著者
B. G. Hunt
出版者
(公社)日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.309-318, 1982 (Released:2007-10-19)
参考文献数
7
被引用文献数
20

年平均状態を求める半球大循環モデルを用いて,黄道傾斜が,23.5°から0°,65°に変化することによって生じた結果を考察した。この様な傾斜の値が,過去の地質時代にとられていたといわれている。傾斜0°の気候は,現在の気候より変化に富み,高緯度の地表面は,より寒冷で,乾燥している。しかし,モデル対流圏は,全体的にやや温暖化している。傾斜65°に対し実験を2例行なった。2例とも高緯度で低アルベードだが,一方は低緯度で氷河のアルベードを与えた。年平均状態に対し,最初の実験例では,対流圏の緯度方向の温度傾度が実質上無かった。第2の実験例では赤道で地表温度が最低となったが,氷河状態になる程の低温に到らなかった。この場合は「反転したハドレー細胞」によって,熱帯東風ジェットが維持された。シミュレートされた水文学,エネルギー交換等を合わせて考慮すれば,ここで得られた結果はこの様に極端な傾斜における気候状態を考える材料を与えてくれる。地球の居住可能帯は,傾斜0°,65°双方に対して,減少すると結論される。以上の実験例は,色々提唱される仮説的気候状態を評価する上で,大気大循環モデルは,かなりの未開拓な可能性を持っていることを示している。
著者
瀬上 哲秀
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.811-821, 1994-12-25

数値予報モデルの出力結果を直接用いて、客観的に天気翻訳する手法を開発した。この手法はモデルの予想雲量、1時間雨量,そして地上の気温と相対湿度から、7種類の天気、つまり快晴・晴れ・薄曇り・曇り・雨・みぞれ・雪を作り出す。この手法を気象庁のルーチンのメソスケールモデルに適用し、観測された天気を用いて検証した。その精度は6時間の持続予報と同程度であった。このことは、この手法が客観的な天気翻訳として十分の精度を持っていることを示している。さらに、この手法から作られる天気分布図は従来からの出力である海面気圧や500hPa高度などの資料と比べて、メソスケールの擾乱を表現するのに利点がある。また、降水タイプの予想にも良い精度があることが示された。
著者
杉 正人 川村 隆一 佐藤 信夫
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.717-736, 1997-06-25
参考文献数
51
被引用文献数
15

気象庁全球モデルを用いて、アンサンブル気候実験を行い、海面水温 (SST) 変動に強制されて起きる大気の長期変動と、季節平均場の予測可能性について調べた。モデルの34年時間積分を3回実行した。3つの時間積分はいずれも1955-1988年の実測のSSTを境界条件としているが、大気の初期状態が異なっている。季節平均場の全変動のうち、SSTの変動で強制されて起きている変動の割合 (分散比) を計算した。この分散比は、SSTが完全に予測された場合の最大予測可能性 (ポテンシャル予測可能性) を示すものと考えられる。気圧場の分散比は一般に熱帯では高い (50-90%) が、中高緯度では低い (30%以下)。このことは、季節平均気圧場の (ポテンシャル) 予測可能性は、熱帯では高いが、中高緯度では低いことを示唆している。一方、季節平均降水量の分散比は、ブラジルの北東部の74%、インドモンスーンの31%というように、熱帯の中でも地域によって大きく異っている。全球平均の陸上の地表気温の分散比は高い (66%) が、ほとんどの陸上の地点での局地的な地表気温の分散比は低く (30%)、海面水温予測にもとづく局地的な陸上の気温の予測可能性が小さいことを示唆している。
著者
吉崎 正憲
出版者
(公社)日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.548-559, 1979 (Released:2007-10-19)
参考文献数
13
被引用文献数
3

振幅方程式を用いて,カーブした温度分布を持ち,しかもシアのある流れのある流体中に実現する対流セルの形状を調べた.温度分布の一次関数からのずれとシア流の強さ,および系のレーリー数の臨界値からのずれをパラメータとして,定常解を求めてその安定性を調べた.系のレーリー数のカーブした温度分布に対する臨界値からのずれを(ΔR)*とすると,次の事が明らかになった.(1)シアが弱い場合,2次元ロールは(ΔR)*が限られた領域でのみ不安定で存在しない.しかし,シアがある値以上強くなると,ロール解は(ΔR)*が正の領域で常に安定に存在する.(2)シアがない時に六角形セルに帰着する解は,シアが強まるにつれて,シアの方向に伸びたセルに変形してゆく.そしてシアがある値以上になると,この解は安定に存在しなくなる.
著者
高橋 劭 鈴木 賢士 織田 真之 徳野 正巳 De la Mar Roberto
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.509-534, 1995-06-15
被引用文献数
4

西太平洋における大気・海洋結合系国際観測プロジェクト(TOGA-COARE)の一環として西太平洋赤道域マヌス島(2°S,147゜E)で21個のビデオゾンデを飛揚、降水機構の研究を行った。観測は1991年11月24日〜12月5日と1992年11月20日〜12月9日の2回にわたり行われた。観測期間中多くの異なった雲システムが発達、それらの出現は水蒸気の高度分布に著しく依存し、台風による水平風の変動が水蒸気分布に大きな影響を与えていることが示唆された。降水系には2種あり、強い降雨をもたらすレインバンドでは"温かい雨"型で雨の形成が行われ、厚い層状の雲では小さい霰の形成が活発に行われていた。0℃層で霰の雪片が初めて観測された。降雪粒子分布がカナトコ雲や台風の層状雲内でのものと著しく異なることから、観測された厚い層雲はレインバンドからの延びた雲ではなく0℃層以上での一様な大気の上昇で形成されたのかも知れない。他の熱帯域と比較して氷晶濃度が赤道で極端に少なかった。
著者
浅野 正二 内山 明博 塩原 匡貴
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.165-173, 1993-02-25
被引用文献数
4

1991年および1992年の1月から4月の期間に筑波(36.05゜N,140.13°E)において、大気柱に含まれるエーロゾルの光学的厚さ(AOT)の波長分布を多波長サンフォトメータを用いて測定した。1992年に観測された大気柱のAOTは、1991年に比べて0.1〜0.2ほど大きかった。この違いの主な原因は、1991年6月に起きたピナトゥボ火山の大噴火に起因する成層圏エーロゾルの増大と考えられる。成層圏エーロゾルによる光学的厚さは1992年2月に最大であり、この値は1982年12月に観測されたエルチチョン火山の場合の最大値を超えた。AOTの波長分布から大気柱内エーロゾルの粒径分布を推算した。成層圏エーロゾルに対するAOTから、約0.6μmのモード半径および0.05より小さい有効分散値をもつ一山型の狭い分布が、ピナトゥボ火山性エーロゾルの粒径分布として推定された。この一山型の狭い粒径分布は、ビショップ光環のシミュレーションから推定された粒径分布(Asano,1992)と合致する。
著者
折笠 成宏 村上 正隆
出版者
(公社)日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1033-1039, 1997-12-25 (Released:2009-09-15)
参考文献数
8
被引用文献数
4 22

低濃度の氷晶からなる巻雲を測定するために新型の雲粒子ゾンデを開発した。このゾンデは倍率の異なる2台の小型ビデオカメラを搭載しており、粒径7μm-5mmの粒子の映像を1.6GHzのマイクロ波を通して地上に伝送する。従来の雲粒子ゾンデでは、サンプリング体積が小さいために、雲粒子の数濃度が低い雲の粒径分布が正確に評価できなかった。この点を克服するために、吸引用の小型ファンを付加することによって十分なサンプリング体積を確保した。また、周囲の気圧変化やゾンデの上昇速度によるサンプリング体積の変化を室内実験によって評価した。捕捉率の理論的計算から、10μm以上の粒子が全て捕捉されると考えられる。強制吸引式雲粒子ゾンデによる巻雲の観測例から、10μm以上の氷晶の粒径分布を250m間隔で精度良く決定できることがわかった。この雲粒子ゾンデの観測結果は、巻雲の生成や維持の機構を理解するのに有益な情報を与える。
著者
遠峰 菊郎 川端 隆志 瀬戸口 努
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.155-168, 1998-04-25
参考文献数
23

青森県三沢漁港において、係留ゾンデとドップラーソダーによる霧の観測が1993年6月15日から7月11日にかけて実施された。これらの観測期間の中で、長時間継続した霧として7月7日夕刻から次の日の正午まで継続した例と短時間の霧として7月6日6時から13時までの例が詳細に解析された。その結果、雲頂は霧が進入する約2時間前にCTEIから見て安定になり、霧が消散する直前に中立から不安定になることが分かった。
著者
岩崎 博之 武田 喬男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.733-747, 1993-12-25
被引用文献数
7

1986年7月13日から15日にかけて観測された梅雨前線帯を移動する長寿命雲クラスターの事例解析を行った。大陸上で出現した雲クラスターは東シナ海を移動し、東経130度付近で北と南の雲群に分かれた。移動速度の遅い南の雲群の内部では、新しい積乱雲群が既存の積乱雲群の西方40-80kmに形成されていた。各積乱雲群の内部では、更に、既存の積乱雲の西方約15kmに新しい積乱雲が連続的に形成されていた。移動速度が低下した南の雲群の内部では、異なる二つのスケールで対流雲の形成が起きていた。活発な対流雲に起源する北の雲群は対流雲が消滅した後も10時間以上長続きした。東経135度付近での鉛直レーダの観測から、この雲群には融解層と複数のストリークが認められた。東経140度付近では中層から上層に対流不安定が存在し、傾圧性の強い総観規模の上昇流域に位置していた。この"対流雲"に起源する雲群は梅雨前線帯を移動するにつれて"層状雲"に変化したと考えられる。
著者
Chen George Tai-Jen
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.959-983, 1994-12-25

1981-86年の5-6月における客観解析データ、可視および赤外雲画像、雲頂温度を用いて、アジアモンスーン域での、大規模な大気循環を研究した。流線関数、速度ポテンシャル、風の発散成分、対流インデックスと水蒸気場を解析した。これらの要素の半月平均の分布を示し、華南および台湾における梅雨入り前(5月1-15日)から梅雨明け後(6月16-30日)にいたる、大規模循環場の変化の特徴を明らかにした。さらに対流活動が活発・不活発な季節と前線を選び出し、大規模循環場の年々変動と季節の中での変動を検討した。得られた結果は以下のようにまとめられる。(1)華南および台湾における梅雨は、5月16-31日に南シナ海での夏の南西モンスーンの開始と同時に始まる。(2)深い対流域、ITCZ、および亜熱帯高気圧の北上は、華南および台湾での梅雨明け後(6月16-30日)に、梅雨前線帯が楊子江および日本付近で、準定常的な位置をとるのと同時に起こる。同時に北東インドからビルマにかけての地域で、下層の低気圧が上層の高気圧を伴う、準バロトピックなモンスーン循環システムが形成される。(3)活発な梅雨季は、北方の(傾圧的な)システムの南下と、梅雨地域での水蒸気収束が特徴的である。不活発な梅雨季ではその逆の状況となる。(4)活発と不活発な梅雨前線とでは、主に下層の循環が異なっている。活発な梅雨前線はベンガル湾および熱帯西太平洋起源の南西モンスーンを伴う一方、不活発な梅雨前線は、太平洋高気圧からの南東風または東風を伴っている。高い水蒸気量、強い水蒸気流束とその収束が、活発な前線に伴ってみられる。(5)活発な前線がより頻繁に出現する時は、活発な梅雨季となり、不活発な前線が多い時は、不活発な梅雨季となる。
著者
Toyota Takenobu Ukita Jinro Ohshima Keiichiro Wakatsuchi Masaaki Muramoto Kenichiro
出版者
Meteorological Society of Japan = 日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.117-133, 1990-02-25
被引用文献数
1

1996年と1997年の2月上旬、オホーツク海南西部の海氷域内部において、パトロール砕氷船「そうや」に乗船してアルベドの観測を行った。アルベドは船首部に上向き、下向きの短波放射計を取付けて測定した。同時に、海氷密接度および氷厚を、ビデオ観測データの解析により定量的に評価した。水平スケール数kmを対象とした解析の結果、アルベドと海氷密接度は良い相関が見られることが分かった。回帰式をもとに、海氷のアルベド(密接度100%)は95%の信頼区間で0.64±0.03と見積もられた。従来、極域定着氷上で測定された値よりもやや小さい値が得られたのは、低緯度海氷域内では海水や日射などの影響により、海氷上の雪粒子が成長しやすいためと推定される。観測値の回帰直線からのずれは、危険率1%で太陽天頂角と、危険率5%で氷厚と統計的に有意な相関が見られ、海氷密接度と太陽天頂角を変数とする重回帰式も導出された。重回帰式において、偏回帰係数はどちらも統計的に有意であるが、アルベドは太陽天頂角に比べて海氷密接度とより強い相関関係にあることが分かった。重回帰式と観測値との差異は氷厚あるいは雲量よりも主として海氷の表面状態の違いによって生じたものと推定される。これらの結果から、海氷上の積雪が海氷域のアルベドに及ぼす影響が大きいことが示唆された。一方、dark nilas(暗い薄氷)で覆われた海面上で停船した期間中に得られた短波放射データから、氷厚1〜1.5cmのdark nilasのアルベドは0.10、氷厚2〜3cmでは0.12と見積もられた。In order to estimate sea ice albedo around the marginal sea ice zone of the southwestern Okhotsk Sea, we conducted the measurement of albedo aboard the ice breaker Soya in early February of 1996 and 1997. Using upward and downward looking pyranometers mounted at the bow of the ship, we obtained albedo data. We also measured ice concentration and thickness quantitatively by a video analysis. The observations show a good correlation between albedo and ice concentration. From a linear regression, sea ice albedo (ice concentration =100 %) is estimated to be 0.64± 0.03 at the 95 % confidence level. The developed snow grains on sea ice due to sea water and/or solar radiation may be responsible for this somewhat lower value, compared with that over the snow-covered land fast ice in the polar region. Deviations of the observed values from this regression have a statistically significant correlation with solar zenith cosine at the 99 % level, and with ice thickness at the 95 % level. The linear regression formula which predicts albedo is also derived as the variables of ice concentration and solar zenith cosine. Although the regression coefficients are both statistically significant, the coefficient of ice concentration is much more significant in this formula than that of solar zenith cosine. The deviation of the observed albedo from this regression seems to be mainly caused by ice surface conditions rather than by ice thickness or cloud amount. All these results suggest that snow cover on sea ice plays an important role in determining the surface albedo. We also did albedo observations of dark nilas with snow-free surface, they were estimated as 0.10 and 0.12 for ice thickness of l to 1.5 cm and 2 to 3 cm, respectively.
著者
立花 義裕 本田 明治 竹内 謙介
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.579-584, 1996-08-25
被引用文献数
14

オホーツク海の海氷の1969年から1994年までの経年変動を流氷レーダデータ及び海氷格子データを用いて調べた. その結果, 1989年を境にオホーツク海南部の海氷量が激減していることが明らかになった. また, 冬のアリューシャン低気圧も, 1989年を境に急激に弱まっており, ラグ相関の解析結果からその低気圧の弱まりが海氷の激減に影響していることが示された.
著者
Lee Tae-Young Park Young-Youn
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.299-323, 1996-06-25

本論分は, シベリア高気圧からの吹きだしに伴って朝鮮半島上でしばしば発生するメソスケールトラフの実態を事例解析し, さらに3次元数値モデルを用いてその形成メカニズムを調べた結果を報告する. 1986年2月14日〜15日における事例解析によれば, 14日の朝からトラフの形成が始まり, 午後になると, はっきりしたトラフが形成された. この日の半島上の地上気温は通常より高かった. 翌日の早朝には, トラフは減衰する傾向を示したが, 日中には再び発達し, 中国大陸上の高気圧が東に抜けるまで持続した. 数値シミュレーションは, メソスケールトラフの時間発展の様子や空間的な広がりなど, 解析結果に見られた主な特徴をかなりよく再現した. 条件をいろいろ変えて行った数値実験の結果から, 1986年2月14日〜15日に観測されたメソスケールトラフは朝鮮半島の山岳による力学的効果と半島の陸地とそのまわりの海洋との熱的効果の重なったものであることがわかった. 熱的効果とは, 寒候季に半島上が比較的暖かい日の昼間は, 陸上の顕熱フラックスが半島周辺部の海面上顕熱フラックスよりかなり大きくなることを意味する. 半島北部で発達するトラフは, 主に北部山岳の力学効果と熱的効果によって形成される. 一方, 半島南部で発達するトラフは, 主に海抜高度の高い地域の熱的効果及び半島上と周辺部の海面上の熱的コントラストによって形成される.
著者
三上 正男 藤谷 徳之助 張 希明
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.899-908, 1995-10-25
被引用文献数
4

乾燥地における砂漠化の機構を調べるため、1991年より中国新疆ウイグル自治区内のタクラマカン砂漠において、気象要素の長期観測を行った。この目的のため、タクラマカン砂漠南縁の礫沙漠(ゴビ)上に自動気象ステーションを設置した。約1年間にわたる観測データを解析し、オアシス郊外の草地の観測データと比較した。全ての月で月平均地表面温度は気温よりも高く、月平均顕熱輸送は一年を通じ上向きである。夏季において日中の比湿の増加が顕著に見られる。これは、風上側に位置する相対的に湿潤なオアシスからの水蒸気移流によるものと考えられる。主風向は2つあり、4月から6月にかけて見られる西よりの強風(平均風速7m/s以上)と夜間の南南東風である。この夜間の南南東風は、一年を通じて顕著に見られる時計回りの風向の日変化に伴うものである。ゴビから11キロ離れたオアシス内の草地とゴビの風向は,同じ日変化を示す。ゴビから西に100キロ離れたオアシス和田の地上から160mまでの風はゴビと同様の変化を示している。この風向の日変化は、崑崙山脈と砂漠地帯間の局地循環によるものである事が強く示唆される。
著者
丸山 健人
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.423-432, 1994-06-25
被引用文献数
11

シンガポール(1.4N, 104.0E)における1日2回、1983-1993年の時系列高層気象データを解析し、約2日の周期帯のじょう乱を調べた。東西風成分と1日の気温変化との間の共分散は100-10hPa層でマイナスが卓越していることが見出された。このことは西風運動量輸送が上向きであることを示す。輸送量は50-10hPa層でQBOサイクルと強く関係していることが示され、最大の輸送は西風下降領域のなかで起こる。この約2日の周期帯のじょう乱による輸送量の大きさは7.4-32日の周期帯のケルビン波によるものと同程度である。このじょう乱は東西風成分と温度の変動を伴い、対応する南北風成分を伴わないという点でケルビン波のようにふるまう。
著者
石岡 圭一 余田 成男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.201-212, 1995-04-25
被引用文献数
1

強制と散逸のある、球面上の高分解能2次元非発散モデルにおいて、極渦の順圧不安定に関する非線形数値実験を行った。また、いくつかの流れ場について、高分解能の輸送モデルを用いて、トレーサーの水平輸送および混合過程を調べた。帯状ジェット強制のパラメータに依存して、定常な東進ロスビー波(周期解)、東進波が周期変化するバシレーション(準周期解)、および非周期変動(カオス解)が得られた。sech型ジェット(主にジェットの極側が不安定)では定常波解からバシレーションを経由して非周期変動に至る段階的な遷移が見られたが、tanh型ジェット(ジェットの赤道側が不安定)では現実的パラメター範囲では非周期変動は得られなかった。また、輸送モデルを用いた実験の結果、波動解が定常であるか非定常であるかに関わらず、極渦の周縁は非常に頑丈で、極渦の内外の流体同士の混合はほとんど起らないことが示された。ただし、sech型ジェットで得られた非周期変動においては、時折、極渦の内外の流体がフィラメント的な形状をとって交換される。
著者
西澤 慶一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.1-12, 2000-02-25

低分解能気候モデルの粗い格子内部での非対流性の部分凝結を、"液体水"相対湿度の裾野の広い確率密度関数を用いてパラメーター化した。我々の診断スキームでは、モデル格子内の雲と雲以外の部分の温度が等しいと仮定されているので、雲に対して強い浮力がはたらかない。この診断スキームを採用した場合、格子平均された相対湿度が70%より低くても、非対流性の層状雲が形成され始める。中緯度β平面チャネルにおける傾圧波の成長に関する数値実験から、我々のスキームは、"all-or-nothing"スキームやLe Treut-Li(1991)スキームと比較して、より早い時期からより多量の降水をもたらすことが示された。さらに、このスキームは、閉塞期の温帯低気圧の温暖・寒冷前線に沿った領域のみならず、暖域内部においても非対流性の降水を引き起こすことが明らかになった。
著者
Esperanza O. CAYANAN Tsing-Chang CHEN Josefina C. ARGETE Ming-Cheng YEN Prisco D. NILO
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.89A, pp.123-139, 2011 (Released:2011-05-05)
参考文献数
14
被引用文献数
37 42

Intense southwest monsoon (SWM) rainfall events causing massive landslides and flash floods along the western sections of the Philippines were studied. These rainfall events, are not directly coming from the tropical cyclones (TCs) for they are situated far north to northeast of Luzon Island. The heavy rainfall is hypothesized as caused by the interaction of strong westerlies with the mountain ranges along the west coast of Luzon that produces strong vertical motion and consequently generates heavy rainfall. Four of heavy SWM rainfall cases were examined to determine how the presence and position of tropical cyclones in the Philippine vicinity affect these SWM rainfall events; three cases with TC of varying positions within the Philippine area of responsibility (PAR) and the fourth case without TC. Using a spatial Fourier decomposition approach, the total streamfunction is decomposed into two flow regimes: monsoon basic flow (Waves 0-1) and tropical cyclone perturbation flow (Waves 2-23) over a domain of (20°E-140°W, 5°S-35°N). The purpose of this flow decomposition is to determine the latter’s effect on or contribution to the monsoon activity. The analysis utilized the NCEP Final (FNL) data with 1° long. × 1° lat. resolution. Results show that the tropical cyclones over the Pacific Ocean located northeast of Luzon generate strong southwesterly winds over the west coast of Luzon. These in addition to the southwesterlies from the basic flow strengthened the southwest winds that interact with the high Cordillera Mountain ranges
著者
Le DUC Yohei SAWADA
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.102, no.1, pp.35-47, 2024 (Released:2023-12-12)
参考文献数
31

It is well-known in rainfall ensemble forecasts that ensemble means suffer substantially from the diffusion effect resulting from the averaging operator. Therefore, ensemble means are rarely used in practice. The use of the arithmetic average to compute ensemble means is equivalent to the definition of ensemble means as centers of mass or barycenters of all ensemble members where each ensemble member is considered as a point in a high-dimensional Euclidean space. This study uses the limitation of ensemble means as evidence to support the viewpoint that the geometry of rainfall distributions is not the familiar Euclidean space, but a different space. The rigorously mathematical theory underlying this space has already been developed in the theory of optimal transport (OT) with various applications in data science.In the theory of OT, all distributions are required to have the same total mass. This requirement is rarely satisfied in rainfall ensemble forecasts. We, therefore, develop the geometry of rainfall distributions from an extension of OT called unbalanced OT. This geometry is associated with the Gaussian-Hellinger (GH) distance, defined as the optimal cost to push a source distribution to a destination distribution with penalties on the mass discrepancy between mass transportation and original mass distributions. Applications of the new geometry of rainfall distributions in practice are enabled by the fast and scalable Sinkhorn-Knopp algorithms, in which GH distances or GH barycenters can be approximated in real-time. In the new geometry, ensemble means are identified with GH barycenters, and the diffusion effect, as in the case of arithmetic means, is avoided. New ensemble means being placed side-by-side with deterministic forecasts provide useful information for forecasters in decision-making.
著者
KOSAKA Yuki KOBAYASHI Shinya HARADA Yayoi KOBAYASHI Chiaki NAOE Hiroaki YOSHIMOTO Koichi HARADA Masashi GOTO Naochika CHIBA Jotaro MIYAOKA Kengo SEKIGUCHI Ryohei DEUSHI Makoto KAMAHORI Hirotaka NAKAEGAWA Tosiyuki TANAKA Taichu Y. TOKUHIRO Takayuki SATO Yoshiaki MATSUSHITA Yasuhiro ONOGI Kazutoshi
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2024-004, (Released:2023-11-02)
被引用文献数
2

The Japan Meteorological Agency (JMA) has developed the third Japanese global atmospheric reanalysis, the Japanese Reanalysis for Three Quarters of a Century (JRA-3Q). The objective of JRA-3Q is to improve quality in terms of issues identified in the previous Japanese 55-year Reanalysis (JRA-55) and to extend the reanalysis period further into the past. JRA-3Q is based on the TL479 version of the JMA global Numerical Weather Prediction (NWP) system as of December 2018 and uses results of developments in the operational NWP system, boundary conditions, and forcing fields achieved at JMA since JRA-55. It covers the period from September 1947, when Typhoon Kathleen brought severe flood damage to Japan, and uses rescued historical observations to extend its analyses backwards in time about 10 years earlier than JRA-55. This paper describes the data assimilation system, forecast model, observations, boundary conditions, and forcing fields used to produce JRA-3Q as well as the basic characteristics of the JRA-3Q product. The initial quality evaluation revealed major improvements from JRA-55 in the global energy budget and representation of tropical cyclones (TCs). One of the major problems in JRA-55—global energy imbalance with excess upward net energy flux at the top of the atmosphere and at the surface—has been significantly reduced in JRA-3Q. Another problem—a trend of artificial weakening of TCs—has been resolved through the use of a method that generates TC bogus based on the JMA operational system. There remain several problems such that volcanic-induced stratospheric warming is smaller than expected. This paper discusses the causes of such problems and possible solutions in future reanalyses.