著者
前田 多美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.166-170, 1980-06-30

本研究の目的は,概念的特異性課題を用いて,幼児(5歳児)の概念形成過程においてHouseらの注意モデルが妥当であるかどうか,また,特異性課題が概念形成課題としても利用できるかどうかを検討することであった。そのために,概念的特異性課題を行う前に注意モデルにおける第1位相を訓練する群(概念訓練群)と第2位相を訓練する群(特異性訓練群)を設け,後の本課題(概念的特異性課題)における遂行成績を,訓練を行わない統制群の成績と比較した。その結果,本課題における基準達成までの試行数(基準試行を含まない)を指標にすると,特異性訓練群,概念訓練群はともに統制群より有意に試行数が少なく,成績が良かった。しかし,特異性訓練群と概念訓練群との間には有意な差は認められなかった。また,基準達成までに要した試行数が0, 1∼15, 16∼60試行の3つの場合に分けて,各々に属する各群の被験者数によって比較すると,3つの群各々の間に有意な差が認められ,概念訓練または特異性訓練を行う方が訓練を行わない場合よりも本課題の遂行成績は良くなり,またその効果は概念訓練よりも特異性訓練の方が大きいことが明らかにされた。さらに,本課題において10試行を1ブロックとして試行ブロックごとの各群の正反応数を指標として,3(訓練タイプ)×3(試行ブロック)の混合型分散分析を行った。その結果,訓練の主効果および試行ブロックの主効果が認められ,どの試行ブロックにおいても特異性訓練群,概念訓練群は統制群よりも成績が優れていることが示された。 これらの結果から,Houseらの注意モデルは,幼児の概念学習の場合にもあてはめることができ,概念形成課題として特異性課題を用いることができると考えられた。
著者
及川 昌典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.504-515, 2005-12-30

近年の目標研究によって, 意識的な目標追求と非意識的な目標追求は, 同じような特徴や効果を持つことが明らかになっている。しかし, これら2つの目標追求が, どのような状況で, どのように異なるのかは明らかではない。本研究は, 抑制のパラダイムを用いて, 教示による意識的抑制と, 平等主義関連語をプライミングすることによる非意識的抑制との相違点を明らかにするために行われた。実験1では, 非意識的に行われる抑制においては, 意識的に行われる抑制に伴う弊害である抑制の逆説的効果が生じないことが示された。教示により外国人ステレオタイプの記述を避けた群は, 後続の課題で, かえってステレオタイプに即した印象形成を行うのに対し, 非意識的に抑制を行った群では, そのような印象形成は見られなかった。実験2では, 非意識的な抑制は, 意識的な抑制よりも効率的との想定を基に, 相対的に抑制に制御資源が消費されないだろうと予測された。抑制後に行われた自己評定においては, 意識的抑制群においてのみ, 強い疲弊感が報告されていたが, 後続のアナグラム課題においては, 意識的抑制群も非意識的抑制群も同様に課題遂行が阻害されており, 両群において消費される資源量には違いがないことが示された。抑制意図と行動, それに伴う意識の関係について論じる。
著者
松沼 光泰
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.548-559, 2008-12-30

正確な英文読解や英作文には,andが同じ文法的資格の語句を結ぶ等位接続詞である(以下andの本質)ことを知り,文中のandが何と何を同じ文法的資格で結んでいるかを意識することが不可欠となる。本研究では,高校生を対象として,andの本質を問う独自の評価問題を作成し,学習者のandの知識が不十分であることを明らかにすると伴に,学習者にandの本質を理解させる教授方法を考案しこの効果を検討した。プリテストの結果,学習者は,andの日本語訳は知っているが,andの本質を理解していないことが明らかになった。本研究では,この不十分な知識を修正するために,ル・バー研究や学習方略研究の理論を援用し,「(1)学習者の知識では説明のつかない事例を用いてandの本質を教授する」,「(2)等位接続詞という名称とandの本質を関連づけて教授する」,「(3)英文読解や英作文の際に,アンダーラインの使用を促す」という3つの教授方針を採用した授業を実施した。その結果,介入授業後,学習者の成績は上昇し,介入授業の効果が確認された。また,介入授業後,学習者はandを重要な単語であると認識するようになり,英文法の学習意欲が高まり,andに対する自己効力感が高まった。
著者
加藤 隆勝 返田 健
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-8, 60, 1961-03-30

The first aim of this study was to determine by Q-sorts the nature of the self, ideal self and ideal opposite sex concept of the adlescent. The second aim was to confirm the relationship among those concepts by Q-technique. 85 cards were prepared and on each of them was described a word which indicated one of various presonality traits. The subjects were required to classify the cards into seven grades in the order of the accordance of the personality traits first with their self concept, second with ideal self concept, and third with ideal opposite sex concept. The results are as follows : 1. There is a similarity between the self concept and ideal self concept. The self concept should be reflected in the ideal self concept. 2. On the other hand, the ideal opposite sex cencept shows a considerable contrast with the self concept. In the ideal opposite sex concept, the subject is likely to highly appreciate the traits he lacks in his self concept. 3. Those subjects who show greater discrepancies between self sorting and ideal self sorting and those who show less discrepancies were selectited. As a result of the analysis of them by Q-technique, two factors are found. The first factor reflects the tendency toward introspection or self reflection, and is found mostly among the subjects who show greater discrepancies. The second factor reflects a tendency toward self acceptance and of setting a high value on social adjustment. It is found primarily among subjects who show less discrepancies.
著者
小泉 令三 若杉 大輔
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.546-557, 2006-12-30
被引用文献数
1

多動傾向のある小学2年生男児Aの立ち歩く,突然衝動的な行動を起こす,トイレに引きこもる,遊びの邪魔をするなどの問題行動を改善させるために,個別指導とクラス対象の社会的スキルトレーニング(CSST)を組み合わせた5回の授業を,1週間に1回ずつ5週間にわたって実施した。その結果,CSST終了後,授業中の児童Aの問題行動はほぼ見られなくなり,休み時間にも友だちと一緒に遊ぶことができるようになった。児童Aの観察者評定,ソシオメトリック指名法による社会測定地位指数,教師評定,そして自宅での保護者評定の得点が上昇した。多動傾向のある児童の教育的支援に関して,個別対応のみならず,クラス集団内での相互作用を考慮した介入を行うことの有効性を示すことができた。なお,実施に当たっては担任教師だけでなく,補助者の必要性を確認することとなった。
著者
外山 美樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.361-370, 2006-09-30

本研究の目的は,小学4〜6年生670名を対象にして,社会的コンピテンスにおけるポジティブ・イリュージョンが,8ヵ月後のストレス反応と攻撃行動の変化に及ぼす影響を検討することであった。本研究の結果より,子ども自身が抱えるストレスの程度によって,ポジティブ・イリュージョンの効用が異なることが実証された。ストレス反応があらかじめ高い児童においては,社会的コンピテンスのポジティブ・イリュージョンがストレス反応の低減につながることが示された。また,本研究の結果より,最初に子どもが備えもつ攻撃行動の水準によって,ポジティブ・イリュージョンの影響が異なることが示された。もともと高い攻撃水準を備えもっていた子どもに対しては,ポジティブ・イリュージョンの有害な影響が認められ,8ヵ月後,さらに攻撃行動が増加することが明らかになった。
著者
丸島 令子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.52-62, 2000
被引用文献数
1 1

本研究は「生殖性」の発達と自己概念との関連性について, 一般成人390人 (M/143, F/247) と成人患者 41人 (M/23, F/18) を対象者として (1) 成人期3段階における生殖性の発達,(2) 中年期の自己概念の因子構造の分析,(3)「生殖性/停滞」の発達要因と自己概念の検討の3つの目的から追究する。主な結果は, 1)「心理社会的バランス目録: IPB」(Domino & Affonso, 1990) を用いて一般成人を3年齢群と性による相違を検討したところ, 生殖性は年齢の順に得点が高くなった。2) 中年期の自己概念の因子構造に「達成因子」と「適応因子」および「社会性因子」の3つが抽出され, それらが検討された。3) 中年群と患者群を「GHQ」により精神健康状況を査定して, 2つの精神健康群 (「健康群」「リスク群・患者群」) に再分類し, 各群の生殖性の発達に影響を及ぼす要因を検討したところ, 健康群にはほぼ自己概念の「達成」「適応」の両因子がかかわり, 性差も見られたが, もう一方の停滞状況のリスク群・患者群の生殖性の発達には「適応」因子がかかわった。以上の結果から達成, 適応の自己概念は中年期の心理社会的発達と有意に関連していることが示唆された。
著者
西田 裕紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.433-443, 2000-12-30
被引用文献数
7

本研究の目的は,幅広い年代(25〜65歳)の成人女性の多様なライフスタイルについて,複数の構成要素からなる心理的well-beingとの関連から検討することであった。まず研究1では,成人期全般に適用でき,理論的背景が確認されているRyffの概念に基づき,人格的成長,人生における目的,自律性,自己受容,環境制御力,積極的な他者関係の6次元を有する心理的well-being尺度が作成され,6次元の信頼性・妥当性が確認された。また,年代によって心理的well-beingの様相が異なり,次元によっては発達的に変化することが示された。次に研究2では,ライフスタイル要因と心理的well-being各次元との関連について検討した。その主な結果は以下の通りである。(1)年代と就労の有無,社会活動参加度を独立変数,心理的well-being各次元を従属変数とする分散分析を行った結果,就労,社会活動という家庭外での役割は,成人女性の心理的well-beingとそれぞれ異なった形で関連していることが示された。特にこれまで家庭外役割としてほとんど焦点が当てられてこなかった社会活動が,就労とは異なった形で心理的well-beingと強く関連していたことから,成人女性の発達的特徴を考える際に,就労以外の様々な活動にも目を向けることの必要性が示唆された。(2)年代別に,妻,母親,就労者,活動者の各役割達成感と心理的well-being各次元との偏相関係数を検討した結果,長期にわたる成人期においては,各年代に応じた役割を獲得し,それによる達成感を得ることが心理的well-beingと強く関連することが明らかになった。この結果から,それぞれの役割の質的側面が成人女性のライフサイクルの中で異なった重要性を持つことが示唆された。
著者
清道 亜都子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.361-371, 2010-09-30
被引用文献数
4

本研究の目的は,高校生に対する意見文作成指導において,意見文の「型」(文章の構成及び要素)を提示することの効果を検討することである。高校2年生59名(実験群29名,対照群30名)が,教科書教材を読んで意見文を書く際,実験群には,意見文の「型」や例文を示して,書く練習をさせた。その結果,事後テストでは,実験群は対照群より文字数が多く,意見文の要素を満たした文章を書き,内容の評価も高まった。さらに,介入1ヶ月後においても効果が確認できた。また,対照群にも時期をずらして同一の介入指導を行ったところ,同様の効果が現れた。これらの結果から,意見文作成指導の際,意見文の「型」を提示することにより,高校生の書く文章は量的及び質的に充実したものになることが示された。
著者
大浦 容子 後藤 克彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-10, 1994-03-30
被引用文献数
1

In order to investigate how cognitive skills develop in the course of expertise in Japanese fencing, regular (expert) and substitute (junior expert) players of a men's university varsity team were compared on performances on (I) a paper-pencil test of rules and concepts (Test a), (II) convergent problem solving tasks such as to predict a scorer's winning trick from a video just before it occurs (Test c-2), and (III) divergent problem solving tasks such as to judge players' skill from their postures (Test b-1), and to detect defects in them (Test b-2). Unexperienced college students also participated in the experiment in part. Both the experts and junior experts knew the rules and concepts of Japanese fencing well, and their performances were much better than the estimated baseline. Their performances in convergent problem solving were also equally well. In divergent problem solving, however, the experts were better than either the junior experts or the unexperienced. These results suggest that divergent problem solving skills need a longer time to develop.
著者
森 二三男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.18-24, 1960-12-30
被引用文献数
1

この研究は,G.S.R.による情緒測定の応用的方法として,テレビドラマを心理的刺激条件と一したとき,被験者を集団的に測定して,その結果を考察したものであって,G.S.R.のgroup measurementのひとつの試みとして妥当な資料がえられるかどうかを検討したのである。みいだされた結果を要約すると次のようにたる。1テレビドラマ視聴時における個人被験著のG.S.Rを測定し,その記録を反応値によって整理した結果,このドラマ内容の刺激因子に対応する反応として,被験者の情緒表出をG.S.R.によってとらえることがでぎた。2個々の被験者の皮膚電気抵抗値を,直流電気抵抗とみて,これを並列に接続した回路構成によって,合成抵抗値を1人の被験者のそれと等しくし,集団的にG.S.R.を測定した場合, R値を指標として記録を分析するならば,妥当な資料として集団測定の記録を分析することができた。3テレビドラマを刺激因子として,上述の集団測定方式によって集団G.S.R.を測定し,その記録をR値によって集計整理した結果,刺激因子ヒ対応する被験グループの, 集団的情緒表出をとらえることができた。被験者個々の反応彼自体のパターン旦発現時点,反応時,潜時等にはそれぞれ個人差がおるが、R値による集計の結果,この指標が妥当かどうかを,実験後に,同時記録したテープを再生聴取させて再検討した結果ヨドラマの刺激因子と集団G.S.R.値には対応があると判断された。4Lたがって,テレビ,映画等の視聴時における感動を集団的に分析したり,宣伝、広告等の効果を集団的に判定する場合,集団G.S.R.測定の記録をRによって整理して,心理的な刺激因子を明らかにしようとする試みは,妥当な方法であると判断Lてよい。最後に,この実験研究に当たって,奥田教授,狩野教官の御指導御助言に導かれたことを感謝していると同時に, 教室の諸学兄の御協力を謝したいと考えます。
著者
遠藤 愛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.224-235, 2010-06-30

本研究では,境界領域の知能と年齢に不相応な学力を有する中学生を対象に,算数文章題の課題解決を目指す学習支援方略を検討した。アセスメントの手続きとして,(a)WISC-IIIによる認知特性と,(b)つまずいている解決過程の分析を実施し,それらを踏まえ案出した2つの学習支援方略(具体物操作条件とキーワード提示条件)を適用した。その結果,対象生徒の課題への動機づけが具体物操作条件にて向上し,立式過程におけるつまずきがキーワード提示条件にて解消し,効果的に課題解決がなされた。しかし,計算過程でのケアレスミスが残る形となり,プロンプト提示を工夫する必要性が示唆された。以上から,算数文章題解決のための学習支援方略を組む上で踏まえるべきポイントとして,生徒が示す中核的なつまずきを解消する方略を選択すること,学習支援方略を適用したときのエラー内容をさらに分析して別の過程における課題解決状況を確認することの2点が示された。
著者
松田 文子 永瀬 美帆 小嶋 佳子 三宅 幹子 谷村 亮 森田 愛子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.109-119, 2000-06-30

本研究の主な目的は, 数と長さの関係概念としての「混みぐあい」概念の発達を調べることであった。実験には3種の混みぐあいの異なるチューリップの花壇, 3種の長さの異なるプランター, 3種の数の異なるチューリップの花束の絵が用いられた。参加者は5歳から10歳の子ども136名であった。主な結果は次のようであった。(a)5, 6歳児では, 混んでいる・すいているという意味の理解が, かなり難しかった。(b)数と長さの間の比例的関係は, 5歳児でも相当によく把握していた。しかし, この関係への固執が, 混みぐあい=数/長さという1つの3者関係の形成を, かえって妨げているのではないか, と思われた。(c)長さと混みぐあいの反比例的関係の把握が最も難しかったが, 8歳児は, 2つの比例的関係と1つの反比例的関係のすべてを, かなりよく把握しているようであった。(d)これら3つの2者関係を1つの3者関係に統合することは大変難しかった。8歳から10歳にかけて大きく進歩したが, 10歳でも約25%の子どもしか統合を完了していないようであった。このような結果は, 小学校5年算数「単位量あたり」が子どもにとって難しい理由を示唆した。
著者
石黒 二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.98-106, 1971-06-30

この研究は中学生のOA.A,UAが,課題定位と自我定位の2種の動機づけ教示のもとで,言語材料の記憶にどのような差異をもたらすかを確かめるためになされたものである。なおこの場合実験者が被験者と知りあい関係にある教師であるか否かによって起こると考えられる動機づけ教示の効果の違いとも関連させて検討がなされた。はじめに立てた作業仮説は一部を除き,次のようにほぼ立証された。(1)動機づけの強さに関する被験者の自己評定および復習の有無に関する自己報告の結果を総合すると,教師の実験者による自我定位的動機づけ教示のもとで,自我包含的構えをとる被験者がもっとも多くなる。教師でない実験者による自我定位,教師の実験者による課題定位の順でこれに続き,教師でない実験者による課題定位のときにもっとも低い動機づけとなる。またOAはUAよりも学習後の復習の習慣においてまさる傾向がある。しかし実験事態における動機づけの強さでは,自己評定に関するかぎり,教師でない実験者による自我定位の場合を除き,OAとUAの間に有意な差がみられない。(2)いずれの動機づけ教示のもとにおいても,学習直後の再生成績はOAがもっともよく,A,UAの順でこれに続いている。この傾向は24時間後の把持検査の成績においても変わらない。(3)いずれの実験者のもとにおいても,学習と把持の成績は,課題定位のそれよりも自我定位のそれの方がまさる。しかしその差はOAよりもAとUAにおいて顕著である。(4)いずれの成就値群においても,課題定位と自我定位の間の再生成績の差は,教師の実験者のときよリも,教師でない実験者のときにより大きくなる。すべての教示条件におけるOA群,および教師でない実験者による自我定位の各群において,把持量の有意な減少が認められなかった。OA群は正答率が高くて成功感を伴ないやすいこと,教師でない実験者による自我定位では,教師の実験者による自我定位ほどに緊張が過度にならないことなどがその原因と推定された。また教師の実験者による自我定位のA,UA両群において把持量の減少があったことは,過度の緊張により,再生禁止の回復がおくれたためと解釈された。UAがOAよりも,実験者が教師か否かによって再生成績に受ける影響が大きいであろうという推測は,確証を得るに至らなかった。
著者
樽木 靖夫 石隈 利紀
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.101-111, 2006-03-30
被引用文献数
1

本研究は,中学生の学級集団づくりに活用される文化祭での学級劇において,彼らの小集団の体験の効果について検討した。主な結果は次の通りである。1)文化祭での学級劇における小集団の体験において,小集団の発展を高く認識した生徒は,そうでない生徒よりも自己活動の認知(自主性,協力,運営),他者との相互理解を高めた。2)文化祭での学級劇における小集団の体験において,担任教師の葛藤解決への援助介入は小集団の発展を促進し,生徒の自己活動の認知,他者との相互理解に影響した。3)文化祭での学級劇における小集団の体験において,同じ目標を目指しながら異なった活動をする「分業的協力」を高く認識した生徒は,そうでない生徒よりも学級集団への理解を高めた。
著者
中川 惠正 守屋 孝子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.81-91, 2002-03-31
被引用文献数
2

本研究は,小学校5年生を対象にして,2つの教授法,即ち,(1)モニタリング自己評価訓練法(問題解決の方略,スキルの利用の意義づけを教授の中に含め,その方略の実行過程でのモニタリング,評価やエラー修正等の自己統制の訓練をし,さらに自己の解決方法を他者に説明する訓練をした後,到達度と実行過程を自己評価する方法)と(2)到達度自己評価訓練法を比較し,国語の単元学習を促進する要因を検討した。その結果,MS群は各ポストテストのいずれにおいても,CRS群に比べて学習遂行が優れており,また内発的動機づけもCRS群に比べて高かった。
著者
村上 宣寛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.183-191, 1980-09-30
被引用文献数
2

音象徴の研究には2つの流れがあり,1つはSapir (1929)に始まる,特定の母音と大きい-小さいの次元の関連性を追求する分析的なものであり,もう1つはTsuru & Fries (1933)に始まる,未知の外国語の意味を音のみから推定させる総合的なものであった。本研究の目的は音象徴仮説の起源をプラトンのテアイテトス(201E-202C)にもとめ,多変量解析を用いて日本語の擬音語・擬態語の音素成分を抽出し,それとSD法,連想語法による意味の成分との関連を明らかにするもので,上の2つの流れを統合するものであった。 刺激語はTABLE 1に示した65の擬音語・擬態語であり,それらの言葉から延べ300人の被験者によって,SD評定,名詞の連想語,動詞の連想語がもとめられた。成分の抽出には主因子法,ゼオマックス回転が用いられた。なお,言葉×言葉の類似度行列作成にあたって,分析Iでは言葉に含まれる音をもとにした一致度係数,分析IIでは9つのSD尺度よりもとめた市街模型のdの線型変換したもの,分析IIIでは6803語の名詞の反応語をもとにした一致度係数,分析IVでは6245語の動詞の反応語をもとにした一致度係数を用いた。分析Vの目的は以上の4分析で抽出した成分の関係を調べるもので,Johnson (1967)のMax法が用いられた。 分析Iの結果はTABLE 2に示した。成分I-1は/n/と/r/,I-2は/r/と/o/,I-3は/a/と/k/,I-4は促音,I-5は/o/,I-6は/a/,I-7は/i/,I-8は/p/,I-9は/u/,I-10は/b/,I-11は/k/,I-12は/t/に関連していた。分析IIの結果はTABLE 3に示した。成分II-1はマイナスの評価,II-2,II-4はダイナミズム,II-3は疲労,に関連していた。分析IIIの結果はTABLE 4に示した。成分III-1は音もしくは聴覚,III-2は歩行,III-3は水,III-4は表情,III-5は不安,III-6は液体,III-7は焦りに関連していた。分析IVの結果はTABLE 5に示した。成分IV-1は活動性,IV-2は不安,IV-3は表情,IV-4は音もしくは運動,IV-5はマイナスの評価もしくは疲労,IV-6は液体,IV-7は歩行,IV-8は落着きのなさに関連していた。分析Vの結果はTABLE 6とFIG. 1に示した。音素成分と意味成分の関係として,I-5 (/o/)とIV-8(落着きのなさ),I-7 (/i/)とIII-7(焦り),I-10 (/b/)とIII-6(液体)が最も頑健なものであった。さらに,I-8 (/p/)とII-2(活動性),I-9 (/u/)とIII-5(不安)及びIII-6(液体),I-12 (/t/)とIII-2(歩行)及びIV-8(落着きのなさ)も有意な相関があった。 日本語の擬音語・擬態語の限定のもとで,音象徴の仮説が確かめられた。/o/が落着きのなさを,/i/が焦りを,/b/が液体を象徴するという発見は新しいものでありその他にも多くの関係があった。また,SD法によってもたらされた成分は狭い意味の領域しかもたらさず,意味の多くの側面を調べるには不十分であり,擬音語と擬態語の区別は見出されなかった。
著者
松原 達哉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.18-28, 1959-12-30

乗法九九学習を成功させるためには,児童の心身の発達および経験内容から考察して,何才何か月ごろから開始するのが,最も適当であるかを研究すること。さらに,算数学習のレディネスに影響を与える要因についての分析的研究をすることの2つを目的とした。実験方法は,アメリカの「算数の学年配当7人委員会」の方法を改善し,4つの実験群を設けた。この各実験群に,第1基礎テスト,第2基礎テスト,予備テスト,終末テスト,把持テスト,知能検査,配慮実験,ゲス・フー・チストその他の調査を実施した。被験者は,大,中都市,農村の8小学校2年,3年生1,046名を対象に22名の教師が,同一指導案によって指導した。本実験の基準に従って整理した結果では,乗法九九学習の指導開始は,8才1か月(2年2学期)から行なっても可能であることが実証された。現在,8才7か月(3年1学期)から開始しているが,さらに,6か月早めても,わが園児童の場合は,可能であると考られる。これは,アメリカのC.Washburneらの実験に比べ,2才1か月早い。また,算数学習のレディネスの要因としては,(1)算数学習に必要な知能,(2)四反応の速さ,(3)視聴覚および視聴覚器官の障害の有無,(4)健康,栄養,疲労の条件,(5)家庭的背景,(6)情緒の安定性,(7)根気の強さ,(8)自主性,(9)数の視聴覚記憶,(10)語の視聴覚記憶,(11)算数に対する興味,(12)算数的経験などが重要なものであることが実証された。
著者
金 徳龍
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.205-212, 1990-06-30

This is a psychological study of "linguistic interference" between Korean and Japanese found among students attending a korean school. This study examined the degrees of linguistic "independence" and "dependence" between the two languages by "color-naming test". The results were as follows : (1) Either of the two languages became a predominant language ; (2) The degree of linguistic interference between the two languages was not considered high ; (3) A relatively stronger influence was given on linguistic interference in bilingualism when the second language began to be learned rather than by the length of its study.
著者
落合 良行
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.332-336, 1983-12-30
被引用文献数
7