著者
水野 高昌 鈴木 久義 奥原 孝幸 上原 栄一郎 山口 芳文
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.273-283, 2011-06-15

要旨:作業療法士が行っている感情労働に焦点をあて,作業療法士の業務において求められている感情労働の構成概念を明確にすることを目的に研究を行った.医療施設および福祉施設に従事する100名を選択し調査対象とした.調査方法は郵送によるアンケート調査で無記名の自記式とし,回収されたデータはBerelson Bの内容分析によって分析した.分析の結果,対象者への感情労働は9カテゴリーが抽出された.対象者への感情労働として抽出されたカテゴリーは,先行研究に類似したものと「プログラムの工夫」など作業療法士独自のものも見られ,本研究によって作業療法士が感情労働を行っていることが示唆された.
著者
石川 哲也 野々垣 学
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.307-314, 2012-06-15

要旨:本研究の目的はミラーセラピーが脳卒中患者の麻痺手に対する主観的認識の強度と質に及ぼす影響を調べることとした.対象は発症から2ヵ月以上経過した脳卒中患者3例.方法は通常の訓練に加え1日30分のミラーセラピーを6週間実施した.アウトカムの測定は上肢機能にFugl-Meyer Assessment,麻痺手に対する主観的認識の強度にVisual Analog Scaleを用い主観的認識の質は対象者の語りを聴取した.結果,上肢機能は1例で改善を認めた.また麻痺手の主観的認識は全例で強度の向上と,質の良性変化を認めた.3例の共通点と相違点から,ミラーセラピーは麻痺手に対する主観的認識の強度と質の改善に有効な方法である可能性が示唆された.
著者
塩津 裕康
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.344-350, 2019-06-15

要旨:本報告の目的は,限られた介入頻度でも,Cognitive Orientation to daily Occupational Performance(以下,CO-OP)を用いた介入の有用性を示すことである.方法は,2事例の事例報告で,介入はそれぞれ2回(約1ヵ月に1回)であり,その前後を比較した.結果は,CO-OPを用いることで,粗大運動および微細運動スキルどちらの課題でも,スキルを獲得することができた.さらに,最小限の介入頻度で,スキルの獲得およびスキルの般化,転移を導く可能性が示唆された.結論として,CO-OPの適応児の選定に検討の必要性はあるが,認知戦略を発見および使用できる子どもに対しては,有効である可能性が示された.
著者
外川 佑 村山 拓也 佐藤 卓也 﨑村 陽子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.599-608, 2017-12-15

要旨:本研究では,半側空間無視(以下,USN)軽度3症例の自動車運転評価結果を分析し,評価中の行動面の特徴に加え,運転再開につながる要因を見出すことを目的とした.全症例のBITがカットオフ値以上を示す一方で,シミュレータ検査や実車評価での車両位置偏位,車線左への脱輪,右方向への接触などの特徴が観察された.また,再評価で運転再開可能となった症例では,運転に関する自己認識の改善がみられ,さらに全般性注意機能の改善が方向性注意機能の低下を補完した可能性が示唆された.USN軽度例の自動車運転評価では,シミュレータ検査や実車を用いて,潜在化したUSN症状のみならず,全般性注意機能の低下や病識の問題にも着目すべきである.
著者
藤田 佳男 三村 將 飯島 節
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.233-244, 2012-06-15

要旨:高齢運転者による事故が増加しており,その対策として免許更新時に認知機能検査が行われている.しかし認知機能と運転適性の関連は明らかでない.本研究では日常的に運転している高齢者20名を対象に認知機能検査,有効視野検査,実車評価を行いその実態とそれぞれの関係を調べた.その結果,認知機能検査の成績とは無関係に,ほとんどの者が高頻度に運転していた.また7名が過去1年間に物損事故を起こしていた.年齢や認知機能成績と運転頻度や運転への自信および実車成績との間には関連はなかったが,有効視野成績と実車成績には関連が認められ,有効視野検査は運転適性を予測する指標の1つとして有用であることが示唆された.
著者
吉田 裕紀 向 文緒
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.532-540, 2019-10-15

要旨:本研究では,若年層作業療法士の職業的アイデンティティ(Occupational Identity;以下,OI)に影響を与える因子を検討した.愛知県,岐阜県,三重県で勤務する35歳未満の作業療法士に郵送調査をし,アンケートは,回答者の個人属性,環境属性,OI測定尺度で構成した.その結果,有効回答率は36%となった.統計解析の結果,年齢,臨床経験年数と,OI得点間に弱い相関が認められ,後輩指導経験の有無,取り扱い件数目標の有無,多職種カンファレンスへの参加の有無による,OI得点に有意差が認められた.また,重回帰分析では,臨床経験年数,取り扱い件数目標の有無,多職種カンファレンスへの参加の有無の3因子に対する影響が示唆された.
著者
東 泰弘 松原 麻子 西川 拡志 西川 智子 高畑 進一
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.194-203, 2017-04-15

要旨:国外で標準化されているADL-focused Occupation-based Neurobehavioral Evaluation(以下,A-ONE)の本邦での信頼性と妥当性を検討した.A-ONEは,5領域22項目のADL観察を通して神経行動学的障害を同定する評価法である.信頼性は,4名の対象者のビデオ映像を用い評価者3名で評価者間および評価者内信頼性を検討し中等度以上の一致率を認め,妥当性は,22名の対象者にA-ONEとADL評価および各種高次脳機能検査を実施し両者間に中等度以上の相関を認めた.しかし評価しなかった項目や日本人の生活習慣に合致せず検討できなかった項目があった.今後の課題は,日本版A-ONEを作成し,すべての項目で対象者数を増やし信頼性と妥当性を検討することである.
著者
山崎 せつ子 鎌倉 矩子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.434-444, 2000-10-15

要旨:障害児の親であることを受容した親の適応過程は有用な情報を提供する.今回,自閉症児の親であることを受け入れた母親から,その過程の生活物語(子が6歳に至るまで)を聴取し,育児によせる思いの変遷と変遷を促した要因を検討した.その結果,この母親の思いは不安,闘争,運命への順応,障害の理解と究明への欲求,最適環境の追求,自己肯定と変遷したことがわかった.これらはDrotarらが示した先天奇形児の親の心理適応と大筋は一致したが,この母親の独自性をも示すものであった.思いの変遷を促した要因の中で,日常的出来事,母親自身の内発的力は特徴的だと思われた.一個人の詳細を知ることの意義が示されたと考える.
著者
長谷川 岳
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.556-561, 2016-10-15

要旨:本論は,家族の希望により約7年間長期入所し当施設で最期を迎えた事例に対し,洗濯を通して死去される前まで事例らしく生活を送れるよう援助できた実践の報告である.A氏は衣類の整理にこだわりがあった.そこで,A氏が在宅生活で行っていた洗濯が,役割のある作業になる可能性があるのではないかと考え,導入した.洗濯は,開始してから体調不良時以外,拒否することは一度もなかった.またA氏は家族に自己の存在をアピールするようになり,日々の生活の一部として定着した.また役割をもつことにより,自分が自分らしくいられる礎となった.そして洗濯を最期まで継続して行え,A氏らしく過ごすことができた.
著者
長尾 宗典 小林 隆司
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.637-645, 2018-12-15

要旨:介護保険下の通所リハビリテーション(以下,通所リハ)には,利用者を通所リハから他の社会参加の場へ移行させる役割が求められている.本研究では,以前に通所リハを利用していた脳卒中当時者4名にインタビューを行い,どのような経験を経て通所リハ利用を終了したのか,複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach:TEA)を用いて解明した.4名は生活や身体の改善実感を得て,生活への自信を強めて活動圏を拡大させていた.外部からの働きかけで,4名は通所リハ利用終了後にどんな生活を送るかに向き合った.通所リハ利用終了の際は,本人が送りたい生活実現に向け自己決定するプロセスが重要なことが示された.
著者
佐野 伸之 京極 真
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.229-238, 2016-06-15

要旨:介護予防事業では,高齢者の活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションが期待される.本研究の目的は,デイサービスを利用する217名に対して,作業参加と外出頻度や障害重症度,歩行能力,ストレス反応との関連を検討することであった.研究仮説に基づく構造方程式モデリングでの検証の結果,障害の重さは作業参加に抑制的に働き,作業参加は外出頻度を促し,ストレス反応を抑制する効果があった.また,歩行能力は外出頻度を促す働きがあった.作業療法士は,クライエントの障害重症度に配慮しながら,本人にとって大切な活動への関わりを改善することで,社会参加の充実や精神的に安定した生活に結びつける支援が行えると考えられた.
著者
北村 新 宮本 礼子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.392-402, 2018-08-15

要旨:日本の作業療法領域におけるグラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,GTA)による研究の現状と課題を文献検索で検討した.使用されているGTAの種類の調査,内容分析による研究目的の分類,Consolidated Criteria for Reporting Qualitative Research(COREQ)を使用した報告内容の分析を行った.2001年から2016年にかけて33文献が検索され,GTAの種類は,修正版が21件と最も多かった.研究目的は8カテゴリーに分類され,クライエントやその周囲の人の思い・経験に焦点を当てたものや,家族や他職種との社会的相互作用が挙げられた.報告内容の分析から,研究結果の信憑性や正確性に関わる複数の記載不足が,研究の質を高めるうえでの課題であった.
著者
塩津 裕康
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.81-88, 2017-02-15

要旨:脳卒中を呈したクライエントに対して,Cognitive Oriented to daily Occupational Performance(CO-OP)を基盤とした訪問作業療法を実施した.この実践では,自身の目標であった調理などの作業を,問題が生じない方法を自ら考えながら練習することで,それらの技能も獲得できた.この経験を牡蠣養殖の仕事といった他の作業へ応用することにより,その技能を獲得することができた.在宅における自立支援を考えた際に,自ら問題に気づき対処する方策を獲得することは非常に重要であり,本実践の有用性が示唆された.加えて,一連の技能獲得に麻痺手を有効活用するなどの計画を立てたことで,麻痺側の上肢使用頻度が向上し機能も回復した.
著者
澤田 辰徳 建木 健 藤田 さより 小川 真寛
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.167-178, 2011-04-15

要旨:本研究は,「作業療法」と「リハビリテーション」に対する一般市民の認知度を調査することを目的とした.2つの言葉に対する街頭アンケートを4都道府県で行った結果,542人からのデータが得られた.得られたデータはテキストマイニング手法により分析し,クラスター解析を行った.2つの言葉は各11のカテゴリーに分類された.「リハビリテーション」の構成要素は機能回復に関連しているものが多かった.「作業療法」は抽象的な内容やわからないというものが混在していた.これらのことから,一般市民にリハビリテーションという言葉は認識されつつあるが,作業療法という言葉そのものや,作業療法の内容に関する認識は低いことが示唆された.
著者
竹田 里江 山下 聖子 宮田 友樹 竹田 和良 池田 望 松山 清治 船橋 新太郎
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.384-393, 2016-08-15

要旨:日常生活場面を取り入れ,個人の興味・関心に配慮したワーキングメモリ課題を開発し,保続性の反応を呈する統合失調症患者に実施した.その結果,保続性の反応が改善し,BACS-Jのワーキングメモリ,運動機能,遂行機能の改善を認めた.また,意欲や活力,心の健康の改善が得られた.これらの結果は2回目介入時に再現性を認めた.本課題は,実生活の一場面をモデルに,思考・計画・判断・意思決定をするという特徴をもち,個人の興味・関心や遂行能力にテーラーメイドできる.興味・関心に配慮することは,課題に対する注意集中,記憶,思考,選択のしやすさに繋がり,潜在能力を喚起し,認知機能や意欲の改善に寄与することが示唆された.
著者
竹田 里江 竹田 和良 池田 望 松山 清治 石合 純夫 船橋 新太郎
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.452-462, 2012-10-15

要旨:ワーキングメモリ機能,目的志向的行動の計画や実行など前頭連合野機能を基盤にし,個人の興味・関心や遂行能力にテーラーメイド可能な訓練を開発した.今回,アルツハイマー型認知症の1症例に施行したところ,語の流暢性,抑制コントロール,記憶機能に向上を認めた.また,日常生活面での記憶,見当識,会話に改善が得られ,うつ状態評価尺度や症例の感想から情動面の改善も示唆された.本訓練は実生活に密着した内容で,対象に合わせて課題の難易度や題材を設定できる.単なる反復的な記憶訓練ではなく過去の記憶やアイディアの創出を刺激することを意図している.こうした特徴が症例の認知・情動の両側面の機能改善に寄与したと考えられた.
著者
小渕 浩平 竹林 崇 松井 克明 堀内 博志 中村 裕一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.222-229, 2019-04-15 (Released:2019-04-15)
参考文献数
18

中等度の上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対し,急性期よりCI療法(量的練習,課題指向型練習,介入で獲得した機能を生活に転移するための戦略)と,電気刺激療法を併用した複合的な上肢集中練習を実施した.さらに,退院後,長期的効果を調査するため1年後の経過を追った.その結果,介入直後および介入から1年後に,麻痺側上肢機能と,実生活における麻痺手の使用の頻度および質の改善を認めた.したがって,我々はCI療法を急性期より実践することで,長期的にも好影響を及ぼす可能性を示唆した.ただし,今回の結果は一症例の経過に過ぎない.今後,多数の症例で同様の疑問を明らかにする必要がある.