著者
吉野 正敏
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.149-160, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28

この論文は先ず気温・霜・降雨・霧・日照などの気候条件について論じ,次にそれらがゴム,茶,米,サトウキビなどの栽培に与えるインパクトについて論じた。寒波はまれではなく,上記の熱帯作物にひどい被害をもたらす。斜面では冬もなく夏もないよい気候は1,300mから1,650の高度に認められる。谷間や盆地底では周辺の斜面とは異なる条件をもっており,違った作物栽培や異った収穫季のために利用される。春の干ぽつは年によりひどい。灌潮iがその対策のために必要である。また,気候変動,寒波,局地循環などの気候条件が西双版納の山地農業の発展を考える上で重要であることを論じた。
著者
安成 哲三 田 少奮
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.161-169, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

中華人民共和国の雲南省全域における寒波の時空間構造を,28年間 (1958~1987) の冬 (12, 1, 2月)の月平均気温偏差に主成分分析の手法を適用することにより調べた。また,卓越する寒波のモードが,中国全域に影響を及ぼす寒波の卓越モードと,どのような関係にあるかを,中国全土160地点の同じデータの主成分分析の結果と比較することにより,考察した。その結果,雲南省全域で最も卓越する寒波の型は,より巨視的にみると,チベット高原から雲貴高原,さらに華南南部にかけての山岳・丘陵地にのみ集中して襲来する寒波(雲南モード)に対応していること,これに対し,長江の中・下流を中心として中国平原部全域に最も卓越する寒波(平原モード)の影響は,雲南省では比較的小さく,よりローカルであることがわかった。雲南モードの寒波は,チベット高原から吹き降りて来る寒気団と,高原北(東)縁を地形に沿って流れ降りて来る沿岸ケルヴィン波的な寒気団の振舞いが重要であることも示唆された。 これら二つの寒波のモードに対応する大規模循環場を,北半球全域の500mb高度偏差と,地上気圧偏差の合成図手法により,調べた。その結果,雲南モードは,偏西風の遙か風上側である,ユーラシア大陸西部と北大西洋からグリーンランド付近での循環場の偏差と密接に関連していること,これに対し,平原モードは,中国北東方のシベリア中・東部での低指数型循環と寒気団の南下に,より直接的に対応していることが明かとなった。
著者
永塚 鎮男 漆原 和子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.170-178, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
8

海南島は,亜熱帯から熱帯への移行帯に位置しているとともに,降水量の多い東部から乾燥した西部へ向かって湿潤度が次第に低下しているため,成帯性土壌の分布様式もかなり複雑である。この島の成帯性土壌型の国際的土壌分類体系における位置づけを明らかにするために,代表的な土壌型であるラトソル(傳紅壌),ラテライト性赤色土(赤紅壌),鉄質ラトソル(鉄質傳紅壌)の3種の土壌断面について一般理化学性,粘土鉱物組成,鉄化合物の存在様式を分析し,アメリカの分類体系, FAO-Unescoの分類体系ならびにフランスの生態的土壌分類体系における分類単位との対比を試みた。対比の結果は以下のとおりである。 1) 5ケ月間の乾季がある亜熱帯ないし熱帯季節雨林気候下のラトソルはオキシックロドアスタルフ(USA), クロミックリキシソル (FAO-Unesco), 典型的熱帯鉄質土(フランス)にそれぞれ対比される。 2) 乾季が4ケ月間ある亜熱帯季節雨林気候下のラテライト性赤色土は,オキシックハプラスタルト (USA), ハプリックアリソル (FAO-Unesco), 塩基未飽和熱帯鉄質土(フランス)にそれぞれ対比される。 3) 亜熱帯ないし熱帯雨林気候下の鉄質ラトソルは,トロペプティックハプロルソックス (USA), ローディーックフェラルソル (FAO-Unesco), フェリソル(フランス)にそれぞれ対比される。したがって,海南島のいわゆるラトソルやラテライト性赤色土は真のラトソル(オキシソルあるいはフェラルソル)のカテゴリーには入らず,鉄質ラトソルだけがかろうじて真のラトソルに属すものと見なされる。
著者
高橋 英紀 中川 清隆 山川 修治 田中 夕美子 前田 則 〓 永路 謝 羅乃 曽 平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.179-191, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

中国海南島の北部にゴムの木のプランテーションが展開されている農場(林段)があるが,そこで1986年4月から1989年3月までの3年間に観測されたデータを基に,微気象特性を調べた。粗度,地面修正量,ゴム林のキャノピーを通過する放射透過率など空気力学的パラメーターは,落葉前後で明らかに異なる。キャノピー上の短波放射のアルベードは,冬季には10%であるが,夏季と秋季には16%になる。落葉後,キャノピー上の顕熱フラックスが増加すると,潜熱フラヅクスは急激に減少する。林床上における顕熱フラックスは1日を通して非常に小さい。また,夜間には,負の正味放射による熱の損失があるが,それは地熱フラックスにより補償されることなどが明らかとなった。
著者
阿部 和俊
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-24, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
5
被引用文献数
3 3

本稿の目的は,日本の首都東京を経済的中枢管理機能という高次都市機能の分析を通して,日本におけるその地位を検討することである。 都市機能の観点からみると,現在の東京を特色づけているのは何よりも大企業本社の集中である。本稿では,日本の民間大企業と日本における外資系企業の本社立地の分析を通して,首都東京の姿を浮き彫りにすることを目的とする。 我が国においては,民間企業本社の東京集中は著しい。しかし,東京への本社集中はとりたてて最近の現象ではない。それは早い時期からみられたのであり,今でもそれが強まりつつ継続している状態であると言えよう。そのことは当然の結果として,日本第2位の都市たる大阪の東京に対する相対的地位低下という事態を招いた。しかも,その傾向は今後しばらくの間は続くことが予想された。 外資系企業本社の立地動向をみると,日本の企業以上に東京への集中は激しく,東京と他都市との差は大きなものであった。
著者
高橋 伸夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.25-33, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
6

地域の動態に作用する資金の役割はきわめて大きい。本論は東京が近年国内外の資金をいかに吸引し,都市の内部を変容させるととも,他地域との結合をいかに進めているかを考察しようとする。 東京は全国から資金を吸収し,民間金融機関のとくに貸付機能に特化している。近年,東京都心部は銀行をはじめ金融機関の店舗密度をますます高めつつある。このような都心部への金融機関の極度な集積傾向は,世界の大都市にみられる「シティ (City) 現象」と同様な様相を呈している。すなわち,シティ現象とはロンドンの旧市街のCityのような都心部に典型例が見い出せるように,金融機能や経済中枢管理機能によって,ある地区がひたすら占拠されてゆく過程である。 近年,国内外の資金流動の活発化,金融機関業務の国際化,円の国際化などによって,「金融の国際化」・「金融のグローバリゼーション」が急速に進行し,外国銀行や外国証券会社が東京を中心に日本に進出してきている。 東京のような大都市においては,金融機能と本社機能が中核になって中心業務地区が形成され,貸付空間がそこに明確に画定されうる。一方,近年,副都心が形成され多核的な新たな貸付空間が生じている。同時に,人口の郊外化とともに預金空間は外縁部へ向けて拡大しつつある。東京のような大都市は,それ自身の大都市圏からの資金の吸収にとどまることなく,全国の中小都市から広範囲にわたって資金を吸引するため,二重構造をなす預金空間を有する,さらに,近年,金融の国際化によって,東京のような大都市には世界に広がる金融空間を操作する高次な金融機能が集積し,三重構造をなす金融空間が形成されている。 東京における国内外の金融機関の極度な集積は,地価の高騰をはじめとした都市問題を引き起こすとともに,都心部の再開発や東京湾岸のウォーター・フロントの利用などにみられるように,都市計画の施行を回避できない状況に至らせている。
著者
アジズ M.M.
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-13, 1989-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
48

本研究はクウェートにおける3大死亡原因を地域的に考察したものである。クウェートの人口は,クウェート人と非クウェート人の2つの明瞭に異なるコミュニティから成り立っており,両グループの社会的,経済的,人口学的性格は死亡の分布に大きく影響している。 死亡率は,死因に関する国際的分類により10万人ごとに算定した。主な死因は腫瘍,循環器系疾病,事故傷害の3つで,これらで全国の死亡の3分の2近くを占める。特に循環器系疾病による死亡率は高く,次いで事故傷害,腫瘍の順である。 クウェート人の間の死亡率は非クウェート人のそれよりも高い。また,両コミュニティとも,女子より男子の方が死亡率が高い。地域的には,クウェート市を含む首都地区とジャハラ地区で特に高い。移民は,事故傷害にかかりやすい。
著者
溝口 常俊
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.14-34, 1989-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

焼畑村落の変容過程を江戸時代初期から現在にわたって明らかにすることが本稿の目的である。従来の研究において,焼畑は時代が下ると少なくなると信じられていた。しかし,白川郷を対象とした本研究においては反対の結果が得られた。すなわち,焼畑は江戸時代初期から明治後半にかけてむしろ増えてきたのである。生産性の乏しい地域にもかかわらず,この時期に人口が増えているのは膨大な焼畑開墾によるものと考えられる。焼畑が減り始めたのは明治後半以降のことである。 焼畑主要地は居住地周辺から遠ざかり,山地の緩やかな斜面から急な斜面へと移っていった。農業的な土地利用の変容過程として,仮説の一つとして唱えられていた焼畑から水田という変化は白川郷では認められず,ほとんどの焼畑が森林もしくは畑地に変っていった。明治後半,白川郷には630筆の焼畑があった。1筆の平均面積は約1haであった。焼畑は700-1,000m,居住地から1-2km,傾斜20-30度の東斜面に最も多く分布していた。 土地保有の変化に関して,以下の結果が得られた。本百姓と本百姓に従属する抱からなっていた元禄時代の村において,本百姓の間では土地保有上顕著な差はなかったが,抱は本百姓より少ししか保有していなかった。しかし,江戸時代後期になると,両者ともに新しい土地を開墾し始め,ともに焼畑を開いた。安永時代までに,抱はかなりの土地を保有するようになり,本百姓から独立していった。同時期に,多くの村有の焼畑が開かれ,その共有の焼畑は村のいかなる農民もいつでも自分の利益のために使うことが認められていた。それゆえに,この地域では,他の一般の近世村落とは異なり,農民層の顕著な分解はみられなかった。 近世における広大な焼畑の開墾,焼畑耕地の分散と共同作業,農民層の未分解,焼畑の森林・畑地への転換などの事象は,山梨県湯島村でも追跡でき,焼畑村落の共通した性格と考えられる。
著者
知念 民雄 リヴィエール アン
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.35-55, 1989-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
57
被引用文献数
3 6

1977-1878年噴火によって荒廃した北海道有珠山の火口原全域において,1977年から1984年に至るあいだの自然の植生回復と地形プロセス(侵食および堆積プロセス)との関連を調査した。調査方法は,おもに野外での観察・観測と航空写真判読によった。 植生回復プロセス-残存(survival)と種子散布による侵入(invasion)-と地形プロセスとの関連はダイナミヅクな様相を呈した。残存は植生回復に大きく貢献した。樹木の親株と埋没落枝からの萌芽は新期テフラに浅く覆われた(約50cm以下の層厚)区域でしばしば観察された。数多くの草本植物の地下茎からの回復-樹木に比較して容易に厚いテフラ層(約1mの層厚)を貫いた-は広範囲にわたった。テフラに厚く覆われたが,2次的に開析された斜面においては,リルやガリーに沿う草本植物の残存と侵入が一般的に認められた。軽い風散布種子起源の先駆木本植物は,はじめに火山灰と軽石に特徴的に覆われ,かつ地形プロセスの鎮静化した扇状地に侵入した。草本植物の侵入も,同様に火山灰地より軽石質の区域に優勢であった。リルおよびガリー侵食は,植生回復に物理的被害をおよぼす反面,有機物や種子を外輪山内壁から斜面下部そして火口原へと運搬すると同時に,旧土壌を露出するという重要な役割を演じた。 斜面と扇状地における先駆木本および草本植物の定着の経時変化は地形プロセスの不活発化に大きく左右された。表面侵食速度は顕著な植被回復の開始以前に急減した。このことは,実際の植被回復が加速化した侵食を和らげるのに大きな役割を果たさなかったことを示している。むしろ,地形プロセスの不活発化が植生回復を規定したと言える。 以上のことは,植生回復が基本的には噴火の直接的被害-とくに植生の破壊程度とテフラ層厚-と噴火後の地形プロセスとその推移に大きく依存することを示している。
著者
正井 泰夫 中村 静夫 大竹 一彦 三村 清志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.56-71, 1989-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20

日本の都市地図・アトラスは,日本という風土の中で特徴ある発達を示してきた。江戸時代に大きく発達した絵図的都市地図は,特に百万都市江戸において都市案内図として役立った。明治以後の近代化の過程で,欧米の先進技術が導入され,地図作成法も大きく変化したが,さまざまな面で日本的対応が見られたことも事実である。 今日,国土地理院が大縮尺都市地図のシステム化で果している役割は非常に大きい。また,各省庁,地方自治体,民間企業でも,国土地理院の指導の下に,または密接な協力関係において,詳細な大縮尺地図を作成している。国土地理院は現在,1:10,000地形図シリーズを刊行中であり,これは全国の主要都市へ適応されることになっている。地方自治体等でも,国土地理院の設定したガイドラインの下に,1:5,000から1:2,500程度の大縮尺地形図を作成している。市街地でも地籍図の作成が少しずつ進められているが,正確な地籍図を全面的に完成させるには,従来からの足かせが余りにも大きい。 きわめて詳細なタウンマップの重要性は特に主題図において高い。民間企業による1:1,OOOあるいは1:2,000程度の住宅地図類が全国的規模で出版されているが,この利用度は高い。主として若者向けの買物・レジャー関連の大縮尺タウンマップが多数出されている。歴史的都市アトラスの作成も,東京を中心に盛んとなっているが,大縮尺のものの出版も進み,専門家や中高年を対象として販路がふえている。この種の地図・アトラスは,次第に若者や外国人の関心を呼んでいるが,これには世界最大都市としての東京の過去に対する関心の高まりが反映していよう。
著者
石川 義孝
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.75-85, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33
被引用文献数
3 4

競合着地モデルは,地図パターン問題(空間的相互作用モデルにおける距離変数にかかるパラメーターの推定値が,対象とするシステムの空間構造の影響をうけて歪んでしまい,結局モデルの誤った特定に陥ってしまう,という問題)の解決に向けての曙光と評価される。しかし,この新しいモデルの根底にある二段階目的地選択過程という前提は,これまで経験的に論証されていなかった。本稿は,概念上競合着地モデルと対応するネスティド・ロジヅト・モデルを用いて,この課題に取り組んだものである。1980年におけるわが国の各都道府県からの移動者データの分析を通じて,このモデルにおける合成変数にかかるパラメーターが,一段階目的地選択を含意する値から有意に離れていることを確認した。この知見は,上記の二段階目的地選択過程が作用していることの証左とみなしうるものである。さらに,異なる選択トリーがモデルの実行度に与える影響についても,論及した。
著者
萩原 八郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.86-103, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
41

この小論でとりあげる4都市は,人文・自然環境ともに大きく異なるが,その基本的都市施設である給・排水施設に着目し,地域性の理解を比較によって試みた。手順としては,まず東京とメキシコ市について比較・考察し,次に先進国と開発途上国の巨大都市という両者の関係をより多元的に検討するために,先進都市であるパリ,そしてメキシコ市同様に都市問題に苦慮するサンパウロの事例をとりあげ,それぞれ東京,メキシコ市と比較してみた。 その際,主に歴史的発展過程と現在の普及状況について各都市の特徴(長)や問題点を明らかにした。また,上・下水道システムを示す図はできるだけ同一の縮尺で表現し,比較しやすくした。 その結果,東京とパリの比較では,両者に共通している先進性にもその内容に違いがあることを確認し,一方メキシコ市とサンパウロ市の比較では,それぞれの独自性とともに問題点に共通性が認められた。 これらの比較を通して,各都市における普及の程度に優劣をつけることは可能であるが,それが本論の目的ではない。地域の自然環境に応じて必要性から作り上げられて現在に至った各都市の上・下水道システムはその地域性を反映するものであるという点を重視し,そのあり方自体には優劣をつけるべきものではなく,むしろそこに見られる優れた点や劣る点について相互に参考とすべきものであろう。その意味で,東京は先進都市であるパリの事例のみならず,開発途上国の巨大都市であるメキシコ市やサンパウロの事例からも参考になる点が少なからずあるといえる。
著者
許衛 東 白坂 蕃 市川 健夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.104-115, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

雲南省,西双版納倦族自治州は,中華人民共和国の南西端に位置し,南はラオス,ビルマと国境を接している。西双版納は植物資源の宝庫といわれ,中国だけではなく,ひろく外国の研究者にも興味深い地域である。 西双版納は東南アジアのマレーシアやイソドネシアのような,典型的な熱帯多雨林地域と比べると,熱帯の限界的性格が強く,それ故に複雑な自然条件に対応した様々な農業や集落がみられる。 西双版納倦族自治州には,傑族をはじめ,基諾族など10を越す少数民族が独特の生活様式を持って生活している。本稿では,筆者の実地調査をもとに,西双版納における集落立地を含めた農業的土地利用と近年の変化を,民族別に考察した。 1980年代に入るとともに,西双版納では農業において生産責任制が採り入れられたこともあり,かつてない急速な農業変革が進められている。その中心は,西双版納の自然環境に基づいたゴム,茶そして熱帯果樹を中心とした換金性の高い近代的集約農業の拡大である。中でもゴム栽培は,多かれ少なかれ,ほとんどの民族に取り入れられ,その高距限界は海抜1,360メートルにもおよんでいる。この,いわゆる“近代化”農業への移行過程で,盆地においては水田耕作の比重が増し,山地においては焼き畑の比重が低下し,仏教文化を持たない少数民族ほど,伝統的農法や固有の農耕文化要素が衰退し,漢民族化・漢文化化が速いテンポで進んでいる。
著者
牧田 肇 中条 廣義
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.116-126, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13

雲南省と海南省は,広西壮族自治区・広東省・台湾省など,他の中国南部の諸地域と同様に,植物区系のうえでは北帯と旧熱帯との漸移帯をなす。そのため,これらの地域には両帯の植物が混在するが,さらに固有の分類群も多い。 特に雲南省では,無機的環境条件が複雑で,植物の立地の局地的差異が大きい。そのため,熱帯雨林から極帯相当のものまで,多様な植物群が見られる。 これらの中で,硬葉カシとその群落は,特に興味深いものである。
著者
漆原 和子 永塚 鎮男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.127-136, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
14

雲南省の西双版納には成帯性土壌が垂直的に分布している。すなわち標高600mまでは準ラトソル(準磚紅壌), 600mから900mまでは赤紅壌, 900mから1600mまでは赤色土(紅壌),1600m以高には黄褐色森林土(黄棕壌)と思われる土壌が分布する。しかし,赤紅壌は紅壌の分布地域に古土壌として分布している。鉄の結晶化指数(Fed-Feo)/Fetはそれぞれの土壌の化学分析値から計算した。準磚紅壌の結晶化指数はほとんどが0.85以上の値を示し,赤紅壌は0.7~0.85, 紅壌は0.5から0.7の値を示す。 吉良の暖かさの指数による区分では,西双版納の標高900mまでは亜熱帯,それより高地は温暖帯である。一方,日本では赤色土の分布は西南日本の亜熱帯地域で,黄褐色森林土は西南日本の温暖帯に広く分布し,かつ古土壌として赤色土を伴なう。このように西南日本と中国南部の雲南では,土壌型と暖かさの指数の間の関係は同じではない。しかしながら雲南の紅壌と西南日本の赤色土とは鉄の結晶化指数はほとんど同じ巾 (0.5から0.7) の中におさまる。 標高600mよりも低い雲南省の南部は吉良の暖かさの指数では亜熱帯であるが,準磚紅壌が西双版納にある。この地方では1月から6月までの間,毎年水不足量 (d) が出現する。雲南省から広東省にかけて,水不足量は毎年1月から6月までは出現しない。むしろ水不足量は中国南部のより東部では8月, 9月に年々出現する。雲南省の南部は夏に高温湿潤であり,有機物の分解には好適である。一方,冬から春にかけて毎年温暖で,かつ乾燥している。このような気候条件は鉄の結晶化を促進させ,結果的に亜熱帯のような温度条件であっても準傳紅壌や赤紅壌を分布させていると考える。ただし,準傳紅壌はこの調査地域では古土壌として分布している可能性がある。
著者
石井 英也 白坂 蕃
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.141-149, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
7 6

この報告の目的は,これまでの研究成果を踏まえ,とくに最近10年間ほどの業績に注目しながら,わが国における観光・レクリェーション地理学の特徴と課題を検討することにある。ここではまず,わが国における観光・レクリェーション活動の発達とその特徴を簡単に概観した後,それらに関する地理学的研究を空間構造論的研究,景観形成論的研究,その他(景観評価や観光資源の認知などに関する研究)に分類して,検討した. その結果,空間構造論的研究の範疇では,都市を中心とした観光空間の形成に関する研究のほか,観光地の専門分化に基づく複合観光地域形成論など,注目される主張がなされたりして,少しつつ研究成果が蓄積されてきた。しかし,観光空間を把握するには,とくにわが国では重要な,都市内やその周辺地域の観光・レクリェーションに関する研究の進展が不可欠である。また,景観形成論的研究は,空間構造論的研究に比べると研究蓄積がはるかに豊富である。しかし,それらの多くは温泉集落と民宿集落に研究対象が限られており,その観点も経済地理学的考え方への傾斜が目立ち,社会地理や文化地理学的観点,あるいは環境問題の視点がもっと導入されるべきである。その他,景観評価や観光資源の認知に関しても研究の萌芽がみられるが,全体として見ると,わが国の観光・レクリェーション地理学研究の現状は,計量化や環境認知など,地理学で近年よく用いられている研究手法の導入が遅れている。また,欧米諸国に比べると,わが国における観光・レクリェーション地理学的研究は,地域計画などを志向した応用地理学的研究も少ない。現在の社会や経済の趨勢を考えると,わが国では観光・レクリェーション現象がますます重要になり,それに応じて地理学者の任務も重くなることが明らかである。
著者
青木 栄一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.150-158, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
78
被引用文献数
1 1

日本経済の急速な発達とこれに伴なう交通の重要性の認識とともに,日本の地理学における交通研究も大きく発展してきた。現代の交通地理学はその研究方法の上で,計量的立場に立つネットワークやフローの分析を主とするものと,社会経済的立場に立って交通機関や交通企業の分析を主とするものとに大別される。本稿は後者の栃点に立つ研究の発達を概観したものである。社会経済的交通地理学とは,技術,制度・政策,経済,文化などの視点およびそれらの発達史を通じて,過去・現在の交遮現象を具体的な地域環境のなかで総合的に分析してゆく立場の交通地理学をいう。この立場の交通地理学はとくに1960年代後半以降,近代公共交通機関の研究を対象として発達し,港湾と沿岸海運,鉄道,バスなどの交通機関やそれらを経営する交通企業の分析に成果を挙げてきた。また,交通の発達過程を分析することによって,さまざまの「決定の過程」を明らかにしようと試みたものも多く,さまざまの地域における事例研究を総合することによって,全国的ないし,世界的な傾向を帰納的に明らかにしてきた。このような方法を通じて,地域社会のなかにおける近代交通機関の意義が適切に評価され,これに基いて地域計画や交通政策への提言が可能となると考えられる。
著者
寺阪 昭信 若林 芳樹 中林 一樹 阿部 和俊
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.159-173, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 3

本論文は,情報の伝達が空間に果たしている役割を,高度情報化社会といわれている現在の日本の状況のなかで捕らえてみることにある。コンピュータ技術の発展と通信のデジタル化による新しいネットワークの形成は, 1982年の第2次通信の自由化により,ニューメディアの進展となって現れた。地域的なネットワークの例として, NTTによるINSモデルの実験は東京武蔵野・三鷹地区で1984年から行われたが,これを実用化するまでには解決すべき多くの問題があることが明らかとなった。 CATVは初期の難視聴対策から出発して,ニューメディアとして普及するにまでに至った。可視チャンネル数の増加に加えて自主放送を行うことにより,地方都市では地域活動の活性化と自治体と住民をつなぐ役割を果たし,農村地区では地域の振興に,ニュータウンや大都市域では住民への情報の供給やコミュニティーの形成に役立つ可能性を開いている。 情報化の進展にともない,企業の分散が予測されたが,東京区部,とくに都心3区への中枢管理機能はかえって集中する傾向が見られる。これはマネージメントのための情報を求める企業の立地行動によるものである。さらに,最近では東京は世界的な規模での金融市場としての重要度を高めてきたことから,外資系企業のオフィスの立地が盛んになってきている。その需要にたいしてオフィス用ビルの建設が進んでいるが,不足ぎみなので値上がりが著しい。こうして都心のビジネス地区は拡大している。 このような動向から,日本における情報の地域格差は拡大している。東京を中心とする首都圏への情報の集中は著しく,大阪を初めとする他の大都市や地方都市の比重は相対的に低下している。民間における情報化の進展や情報サービス業の発展のほかにも,郵政省のテレトピア計画や通産省のニューメディアコミュニティー構想など,政府は情報化の進展をはかっている。これらが実現すると地域社会や住民の生活を大きく変える可能性がある。このような社会の変化に対して,我が国の地理学からの研究は立ち遅れている。
著者
松橋 公治 富樫 幸一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.174-189, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
47
被引用文献数
6 6

現代における産業立地・地域構造を考えるにあたっては産業変動・企業行動に関する分析が不可欠である。近年における欧米の工業地理学の活性化も,深刻な経済停滞とそれによる空間構造変動という実態面からの要請もさることながら,そうした視角・方法をめぐる活発な議論によるところが大きい。他方,わが国の工業地理学・産業立地研究のなかには,欧米の研究のそれと類似した観点をもち,かつ成果においてもかなり深められたものがあるとはいえ,国内レベルの議論に限定され,必ずしも欧米の議論と共通な土台の上での展望やその意義が検討されることが十分ではなかった。 本稿では,このような問題意識にもとづき,国際的視野から,低成長移行に伴う産業構造転換期における主導産業の立地変動と地域構造に関する研究の成果と課題を方法論的ないし実証的に再検討する。方法論に関しては,わが国の工業地理学の1潮流である「地域構造論」における立地変動・地域構造をめぐる視角・方法を検討し,欧米の諸潮流と対比した。その結果,地域構造論と「構造アプローチ」との対比に有効性が認められ,視角・方法や経験的研究におけるその共通性と相違性とを明らかにした。 他方,具体的な産業動向の研究では,基軸産業である素材と機械の両部門を取り上げ,その立地変動に関する成果と課題を整理した。前者では,イギリスとの対比において,企業の立地戦略が立地変動を主導する点で共通性をもちながらも,経済環境・政策・産業組織などの相違が,異なる立地変動と地域分業を結果していること,それが近年の産業調整や企業の縮小・撤退戦略に異なる対応をもたらしていること,などが明らかにされた。また,量産・組立型の機械部門では,高度成長期の量産移行の段階におけるわが国の独特の集中傾向と欧米の分散傾向とが対照をなす点に最大の特徴がみられた。それは,労働過程の視点からすると,量産を遂行する両者の生産システムと立地適応の相違,つまり日本における階層的労働力編成,独特の労資関係,過当競争体質を背景とした,下請システムをも包摂した柔軟な生産システムとそれを前提にした企業の立地行動の結果であった。その違いを理解するカギは,労働過程の統制の仕方にみられる相違である。
著者
高橋 重雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.212-224, 1988-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
1 1

消費者が食料品の購入のため最寄りの店を訪れる場合とそうでない場合とがある。本研究では,消費者が最も近いスーパーマーケットを利用する確率を説明するための目的地選択モデルの構築を行った。モデルは,目的地を訪れることから得られる効用,外出に伴う制約条件, 1回の外出で複数の目的地を訪れることが,どのように目的地の選択に影響を及ぼすのかを説明できるように構築された。カナダのオンタリオ州にあるハミルトン市内の3ケ所にこのモデルを適用した結果によると,消費者の居住地によって,これらの説明変数の目的地選択に及ぼす影響に相違が生ずることが認められた。この結果の一因として,近くに店舗があるのか遠くまで出かけなくてはならないのかというように,消費者からみた店舗の分布が関係しているものと考えられる。