著者
杉村 彰悟 福田 健一郎 小鳥居 望 室谷 健太 小鳥居 湛
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.591-597, 2021-10-15 (Released:2021-10-15)
参考文献数
34

慢性の不眠を有する慢性期統合失調症圏患者を対象に運動を実施し,自覚的睡眠感の改善効果を検証した.対象は平均年齢62.3歳の女性患者9名で,夕方から運動強度約4.0 METsを20分間試みた.10週間,6回/週(計63回),1ヵ月間平均24回実施したところ,日本語版不眠重症度質問票(Japanese version of the Insomnia Severity Index;ISI-J)が改善した.また,運動を中止した1ヵ月後にはISI-Jは悪化した.この結果から,統合失調症圏障害患者の慢性化した不眠に対し,夕方の運動を継続的に実施することは自覚的睡眠感に有用であることが示唆された.
著者
藤田 さより 新宮 尚人
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.469-480, 2019-08-15 (Released:2019-08-15)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究の目的は,「作業体験」が統合失調症者の就労意識にどのような影響を与えるのか明らかにすることである.方法は,統合失調症者12名に就労に対する思いと,作業体験について尋ねる半構成的インタビューを実施して,質的記述的分析を行った.結果として,参加者は就労に対し不安を持ち,支援を必要としていた.作業体験により,【作業体験によるポジティブな感情】,【作業体験によるネガティブな感情】,【作業体験からの気づき】のカテゴリが抽出された.作業体験は,自己効力感や作業能力を向上させ,困難を乗り越える力を与え,また自己の能力を適切な客観的評価に近づけることで職種とのミスマッチを防ぐなど,就労に有用な影響を与える可能性が示唆された.
著者
南 庄一郎
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.123-130, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
9

殺人未遂事件を起こした統合失調症の対象者に生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を用いて関わり,「生活行為申し送り表」を通して指定通院医療機関の作業療法士と情報共有し,共に対象者の就労移行を支援した.この結果,対象者は就労継続支援事業所にてやりがいを感じられる仕事に就くことができた.本介入から,MTDLPは対象者の主体的な治療参加を動機づけ,合意目標の達成を目指して対象者と両親,専門的多職種チーム,指定通院医療機関のスタッフの連携を促進するとともに指定入院医療機関と指定通院医療機関における連携を強化し,対象者のシームレスな支援を可能にすると考えられた.
著者
南 庄一郎
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.835-842, 2021-12-15 (Released:2021-12-15)
参考文献数
10

医療観察法病棟において,殺人未遂事件を起こした統合失調症とADHDの対象者に関わる機会を得た.対象者は統合失調症の病識が乏しく,事件の内省が困難であり,医療観察法病棟の入院治療に対する意欲が持てず,介入は難航した.しかし,筆者と革細工や病棟行事の実行委員を担った体験を通して成功体験を重ね,その後の治療には自発的に参加するようになった.ここから,作業療法は医療観察法病棟での入院治療に意欲の乏しい対象者に対して,MDTによる社会復帰に向けた治療の導入部分を担い,作業を介して対象者と関係性を結び,自己効力感を高めることができ,主体的な治療への参加を可能にすると考えられた.
著者
南 庄一郎
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.110-116, 2019-02-15 (Released:2019-02-15)
参考文献数
10

今回,筆者は当院の医療観察法病棟において,重篤な精神病症状と衝動的な暴力によって,治療が停滞していた統合失調症の長期入院事例に関わる機会を得た.介入としての対話の中で,ギター演奏が事例にとって意味のある作業であることを見出した.事例はギターを演奏することを通して,治療に対する動機づけを高め,前向きに治療に取り組むことで地域生活を再開させた.医療観察法という強制医療の枠組みにおいて,対象者の意味のある作業に着目することは,対象者との関係性を構築し,ケアの進展を図る上で有用であり,長期入院化を打開する有効な手段となりうることが示唆された.
著者
倉澤 茂樹 立山 清美 丹葉 寛之 中岡 和代 大歳 太郎
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.605-615, 2020-10-15 (Released:2020-10-15)
参考文献数
16

要旨:通常の学級に在籍する不器用さを呈する学習障害児に対して,作業療法士(以下,OT)が約7ヵ月間にわたり7回学校を訪問し,保護者および教職員にコンサルテーションを実施した.保護者および教員の主訴に対し,OTは特性要因図を用いて本児の状況を説明し,OTが提案する支援方法について理解を得た.結果,対象児の特性を生かした教授方法や書字しやすい教材を工夫したことによって,文字の読み書きが習得され,教科学習に対する動機の向上も認められた.家庭での問題行動は,ペアレント・トレーニングを実施したことで減少した.
著者
野口 卓也 港 美雪
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.124-133, 2012-04-15

要旨:地域で暮らす精神障害を有した人を対象に,作業に焦点を当てたニーズ調査を実施した.対象者は,主観的に幸せな人生を実現するために,一日の時間の使い方と作業選択のコントロールへのニーズを抱き,作業に従事しながら様々な意味を求め,その意味を達成しようと工夫しながら生活していた.また,その体験を通じ,自己の状況に気付き,問題解決などのためにすべきことを理解し,学ぶ過程があり,自身の幸せな人生像を徐々に見出すことを可能にしていた.対象者が意味を実現する作業従事を通じて,幸せにつながる作業像を具体化し,その実現に必要なニーズを見出しながら作業療法士が介入することへの重要性が示唆された.
著者
助川 文子 伊藤 祐子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.663-673, 2019-12-15 (Released:2019-12-15)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本研究は,日本の小学校通常学級に在籍し特別支援教育の対象となる発達障害児に対し,平成29(2017)年度に行われた学校適応支援のための作業療法評価の実態を調査することを目的とした.日本作業療法士協会に,職域を「発達障害」の「臨床」と登録した1,594名の作業療法士を対象に質問紙による全数調査を行った.有効回答は324件で有効回答率は20.3%であった.結果より,日本の発達障害児に対する作業療法は,医療法関連施設,および児童福祉法関連施設の双方で実施され,多くの評価は,感覚統合理論を基盤とする評価とDTVP視知覚発達検査を組み合わせて実施していた.また最も利用されている評価は臨床観察で,標準化した評価の活用は少なかった.
著者
池田 晋平 西村 恭介 鈴木 武志 佐藤 美喜 野尻 裕一 芳賀 博
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.195-203, 2021-04-15 (Released:2021-04-15)
参考文献数
27

地域在住高齢者の余暇的生活行為と社会関係の関連を明らかにすることを目的に,神奈川県綾瀬市在住の高齢者に質問紙調査を実施した.回答の不備を除いた1,587名の分析から,結束型ソーシャル・キャピタルは鑑賞活動,音楽活動,観光活動の実施ならびに娯楽活動の非実施に,橋渡し型ソーシャル・キャピタルは文化的活動,観光活動の非実施に関連があり,近隣住民との交流頻度はスポーツ活動,文化的活動,自然と触れ合う活動の実施に関連していた.以上の結果から,社会関係と余暇的生活行為の関係性は異なる様相を呈しており,作業療法士が地域在住高齢者の余暇的生活行為を促進するためには,対象地域での高齢者の社会関係の特徴に着目する必要がある.
著者
藤本 皓也 衛藤 誠二 田之上 恵菜 亀澤 孝 下堂薗 恵
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.113-122, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
22

促通反復療法(RFE)は,脳卒中片麻痺上肢の機能改善や物品操作能力,生活の質の改善に有効であることが報告されている.しかし,麻痺手の使用頻度や目標とした動作への効果は不明である.今回我々は,回復期脳卒中患者1名に対し,持続的神経筋電気刺激下の促通反復療法と課題指向型アプローチを組み合わせた課題指向型促通反復療法(Task-oriented RFE)を実施した.6週間の介入後,上肢機能や麻痺手の使用頻度,動作の質が改善した.また,目標とした動作の作業遂行満足度も向上した.退院1ヵ月後も,麻痺側上肢機能や使用頻度の維持,向上を認めた.Task-oriented RFEは,回復期脳卒中患者において,麻痺側上肢機能や使用頻度の改善に有効である可能性が示唆された.
著者
中村 泰久 國島 千晶 松井 泰彦 朝倉 起己
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.51-60, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
21

本研究は作業療法士(以下,OTR)の統合失調症患者に対する地域生活支援での作業療法評価開発に向けて,評価項目を明らかにすることを目的にした.研究Ⅰでは,地域生活支援の経験を豊富に持つOTR 10名に半構造化面接のデータ分析と情報収集からの評価として8項目の生成と,ICFコアセットに基づいた質問紙調査から62項目を抽出した.研究Ⅱでは,OTR 82名に対しデルファイ法質問紙調査をして中央値と四分位数範囲,同意率で項目の内容妥当性を確認した.最終的に,統合失調症患者の地域生活支援での作業療法評価項目として合計70項目を同定した.
著者
吉田 一平 平尾 一樹 野中 哲士 小林 隆司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.13-20, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
40

作業療法にて満足や楽しみといった肯定的な心理状態を考慮した支援を行うことが必要と考えられ,そのような心理状態を捉えた概念として「フロー理論」が挙げられる.今回,フロー理論を応用した作業療法に関する実践報告に関して文献レビューを実施した.結果として6論文が抽出され,それぞれの研究において,介入目的とした認知機能,高次脳機能のほか,フロー体験,健康関連QOLや主観的QOLの改善を認めた.今後は,作業療法/リハビリテーションにおける有効なアプローチの1つとして示されるよう,さらなる実践・研究が課題として挙げられた.
著者
嶋田 隆一 石井 良和 ボンジェ ペイター 塩路 理恵子
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.581-590, 2021-10-15

要旨:作業療法士(以下,OTR)とクライエント(以下,CL)が,治療関係構築時の経験をどう意味づけているかを理解するために解釈学的現象学による質的研究を行った.回復期病棟入院中のCLとOTR 3組に参与観察と面接を実施した.その結果,治療関係構築の意味づけとして,CLでは6つ,OTRでは5つのテーマが明らかになった.OTRとCLの間には,関係構築のための関わり,経験の共有を通したOTRとCLの関わり,関係の帰結に向けての関わりがあると示唆された.治療関係構築についてOTRは〈思いを汲み取ろうという態度〉と意味づけており,CLは〈改善の兆候の実感〉や〈いまの自分を知ってくれている存在〉と意味づけていた.

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著者
伊藤 信寿
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.523, 2020-10-15 (Released:2020-10-15)
参考文献数
1

私は,研究といえば30歳手前で教員になり,通信制大学を卒業,その後大学院へ進学.教員を続けるために学会発表,論文執筆を行ってきた.いわば自分への思いのために行っていた.今思えば,恥ずかしい話である.
著者
青木 佑介 大達 清美 川田 憲一 太田 喜久夫
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.616-622, 2020-10-15 (Released:2020-10-15)
参考文献数
18

要旨:片側性の小脳・延髄外側梗塞で重度球麻痺,失調症,中枢性低換気を呈した症例に対して,包括的リハビリテーション(以下,包括リハ)を実施した.主治医や呼吸サポートチームと連携し,人工呼吸器管理から離脱を図り,日常生活動作(以下,ADL)を改善した.また,栄養サポートチームとも連携して,栄養方法を確立し,嚥下造影検査を用いた積極的な摂食嚥下リハビリテーションを実施した.約1年間の入院後,経口摂取が可能となり,ADL自立の状態で自宅退院となった.人工呼吸器管理など重度の重複障害例に対しては,多職種による包括リハが必要となり,患者の機能予後に好影響を与えると考えられた.
著者
平賀 勇貴 久野 真矢 平川 善之 許山 勝弘
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.327-333, 2017-06-15

要旨:人工膝関節置換術(以下,TKA)後の痛みにより破局的思考や不安,抑うつ傾向を認め,自己効力感が低下した事例に対する作業療法を経験した.カナダ作業遂行測定(以下,COPM)によって挙がった散歩に焦点をあて,活動の自己管理能力を促すために「疼痛をコントロールして散歩ができるようになる」ことを目的として,活動日記を実施した.事例は,活動日記を通して散歩に対する達成感から,自己効力感が向上し,活動量に対する自己管理能力を獲得した.また,COPMにおいて散歩は遂行度2から8,満足度2から8へと向上した.本事例を通して,TKA後患者に対する活動日記を取り入れた作業療法実践の有用性が示された
著者
青山 克実 豊嶋 明日美 小林 暉尚
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.96-102, 2019-02-15 (Released:2019-02-15)
参考文献数
16

今回,筆者らは生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を用いて,統合失調症の40代男性(以下,A氏)の地域生活移行支援を経験した.MTDLPの補助ツールとして,運動技能とプロセス技能評価(AMPS)を用いた.我々は,多職種連携支援をマネジメントし,A氏が退院後に必要で大切な食事の準備に焦点をあてた介入や,退院後の再発予防に対する心理教育などを行った.その結果,生活に対する有能性や認知機能障害が改善し,地域生活にスムーズにつながった.MTDLPは,統合失調症者の地域生活移行支援として有用なマネジメントツールだと考えられた.
著者
倉 昂輝
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.804-812, 2021-12-15 (Released:2021-12-15)
参考文献数
18

課題指向型アプローチは,発達性協調運動症を有する小児に対してエビデンスが示された介入方法である.今回,短縄跳びの連続跳躍が困難な発達性協調運動症と注意欠如・多動症を有する年長児を経験した.本症例の短縄跳び動作に対して課題指向型アプローチを実施した結果,適切な段階付けと難易度調整,高い内発的動機付けの持続,主体的な取り組みを促す関わりにより,前跳びおよび後ろ跳びの連続跳躍回数が向上した.短縄跳びは,発達性協調運動症児にとって困難を呈することの多い活動の1つである.課題指向型アプローチは発達性協調運動症児が抱える多様な困り事に対して,個々の段階に合わせた介入方法として有用であることが示唆された.