著者
三木 恵美 清水 一 岡村 仁
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.48-59, 2009-02-15

要旨:末期がん患者のQOL向上を目指した作業療法実践が報告されているが,その効果を包括的に測り得る評価尺度が明確ではないために,介入効果に関する研究は十分に行われていない.そこで,作業療法士が患者のどのような変化を効果として捉えているかを明らかにするため,半構成的面接を行い質的に分析した.その結果,患者の変化として7カテゴリ,家族の変化として3カテゴリ,人的環境の変化として2カテゴリが得られ,カテゴリは相互作用により患者の生活に良循環を起こすと考えられた.得られたカテゴリは作業療法士がアウトカムとして認識したものであり,末期がん患者に対する作業療法の効果を計る指標として利用できると考えられた.
著者
櫻井 友実 橋本 健志 四本 かやの
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.273-281, 2020-06-15 (Released:2020-06-15)
参考文献数
38

本稿の目的は,我が国における精神障害(者)に対する偏見について,偏見が弱い人の属性や偏見を低減する効果的な介入を検討するために現段階で信頼性の高い一定の知見を得ることである.医中誌WebとCitation Information by NII(CiNii),J-Dream Ⅲで文献検索し,検索範囲は2002年1月1日から2017年10月13日とした.検索の結果,1,906編中13編が分析対象となり,その結果,偏見が弱い人の属性は,精神障害者との接触があることと知識があることの2点である可能性が示唆された.精神障害者に対する偏見を低減するための効果的な介入は,精神障害者と『共に作業』することと,普及啓発活動だと考えられる.
著者
中村 泰久 島田 慧人 穴水 幸子 三村 將
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.365-371, 2020-06-15 (Released:2020-06-15)
参考文献数
18

統合失調症の認知機能障害に対しCognitive Remediation Therapy(CRT)の効果が報告されている.さらに介入効果を社会生活能力へ般化する上で発散的思考の影響が注目されている.今回,CRTのVCAT-Jを実施したところ,認知機能の改善に伴い発散的思考の質が高まり,日常生活での行動変容を認めた事例を経験した.介入初期はゲーム課題への取り組みだけであったが,中期以降はゲーム課題から自身の記憶の苦手さを自覚し,工夫する様子が見られ,ブリッジングのグループワークで意見交換が多くなった.介入経過と介入前後の評価尺度スコア変化などから,CRTの介入効果として,認知機能の改善,発散的思考,日常生活の行動変容を認める可能性が示唆された.
著者
石垣 賢和 竹林 崇 前田 尚賜 久保木 康人 高橋 佑弥
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.575-584, 2019-10-15 (Released:2019-10-15)
参考文献数
18

回復期の脳卒中後上肢片麻痺者に対し,15日間のロボット療法の効果検証を行った.対象は,2015年6月から2018年8月の期間に当院に入院した,初発の脳卒中後上肢片麻痺者のうち,15日間のロボット療法を実施した群(介入群)と,1ヵ月間の通常訓練を実施した群(対照群)とした.方法は,介入群と対照群で傾向スコアマッチングを実施し,Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA)肩・肘・前腕の変化量を比較した.結果は,介入群36名,対照群62名で,22ペアがマッチングされた.FMA肩・肘・前腕の変化量は,介入群が対照群に比べ有意に改善を示した.ロボット療法を用いた介入は,効率的に回復期の脳卒中患者の上肢機能を改善させる可能性がある.
著者
林 良太 黒田 健治 田中 宏明 稲富 宏之
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.231-238, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
14

本報告の目的は,自傷行為を繰り返すうつ病患者に対して,多職種協働の中でストレス対処行動獲得のために実施された作業療法の効果を検討することである.症例はうつ病患者で,自傷行為がストレス対処行動として用いられていると考えた.多職種協働の介入目標を「自傷行為の減少」として,作業療法では,新しいストレス対処行動の獲得,ストレス要因の改善,ストレス要因に対する症例のとらえ方に介入した.その結果,自傷行為は減少し,新しいストレス対処行動の獲得を認めた.多職種協働の中で,ストレス対処行動の形成化,ストレス要因の改善,認知的柔軟性を獲得し,日常的に実践可能となるような介入により自傷行為の減少に繋がる可能性が示唆された.
著者
田中 啓規 寺岡 睦 佐伯 昌彦
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.436-444, 2016-08-15

要旨:作業に根ざした実践2.0(Occupation-Based Practice 2.0;以下,OBP 2.0)は,クライエントの作業機能障害の種類を評価し改善しつつ,クライエントを取り巻く環境で生じる信念対立に対処していく方法論である.本報告では,子育てに困難さを抱える脳性麻痺のあるクライエントの母親に対して,OBP 2.0を用いた評価と介入を実施し,発達領域の作業療法におけるOBP 2.0の臨床有用可能性を考察した.その結果,子育てに重要な役割を持っていた母親に対する作業機能障害の種類と信念対立への評価と介入が,適応的な子育ての形成に有用であった.脳性麻痺のあるクライエントの母親に対してOBP 2.0を用いた評価と介入を実施し,良好な結果を得たので報告する.
著者
寺岡 睦 京極 真
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.249-258, 2014-06-15

要旨:本論では,作業に根ざした実践(occupation-based practice;以下,OBP)の新理論であるOBP 2.0の理論と実践を示した.従来のOBPは作業機能障害の解決に取り組むが,信念対立によって制約される限界があった.本論で示すOBP 2.0は,作業機能障害の種類と信念対立解明アプローチを理論統合し,ひとつの理論で2種類の問題に対応できるように構築した.また本論では臨床実践におけるOBP 2.0のモデル提示を行った.OBP 2.0は,作業療法の新理論として有益であると考えられた.
著者
田中 千都 四本 かやの 田中 究 橋本 健志
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.189-197, 2015-04-15

要旨:強迫性障害の中でも重度の強迫性緩慢は,薬物療法や行動療法が十分な治療効果を示さず,社会的孤立や著しい生活機能の低下につながると言われている.症例は強迫性緩慢が著しくADLに長時間を要し言語的コミュニケーションが困難な若年女性であった.機能的自立度の改善を目的とし,生活に困難をもたらしているADLと対人面の具体的な活動に焦点化し能動性の改善を図る作業療法を行った結果,強迫性緩慢は軽減しADLと対人面は改善した.また,その後5年のフォローアップ期間も症状再燃することなく機能は保たれ地域生活を送っている.以上から,重度強迫性緩慢の患者には遂行困難な活動に対して能動性の改善を図る作業療法が有用であると示唆された.
著者
新宮 尚人 落合 美穂 河合 桃子 竹辺 雅美 安藤 晶仁
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.253-261, 2003-06-15

要旨:長期入院患者に対して,社会復帰プログラムの特徴を取り入れた,オープングループの教育セッションを試みた.そしてその役割は,①社会復帰へ向けて必要な技術を学ぶ前段階として,入院生活での対人トラブルを回避したり,病気についての理解や障害とうまく付き合う方法を見つけていくきっかけとなる,②オープングループという場の構造は,患者ニーズの把握と相互理解の場として機能している,③他職種との連携により,患者のトータルな問題評価とそれに基づいた効果的なリハビリテーションを展開できる可能性を含んでいる,という3点にあるように思われた.
著者
日比野 慶子
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.282-289, 1992-08-15

要旨:25歳で発病し,3年5ヵ月の入院を経て退院した精神分裂病の症例に,2年2カ月余り作業療法を実施した.激しく多彩な強迫症状のために他者とのトラブルが絶えず,どこにも居場所のない症例であったが,現在は退院してデイ・ケア通所が続いている. 作業療法の経過の中で,症例とOTRの患者—治療者関係,すなわち対象関係の発展がみられ,それをMahler, M.の分離—個体化理論を治療仮説として考察した.また,症例にとっての活動の意義も考察した. 作業療法の原点は“活動を媒介とする患者—治療者関係の確立にある.”ということを改めて考えさせる症例であった.
著者
村上 元 森元 隆文 三浦 由佳 池田 望
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.248-254, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
11

今回,地方都市において,“誰でも参加できるSST”を当事者と協働で実施する経験を得た.経過の中で,医療・福祉の枠外で立場に関係なく誰でも参加できるという場の構造の不安定さと,それ故に起こったトラブルやその前兆への対処など様々な課題はあったものの,その場に継続的に,かつ主体的に参加して新しい仲間づくりを行う者も多く存在した.このことから,医療・福祉の枠を超えて作業療法士が地域において実践を試みることで,当事者・家族を含む地域住民の健康やつながりの構築に寄与する可能性が示唆された.一方で,その実践には,運営スタッフとプログラムが開催される地域の支援者とのつながり,当事者との協働が必要と考えられた.
著者
小野 健一 藤原 大輔 川上 孝行 金山 祐里
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.210-216, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
18

認知症の人とその家族介護者への支援は,両者の在宅生活を維持するために重要である.今回,訪問作業療法場面で,認知症高齢者と家族介護者2組に対し,共作業支援尺度を用いた共作業支援プログラムを実施した.共作業支援尺度から提案された改善したい共作業への作業療法介入を行った結果,認知症高齢者のBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia(以下,BPSD)の重症度と,家族介護者のBPSDから生じる介護負担感,共作業継続意志得点の改善が,2組共に見られた.両者の行う共作業への介入により,家族介護者の共作業の遂行能力が改善し,結果として両者にとって,より満足のいく在宅生活につなげられる可能性が示唆された.
著者
木村 由貴 竹林 崇 徳田 和宏 海瀬 一也 藤田 敏晃
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.423-429, 2017-08-15

要旨:脳卒中患者は脳卒中によって上下肢の麻痺が生じる.特に上肢麻痺は脳卒中患者のQOLを低下させる.複数の研究者は,分枝粥腫病(Branch Atheromatous Desease;以下,BAD)の上肢の機能予後は,通常の脳卒中に比べ,不良と報告している.今回,我々は入院後2日の間に麻痺の悪化を認めた中等度の上肢麻痺を呈したBAD患者を担当した.急性期から,上肢麻痺に対して対象者の意味のある作業を用いた課題指向型アプローチを提供した結果,上肢機能は臨床上意味のある最小変化を超える改善を認めた.本事例報告では,経過と結果について,BADの梗塞の深さ,梗塞層の大きさ,さらには発症当初の身体機能を用いた予後予測に関する考察を加えて報告する.
著者
上杉 治 山根 伸吾
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.335-343, 2019-06-15 (Released:2019-06-15)
参考文献数
8

本報告の目的は,難渋する高次脳機能障害をもつ事例に対して行った介入のリーズニング過程を構造化し,介入方法の一助とすることである.事例は,左中大脳動脈梗塞後,多彩な高次脳機能障害を呈し,入浴や更衣,家事といった生活障害があった.介入では,本人,家族に面接を行い,Mattinglyの指摘する叙述的リーズニングの視点から捉え,本人,家族の価値を重要視した.また,介入方法を考察する際には,同じくMattinglyの科学的リーズニングの側面から捉えた.結果,事例は更衣,入浴,家事の一部を獲得した.
著者
工藤 梨紗 沼田 士嗣 村田 和香
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.473-480, 2015-08-15

要旨:養護老人ホームへの入所によって役割を喪失し,身体機能およびADLの低下が認められた脳出血後遺症をもつ70歳代女性に,本人が重要と感じている作業に従事することを支援した.提供された作業の成功体験を基に,その他の作業へも挑戦し役割を獲得することで,介助を受ける生活から積極的な生活を送るといった習慣の変化が生じた.この背景には,入院している「夫への報告」という意味のある作業が大きな影響を与えていた.作業療法の経過を振り返り,回数制限のある外来作業療法において,役割を獲得し習慣変化に影響を与える,意味のある作業への支援の重要性を考察した.
著者
今井 忠則
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.611-620, 2016-12-15

要旨:意味のある作業への従事(作業参加)は健康・well-beingにとって重要であるが,その関係性を疫学的に実証した研究は少ない.本研究では作業参加が生きがいに及ぼす影響を明らかにすることを目的に,健康な地域中高年者456名(男性121名,女性335名,平均年齢63.8歳,範囲50〜85歳)を対象に1年間の追跡調査を実施した.作業参加,生きがい,基本属性・社会経済的要因を調査し重回帰分析を行った結果,作業参加が生きがいに肯定的な影響(β=0.35,p<0.001)を及ぼし,1年間では余暇活動,生産的活動,セルフ・ケアの3領域全てで同程度の影響があることが明らかとなった.本研究結果は健康増進・予防的作業療法の基礎的・疫学的根拠の一つとなる.
著者
佐々木 洋子 高橋 香代子 佐々木 祥太郎 宮内 貴之 榊原 陽太郎
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.683-690, 2019-12-15 (Released:2019-12-15)
参考文献数
25

本研究の目的は,急性期脳卒中片麻痺患者の日常生活における麻痺側上肢の使用頻度に影響を及ぼす要因について,基本特性や身体機能,麻痺側上肢の使用方法に対する理解度の観点から,明らかにすることである.対象は発症から1週間以内の急性期脳卒中患者56名とした.多変量ロジスティック回帰分析の結果,麻痺側上肢の日常生活における使用頻度には,上肢麻痺の程度と理解度が影響することが明らかになった.この結果から,急性期の作業療法では,麻痺側上肢の機能改善を図ることに加え,麻痺側上肢の使用方法に対する理解度を評価し,日常生活での使用を促す介入が必要であると考えられた.
著者
平澤 勉 野際 陽子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.536-546, 2013-12-15

要旨:本研究の目的は,うつ病患者に対する作業療法の気分改善効果や不快な思考低減効果と,入院期間の関係を検討することである.対象者は精神科病院に入院中のうつ病患者105名.入院日数90日以内の回復期群と91日以上の慢性期群に分け,作業療法前後の気分および不快な思考体験とその反応を比較し,満足度との関係を分析した.気分と不快な思考の改善効果は回復期群でより良好であり,対象者の満足度に影響を与えていた.入院うつ病患者に対する作業療法において,ポジティブな気分を促す活動,集中をもたらし不快な思考を低減できるような活動の有効性が示唆された.
著者
原田 祐輔 長谷川 利夫
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.324-336, 2014-08-15

要旨:仕事のストレス要因とストレス反応の関連性を明らかにすることはストレス対処に寄与すると言われているが,作業療法分野において,働く領域ごとにストレス要因やストレス反応を比較した研究は見られない.本研究では,訪問リハビリテーションに従事する作業療法士(以下,訪問OTR)・病院に勤務する作業療法士(以下,病院OTR)を対象とした仕事のストレス要因,ストレス反応に関する実態調査を行った.結果として,訪問OTRは,病院OTRと比較するとストレスは低く,メンタルヘルスは良好であるということが示唆された.また,両群共にストレス反応に最も影響するストレス要因として「やりがい・適性」が抽出された.