著者
中村 友美 山根 寛 山田 純栄
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.359-370, 2016-08-15

要旨:昨今の精神科医療の改革に伴う作業療法プログラムの整備状況と課題を明らかにするため,協力の得られた32施設にプログラムに関する質問紙調査を行った.精神科病床100床未満の公的総合病院では急性期プログラムが整備されていたが,100床以上の民間精神科病院では慢性期対象の大集団プログラムが中心で,急性期や退院促進プログラムが不足し,半数以上は全体でのリハビリテーション検討体制がなかった.プログラムの問題は約8割の作業療法士が認識し,プログラム整備が困難な要因には民間病院の収益性や診療報酬の問題が共通し,施設の構造や体制,作業療法士の認識や技能,他職種との連携に関する問題も相互に関係していることが示唆された.
著者
伊賀 博紀 澤田 辰徳 藤田 佳男 内野 まどか 山崎 彩音
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.616-624, 2021-10-15 (Released:2021-10-15)
参考文献数
27

本研究の目的は脳損傷者の自動車運転評価の合否判断を元にVFITのカットオフ値を算出することである.対象は運転評価を受けた65歳以下の脳損傷患者104名であった.医療記録から検査結果及び最終判断結果(運転可/不可)を抽出し,VFITの各項目に対してReceiver Operating Characteristic曲線およびArea Under the Curveを求めた.その結果,Go/no go課題検査のカットオフ値は98%であった.二重課題検査の各Stageのカットオフ値はStageⅠはカットオフ値が60.5%,StageⅡは66.5%,StageⅢは64.5%,StageⅣは54.5%であった.VFITのカットオフ値は今後の自動車運転支援の一助となる可能性が示唆された.
著者
中島 裕也 酒井 涼 杉本 志保理 小林 康孝
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.665-673, 2021-10-15 (Released:2021-10-15)
参考文献数
17

高次脳機能障害復職支援事例を通して,医療機関から就労支援機関へのシームレスな連携における作業療法介入を再考し,職務選定に係る整理票(以下,整理票)を用いた職場支援の効果について検討した.支援では,休職・所得保障期間を把握し,職業準備性を高めつつ就労支援機関と連携を図った.また整理票を用いて復職時の職務内容を再設計し,配置転換での復職に至った.シームレスな連携には,復職に関する情報,職業準備性の状態,就労支援機関の機能など総合的な視点を持ち,復職プランを見立てる作業療法介入が必要と考えられた.また,整理票を用いて職務内容を再設計することが職場支援への一助になることが示唆された.
著者
小林 竜 小林 法一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.608-615, 2021-10-15 (Released:2021-10-15)
参考文献数
16

回復期リハビリテーション病棟の脳卒中患者46名を対象に「家事再開予測モデル」の外的妥当性を検証した.回復期病棟退院時に,家事再開予測モデルを用いて退院後の家事6項目(食事の用意,食事の後片付け,洗濯,掃除や整頓,力仕事,買い物)の再開状況を予測した.退院3ヵ月後にフォローアップを行い,実際の家事再開状況を調査した.家事再開予測モデルは項目ごとに判別的中率を算出し,ROC曲線のAUCにてモデルの予測能を評価した.結果,各家事項目における判別的中率は75.0~82.2%,AUCは0.71~0.86であった.本研究により,家事再開予測モデルは中等度の予測能を有していることが示された.
著者
小川 真寛 澤田 辰徳 三木 有香里 林 依子 真下 高明
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.149-158, 2016-04-15

要旨:本研究の目的は回復期リハビリテーション病棟入院中の患者の能力から退院後の公共交通機関利用の可否を予測することにある.退院後の電車およびバス利用の有無を調べ,その有無で分けた2群間で入退院時の能力を比較した.ロジスティック回帰分析の結果,電車利用の予測に選択された入院時の因子は年齢とFIMの運動項目の合計スコアであった.バス利用の予測に選択された入院時の因子は年齢とFunctional Balance Scale(以下,FBS)であった.退院時の能力は電車およびバス両方でFBSのみが選択された.この知見を利用し公共交通機関の利用可能性がある対象者を早期より見定め,適切な外出手段が獲得されるようにアプローチする必要がある.
著者
池知 良昭 井上 桂子 小野 健一 金山 祐里
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.87-98, 2021-02-15 (Released:2021-02-15)
参考文献数
16

要旨:終末期がん患者に関わる作業療法士は,自らの役割が不明瞭であり自信がない.本研究の目的は,当該領域の作業療法士の役割を明確にし,実践自己評価尺度の内容的妥当性を検討することである.文献検索と専門家会議にて項目を抽出し,当該領域の作業療法士にアンケートを実施した.その後,天井効果・フロア効果,最頻値,度数分布,非該当数を検討した.結果,グリーフケアの設問にフロア効果を認め,復職・セクシャリティは非該当が多かった.予後未告知の患者と,死に関して話さないとの意見があった.最終的に77項目が採用され,本尺度の内容的妥当性が確保されたが,今後さらに,項目相関係数やCronbach α係数等の内容的妥当性の検討が必要である.
著者
三原 孝太 丹野 拓史 坂上 真理
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.527-534, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
10

要旨:本報告の目的は,現状に絶望しベッドの中に塞ぎ込み,行いたい作業を聞き取れる状態にない高齢者が,自ら人との関係を大切にして過ごすまでに至った介入経過を振り返り,彼女に変化をもたらした要因を検討して報告することである.介入では,作業歴の面接で彼女が「人との関係」を重視することを捉え,過去と類似する経験ができるように相手の選択と共作業や日常生活場面の相互作用を促す環境設定を行い,彼女が重視する関係を段階的に作る支援をした.その結果,彼女の関係は重要他者との2者関係から,他の入院患者達との関係へと広がった.行いたい作業を聞き取れない場合でも,対象者にとって大切な経験を探り,作業に焦点を当てた支援が重要である.
著者
横井 安芸 石井 良和
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.190-201, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
33

本研究では「高齢者の生活期リハビリテーションに携わる作業療法士のコンピテンシー項目(案)」の自己評価尺度を開発する目的で信頼性・妥当性を検討した.調査対象は,生活期リハビリテーションに従事する作業療法士とし,得られた363名の有効回答について,回答の偏りを確認後,探索的因子分析を行った.その結果,本尺度は30項目5因子構造であることが推察された.この予測をもとに共分散構造分析を実施したところ,適合度指標CFI=.921,RMSEA=.055で良好な構成概念妥当性を有していることが確認された.また,信頼性はCronbach’s α=.79〜.95で内的整合性が保たれていることが明らかとなり,本尺度は十分な信頼性・妥当性を有していることが示された.
著者
小林 竜 小林 法一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.430-439, 2019-08-15 (Released:2019-08-15)
参考文献数
26

本研究の目的は,回復期リハビリテーション病棟退院後の在宅脳卒中者における家事再開の予測因子を明らかにすることである.退院後の家事再開状況は,改訂版Frenchay Activities Index自己評価表を使用し,食事の用意,食事の後片付け,洗濯,掃除や整頓,力仕事,買い物の6項目について調査し,退院時の機能・能力,本人を取り巻く社会的環境などとの関連を調べた.分析対象者は128名であった.ロジスティック回帰分析の結果,10m最大歩行速度や性別,家族形態などの予測因子が複数選択された.回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中者に対して家事再開へ向けた支援を行う際には,これらの因子を考慮した多角的な支援の重要性が示唆された.
著者
諸星 成美 京極 真
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.273-280, 2021-06-15

要旨:本研究は,身体障害を有する地域在住高齢者の作業的挑戦の特性をクラス分類し,作業参加,抑うつ,人格特性との関連性を検証した.データ収集は,調査用紙を用いて対象者から回答を得た.分析は,記述統計量の算出,潜在クラス分析,多項ロジスティック回帰分析を実施した.結果,作業的挑戦には,肯定的な作業的挑戦,危うい作業的挑戦,否定的な作業的挑戦の3つの特性があることがわかった.そして,肯定的な作業的挑戦に影響を与える因子には,生産的活動やセルフ・ケアへの作業参加,抑うつの身体症状やポジティブ感情,協調性や勤勉性の人格特性があった.本研究により,作業的挑戦への介入のための解釈可能性が広がると考えられる.
著者
松本 健太郎 佐野 伸之
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.329-335, 2021-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
12

作業療法では,対象者の生活行為がやり遂げられるように,意欲を引き出す支援が重要となる.今回,人工股関節全置換術後患者に対して,自己評定法に加えて半構造的面接法を併用することで,対象者の目標に対する意欲や生活行為への参加を高められた介入手順について報告する.リハビリテーションに関する達成動機尺度の得点から達成動機の状態を把握し,面接法により事例の作業参加につながる目標,行動計画,周囲のサポートについて合意形成した.その内容を視覚的に意識づけし適宜修正することで,事例の達成動機の向上や積極的な行動変容が窺えた.達成動機の観点から面接法を併用することで,サポート内容を明確化することが期待できる.
著者
今井 忠則
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.304-313, 2019-06-15 (Released:2019-06-15)
参考文献数
24

意味のある作業への従事(作業参加)は,健康・well-beingにとって重要だが,その疫学的根拠は乏しい.本研究では,作業参加が健康関連QOL(SF-36v2で測定)に及ぼす1年間の影響を明らかにすることを目的とし,地域中高年者460名を対象に1年間の追跡調査を実施した.各自の作業参加の変化量により「維持・向上群」と「低下群」を設定し,SF-36v2の各尺度の群間差と群ごとの継時的変化を検討した結果,維持・向上群の方がSF-36v2の全尺度で良好であった(p<.05).さらに肯定的影響は早期に発現しその後維持される傾向が,否定的影響は半年以上の期間を経て発現する傾向が見出された.本結果は,健康増進・予防的作業療法の疫学的根拠の一つとなる.