著者
高橋 あつ子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.103-112, 2002-03-31
被引用文献数
2

本研究の目的は,自己肯定感を高めることをねらった実験授業プログラムを小学校の児童に実施し,その効果を自己意識と行動面から探ることであった。加えて,自己を対象化する体験がネガティブに影響しないかどうかを吟味した。5年児童6学級206名のうち実験群4学級に4回の実験授業を行い,前後と1ヶ月後に「Who am I?」による自己記述と各記述に対する感情評定・重要度評定をとり,その推移を統制群2学級と比較した。その結果,実験授業を受けた児童は,受けなかった児童より,肯定的な記述が増え,否定的な記述が減り,肯定的な自己意識を高めたが,行動面への影響は見いだせなかった。なお,成功を内的に帰属しにくく,失敗を内的に帰属しやすい帰属スタイルを持つ児童は,自己意識を刺激する実験授業で,最も慎重な配慮が必要と考えられるが,そのような帰属スタイルである自己卑下群において,他者を拒否的にとらえる記述が有意に減少するなど,意識面ではポジティブな変化が見られたが,授業のみだと他者共生性が低下するなど行動面でネガティブな変化も見られた。
著者
豊田 秀樹 中村 健太郎 村石 幸正
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.392-401, 2004-12-30

双生児と一般児を統合的に扱う遺伝ACEモデルが新制田中B式知能検査に適用される。データは中学1年時と高校1年時にそれぞれ採られた縦断データである。本研究では構造方程式モデルの下位モデルである遺伝ACEモデルと縦断的解析を融合したモデルによって, 115組の一卵性双生児と32組の二卵性双生児, ならびに881人の一般児の被験者を分析した。知能点と7つの各下位検査についてそれぞれ母数の推定を行い, 加算的遺伝, 共有環境, 非共有環境の各説明割合が明らかとなった。個々の項目に関する特徴に加え, 全体として中学時, 高校時の双方とも非共有環境の説明割合が比較的大きいことが示された。
著者
佐山 公一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.204-212, 1992

The present paper investigated the question of what constitutes an impression of "figurative" speech. Twenty-two subjects read figurative expressions and rated their figurativeness on 50 adjective scales under two conditions. Condition 1 required subjects to rate figurative expressions using simple and direct impressions. Condition 2 required subjects to respond to figurative expressions paying attention to the surface forms of the expressions. Both results were quite similar. Both indicated that the 50 adjective scales were classified into several clusters. Within each cluster, the adjective scale which highly correlated to its own cluster component was selected for further research. Results suggested that impressions of figurative speech included both an intellectual or rational aspect and an affective aspect. Results also showed that both aspects consisted of 3 or 4 components. Ortony, Clore, and Foss (1987) have classified affective related words in terms of the types of situations they refered to in certain verbal contexts. Results from my study were compared with the classifications given by Ortony et al. (1987).
著者
高橋 恵子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.7-16, 60, 1968-03-31

本研究は.依存性がいちおう発達の最終段階に達していると思われる青年後期において,それがどのような様相を呈しているかを,依存構造というモデルをとおして解明しようとするものであった。その結果明らかにされたのは次の3点である。 1)依存構造:依存構造には限られてはいるがかなり多くのさまざまな対象が含まれ,それぞれ異なった機能を与えられ,分化した位置を占めている。そして,この対象間の機能分化は,各個人が相対的に強い依存要求をひきおこす,その個人の存在を支える機能を果たすという意味で中核になっている単数または複数の焦点を中心に,いく人かの対象がそれぞれの役割りを与えられ,それぞれの意味を持ち,さまざまに位置づけちれていることを予想させる。 2)依存構造の類型:依存構造の構造化の様相-対象の数,焦点の有無,焦点の数,焦点と他の対象との機能分化などは各個人において異なるのであるが,焦点が何かによって依存構造を類型化してみると,同じ類型間には対人的依存行動の共通点が認められることが明らかになった。 3)大学生女子における依存性:青年においてもここで問題にする意味での依存性が認みられる。つまり,現象的には自立的であると考えられている大学生においても,少なくとも女子では依存要求が認められる。そして特に顕著なことは次のようなことである。 (1)単一の焦点になる対象としては,母親,愛情の対象,尊敬する人などが多く,同性の親友や父親は少ない。 (2)女子青年と母親との情緒的結合は強い。このことは他の研究(たとえば,久世・大西,1958)でも指摘されていることであるが,本研究でもこれと一致した結果が得られた。母親は単一の焦点となる傾向が大であり,複数焦点型でも焦点のひとりはほとんど母親であり,親密度も高い。 (3)母親を焦点とするものは,他の型に比べ家族中心的傾向がある。またこの型では恋人もないものが多く,親友との結合も弱く,青年期の発達からみて問題を感じさする。 (4)焦点が多いもの,および明確でないものでは,高得点の対象のひとりにほとんど必ず母親が含まれる傾向があり,類型の特徴も母親型の様相を呈し,上記の(3)と考え合わせて,母親以外の単一の焦点の顕在化が発達の方向かもしれない。 (5)大学生女子では父親との結合はそれほど強くはない。父親は情緒的に拒否されているわけではないが,依存構造のなかでは道具的色彩の増した位置づけがなされていると予想される。また,父親は尊敬する人と競合的な立場にあり,尊敬する人を焦点とする依存構造ではほとんど父親はしめだされる傾向がある。 (6)一般に女子青年の依存構述においては同性の親友の占める位置は少ない。
著者
竹村 明子 仲 真紀子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.211-226, 2012

二次的コントロール(Secondary Control : SC)(Rothbaum, Weisz, & Snyder, 1982)とは, 状況に合わせて個人が変わる過程を表す概念であり, 集団主義的文化や高齢者心理の特徴を理解するために重要な概念として期待されている。しかし, SC概念は研究者ごとに捉え方が異なり, 研究結果の比較を妨げる障害となっている。本稿は, このようなSC概念に関する研究者間の一致・不一致を整理することを目的に, 関連研究のレビューを行った。その結果, 1) SCの概念構造に関して, 階層構造を想定する立場と単層構造を想定する立場があること, 2)一次的コントロール(Primary Control : PC)とSCの関係において, PCとSCと諦めの位置づけおよびPCとSCの区分基準, PCに対するSCの機能性に関する考え方に研究者間の違いがあること, などを見出した。さらに, 3)統制感の維持に焦点を当てる立場と状況との調和に焦点を当てる立場, 4)行動と結果の随伴性認知を必然と捉える立場と偶然と捉える立場, 5)SCの統制主体を自分以外と捉える立場と自分自身と捉える立場, などの考え方の違いにより想定されるSCの機能性が異なることを明らかにし, 今後の課題について考察した。
著者
小林 敬一
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.199-210, 2012
被引用文献数
3

本論文では, 大学生による紙上討議(論述文の中に産出された, 複数テキスト間の論駁的関係に対する応答), それとテキスト間関係の理解との関係, そしてこの2つの過程に及ぼす読解目標の効果を検討した。大学1年生95名に, 論争の構図を理解する読解目標(論争理解目標)条件か争点に関する自分の意見を生成する読解目標(意見生成目標)条件かのいずれかの条件で4つの論争的なテキストを読んでもらい, それから争点に関する自分の意見を論述してもらった。主な結果は次の通りである。(a) 論述文の中でどの論駁的関係にも応答していなかった者や論駁された論者の議論をその論駁に対する反論なしに利用した者が半数以上いた。一方, 全ての論駁的関係を踏まえてそれらに応答した者はほとんどいなかった。(b) テキスト間関係の理解は論駁的関係に対する応答を予測した。(c) 論争理解目標群は意見生成目標群よりもテキスト間関係の理解が優れており, この効果は論駁的関係に対する応答にまで及んだ。
著者
弓削 洋子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.186-198, 2012
被引用文献数
1

本研究は, 教師がひきあげる機能と養う機能という, 2つの矛盾した指導性機能をいかに実践して統合するか, 統合のあり方を各機能に対応する指導行動内容から捉えることを目的とした。小学校教師191名を対象に, 指導行動内容, 学級児童の学習意欲と学習理解度, 規律遵守意欲と遵守度, 学級連帯性について質問紙調査を実施した。その結果, 高学年では, ひきあげる機能の指導行動「突きつけ」と養う機能の指導行動「理解」との間に正の相関があり, 教師がいずれの行動も多く実施するとき, 児童の学習意欲, 規律遵守意欲, 規律遵守度, 学級連帯性の評定値が高いことが示された。中学年では養う機能の指導行動「理解」を多く実施するとき, 規律遵守意欲と遵守度, 学級連帯性の評定値が高いことが示された。但し, 担任学級4~6年児童(34学級, 1,037名)による学習・規律遵守意欲, 学級連帯性評定では, 学級連帯性のみ教師評定と一貫した結果となった。高学年において, ひきあげる機能の指導行動「突きつけ」と養う機能の指導行動との相互促進的な実施が機能統合の具体像として示された。児童の資源や課題性にみる学年の違いが影響したと示唆される。
著者
牧 郁子 関口 由香 山田 幸恵 根建 金男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.298-307, 2003-09

本研究は,学習性無力感(Seligman & Maier、1967)における随伴性認知に改めて着目し,新かな無気力感のメカニズムを検討することを目的とした。そこで,近年問題視されている中学生の無気力感の改善を鑑みて,以下の研究を行った。研究1では,随伴性認知の測定尺度「中学生版・主観的随伴経験尺度 (PECS)]の標準化を試みた。その結果,2因子(随伴経験・非随伴経験)からなる尺度が作成され,信頼性・妥当性が実証された。研究2では,まず不登校の中学生の無気力感と随伴性認知との関係を検討するために, PECSを不登群・登校群それぞれに実施したところ,差が認められなかった。このことから,登校生徒も不登校生徒と同程度に,随伴経験の欠如や非随伴経験の多さを有している可能性が示唆された。この結果を受けて,登校している中学生の無気力感と随伴性認知との関連を検討するため,担任教師の行動評定によって群分けされた無気力感傾向高群・低群生徒におけるPECSの得点を分析した。その結果,随伴経験因子において差が認められ,中学生の無気力感は非随伴経験の多さよりも随伴経験の少なさに起因する可能性があることが示された。
著者
柏木 繁男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.13-25, 1968-12

One of the purposes of this paper is to apply the theory of the failure distribution of system reliability (e. g., cf. Barlow et al ; 1967) to the analysis of the frequency distribution of tes scores. Assuming that test scores, x s, correlate positively with a underlying ability, we define as follows : R(x)=1-F(x) and R(0)=1, (1) where F(x)=・^x_0 f(t)dt. And further we define λ(x)=F'(x)/(1-F(X))=f(x)/(1-F(x))=-R'(x)/R(x), (2) which is called the ratio of success. From (2) we get R(x)=exp{-・^x_0λ(t)dt} F(x)=1-exp{-・^x_0λ(t)dt} (3) (Davis ; 1952, McGill et al ; 1965). Another one of the purposes is to recommend for the use of "Weibull" (1952) distribution in order to analyze the frequency distribution of test scores. The distribution has often been used in the studies of system reliability because of its wide applicability. We define the ration of success of this distribution as follows : λ(x)=m/α(x-γ)^<m-1>, x&ge;γ ; 0, x&le;γ. (12) Then, R(x)=exp{-(x-γ)^m/α} {F(x)=1-exp{-(x-γ)^m/α} (10) are obtained. Here, m, α, and γ are shape, scale, and location parameters. Tha shape parameter m of weibull distribution plays an important role in discriminating the degree of the difficulties and validities of psychological tests. We investigate several data by Lord (1952) and it is shown that the shape parameter m is a suprisingly useful and powerful measure inpsychological testing (cf. Fig. 1). Finally, it should be noted the follwoing. That is, our proposal which is based upon a differential equation model is comparable to Lord's (1952) integral equation model in that the former aims to analyze directly the frequency distribution of test scores and the latter to estimate true-score or latent trait distribution.
著者
森 和代
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.45-50, 1988-03-30

Independence is, as often said, one of the most important factors in child's personality development, and of the most interesting subjects in the field of child's growth. In this report on child's independence, two subjects were studied. One was to analyze the factors of independence of 8 & 9-year-old from their replies to the questionnaire developed by the author mainly referring to the "Diagnostic Test of Independence (D.T.I.)". The questionnaire included 45 items with a 4-point scale for responses. The second subject was to find correlation between the factors of 'independence' and 'causal attribution' measured with Kambara et. al.'s Causal Attribution Scale for lower grade primary school children. These two scales were distributed to 136 third-graders. As a result, the following six factors of independence were extracted : 1. Self-decision-making, 2. Autonomous life style, 3. Spontaneous self expression, 4. Decision for action, 5. Steady life style, 6. Challenging. It was also found that a relation between 'independence' and 'causal attribution' was most distinct with factors No. 4 and No. 6.
著者
菊池 哲平
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.90-100, 2006-03-30
被引用文献数
1

本研究は,3歳から5歳までの状況的手がかりからの情動推測能力の発達過程について,自己と他者という2者間の違いに焦点をあてて検討する。課題は,「喜び」「悲しみ」「怒り」の3情動が発動される状況文について適切な情動を答える課題からなっており,主人公が被験児自身の場合である自己情動条件と,架空の人物の場合である他者情動条件が設定された。その結果,3歳児においては,他者情動条件よりも自己情動条件のパフォーマンスが有意に低かった。それに対して4歳児および5歳児においては有意差が認められなかった。反応内容を吟味した結果,3歳児の回答においては,自らの特定の経験に基づいた回答が多く,それにより自己情動条件のパフォーマンスが引き下げられていることが示唆された。これらの結果から「時間的拡張自己」といった高次の自己理解の獲得と情動理解の関連が議論された。また,どの年齢群でも「悲しみ」と「怒り」を混同することが多く,情動を惹起する社会的な表出規則についての理解が未獲得であることが推測された。
著者
水野 りか
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.11-20, 1998-03-30

本研究の目的は, 反復プライミングの原理を応用して分散効果の再活性化説を検証することにある。この説の基本的仮定は, 後続提示時の作業記憶ないしは長期記憶の再活性化量(いずれかが再活性化されるかは提示間隔によって異なる)が分散効果の大きさを決定するというもので, この再活性化量は, 先行提示時に活性化された記憶が提示間隔内で減衰する分散提示で連続提示より大きくなるはずだからである。反復プライミングの原理とは, 後続刺激の処理時間は先行刺激の活性度と反比例するというもので, ゆえに, 後続刺激の処理時間はまさに再活性化量を反映しうると考えられた。提示間隔を独立変数とした実験では, 各刺激の語彙判断時間と自由再生率が測定された。その結果, 再活性化量の指標としての語彙判断時間と再生率には有意な相関があり, また, 提示間隔によって, 作業記憶が再活性化される場合と長期記憶が再活性化される場合があることが示された。これらの結果はみな再活性化説を支持するものであった。
著者
大内 晶子 長尾 仁美 櫻井 櫻井
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.414-425, 2008-09

本研究の目的は,幼児の自己制御機能を,自己主張,自己抑制,注意の移行,注意の焦点化という4側面から捉え直し,新たにその尺度を作成すること,また,4つの側面のバランスと社会的スキル,問題行動との関係を検討することであった。保育園と幼稚園に通う幼児452名の保護者に対し,子どもの自己制御機能に関する項目に回答を求めた。そのうち保育園の幼児262 名の社会的スキル,問題行動について,担任保育者から回答を得た。因子分析(主因子法・プロマックス回転)の結果,4下位尺度23項目からなる自己制御機能尺度が作成され,その信頼性と妥当性が確認された。次に,4下位尺度の標準化得点を用いてクラスター分析を行った結果,6つのクラスターが見出された。各クラスターの社会的スキル,問題行動得点を比較した結果,望ましい社会的スキルの獲得には自己制御機能の4つの側面が全て高い必要があること,内在化した問題行動の出現には4つの側面が全て低いことが関係していること,外在化した問題行動の出現には自己主張の高さと自己抑制および注意の制御の低さが関係していることが明らかになった。One of the purposes of the present study was to develop a scale of young children's self-regulation that measured 4 aspects of self-regulation: self-assertiveness, self-inhibition, attention shifting, and attention focusing. A second purpose was to examine the balance of those 4 aspects in relation to social skills and problem behavior. The parents of 452 preschool and kindergarten children rated their children on the self-regulation scale; in addition, the teachers of 262 preschool children rated those children's social skills and problem behavior. Factor analysis (using the principal factor method, Promax rotation) identified 4 factors or subscales, and 23 items. The reliability and validity of the overall scale were confirmed. Cluster analysis of standardized scores on the 4 subscales identified 6 clusters. A comparison of the scores on social skills and problem behavior in each cluster indicated the following: It is necessary for the acquisition of desired social skills that all 4 aspects of self-regulation have high scores. Low scores on all 4 aspects were related to internalizing problems; high self-assertiveness scores combined with low self-inhibition and attentional control scores were related to externalizing problems.
著者
都丸 けい子 庄司 一子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.467-478, 2005-12-30

本研究の目的は, 中学校教師の対生徒関係についての悩みの内容を明らかにし, 悩みの程度と悩み後の教師の変容との関連を明らかにすることである。悩みによる生徒への見方・接し方の変化を教師の成長の可能性を孕むもの, つまり成長の契機と捉えた。さらに, 変化に関連する要因として, 先行研究でのストレスへの対処方略やソーシャルサポートの有効性等を踏まえ, 悩みへの対処, 悩みを抱く教師の支えとなるものについて検討した。「生徒との人間関係における悩み」尺度を作成し, 中学校教師290名を対象に調査を行った結果, 教師の生徒との人間関係における悩みは, 生徒への抵抗感, 指導上の困難感, 生徒からの非受容感, 関わり不全感の4因子から説明された。これらの経験後に教師に生じた生徒への見方・接し方の変化の程度には, 悩みの程度が関連することが示された。また, 悩みへの対処方略の「認知変容」が, 生徒への見方・接し方の変化に特に関連する要因として示された。悩むことがメンタルへルスを悪化させることも指摘される一方で, 悩みに対処し, 自分で, もしくは周囲からの支えを受けながら悩んでいく過程がその後の教師の変容と関連していることが示唆された。
著者
原野 広太郎 田上 不二夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.167-176, 1976-09-30

The purpose of the present study was to examine how the reading materials of the Japanese language and the delay time of delayed auditory feedback(DAF)influened reading rate and disfluency. Method The experiments cocsisted of two parts: the first experiment using familiar sentences and nonsense syllables as reading materials was made under 6 delay conditions of .00, .11, .15, .20, .25, and .30 sec : the second experiment using familiar sentences, nonsense syllables, and familiar words was done under 10 delay conditions of .00, .11, .15, .20, .25, .30, .35, .40, .45, and 50 sec.. Seven male undergraduate students(18-24 years in age)served as subjects of the first experment, and fifteen male undergraduate students(19-23 years in age)did as those of the second. The reading materials were placed at eye level immediately before the subject's head. The subjects were instructed to read the materials aloud at a usual reading and speaking rate. The apparatus producing DAF was a Sony taperecorder modified by the authors, and capable pf producing a wide variety of speech delays. The apparatus returned DAF channel speech of the readers to their ears with various delay times. The recorded speech under a normal condition and DAF conditions was caluculated, and analyzed by reading time and disfluency. Results (1) The greatest decrease of reading rate in the first experiment was found at the delay time of about .20 sec. in familiar sentences and nonsense syllables. (2) In the first experiment the reading rate of familiar sentences was remarkably faster than nonsense syllables, while the similarity of the pattern of reading rate over delay time was observed between sentences and nonsense syllables. (3) Reading rate under DAF condition in the second experiment was closely related to reading materials; sentences had much faster rate than familiar words or nonsense syllables. The effect of familiarity of reading materials on reading rate, however, could not be found. (4) The pattern of reading rate changes over delay time in nonsense syllables was much the same as the sentences in the first experiment, and that of the familiar words in the second, dependent upon the size(numbers of letters)of nonsense syllables. (5) The reading rate of sentences tended to be faster above delay time of .30, sec., while words typically were slower. (6) Disfluency of reading under DAF was most evident in nonsense syllables, somewhat more in familiar words. (7) The most outstanding effect of DAF upon disfluency in sentences and familiar words was obtained at delay time of .25 sec.. (8) Above delay time of .25 sec., sentence and familiar words produced an obvious decrease in disfluency, but nonsense syllables did not.
著者
高木 亮 田中 宏二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.165-174, 2003-06-30
被引用文献数
2

本研究は公立小・中学校教師の職業ストレッサーにはどのようなものがあり,どのようにストレス反応を規定するのかを検討することを目的とする。欧米の先行研究における職業ストレッサーの体系的な分類を参考に我が国の教師に見合った職業ストレッサーに関する質問項目群を設定した。これにストレス反応としてバーンアウト尺度を加えた調査を小中学校教師710名を対象に実施し検討を行った。その結果,「職務自体のストレッサー」が直接バーンアウトを規定していることと,「職場環境のストレッサー」は「職務自体のストレッサー」を通して間接的にバーンアウトを規定していることが明らかにされた。また,「個人的ストレッサー」については相関分析で検討を行った。
著者
田中 浩司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.212-223, 2010-06-30

本研究の目的は,集団に対する指導という観点から,保育者による鬼ごっこの指導の枠組みを明らかにすることである。対象者は,年長クラスにおいて継続的に鬼ごっこを指導した経験のある,幼稚園教諭と保育土,合計10名である。詳細な半構造化面接を行い,552分に及ぶインタビューデータを得た。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した結果,14の概念と4つのカテゴリーが生成され,全てのカテゴリーと関連する「遊びの流れ作り」がコア・カテゴリーとして位置づけられた。保育者による鬼ごっこの指導は,次のようなプロセスによって構成されることが示された。保育者はまず,集団としての「遊びの流れ作り」を行い,その流れの中に子ども自身の意志で参加するように「主体的参加への誘導」を行う。その上で,子ども自身で遊びをコントロールすることが出来るようにする「自己メンテナンス化」に向けた指導を行っていた。また,子どもの遊び経験をつなぎ合わせ,経験に連続性を持たせる「経験の積み上げ」は,他の3つのカテゴリーをつなぐように機能していることが示された。
著者
田島 充士 森田 和良
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.478-490, 2009-12-30
被引用文献数
2

本研究では,日常経験知の意味を取り込まないまま概念を暗記する生徒達の,「分かったつもり」と呼ばれる学習傾向を改善するための教育実践である「説明活動(森田,2004)」の効果について検討した。本実践では,生徒達が教師役を担い,課題概念について発表会で説明を行うことになっていた。また残りの生徒達は聞き手役として,日常経験知しか知らない「他者」の立場を想定して,教師役に質問するよう求められた。この手続きを通し,日常経験知の観点を取り入れた概念解釈の促進が目指されていた。小学5年生を対象に実施された説明活動に基づく授業を分析した結果,以下のことが明らかになった。1)本授業の1回目に実施された発表会よりも,2回目に実施された発表会において,教師役の生徒達は,日常経験知を取り入れた概念解釈を行うようになった。2)聞き手役からの質問に対し,1回目の発表会では拒否的な応答を行っていた生徒達が,2回目の発表会では,相手の意見を取り入れた応答を行うようになった。これらの結果に基づき,本実践における,日常経験知との関係を考慮に入れながら概念の意味を解釈しようとする,バフチン理論のいう概念理解へ向かう対話傾向を促進する効果について考察がなされた。
著者
及川 昌典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.14-25, 2005-03

動機づけや目標の非意識的な生起や追求に着目した近年の研究では, 行為者の自覚なしに生じる動機づけが行動や感情に影響を及ぼすことが示されている。これらの研究は環境による自動的過程の影響を強調しているが, 個人内過程の役割を十分に考慮していない。本研究は, 非意識的な達成動機の影響が個人の持つ知能観によって調整されることを検討した。研究1では, プライミングによって達成動機を活性化された参加者は, 統制条件の参加者よりも後続の課題の遂行が高まっていた。また, 課題遂行後の感情は, 参加者が持つ知能観によって異なり, 実体的知能観を持つ者は, 増加的知能観を持つ者と比べて否定感情を強く報告していた。研究2では, 参加者の持つ知能観と一致している目標と一致していない目標の活性化の影響を検討した。参加者が持つ知能観と一致する目標が活性化された場合には, 課題遂行の向上が見られたが, 一致していない場合には, この促進効果が見られなかった。よって, 個人の持つ知能観が, 達成動機と目標の連合を調整すると考えられた。個人の信念が非意識的な動機づけと目標の連合に影響するメカニズムについて論じる。
著者
縣 拓充 岡田 猛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.503-517, 2009-12-30
被引用文献数
1 2

近年の大学教育には,単に多くのことを知っているだけでなく,それを基に新たなものを創造し,表現する,言わば「能動的な知」を持つ教養人を育成することが求められるようになってきている。しかしながら,これまでの教養教育において,学生が社会で行われている創造活動それ自体について知ることができるような授業はほとんど行われてこなかった。そこで本論文では,「アーティストとの協働の中で,真正な美術の創作プロセスに触れること」をコンセプトに据えた授業をデザインし,実践した。大学1年生11名を対象に授業は行われ,実践終了後約1年半経過した時点でのインタビューによってその教育効果を検討した。その結果,参加した学生は本実践を通じて創造や表現に関する認識を改め,また表現をすることへの動機づけを高めていたことが示唆された。さらに,実践は学生それぞれの記憶に強く残り,生き方の探索にも生かされる重要な体験として位置づいていた。このような成果は,創造的領域の熟達者になることを目指すわけではない大学生に対しても,教養として何らかの創造活動に触れる機会を提供する意義を提起するものであると考えられる。