著者
辻 富彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.679-687, 2018-05-20 (Released:2018-06-05)
参考文献数
20

自閉症スペクトラム (ASD) の子供の聴覚過敏について保護者に対するアンケート調査による解析を行った. 症例は小学校2年~高校3年までで現在防音保護具を使用している15例である. アンケートは症状の履歴, 現症, 対策について40項目にわたる項目に対して保護者に記載してもらった. 症状に気づいた年齢は2~5歳が大半を占めたが, 聞こえは普通という例がほとんどであった. 症状は年齢が進むにつれ少しずつ改善している例, 不変な例が半々で一部に悪化している例があった. 嫌がる音は個人差が大きくさまざまであったが, その音圧レベルとは必ずしも相関していなかった. 特に嫌がる音では子供や赤ちゃんの声や泣き声が多く, 大丈夫な音はテレビなど画像を伴う音が目についた. 防音保護具は7歳で使用を開始している例が多く, 使用により落ち着いた生活を送れるという例が多かった. 音に慣れる治療は “有効と思わない” という保護者が多かったが, その一方で自分で掃除機をかけるようになって掃除機の音に慣れたという例もあった. ASD の聴覚過敏には環境対策のほか, 防音保護具の使用が有効であることが確認された.
著者
市村 恵一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.10, pp.1093-1099, 2013-10-20 (Released:2013-11-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

漢方薬には効果が早く表れるものもあるが, 一般に漢方薬はマイルドに効くという概念があるせいか, すぐ効果が表れなくても患者は許してくれる. 診察の度に患者と一緒に薬の効き目をいろいろな面から検討することで, 良好なコミュニケーションがなされ, 良い医師患者関係を築くことができるのが何よりも好ましい. 感冒時の発熱を解熱させる方法には二通りある. 一つは直接解熱させるNSAIDsなどの解熱鎮痛薬を用いる方法で, もう一つはいったん体を温めて発汗させることにより体温を冷やす漢方薬の麻黄剤を用いる方法である. 両者の解熱効果を比較した研究では漢方薬の方が早く解熱し, 平均薬剤数, 平均処方日数, 総薬剤費ともに漢方薬使用の方が少なかったという報告がある. 感冒に対してはその時期, 体調によりさまざまな漢方薬が用いられる. めまいでは, 不安の強いときは苓桂朮甘湯, 頭痛や胃腸症状があるとき, 手足の冷えがあるときは半夏白朮天麻湯, 座っていても「くらっ」とするとき, 雲の上を歩いている感じ, 吸い込まれそうな感じがするときには真武湯を用いるとよい. 外耳道湿疹には消風散か治頭瘡一方を用い, アレルギー性鼻炎では小青竜湯をまず用いて, その効果をみて, 効果が不十分と感じたら, 炎症が強ければ麻黄や石膏の多い薬剤に変更し, 寒証らしい場合は附子剤の併用か, 麻黄附子細辛湯に変更する. 慢性副鼻腔炎では若年者, 成人では葛根湯加川芎辛夷が, 中高年では辛夷清肺湯が第一選択薬で, 虚証例では荊芥連翹湯が選択される. 頭頸部癌患者の免疫状態の悪化に対して十全大補湯, 補中益気湯, 人参養栄湯などが, 術後, 化学療法時の食思不振に対して六君子湯が, 化学療法による口内炎や下痢に対して半夏瀉心湯や温清飲が用いられる. 耳鳴は漢方でも最も効き目の悪い症状の一つであるが, 直接効果よりも間接効果狙いでアプローチする.
著者
橋爪 祐二
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.12, pp.1463-1467, 2018-12-20 (Released:2019-01-16)
参考文献数
30
被引用文献数
1

口呼吸はうつ病, 認知症, 注意欠陥多動障害などの精神疾患の誘因になるといわれている. 特に睡眠中の口呼吸はいびき症や閉塞性睡眠時無呼吸症 (OSAS) の原因となる. わが国における OSAS の治療が必要な重症患者数が300万人を超えていると推測されている. OSAS の原因は肥満がある. 肥満をもたらす原因としては, 食文化の変化もあるが, 日本人がほかの先進諸国に比べて, 睡眠時間が最も少ないことが挙げられる. また, 日本人の特有の顔貌も OSAS の原因の一つに挙げられる. OSAS は認知機能の低下をはじめとしたさまざまな精神障害を引き起こすことも知られている. 肥満を引き起こさないための睡眠時間の十分な確保が重要であると一般に周知していく必要がある.
著者
吉崎 智一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.10, pp.1245-1248, 2014-10-20 (Released:2014-11-21)
参考文献数
7

ウイルスが地球上に登場したのは少なくとも30億年前と考えられている. 太古の生物の誕生以来, 生物とウイルスは共存しながら, 互いの進化に影響を及ぼしつつ, 長い時間を過ごしてきた. ウイルスの病原性は細胞内絶対寄生性に起因する. このようなウイルス感染が生じた際にウイルスおよび感染細胞に生じる現象は, 細胞溶解感染, 不稔感染, 持続感染, 発癌感染, に分類される. Epstein-Barr ウイルス (EBV) が発見されて今年で50年, これまでに, 分かってきた上咽頭癌発癌機序として, まず, 一般に上皮細胞に EBV が感染すると, ウイルス複製が亢進して, 発癌どころか感染細胞が溶解してしまうことから, EBV が潜伏感染状態を維持することが必須である. 次に EBV 潜伏遺伝子発現が起こる. 中でも EBV 癌遺伝子 LMP1 は単独で線維芽細胞や上皮細胞を形質転換する. やがて遺伝子変異が蓄積して癌化する. そして, その間, 感染細胞が免疫監視機構, 特に NK 細胞や細胞障害性 T リンパ球から逃れることが必要である.
著者
松原 篤 坂下 雅文 後藤 穣 川島 佳代子 松岡 伴和 近藤 悟 山田 武千代 竹野 幸夫 竹内 万彦 浦島 充佳 藤枝 重治 大久保 公裕
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.6, pp.485-490, 2020-06-20 (Released:2020-07-01)
参考文献数
6
被引用文献数
13 35

近年になり, スギ花粉症などのアレルギー性鼻炎の増加が指摘されている. 馬場らが中心となって1998年と2008年に全国の耳鼻咽喉科医師ならびにその家族を対象としたアンケートによる鼻アレルギー疫学調査が行われ, 有病率の推移が詳細に報告されている. 今回われわれは,前回の調査から11年後の2019年に同様の調査を行い, スギ花粉症, 通年性アレルギー性鼻炎ならびにスギ以外の花粉症の有病率を同定した. アレルギー性鼻炎全体の有病率は49.2%, スギ花粉症単独の有病率は38.8%と前回調査に比べ大きく増加していた. さらに10歳代でスギ花粉症が著明に増加していることも明らかとなった.
著者
小川 佳伸
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.90-101,193, 1995-01-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
27
被引用文献数
1

喉頭室原発の癌の発生母地を解明するために肉眼的に喉頭室に病変を認めない22個のヒト摘出喉頭を用いて臨床病理学的な検討を行い以下の結果を得た. 1) 喉頭室のコンピュータグラフィッタス化を行いその複雑な形状を示した. 2) 著者分類の「浅陥凹型」部分は, 喉頭室の中でも特に扁平上皮化生が強く進み, 発癌の準備段階として重要であると思われた. 3) 「浅陥凹型」部分は喉頭室の前後に分布していた. これは喉頭室原発の癌の臨床的な好発部位とよく一致しており, 喉頭室原発の癌の発生母地として重要であると思われた. 4) 喉頭室粘膜上皮も症例によっては, かなりの範囲で扁平上皮化生が起こり, 喫煙や飲酒の影響で高度に進行することも示された.
著者
増田 佐和子 臼井 智子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.2, pp.103-108, 2021-02-20 (Released:2021-03-01)
参考文献数
12

わが国では学校で定期的に健康診断が行われており, 耳鼻咽喉科健康診断もこれに含まれて実施されている. 今回, 学校健診から難聴を疑われて耳鼻咽喉科を受診した小中学生の検討を行った. 対象は201例 (男児86例・女児115例) で, 平均年齢は8.6歳であった. 聴力に関する診断結果の内訳は, 両側感音性難聴8%, 両側伝音性難聴3%, 一側感音性難聴21%, 一側伝音性難聴15%, 一側感音性難聴と機能性難聴合併1%, 機能性難聴29%, 正常23%であった. 両側感音性難聴7例, 一側感音性難聴16例は, 新生児聴覚スクリーニングをパスしていたことが確認された. 両側感音性難聴17例のうち12例が補聴器の適応と診断され, 7例が補聴器装用に至った. 両側伝音性難聴7例のうち中耳奇形1例, 一側伝音性難聴30例のうち中耳奇形3例, 中耳真珠腫6例, コレステリン肉芽腫1例の計11例が手術治療に至った. 機能性難聴は7~8歳児に多く, 女児が76%を占めた. 新生児聴覚スクリーニングや乳幼児健診により難聴の早期発見が進んでいるが, 学校健診は小中学生の難聴の発見と治療介入に有用であり, 重要な機会であると考えられた.
著者
齋藤 玲子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.7, pp.663-670, 2012 (Released:2012-09-06)
参考文献数
37
被引用文献数
1

インフルエンザは冬期に流行する急性ウイルス性疾患である. 日本では5種類の薬剤が使用可能である. M2阻害剤のアマンタジンはA型インフルエンザのみに効果を示し, 耐性が出現しやすいことで知られる. ノイラミニダーゼ阻害剤はA型, B型インフルエンザに有効である. 本邦ではオセルタミビル, ザナミビル, ペラミビル, ラニナミビルの4剤が使用可能である. ペラミビル, ラニナミビルは新規薬剤でほぼ日本のみで使われている. 数年前にオセルタミビル耐性A/H1N1 (季節性) が流行したが, 新型インフルエンザA/H1N1 pdm09の出現により駆逐され, 現在インフルエンザはNA阻害剤の4剤すべてに感受性である. 一般的に耐性インフルエンザ株が検出されても, 健常人であればそれ自体で重症化したり経過が遷延するものではなく, 通常のインフルエンザと同様に治癒していく.本稿では, 日本で使用される抗インフルエンザ剤の種類と特徴, 薬剤耐性の機序について述べる.
著者
山本 哲夫 朝倉 光司 白崎 英明 氷見 徹夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.9, pp.1124-1132, 2015-09-20 (Released:2015-10-06)
参考文献数
18
被引用文献数
5

【目的】札幌周辺ではシラカバ花粉アレルギーの例が多く, 共通抗原性のため, リンゴなどの果物や野菜を食べた時に口腔咽頭の過敏症 (口腔アレルギー症候群, oral allergy syndrome, OAS) を示す例が目立つ. 一方, 大豆はシラカバ花粉の主要抗原である Bet v 1 の関連抗原 (Gly m 4) を含んでおり, OAS の原因抗原となることがある. 特に豆乳は凝固して豆腐になる前の状態であるが, 変性が少なく, また液体で一気に飲み込むためか, 前胸部の灼熱感など, 症状の強い例を経験する. 今回, 豆乳に対する OAS の頻度を調査し, IgE 抗体検査も行った. 【方法】対象はシラカバ花粉 IgE が陽性の OAS 例167例で, OAS の診断は問診により, 特異的 IgE は CAP を用いた. このうち161例に対し, コンポーネントアレルゲンと大豆に対する CAP を検査した. 【結果】シラカバ陽性の OAS 167例のうち, 問診上10% (16例) が豆乳に対する OAS を有し, シラカバ CAP クラスの増加とともに有症率が上昇した. また, Bet v 1 CAP, Gly m 4 CAP, 大豆 CAP クラスの増加とともに豆乳 OAS の有症率が上昇したが, Bet v 2 CAP は相関はなかった. 豆乳 OAS 例 (15例) では, 大豆 CAP はクラス1以上は47% (7例) で, クラス2以上では7% (1例) が陽性であったが, Gly m 4 CAP はクラス1以上は93% (14例) で, クラス2以上でも87% (13例) が陽性であった. 【結論】シラカバ陽性の OAS 例のうち, 10%が豆乳に対する OAS を有し, 豆乳 OAS 例では大豆 CAP の陽性率は低かったが, Gly m 4 CAP の陽性率は高かった.
著者
高野 賢一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1481-1484, 2019-12-20 (Released:2020-01-09)
参考文献数
8
被引用文献数
2

近年, IoT (Internet of Things), 人工知能 (AI) などを中心とする第4次産業革命ともいわれる時代に突入し, 通信機器や通信技術の進歩も目覚ましい. 医療分野でもさまざまな IT (Information Technology) が導入されているが, そのひとつとして遠隔医療が注目されている. 遠隔医療によって, 患者のアクセスビリティの向上, 地域による医療資源差の解消, 勤労世代の労働時間確保などの諸問題を解決できる可能性がある手段の1つとして期待されている. 2018年4月には, 診療報酬改訂によってオンライン診療料・オンライン医学管理料・オンライン在宅管理料が新設され, 同時に遠隔モニタリング加算も認められた. 現時点ではオンライン診療料が算定できる対象疾患が限られている点や, オンライン診療を行うために必要な情報通信システムを提供する民間企業への使用料などを考慮すると, 医療機関側にとってはむしろ費用面で負担となることも少なくない. 一方で, 患者志向医療であることから, すでに実地臨床ではアレルギー性鼻炎, めまい症, 睡眠時無呼吸症候群などの患者を対象に導入されつつある. 当科では, 人工内耳装用者を対象に遠隔マッピング, 遠隔言語訓練を開始している. 患者は地元の中核病院またはクリニックを受診し, 大学病院とオンラインで結びマップ調整を行っている. 言語訓練では自宅と結び, インターネットを介して訓練を行っている. 広大な北海道では専門医療機関へのアクセスがしばしば問題となり, この遠隔医療によって患者の高い満足度が得られている. 新たな医療インフラとなることが予想される遠隔医療は, 現時点では法整備や診療報酬などの課題が残されているものの, 耳鼻咽喉科領域も含めて, 患者志向医療として今後ますます発展していくものと思われる.
著者
五島 史行 守本 倫子 泰地 秀信
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.91-96, 2013 (Released:2013-04-11)
参考文献数
17

小児心因性起立, 歩行障害の症例を呈示し, 文献的考察を行った. 症例1は10歳男児で心因性発熱, 心因性視力障害を合併した症例で, 発症後約4カ月経過して症状は改善した. 症例2は10歳男児で, 頭痛, 微熱, 倦怠感, 心因性視覚障害を合併したものであり, 約5カ月経過して症状が改善した. 小児の心因性起立, 歩行障害の頻度は高いものではないが, 診察に際しては臨床的特徴を熟知しておく必要がある. 治療にはある程度の期間が必要である. 器質的疾患を除外し, 診断を確定した後は呈示した症例のように治療を急がず, 時間をかけた対応が必要である.
著者
山田 弘之 加藤 昭彦 石永 一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.1, pp.13-18, 2000-01-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
10
被引用文献数
4 5

目的:早期癌を発見するのが目的の一つである人間ドックにおいて,甲状腺癌発見を目的とした超音波検査の導入が普及してきている.この導入がもたらした結果と当院で発見された甲状腺癌の詳細を検討し,その意義を考察した.対象:1989年から1998年までの10年間に,山田赤十字病院の検診センターで施行した人間ドックにおいて発見された甲状腺結節性病変のうち,手術によって癌であることが確認された78例と,同期間に当科において手術を行ったそれ以外の甲状線癌287例と対象とした.また,ドックによって発見され手術を行った良性疾患26例も検討対象に含めた.方法:ドック群と対象群287例において,手術時年齢,TN分類(なかでもT1とT4について),遠隔転移の有無,性比を比較した.結果:ドック群には44歳以下の症例が24例30.8%含まれ,対象群の60例20.9%に比して高率であった.また,ドック群には微小癌が41例52.6%含まれており,対象群の100例34.8%に比して高率であった.逆にドック群には気管食道など周囲臓器に浸潤した症例が1例1.3%に過ぎず,対象群の21例7.3%に比して低率であった.一方で,ドック群にも遠隔転移を認めた症例が1例あり,対象群の3例1.0%とほぼ同率であった.なお,ドック群には22例28.2%の男性症例が含まれ,対象群の28例9.8%に比して高率であった.結論:ドックで発見される甲状腺癌には若年者が多く,また微小癌が多い一方で,周囲組織特に気管食道などへの浸潤例が少なかったことから,ドック群には予後良好な症例が多いと考えてよい,微小癌の良好な予後を考えると,ドックによって不急の微小癌手術が増えていること,更にドックによって結果的に不要であつた良性疾患手術があったことから,穿刺吸引細胞診など精査の対象とすべき症例を嚴選することが頭頸部外科医に求められる.
著者
窪田 俊憲 渡辺 知緒 横田 雅司 伊藤 吏 青柳 優
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.5, pp.540-545, 2012 (Released:2012-09-06)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

突発性難聴に対してステロイド大量・PGE1併用療法を早期に開始することによる治療効果への影響を検討するために, 発症から7日以内に同治療を開始した174例の突発性難聴症例を解析した. 「治癒」「著明回復」「回復」を合わせて「改善」,「不変」を「非改善」として, 改善の有無と治療開始までの期間, 年齢, 初診時聴力レベル, めまいの訴えの有無の4因子との関連を多重ロジスティック回帰分析で検討した. その結果, 治療開始までの期間および年齢と改善の有無との間に有意な関連が認められた. すなわち, 治療開始までの期間が短いほど, 年齢が若いほど治療効果が高くなるという結果であった. 治療開始までの期間による治療効果の検討では, 発症3日以内に治療を開始した症例の治療効果が, 発症4~7日に治療を開始した症例よりも高かった (p<0.01). 50歳未満の症例では, 発症3日以内に治療を開始した症例の治療効果は, 発症4~7日に治療を開始した症例と比較して有意な差を認めなかった. これに対して, 50歳以上の症例では, 発症3日以内に治療を開始した症例の治療効果が, 発症4~7日に治療を開始した症例と比較して高かった (p<0.01). 突発性難聴に対するステロイド大量・PGE1併用療法では, 発症7日以内よりも早期に, 特に, 50歳以上の症例では発症3日以内に治療を開始することで, より高い治療効果が得られるものと考えた.