著者
木村 惠子
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.19-28, 2008-12-25 (Released:2018-05-08)

生活算術は大正末期から昭和初期にかけて展開された教育運動であり,わが国の算術教育が現代性を獲得する過程で注目すべき実践の総体である。しかし,生活算術の全体像は今日においてなお明確にされているわけではない。本稿は生活算術の全体をとらえるための基礎的研究として,生活算術実践家の一人である藤原安治郎の実践に焦点をあて,その実践の具体的様相を理解しようとするものである。本稿では大正末期から昭和初期の藤原の算術教育実践について,「生活」,「数理」,及び両者の関係を中心に時系列的に検討した。その結果,藤原の算術教育実践は「生活」から「数理」を切り離してそれぞれを独立してとらえる過程で,両者を結びつける統一原理として「函数観念」が意識され,「生活」と「数理」は循環作用をもつものとなった。更に「数理」を中心概念として「生活」をとらえ,「数理」の会得が生活力の基礎であると主張するに至っている。このような変容の過程は4つの時期に区分できた。
著者
野村 幸治 中山 裕一郎
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.39-48, 1997-09-25 (Released:2018-05-08)

80年代から90年代にかけて中国の学校教育は大きな変化を遂げた。芸術教育の面でも,1986年に美育が国家の教育方針の中に正式に位置づくことにより音楽教育を含む芸術教科が教育全体の中に重要な意味を持つようになる。本論文は,80年代から現在に至る中国の音楽教育をめぐる教育全体の動向を踏まえながら,音楽教科書(小学校)の分析を中心に中国の音楽教育の現在について考察を試みたものである。資料は論文及び最新の音楽教科書そして日本の「学習指導要領」に相当する「教学大綱」などである。音楽教科書に見られる特徴としては次のような点が挙げられるだろう。(1)社会主義賛美を謳った政治的内容を持つ教材は相変わらず多い。しかし,教材自体の芸術性自体についても重視する方向性が生まれている。(2)民族音楽の学習(とくに少数民族の音楽)を基礎に,アジア圏,さらにヨーロッパなど世界各地の音楽へ同心円的に学習内容を広げ,子どもたちが多様な音楽文化に触れられるよう工夫されている。(3)遊びの要素や即興性を楽しむ教材・学習活動が増えている。(4)踊りなど,身体の動きを伴った音楽的活動がふんだんに取り入れられている。これらから,社会主義体制の堅持をはかりつつ,美的教育を重視し,音楽学習と生活的なものとの接点を足場に,包括的に音楽学習を捉えようとする中国の音楽教育に対する基本的姿勢が理解される。政治形態も異なり,「型」から入った内容のものもある。しかし,特徴中,特に(2)(3)(4)の点については,日本の音楽教育も学ぶべき内容を多分に含んでいるのではないだろうか。
著者
呉 軍
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.11-20, 1999-09-30 (Released:2018-05-08)

本研究の目的は,学校体育研究同志会の球技研究史の考察を通して,一般的に適用するスポーツ素材の教材化の方法を検討することと関連する課題を確認することである。同志会の研究上の出来事より,その研究史を4段階に分け,それぞれの段階の教材化についての「解決したい問題」,「特徴」,「具体的教材例」の考察を行った。その結果,以下の点が明らかになった:第一に,すべての子どもに視点を置き,子どもの発達状況,関心,意欲を出発点として,基礎技術及び指導の系統を考えていること。第二に,教えたい内容を確実に子どもに習得させるために,子どもの発達状況や学習の現状を考えると不都合と考えられる要素を制限し,再構成するという視点が貫ぬかれている。第三に,スポーツの共通的技術要素を取り出し,新しい球技を創造するという視点が内包されている。第四に,グループ学習を通じて,技術指導と民主的集団づくりを統一するという課題を一貫して追求する視点である。それでも,「戦略・戦術」を中核とする教科内容と捉える授業実践において,教師は,球技の「戦略・戦術」とはどういうものか,どのように提示するか,また,「戦略・戦術」を実行するための運動技能をいかに習得するかが課題として残っていると思われる。
著者
藤谷 健
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.85-92, 1980-04-30 (Released:2018-01-07)

教科教育における教科間の内容のかかわり合いに関する研究の一環として,女子中等教育における理科化学と家庭科の内容が,相互にどうかかわり合っているかを,教授要目および指導要領の変遷を中心に,歴史的に追跡した。20世紀初頭,高等女学校教授要目が制定された時には,生活に関連した物質は理科化学で扱われており,家事科は専ら技術教育であった。第2次大戦中の教授要目の改訂は,家政科を中心としたコア・カリキュラム的性格をもっており,従って,理科化学分野も生活に関係深い事項や物質が重点的に扱われており,両教科の関係は最も密接であった。そして,戦後の生活理科の時代には,内容としての生活の科学が方法としての問題解決学習と結びついて,化学という学問のもつ系統性を十分に教育にとり込めなかったため,その反動として,その後の指導要領の改訂によって,化学は身近かな生活から離れてゆき,一方,家庭科は技術教育中心の状態からの脱皮が不十分で,現在は,両教科は著るしく離反している。しかし,現今の社会状勢からみて,これは早晩再考を迫られるであろう。
著者
久田 隆基
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.43-53, 1981-01-31 (Released:2018-01-21)

事象のある特定の状態や関係を示すときに使われる「一定」と事物の異同関係を示す「同じ」,「等しい」などの用語の意味・用法を明らかにするために,3種類の中学校理科教科書を用法のモデルとして,それらの中で使われている各用語の用例を調べた。各用語の用例から,意味・用法の分析を行なったところ,「同じ」と「等しい」は,大まかに分けて,それぞれ2通り,また「一定」は4通りの意味に使われていることがわかった。各用語の用法についての明確な規則性は見い出されなかったが,各用語の主体となっている語の種類によって,それぞれの用語の使い方に制限があることがわかった。理科で多く使われ,多義的であり,また用法も複雑であるこれらのような用語の意味・用法は科学的読み書き能力の育成という観点からも,理科教育の中で教えられるべきであることを示唆した。
著者
山下 陽子 山下 太利
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.183-188, 1981-07-31 (Released:2018-01-21)

小学校低学年児童の各教科の成績の間には相関関係があることは,各方面で指摘されていることである。ただ,実際のデータにもとづいてこのことを確認しその実態について報告されたものはほとんどない。筆者らは,小学校2年生の児童の各教科成績の学期ごとの平均値を用いて,各教科成績間の相関係数を計算し相関の程度とその原因を検討した。その結果,小学校低学年では,国語・社会・算数・理科の諸教科間は相関が高く,これら教科と音楽・図工・体育との間の相関は低いことがわかった。音楽・図工・体育の3教科相互間の相関も低い。またこれら実技教科でも,ペーパーテストが加わると国語との相関が高くなる。文章読解力や文章表現力等の国語の基礎学力が各教科の成績に及ぼす影響が大きいことも確認できた。
著者
谷田 親彦 上田 邦夫
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.37-44, 2001
被引用文献数
1

本研究の目的は,「ものづくり学習」に取り組む学習者が製作活動に入る前に製作課題に対して考えること(思考)をプロトコル分析を利用して把握することにある。ものづくり経験を有する大学生(21〜23才)から発話を収集したプロトコルデータは,ISM構造法を援用して作成した「ものづくり学習」の教材構造に基づいたカテゴリーにより分類された。その結果,製作計画や構想図,工具の使用やその仕上がりの結果に関する思考が多く行われていた。製作過程の中では,「組立・接合」段階での思考が極めて活発に行われていた。「けがき」や「切断」など製作過程の始めでは構想・設計に関連する思考が表出し,「仕上げ・塗装」など製作過程の終盤では製作品完成後の使い方などに関する思考が活性化されていることがわかった。また,思考シークエンスは,「工具・機器の使用」カテゴリーを思考の起点や終点にする2つのタイプが多く現れた。
著者
角屋 重樹 木下 博義 佐伯 貴昭
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.37-43, 2007
被引用文献数
2

本研究の目的は,小学校と中学校の教師を対象に,観察・実験を通して児童・生徒に育成される力を因子論的に分析するとともに,小学校教師と中学校教師がとらえている観察・実験を通して育成される力に関する因子の関係を検討することである。このため,広島県内の全公立小中学校の理科担当教師を対象に,16項目からなる質問紙調査を実施した。小学校教師366名と中学校教師255名を対象とした結果は,以下のようになった。(1)小学校教師が観察・実験を通して児童に育成されると考えている因子は,問題解決の技能と原理や法則の理解からなるものと,人間性の育成,の2つである。(2)中学校教師のそれは,問題解決の技能,人間性の育成,原理や法則の理解,の3つである。(3)小学校教師と中学校教師の観察・実験を通して育成される力に関する因子の関係は,以下のようになった。(1)小学校教師が観察・実験を通して育成されると考えている因子は,問題解決の技能と原理や法則の理解からなるものであったが,中学校のそれは問題解決の技能と原理や法則の理解に分離していた。(2)小学校教師が観察・実験を通して育成されると考えている人間性の育成という因子は,中学校教師と同一であった。
著者
清道 亜都子
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.31-40, 2010-03-30 (Released:2018-05-08)

本研究の目的は,作文を書いてから一定期間後に推敲すると,書いた直後に推敲するよりも,高校生の作文の質が高まるか,について検討することである,実践1では,高校1年生27名が,作文を書いてから1日後と1ヶ月後に推敲を行った,その結果,1日後の推敲では総文字数や作文の評価にほぼ変化がなかったが,1ヶ月後の推敲では大幅に向上し,内容に関する推敲も多く見られた。また,その効果は,作文の評価が低い者においても確認できた。実践2では,高校3年生30名(うち28名は書くことが苦手と自己評価した者)が1ヶ月後の推敲を行い,総文字数や内容の評価に向上が見られた。以上より,作文を書いてから一定期間後に推敲すると,書いた直後に推敲するよりも高校生の作文の質が高まること,さらに,一定期間後の推敲は,書くことが苦手な者にも有効な指導法であることが示された。
著者
長谷川 潔 小池 直己
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.159-164, 1985-01-30

これからの英語教育は情報化社会に対応することを考えるべきであろう。相手から与えられる英語による情報を正しく把握し,こちらの情報を相手に伝えることのできる英語力を身につけるための言語教育を目標とすべきなのである。そのための語学訓練として,英語ニュースを効果的に楽しく用いることができる。本報告においては,英語ニュースをテープで流して,生徒に書き取らせた後,正しいニュース文を提示して,生徒各々に自らの誤答を指摘させ,それ等をカテゴリー別に細分し詳述させた。更に彼等が英語ニュースを書き取る際に感じた点を反省文と感想として論述させた。これ等の資料をレポートの形で提出させ,それ等を分析した。
著者
松岡 重信 山下 理子 沖原 謙
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.155-163, 1994-03-31

先報(1991)では,『生涯スポーツ』概念の形成課程を吟味することと,その概念の実質的イメージについて検討した。そして,それらの作業に基づいて,生涯スポーツ概念と学校体育の機能との関係を問題にした。議論の結果,生涯スポーツや生涯体育の概念が活発に議論されて学校の機能・役割との関係も議論された割合には生涯スポーツの実態もイメージも余り明確でなく,従って両者の関係も曖昧モコとしていることが明らかになった。そして,生涯スポーツ運動に連動する形で,中等教育学校で<習熟度別授業>や<選択制履修授業(以下「選択制」と略す)>を積極的に位置づけようとする働きが,理論的にも実質的にも相当不可解なものと理解された。さらに,こうした実態もイメージも不明確な状況でありながら,それでいて体育の教科内容や教科課程にかかわる問題意識は一般にさほど高くない。少なくとも,日本体育学会や日本教科教育学会でみる限り,こうした学校内外の体育・スポーツの将来構想にかかわる問題意識をもつテーマは,一部シンポジウム等を除けば最近の5年間ほとんど設定されていない事実も認められる。そこで,生涯スポーツに関連させようとする学校体育の趨勢,即ち代表的には選択制の導入等は今日的に,かつ将来的にはいかなる意味をもち,学校教育にどのような影響をおよぼすかについて,改めて予測的に検討したい。その際,スポーツや運動は,<国民的教養>あるいは<国民的権利>とさえ把握されようとしてきた思想や社会的運動そして歴史・伝統に,学校体育が現実にどうかかわっていけるのかという視点を軸としたい。
著者
武内 裕明
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.49-58, 2008-12-25

本稿では,「音楽鑑賞アワー」の初期のプログラム構成の変化に着目し,累積的なプログラム構成という性格を獲得するまでの経緯を明らかにする。「音楽鑑賞アワー」は,ダムロツシュが主幹した音楽鑑賞番組であり,1928年に最初の全米学校放送番組として始められた。1928年シーズンは,どのプログラムでも同一の知識を提供することを目的としたダムロツシュの子どものためのコンサートを基礎としていた。4つのシリーズは全て楽器を中心に構成され,コンサート的性格であった。一方1930年シーズンでは,4つのシリーズを構成する主題はそれぞれ異なり,それぞれのシリーズが累積的に聴取されるべきものであるとする教育的意図を特徴としていた。このように,「音楽鑑賞アワー」は1928年シーズンには子どものためのコンサート的性格であったが,1930年には4つのシリーズごとに主題を変えた累積的な放送という教育的性格を獲得したのである。
著者
永田 麻詠
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.51-60, 2012-06-25

本稿では,キー・コンピテンシーや読解リテラシーと深いかかわりをもつ「エンパワメントとしての読解力」という新たな国語学力の育成に向けて,小学校国語科教科書をジェンダーの観点から考察した。その結果,物語教材における主要な登場人物などが男性に偏っていることや,固定化した男性/女性らしさや性的役割分業などのジェンダー的な傾向が見られたが,だからこそ小学校国語科教科書は,「エンパワメントとしての読解力」を育成する契機となると考えられる。以上をふまえ本稿では,「エンパワメントとしての読解力」育成に向けた国語科授業を提案した。
著者
福富 和博 木村 正治
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.17-24, 1995-06-30

エイズ教育の必要性が理解され,教育現場でもその取り組みが少しずつなされ始めている。しかし,授業実践に基づいた教育に関する報告例は少なく,エイズ教育の方向性が,確立されているとは言えない。そこで,中学2年生を対象に,「HIVの特性」「HIVの感染経路と感染予防」「HIV感染者との共生」の3コマで,エイズに関する授業を実践した。授業前と授業終了2ヶ月後,授業終了1年経過後にエイズに閔する意識と知識の実態を調査した。相互に比較することで,エイズに関する教育の有効性と継続性を評価し,新たな授業づくりの基本資料にしたいと考えた。調査の内容は,エイズに対するイメージとHIV感染者への接し方に関する意識及び,HIVの感染経路と感染予防の知識である。次の結果を得た。1.気持ち悪い・汚いなどのエイズに対する否定的なイメージは授業により低下する。2.エイズを孤独・可愛そうと捉える同情意識は授業により高まる。3.教材の種類および呈示の仕方によっては,エイズの疾患に対して恐怖をうえつける可能性がある。4.授業によって,積極的な共生の態度は育成され,定着する。5.感染予防についての知識は,確実に定着するものと,継続的な指導によって正しい認識へと導くことができるものとがある。
著者
柳瀬 佳子
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.9-17, 1995-09-30

現代社会での女子青年の道徳意識を知るために,向社会性及び慣習性を含む質問紙調査を行った。向社会性については他者が援助を求めてきた時に応じる援助行動を行うと答える割合が多く,積極的に向社会的行動を起こすと答える割合が少なかった。能動的な向社会性の中でも「バスや電車の中でお年寄りに席をゆずる」という事柄には8割の女子学生がかかわると答えているが,それ以外の事柄についてはそれほどかかわる比率は高くない。受動的な向社会性の各項目についてはどれもかなり高い比率でかかわると答えていた。同じ向社会的行動であっても援助を求められるという状況のときの方が援助行動が行われやすい。慣習性については,男性の職業や女性の職業と昔のように性別で職業が分類されないことや,ニューハーフのような性転換をした人もそれほど不思議だとは思われなくなっている。社会の変化に伴った道徳意識があるようである。
著者
西園 芳信
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.203-208, 1996-02-20

本論文では,芸術,就中音楽の認識方法と表現の形成過程を究明することによって音楽の教育的価値と指導方法の原理を論究した。芸術は,人間の感情を直観によって感じ取りその意味を種々の媒体を通じ表現するものである。中でも時間芸術である音楽は,人間の感情を時間性を中心に表現し認識させるものである。かくして芸術・音楽は,次の教育的価値を持つといえる。芸術・音楽の経験によって人間の認識する範囲は拡げられ,人間の感情経験や作品に現われた感情への洞察力が育成されると共に感情の範囲と質が発達する。この芸術・音楽の認識方法から音楽科の指導方法の原理は次のように演繹される。(1)生徒の感情経験を音の構成によって表現させ,自己の感情を認識させる。(2)鑑賞の経験によって音楽の構造を認識させ,その音楽の感情を共有させる。
著者
清道 亜都子
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.19-28, 2012-03-25

本研究の目的は,高等学校国語教科書における意見文作成教材について,認知心理学的知見を踏まえて分析することである。高等学校国語科の必履修科目(「国語I」,「国語総合」)教科書のうち,昭和60(1985)-62(1987)年度に使用されたもの10社16種類,平成6(1994)-9(1997)年度に使用されたもの10社21種類,平成19(2007)-22(2010)年度に使用されたもの9社22種類を対象として,意見文作成教材を分析した。その結果,(1)解説がプランニング中心で推敲の扱いは少ない,(2)書くことが再帰的プロセスであると示されていない,(3)平成19年度版では,生徒の認知的負担を軽減できるような工夫が多く見られる,という点が明らかとなった。また,教材内容に対して学習指導要領の影響が強いことも窺われた。
著者
湊 三郎
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.6-12, 1978-04-30

"数学とは何かの考察"は高次言語に関する理論を用いて数学から導かれたものであった。これは数学教青学の,数学にかゝわる研究内容の一つであることか示されている。この小論では,"数学とは何かの考察"をより明確に基礎づけることを試みる。その際用いられる理論モデルは高次言語に関する理論を土台として作られている,ある探究のモデルである。
著者
菅 裕
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.65-74, 2000-03-31

本研究では,音楽教師の信念が内面においてどのような構造を有しているか,また,そのことが授業の流れや児童にどのような影響を及ぼしているか,について現象学的に考察することを目的とし,福島大学附属小学校の山本浩教諭による音楽授業への参与観察と授業後の教師へのインタビューの分析を行っている。その結果,1.表現のネットワークとしての音楽体験をとおして,児童の音楽的価値観を広げていくために,2.教師は徹底して状況に即応する支援者の立場に立ち,3.授業を音をとおしたコミュニケーションの場としていくことを重視する,山本教諭の信念の構造が明らかになった。この構造は,全体として一貫性をもっており,それに基づく安定した授業運営の結果,児童は,合奏活動を教師の手を借りずに組織するようになり,自分たちの演奏を昼休みのフリーコンサートとして校内で積極的に発表するまでに成長した。同時に,山本教諭が「担任としての役割」と「音楽教師としての役割」と間の葛藤を内面に抱えていることも明らかになった。
著者
原田 大介
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.31-40, 2006-03-10

現代の子どもや若者は「キャラ」ということばを用い,「キャラ」という視点から人間関係を捉える傾向がある。教室では,発言者の「キャラ」をふまえて内容(ことば)を読み解き,「私」の「キャラ」を自覚して発言内容(ことば)を調整する。学習者一人ひとりのことばを育むことを目的とする国語科教育において,「キャラ」の理論を提示することの重要性は否定できない。本稿では,「キャラ」についての具体的な授業実践を提案・実施し,そこで生まれた問題を分析・検討した後,国語科教育全体に新たな光をあてる「キャラ」の理論を提示する。