対象に, 分散分析により教師の学習動機の違いについて検討した。その結果, 特に現職教師と教育実習経験学生との間に学習動機の差が見られ, 教育実習経験学生は"承認比較志向"が高いことが示された。研究3では教師157名を対象に, 教師の学習動機とワークエンゲイジメントとの関係について重回帰分析により検討した。その結果, 特に"内発的動機づけ", "子ども志向", "承認・比較志向"がワークエンゲイジメントと正の関連があることが示された。
著者
鈴木 雅之 西村 多久磨 孫 媛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.372-385, 2015
被引用文献数
7

本研究では, 中学生の学習動機づけの変化を規定する要因として, 「テストの実施目的・役割に対する学習者の認識」であるテスト観に着目して研究を行った。中学1—3年生2730名を対象に, 定期テストが実施される度に調査を行い(2013年6月, 9月, 12月, 2014年2月の計4回), マルチレベル分析によって学習動機づけとテスト観の個人内での共変関係を検討するとともに, 構造方程式モデリングによって, テスト観が学習動機づけに与える影響について検討を行った。これらの分析の結果, テストの学習改善としての役割を強く認識することによって, 内的調整や同一化的調整といった自律的な学習動機づけが高まることが示された。その一方で, 学習を強制するためにテストが実施されていると認識することによって, 内的調整が低下し, 統制的な学習動機づけとされる取り入れ的調整と外的調整は高まることが示された。以上のことから, 中学生のテスト観に介入することによって, 自律的な学習動機づけを維持・向上させることが可能であることが示唆された。
著者
輕部 雄輝 佐藤 純 杉江 征
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.386-400, 2015
被引用文献数
4

本研究の目的は, 大学生が企業からの不採用経験をいかに乗り越え就職活動を維持していくかという就職活動維持過程に焦点を当て, 当該過程で経験する行動を測定する尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検討することである。2013年および2015年新卒採用スケジュールの就職活動を経験した大学生に対して, 2つの質問紙調査を行った。研究1では, 212名を対象に6つの下位尺度から構成される就職活動維持過程尺度を作成し, 一定の内的整合性と妥当性が確認された。研究2では, 72名を対象に作成尺度と就職活動の時期との検討を行い, 時期によって行われやすい行動が明らかとなり, 過程を測定する尺度としての妥当性が確認された。以上から, 就職活動の当初より行われやすいのは, 不採用経験を受けて当面の活動を維持するための現在志向的行動であり, 当該経験の蓄積や一定の就職活動の継続に伴って次第に, より現実的な将来目標を確立していく思考的作業を含む未来(目標)志向的行動が追加的に行われるようになることが示唆され, 作成尺度が就職活動維持過程における一次的過程と二次的過程を捉えうることが示された。
著者
上山 瑠津子 杉村 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.401-411, 2015
被引用文献数
2

保育の質の向上が望まれている現在, 保育者の実践力に関する量的な指標を用いた研究が必要である。そこで本研究では, 保育者による実践力の認知と保育経験および省察との関連を保育者434名を対象に検討した。まず, 保育実践力尺度に関して因子分析を行い, 因子構造と信頼性の確認をした。その結果, 「生活環境の理解力」「子ども理解に基づく関わり力」「環境構成力」の3因子構造となり, 確証的因子分析の結果, 適合度も一定水準の許容範囲内であることが確認された。次に, 相関分析を行い, 経験年数と省察との関連よりも, 経験年数と実践力の認知との関連が強く, それ以上に省察と実践力の認知との関連が強いことを示した。さらに, 実践力の認知を従属変数にして重回帰分析を行った結果, 省察の下位尺度の中では「子ども分析」の説明の程度が最も強いことが示唆された。以上の結果から, 経験年数の少ない若手保育者であっても, 省察を行うことで実践力の認知が高まり, 省察においては, 子どもの状態に気づき分析的に振り返ることが実践力の認知に繋がると考えられた。
著者
大対 香奈子 大竹 恵子 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.135-151, 2007-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
99
被引用文献数
3 3 6

不登校やいじめなど, 子どもの学校不適応問題が深刻化し続けている中, 子どもの学校不適応に関する研究や不適応改善のための取り組みが盛んに実施されている。しかし, 学校適応の定義が一貫していないために, 学校適応の測定に用いる指標や介入の効果検証の仕方は研究間で様々である。特に現在注目を集めているのは不適応の予防であり, 効果的な予防介入を実施するためには, 子どもの学校適応の正確かつ妥当なアセスメントが必要になる。本論文では, 先行研究の展望により学校適応の概念をまとめ, 学校適応アセスメントの理論的基盤となる三水準モデルを提唱した。このモデルでは, 水準1として感情や認知を含めた子どもの行動的機能, 水準2として子どもの行動が学校環境の中でどのように強化され形成されるのかという環境の効果に注目した学業的・社会的機能, 水準3として個人の行動と環境との相互作用の結果として生じる子どもの学校適応感という3つの水準から子どもの学校適応状態を把握する。また, これまでに実施されている予防介入の限界と課題から, より効果的な予防介入に必要なアセスメントについて三水準モデルをもとに検討する。
著者
高橋 亜希子 村山 航
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.371-383, 2006-09-30
被引用文献数
1 6

総合的な学習(総合学習)の時間の導入から3年が経過し,成果の一方さまざまな困難も指摘されている。総合学習で生徒への適切な支援やカリキュラム編成を考えていくためには,総合学習の達成を促進する要因を検討する必要がある。本研究では,先行研究ではあまり検討されてこなかった総合学習に特徴的な学習様式に着目し,総合学習を達成するために必要な要因を検討した。特に,量的検討と質的検討を組み合わせた手法を用いて,探索的な検討を行った。調査1では,総合的な学習に参加した高校生106人に対して質問紙調査を行った。その結果,教科の成績のみならず,テーマ決定や学習者の意欲・作業の進捗状況などが,総合学習の成績と相関を持つことが示された。調査2では,調査1において残差が大きかった生徒を抽出してインタビューを行い,事例を通した質的な検討を行った。その結果,「生徒の自我関与の深い領域とテーマとの結びつき」「研究の枠組み・計画の明確性」「情報収集や支援・資源へ向かう能動性」「教師からの適切な支援の有無」の4つの主要な要因が得られた。それぞれの要因に関して,総合学習独自の学習様式との関連から考察を行った。
著者
関口 雄一 濱口 佳和
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.295-308, 2015
被引用文献数
5

本研究は, 小学生が抱いている関係性攻撃についての知識構造である関係性攻撃観の因子構造を明らかにするとともに, その関係性攻撃観と表出性攻撃, 関係性攻撃の関連を検討するために行われた。小学5, 6年生児童446名を対象に, 関係性攻撃観尺度暫定項目, 小学生用P-R攻撃性質問紙, 関係性攻撃経験質問項目を含む質問紙調査が行われ, 更に同意が得られた児童163名に対して再検査信頼性の検討を目的とした再調査が実施された。因子分析の結果, 関係性攻撃観尺度は"否定的認識", "身近さ", "正当化", "利便性"の4因子構造であることが示され, 各因子の内的一貫性も概ね確認された。そして, 加害経験のある児童ほど攻撃行動に親和的な関係性攻撃観の下位尺度得点が高いことが示され, 関係性攻撃観尺度の基準関連妥当性が示された。また, 再検査信頼性を検討したところ, 関係性攻撃に関与する立場の継続と, 関係性攻撃観の安定性の高さとの関連が示された。さらに, 重回帰分析の結果, 表出性攻撃を統制した上でも, 否定的認識得点, 身近さ得点, 利便性得点は関係性攻撃得点と有意に関連することが明らかにされ, 攻撃行動に親和的な関係性攻撃観が実際の攻撃行動を規定する可能性が示唆された。
著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.309-322, 2015
被引用文献数
7

本研究では, 体型に関するメディアの情報を受けた個人が, その影響から痩身理想をどの程度内在化しているかを評価するSociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3 Revised(SATAQ-3R ; Thompson, van den Berg, Keery, Williams, Shroff, Haselhuhn, & Boroughs, 2000)の日本語版を作成し, 大学生の痩身理想の内在化とメディア利用頻度との関連性について検討した。研究1では, 男女大学生1,054名を対象に調査を実施し, 29項目(4下位尺度)の日本語版SATAQ-3Rを作成し, 尺度の信頼性と妥当性を確認した。研究2では, 男女大学生998名を対象に日本語版SATAQ-3Rとインターネットやテレビ, 雑誌といったメディア利用頻度との関連性を調べた結果, 男性より女性のほうが, メディアの影響を受けて痩身理想を内在化し, メディア情報を重要だと考え, 外見に関するプレッシャーを感じていることが示された。一方でスポーツマン体型への内在化は女性より男性のほうが高いことが示された。また, メディアのうち特にテレビと雑誌が大きく影響を及ぼす可能性が示され, わが国の摂食障害患者の増加を防ぐためにも, 学校教育におけるメディアリテラシー教育の重要性が示唆された。
著者
山本 渉
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.279-294, 2015
被引用文献数
2

本研究の目的は, 中学校の担任教師が, 生徒・保護者への対応において, スクールカウンセラー(以下, SCと略記)の活動をどのように生かし, その結果どのような体験をしているのかを, 担任教師の視点からボトムアップ的に把握することであった。半構造化面接法にて収集された16名の中学校教師のインタビュー・データを, グラウンデッド・セオリー・アプローチを援用して分析した。その結果, 担任教師がSCの活動をどのように生かしているのかは, ≪担任のしづらい動きを担ってもらうことでゆとりを得る≫, ≪SCの情報や発言から生徒・保護者への理解を深める≫, ≪対応にあたってのガイドを得て判断の参考にする≫, ≪気持ちや考えへの保証を得て精神面の回復に役立てる≫の4つに整理されることが示唆された。これらのいずれか, あるいは複数の生かし方をした結果, 担任教師はそれまでよりも生徒・保護者に≪安定して対応できる≫ようになると考えられた。さらに, SCとの協働を経て≪安定して対応できる≫ようになることがきっかけとなり, 担任教師自身の≪対応スタンスの変化が促される≫場合もあることが示唆された。
著者
麻柄 啓一 進藤 聡彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.267-278, 2015
被引用文献数
3

事例と共にルールを教授しても, 学習者がルール情報に着目せず, 事例情報のみからの帰納学習が行われる場合がある。このことを指摘した工藤(2013)は, その原因として事例情報が与えられたことによってルール表象の形成が不十分になることを示唆した。しかし, これまでなぜルール表象の形成が不十分になるかについては解明されていない。そこで本研究では, この点の解明を目指した。研究Iでは42名の大学生が, 研究IIでは87名の大学生が対象となった。「銅は電気を通す」という事例情報とともに「金属は電気を通す」というルール情報を与えて実験を行った結果, 以下の点が明らかとなった。「一般・個別」という知識の枠組みを不十分にしか持っていない学習者は, 与えられた2つの情報から「金属の銅は電気を通す」のようなイメージを形成していることが示唆された。すなわちルール情報中の「金属」という概念名辞が単に「銅」に係る修飾語としてイメージされてしまう。その結果, ルール表象が形成されないこと, また, さらにその結果, 当該のルールを後続の問題に対して適用できなくなることを示唆する結果を得た。本研究では概念名辞がその抽象性を失い単に事例の修飾語として位置づけられる現象を概念名辞の「まくら言葉化」と表現した。
著者
高原 龍二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.242-253, 2015
被引用文献数
6

公立学校教員の都道府県別精神疾患休職率に関して, 教員を対象とした質問紙調査より得た職場環境認知とストレス反応を個人レベルデータとして, 政府統計から得た教育行政や教員のメンタルヘルスに関する施策を都道府県レベルデータとして用いたマルチレベルSEM(Structural Equation Modeling)による検討を行った。小学校教員, 中学校教員の両モデルにおいて, 個人レベルでは伝統的な職業性ストレスモデル(e.g., Karasek, 1979)に従って職場環境の認知がストレス反応を説明することが示され, 集団レベルでは, 教員の意識が教育行政やメンタルヘルス施策と精神疾患休職率の関係を媒介することが示された。小学校, 中学校の両方で共通あるいは類似する要因として挙がったのは, 非正規教員比率, 児童生徒数に対する教員や教育委員会の体制, 労働組合の組織率, 学校数であった。本分析の結果は, 都道府県レベルのような広い範囲であっても, 組織的な環境調整や施策によって, ストレス反応や精神疾患休職を予防できることを示唆しているものと考えられる。
著者
齊藤 彩
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.217-227, 2015
被引用文献数
5

思春期の子どもにおける不注意および多動性・衝動性に関する行動傾向が引き起こす二次的な内在化問題の存在が指摘されてきているものの, その発現メカニズムや具体的な関連要因についての十分な実証研究は行われていない。本研究は, 通常学級に在籍する中学生を対象とし, 不注意および多動性・衝動性から成る注意欠陥/多動傾向が学校ライフイベント, 自尊感情を媒介して内在化問題と関連するかどうかを検討することを目的として行われた。中学生826名と学級担任教員22名を対象に質問紙調査を実施し, 教員評定により生徒の不注意および多動性・衝動性を測定し, 生徒の自己評定により学業と友人関係に関するライフイベントの経験頻度, 自尊感情, 内在化問題を測定した。不注意, 多動性・衝動性, 注意欠陥/多動傾向の各変数と内在化問題との間には有意な正の相関関係が確認されたが, パス解析の結果, 注意欠陥/多動傾向から内在化問題への直接の有意なパスは見られず, 注意欠陥/多動傾向は, 学業ならびに友人関係の両イベント, 自尊感情を媒介して内在化問題へと関連することが明らかとなった。
著者
児玉 裕巳 石隈 利紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.199-216, 2015
被引用文献数
5

本研究では「学習に対する認知的・行動的・情緒的側面からなる態度」に着目し, 中学・高校生(<i>N</i>=1361)を対象に尺度を作成し, 因子構造と信頼性・妥当性, 中学生と高校生の差異, およびプロフィールの特徴について検討した。その結果, 認知的側面では「関与肯定」「コスト受容」「遂行目標の重視」の3因子が, 行動的側面では「習慣的な積極行動」「テスト課題対処」「対処回避」の3因子が, 情緒的側面では「充実感」「統制感」「学習の不安」の3因子が見出され, 一定程度の信頼性と妥当性を確認した。また中学生はポジティブな態度と対処回避の負の関連が強く, 高校生はテスト課題対処と遂行目標の重視および学習の不安との正の関連が強いこと, 遂行目標の重視は高校終盤で下がること, 概ね学年が進むにつれて習慣的な積極行動とテスト課題対処は低くなること, 学校移行期あたりは充実感と統制感は低く学習の不安は高いこと, 中学生の間にポジティブな態度を持つ群は減少してしまうこと, 高校生になると学習のネガティブ感情を持つ群は減ると同時に学習以外のことに関心を持つと推察される群は増えること等が明らかとなった。